ユートピア 逆ユートピア(ディストピア)

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ユートピア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/24 03:43 UTC 版)

逆ユートピア(ディストピア)

20世紀に入ると、「理想郷」と宣伝されていた社会主義国家独裁国家が現実の存在となったが、その理想と現実の落差を批判したり、科学の負の側面を強調した小説が描かれた。転倒したユートピア文学であることからこれらは逆ユートピア(ディストピア)と呼ばれる。たとえばH・G・ウェルズの『モダン・ユートピア』(1905年)、エヴゲーニイ・ザミャーチンの『われら』(1924年)、オルダス・ハックスレーの『すばらしい新世界』(1932年)、ジョージ・オーウェルの『1984年』(1949年)や、エルンスト・ユンガーの『ヘリオーポリス』、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』、星新一の『白い服の男』などの小説によって管理社会全体主義体制の恐怖が描かれた。また、手塚治虫の『火の鳥未来編』は『1984年』を粉本にしているとみられている。これらに描かれた国家は、一見すると平和で秩序正しい理想的な社会であるが、徹底的な管理により人間の自由が奪われている。当時の共産圏や今日の管理社会に対する予見であり、痛烈な批判である。またそれを生み出した過去のユートピア思想や、その背景となった文明自体も攻撃対象である[1]

ユートピアの特徴

ディストピアを描いた小説が登場する前に書かれたユートピア小説も、現在の目から見るとディストピアではないかと思われるものが多いという説もある。これらの理想郷は、決して「自然のなかの夢幻郷」ではない。それは人工的で、規則正しく、滞ることがなく、徹頭徹尾「合理的」な場所である。西ヨーロッパにおいてはこの模範はギリシャ社会を厳格に解釈したものに求められる。こうして生まれた「ユートピア」自体にディストピアの種が内包されていたのであるという説もある[1]

以下に、過去のユートピア文学で表現されてきた「理想郷」にしばしば共通する特徴を挙げる。

  • 周囲の大陸と隔絶した孤島である。
  • 科学と土木によってその自然は無害かつ幾何学的に改造され、幾何学的に建設された城塞都市が中心となる。
  • 生活は理性により厳格に律せられ、質素で規則的で一糸乱れぬ画一的な社会である。ふしだらで豪奢な要素は徹底的にそぎ落とされている。住民の一日のスケジュールは労働・食事・睡眠の時刻などが厳密に決められている。長時間労働はせず、余った時間を科学や芸術のために使う。
  • 人間は機能・職能で分類される。個々人の立場は男女も含め完全に平等だが、同時に個性はない。なお、一般市民の下に奴隷や囚人を想定し、困難で危険な仕事をさせている場合がある。
  • 物理的にも社会的にも衛生的な場所である。黴菌などは駆除され、社会のあらゆるところに監視の目がいきわたり犯罪の起こる余地はない。
  • 変更すべきところがもはやない理想社会が完成したので、歴史は止まっている。ユートピアは、ユークロニア(時間のない国)でもある。

以上のような、時計のように正確で、蜜蜂の巣のように規則的な社会像は、古代ギリシアの哲学者プラトンの『国家』[注釈 2]、『ティマイオス[注釈 3]以来、ルネサンス期・啓蒙主義期に流行した『ユートピア』などの理想都市案から20世紀のディストピア小説、現実の共産主義国家のあり方までに共通するものがある[1]

このような社会の理想としてあげられるのは、西ヨーロッパにおいては彼らによって再解釈された「古代ギリシャ」である。一説によればプラトンの時代はペルシアなどの脅威によりギリシア諸国が揺らいだ時期だったが、おそらく彼は理性を「ギリシャ的」なものと決めつけ理想化し、それに対立する非理性的で欲望に満ちあふれたもう一つの世界アトランティスを思い描いたのであろうとしている。

こうした理性を中心としたユートピア的理想社会に対し、バロックマニエリスムシュルレアリスムなど反発する思想的動きが相次いだ。現在の先進国では、ともすれば資本の効率的利用や社会の安全・健康増進・効率化を名目に、事実上の管理社会が実現されることもあるが、一方ではたとえば『ユートピア』的な都市・国土計画よりは、いいかげんでヒューマンスケールの迷路的な旧市街や、曲線的な街路を持った商業地・住宅地の混在が見直されてもいる。またフィクションの世界でも『ブレードランナー』的な一見悪夢のような混沌とした未来が、逆に人間的な世界として評価されることがある。

ユートピアとは、結局のところ、唯一の価値観、唯一の基準、唯一の思想による全体の知と富の共有は、たしかに反するものが存在しないという意味で平和で理想であるだろうが、その実現には人間的なものや自由をすべて完全に圧殺しなければ実現しえないことを明確に表したものであり、理性以外のすべてをそぎ落とした果てにあるものの機械的な冷酷さを表したものである。

ユートピア以外の理想郷

世界の理想郷伝説

童話などの理想郷

映画




注釈

  1. ^ 『ユートピア』岩波文庫版(ISBN 4-00-322021-8)の解説によれば、この話がフィクションであることの強調と共に現実社会の批判を和らげる意図があったという。
  2. ^ 理想国家の概念を描いた。
  3. ^ 金銀財宝に満ちオリハルコンなど不思議な技術を有した豪奢な専制王国アトランティスが、ギリシアを侵略しようとして神の怒りに触れ滅亡する。

出典

  1. ^ a b c d e f g 巖谷2002 [要ページ番号]
  2. ^ a b c 高橋均「行列と繁茂」『バロックの愉しみ』<バロック・コレクション> 筑摩書房 1987 ISBN 4480835776 pp.90-94.


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