ゲルマン‐ごは【ゲルマン語派】
ゲルマン語派
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/06 18:44 UTC 版)
ゲルマン語派 | |
---|---|
話される地域 | ヨーロッパ |
言語系統 | インド・ヨーロッパ語族
|
下位言語 | |
ISO 639-2 / 5 | gem |
ISO 639-5 | gem |
ゲルマン語派(ゲルマンごは、英: Germanic languages, 独: Germanische Sprachen, スウェーデン語: Germanska språk)は、インド・ヨーロッパ語族のうちの一語派。 ドイツ語、英語、オランダ語、スウェーデン語などが含まれる。共通のゲルマン祖語から分化した。
分類
東、北、西の三つに分類されるが、東ゲルマン語群は死語となっている。以下に概略を示す[1]。
東ゲルマン語群
- ゴート語(ウクライナ) - 死語
- ヴァンダル語 - 死語(ヴァンダル人がスラヴ人の祖先主体の部族であったとすれば、リングア・フランカないしピジン言語であった可能性)
- ブルグント語 - 死語(ブルグント人がケルト人主体の部族であったとすれば、リングア・フランカないしピジン言語であった可能性)
- ロンゴバルト語 - 死語(ランゴバルト人がケルト人主体の部族であったとすれば、リングア・フランカないしピジン言語であった可能性)
北ゲルマン語群
西ゲルマン語群
細分化された分類についてはまだ確定されたものではない。
- アングロ・フリジア語群
- 低地ドイツ語(ドイツ北部)
- 高地ドイツ語(標準ドイツ語)
特徴

*青: ケントゥム語派の諸語(ケルト語派、ギリシャ語派、イタリック語派、および東方のトカラ語派、など)
*赤: サテム語派の諸語(バルト語派、スラヴ語派、イラン語派、アルメニア語派、インド語派、など)
*オレンジ: 加音を用いる諸語(ギリシャ語派、イラン語派、アルメニア語派、インド語派、など)
*緑: インド・ヨーロッパ語族のうち*-tt- > -ss-の転訛をした諸語(ケルト語派、イタリック語派、ゲルマン語派)
*黄褐色: インド・ヨーロッパ語族のうち*-tt- > -st-の転訛をした諸語(ギリシャ語派、イラン語派、スラヴ語派、バルト語派、アルメニア語派)
*ピンク: 助格、与格および奪格の複数形、さらに単数形と双数形のいくつかにおいて、*-bh-でなく-m-で始まる語尾を用いる諸語(ゲルマン語派、スラヴ語派、バルト語派)
- グリムの法則という法則にそって語音が変化した。
- かつては語幹(多くは第1音節)に強勢が来た。しかし、一部の言語ではこの特徴は失われ、ほかの言語でも借用語にはこの法則は適用されないことが多い。現在もつねに第1音節に強勢があるのはアイスランド語のみである。
- 非常に多くの母音を持つ。英語には11個有る。
近縁の語派
一般的にはイタリック語派やケルト語派と近縁であるとされている。(インド・ヨーロッパ語族#系統樹と年代を参照)
いっぽうスラヴ語派とバルト語派は文法的にはゲルマン語派(ケントゥム語派に属する)との間で明確な共通性があり、スラヴ語派、バルト語派、ゲルマン語派の3つの言語の共通祖語(インド・ヨーロッパ祖語の北西語群)を想定する学説もある[4][5]。
歴史

- 赤:移動前 紀元前750年
- 橙:紀元前500年
- 黄:紀元前250年
- 緑:1年
ゲルマン人は血統的には非印欧語系スカンジナビア原住民、球状アンフォラ文化の担い手など様々な混血である。ゲルマン語をもたらした集団はヤムナ文化より分化し、バルカン半島、中央ヨーロッパを経由してスカンジナビア半島南部にやってきた集団(ケルト語やイタリック語の担い手と近縁)という説、戦斧文化の担い手でありバルト・スラブ語派に近縁という説、あるいはその混合であるとの説がある[6]。他の印欧語と異なる起源の語彙が多いことから、ゲルマン語の成立に非印欧語系の基層言語を認める説(ゲルマン語基層言語説)もある[7]。ゲルマン人は紀元前750年ごろから移動を始め、紀元前5世紀にゲルマン祖語が成立、その後西ゲルマン語群、東ゲルマン語群、北ゲルマン語群に分化した。
後にゲルマン語派がその内から発生したインド・ヨーロッパ語族の北西語群はその存在と起源を非常に古い時代にまで求めることができるが、ゲルマン祖語自体はそれほど古いものであり得ない。ゲルマン祖語は、北部ドイツのヤストルフ文化(前7世紀-前1世紀)にて、 ゲルマン語派のみに特徴的な音声変化(訛り)とされるものが前5世紀から発生したことにより成立したと推定される[8]。その後このヤストルフ文化が周囲に伝播していく過程でこの音声変化の流行も共に伝播していくことで、ゲルマン語派の各地の言語が成立したものと考えられる。北西語群のうちこの音声変化の伝播から外れたも諸言語もあり、たとえばスラヴ語派やバルト語派の諸言語がそれと考えられている。スラヴ語派やバルト語派はイラン語群の音声的特徴の影響を強く受け、サテム化している。
ラテン文字以前はルーン文字を使って書き記された。フランス語に多大な影響を与え、他のロマンス語にもゲルマン起源の語彙が見られる。
参照
- ^ Ethnologue report for Germanic
- ^ Scandinavian languages
- ^ 清水誠「ゲルマン語の歴史と構造(1): 歴史言語学と比較方法」『北海道大学文学研究科紀要 131』、2010年
- ^ Renfrew, Colin Archaeology and language (1990), pg 107
- ^ Baldi, Philip The Foundations of Latin (1999), pg 39
- ^ Eupedia The Germanic branch
- ^ Feist, Sigmund (1932). “The Origin of the Germanic Languages and the Europeanization of North Europe”. Language (Linguistic Society of America) 8 (4): 245–254. doi:10.2307/408831. JSTOR 408831.
- ^ J. P. Mallory and D. Q. Adams, Encyclopedia of Indo-European Culture, Fitzroy Dearborn Publishers, London and Chicago, 1997, "Jastorf culture"
参考書籍
- E. H. Antonsen: On Defining Stages in Prehistoric Germanic, Language 41 (1965), 19ff.
- William H. Bennett: An Introduction to the Gothic Language. New York: Modern Language Association of America, 1980.
- A. Campbell: Old English Grammar. London: Oxford University Press, 1959.
- Fausto Cercignani, Proto-Germanic */i/ and */e/ Revisited, Journal of English and Germanic Philology, 78/1 (1979), 72-82.
- Fausto Cercignani, Early Umlaut Phenomena in the Germanic Languages, Language, 56/1, (1980), 126-136.
- Fausto Cercignani, The Development of */k/ and */sk/ in Old English, Journal of English and Germanic Philology, 82/3 (1983), 313-323.
- Hans Krahe - Wolfgang Meid: Germanische Sprachwissenschaft, Berlin: de Gruyter, 1969.
- W. P. Lehmann: A Definition of Proto-Germanic, Language 37, (1961), 67ff.
- Joseph B. Voyles: Early Germanic Grammar. London: Academic Press, 1992. ISBN 0-12-728270-X.
関連項目
外部リンク
ゲルマン語派
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「インド・ヨーロッパ語族」の記事における「ゲルマン語派」の解説
「ゲルマン語派」および「ゲルマン祖語」も参照 ケントゥム語群。ヨーロッパ中北部が原郷。ゲルマン民族の大移動を経てロマンス諸語にも大きな影響を与えた。 北ゲルマン語群(ノルド諸語、北欧諸語) - 古ノルド語♰東スカンディナヴィア語群と西スカンディナヴィア語群に分ける分類法東スカンディナヴィア語群(フランス語版) - デンマーク語、スウェーデン語 西スカンディナヴィア語群(フランス語版) - ノルウェー語、アイスランド語、フェロー語 大陸北ゲルマン語と離島北ゲルマン語に分ける分類法大陸北ゲルマン語 - デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語(ブークモール、ニーノシュク) 離島北ゲルマン語 - アイスランド語、フェロー語、ノルン語♰ 西ゲルマン語群ドイツ語群低地ドイツ語 - オランダ語(フラマン語)、アフリカーンス語 高地ドイツ語 - 標準ドイツ語、ルクセンブルク語 アングロ・フリジア語 - 英語(イングランド語)、スコットランド語、フリジア語 東ゲルマン語群 - ゴート語♰、ヴァンダル語(英語版)♰、ブルグント語(英語版)♰など ゲルマン人の原郷は、スカンジナビア半島南部や北ドイツのエルベ川下流域にかけての一帯だと考えられている。民族移動によって紀元前1000年ごろには他地域へ拡張していて、4~5世紀のゲルマン民族の大移動をピークとして1500年以上続いた。ゲルマン語族には、詳細のわからない先印欧語の語彙が流入していて、ゲルマン祖語の基礎語彙の3分の1が非印欧語由来だと考えられている。紀元前500年ごろのゲルマン人は、西は現在のオランダ語圏、東はヴィスワ川までの低地平原地帯、北はスウェーデン中部とノルウェー南部まで及んでいた。南と西でケルト語、東でバルト語、北でバルト・フィン諸語と接していて、相互に借用が行われた。南部域のケルト人やイリュリア人を放逐したゲルマン人は、紀元前後にローマ帝国の国境・黒海沿岸に達していた。紀元前後にゲルマン語の明確な分岐が始まったと考えられていて、当時のゲルマン人およびゲルマン語は、北、東、エルベ川、ヴェーザー・ライン川、北海の5つのグループに分かれていた。 東ゲルマン語はゴート語につながり、4世紀になされたギリシア語聖書のゴート語訳はゲルマン語の最古のまとまった文献として写本が残っている。アンシャル体大文字を中心に、ラテン文字とゴート文字が用いられた。ゴート人は東ゴート人と西ゴート人に分裂し、イベリア半島とイタリアに王国を築いたほか、東ゴート人がクリミアに到達するなど大きく広がった。 北ゲルマン語は北欧に位置し、ノルド語が成立した。ゲルマン語の断片的な最古の資料として、ルーン文字で刻まれたルーン碑文が残っている。音価と文字が正確に対応しており、実用的な文字だったと考えられている。ルーン文字は古ゲルマン語圏すべてに広がったが、10世紀末以降のキリスト教受容にともなってラテン文字に置き換えられていった。8世紀までスカンディナヴィアに留まっていた北ゲルマン人は、9世紀から11世紀のヴァイキング時代に遠征を繰り返した。デーン人は二度に渡ってイングランドを征服し、英語史に大きな影響を与えた。東方では、スウェーデン人ヴァイキングを中心にフィンランド・エストニアに進出した上にさらに南東に進み、ノヴゴロド公国やキエフ公国を築いた。ヴァイキング時代末期には、西ノルド語と東ノルド語の分岐が顕著になっていた。 北海ゲルマン語は、アングロ・サクソン人を中心にするグループがブリテン島に移住し始めた5世紀半ば以降に、大陸部北海沿岸の諸部族による接触で成立したと考えられている。アングロ・サクソン人は600年ごろにキリスト教に改宗し、ラテン文字を使用した宗教関連の古英語の文献は700年ごろに現れる。フリジア語は16世紀以降使われれなくなった。ザクセン語は高地ドイツ語圏に引き寄せられていき、低地ドイツ語の低ザクセン語として扱われている。古英語は典型的な北海ゲルマン語であったが、デーン人やノルウェー人ヴァイキングによるノルド語との接触と、ノルマン・コンクエストによるフランス語との接触によって形態の簡素化が起こり、屈折の少ない分析的な言語となった。 エルベ川とヴェーザー・ライン川のグループは内陸ゲルマン語として括られ、主要な古語として古高ドイツ語と古オランダ語がある。とくにヴェーザー・ライン川ゲルマン語の古フランケン方言を話すフランケン人は西ローマ帝国滅亡後に勢力を拡大し、6世紀のテューリンゲン族(英語版)征服を皮切りにアレマン人、バイエルン人、ザクセン人を征服し隷従させた。8世紀にフランク王国のドイツ語話者にキリスト教が広まり、9世紀には『タツィアーン』やヴィッセンブルグのオトフリート(英語版)による『福音書』などキリスト教文学が興隆した。古オランダ語のまとまった文献は10世紀初めのヴァハテンドク詩篇に現れる。現代標準ドイツ語はエルベ川ゲルマン語に由来する上部ドイツ語、ヴェーザー・ライン川ゲルマン語に由来する中部ドイツ語、上記の北海ゲルマン語に由来する低地ドイツ語を統合して成立した。標準オランダ語はヴェーザー・ライン川ゲルマン語に由来する低地フランケン方言を母体とし、北海ゲルマン語に由来するオランダ語低地ザクセン方言を統合して成立した。 ゲルマン祖語は与格が奪格と所格の役割を担い、6格組織であった。その後、主格が呼格を、与格が具格を吸収し4格組織に近づいていった。文法性を失ったのは英語とアフリカーンス語、デンマーク語ユトランド方言に限られていて、他のゲルマン諸語には見られる。双数はゲルマン祖語で衰退しつつあり、ゴート語が限定的に残しているが、他の古語では複数に取り込まれた。現代語では北フリジア語の方言に見られるが、話し言葉ではほとんど用いないという。北ゲルマン語とオランダ語では、男性と女性が「通性(共性)」に合流し、中性とあわせ二性体制になっている。ゲルマン祖語の時点でアオリスト語幹が破棄されていて、語形変化は強変化と弱変化に収束した。アスペクトに対応する語形変化はなく、助動詞による迂言形で表現する。西ゲルマン語では現在完了形が過去の表現として多用され、過去形が使われない言語もある。接続法が直接法に吸収されているため、現在形が未来の出来事も表す。ドイツ語やオランダ語で副次的にSOV順の語形が用いられるが、SVO順が一般的になっている。
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