猛暑 猛暑の概要

猛暑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/30 01:36 UTC 版)

原因とメカニズム

一般に夏季において背の高い(上空の高い所から地表まで鉛直に長い構造の)高気圧に覆われて全層に渡って風が弱く、周囲の比較的冷たい空気や湿気の流入が弱く快晴状態場合や、南(南半球の場合は北)から継続的に暖気が入った時に起こりやすい。内陸の盆地山間部では周囲の山岳により外部の大気との混合が妨げられ、熱い空気がその場にとどまりやすいやすい(熱気湖)ことや、どの方向から風が吹いても、フェーン現象(風炎現象)が起こりやすいので、他の地域よりも暑くなりやすい。主な観測地点は山形県山形市山梨県甲府市京都市大分県日田市などがある。

フェーン現象が発生すると、山脈の風下部では山から吹き降りてきた乾燥した高温の風によって盛夏でなくても猛暑となりやすい。主な観測地点は東日本や東北の日本海側、夏季の関東平野(特に北部)などがある。関東平野は西側に山脈があるので、西風が吹いたときにこの現象が起こりやすい。一方、西日本には2000 m以上の山が存在しない(西日本最高峰愛媛県石鎚山(いしづちさん)で1982 m、中国地方では鳥取県大山(だいせん)で1729 m、九州本土では大分県の九重山中岳(くじゅうさんなかだけ)で1791 m)ため、水分の放出が充分に行われず吹き下ろしの風に水分が含まれているので、気化熱が昇温を緩和するので、フェーン現象による気温の上昇は東日本ほど激しくない。東日本には富士山北アルプス南アルプスをはじめとする2000 m以上の山や山脈が多いため、同現象による気温の上昇が大きくなる。気象官署での観測史上2番目の40.8℃が山形市で記録された1933年昭和8年)7月25日日本海に台風があり、2000 m級の飯豊連峰を南西の風が吹き下りたことによりフェーン現象が発生した。しかし、当日は風速が弱く、日射よる昇温も大きかったと考えられる。

フェーン現象が起きると、冬季ですら25℃を超えることがある。例えば2009年(平成21年)2月14日には静岡県静岡市で26.2℃、同熱海市網代で25.4℃、神奈川県小田原市で26.1℃、同海老名市で25.3℃などを記録したが、当日は南から暖かい空気が入っていたことや、西側にある山地を越える際にフェーン現象が起こったことが原因と考えられる。

2010年(平成22年)の極端な猛暑は、ラニーニャ現象が一因とされる。研究や過去の統計から、ラニーニャ現象が発生するとフィリピン近海の海水温が上昇するため、上昇気流が発生する。その北に位置する日本付近では下降気流が発生し、太平洋高気圧の勢力を強くする(同様に、南海上に台風が存在する場合も台風の上昇気流を補うようにして、太平洋高気圧が強くなる)。そのため、日本付近が猛暑となりやすいと考えられている。他には、1955年、1964年、1973年、1984年、1985年、1995年、1999年、2007年が該当する。ただし、1954年、1970年、1971年、1988年のようにラニーニャ現象が起きていた年でも冷夏になったことや、1991年、1997年、2002年のようにエルニーニョ現象が起きていたにも拘らず猛暑になったこともあるので一概には言えない。また地球温暖化が進むと、フィリピン付近の海水温上昇により太平洋高気圧の勢力が強大化して、日本付近は猛暑になりやすいという予測もある。

また、三大都市圏を中心とする都市部での最低気温の高温記録[2]が相次いだり、熱帯夜の増加や冬日が著しく減少しているのは、ヒートアイランド現象によって気温が底上げされていることが一因と考えられる。さらに東京都心で39.5℃など南関東周辺で観測史上最高の高温記録が相次いだ2004年(平成16年)7月下旬はヒートアイランド現象に加えて背の高い高気圧、フェーン現象が重なった例である。

しかし、猛暑の原因となり得るものはこれだけではない。ダイポールモード現象が発生すると日本付近では高気圧が強まり猛暑になりやすいとされている。この例として、1994年、2001年、2006 - 2008年、2012 - 2013年などがある。通常、この現象は2年連続で起こることは珍しいが、2006 - 2008年は3年連続で起こった[3]。これは、観測以来前例がないとされる。また、太平洋中央部の赤道付近で水温が上昇するエルニーニョもどきと呼ばれる現象が起きると、その海域で対流活動が活発になり、それを補うようにして北太平洋の高気圧が強まるので、日本付近は暑くなりやすいとされる。2004年などがこれに当てはまる。また、この年は猛暑と同時に記録的な豪雨に見舞われたが、同じくエルニーニョもどきが原因と見られている。

他にも、北極振動北大西洋振動が冬の間に負の状態が続くとオホーツク海高気圧が弱まり猛暑になりやすいという考えや、近年日傘効果をもたらす大規模な火山噴火19921993年冷夏の一因として1991年ピナツボ山(フィリピン)の噴火が挙げられる。1816年夏のない年も火山噴火が原因とされる)が起きていないため猛暑が何年も連続するとの指摘もある。また、猛暑の原因が揃っていても冷夏の要因となるような現象が起こって相殺されることもあり確実に猛暑となるとは言えない。

なお、1982年、1983年、2003年、2009年、2014年のように暖春の年でも冷夏になったこともあれば、1978年、1984年、2010 - 2012年のように寒春の年でも記録的な猛暑になったこともあるので、春が涼しかったからといって必ず猛暑にはならないとはいえない。

近年の猛暑異変

日本では1913年頃までは夏の気温が著しく低く毎年のように冷夏が続いていた。特に1902年は平年を2.22℃、1913年は1.51℃も下回り、気象庁の統計史上最も寒い夏となっている。その後も、1983年までは2年以上連続で猛暑になることはなく、1993年までは冷夏の頻度も高かった。しかし、1994 - 2002年に当時の平年値では9年連続で猛暑になり、記録的大猛暑となった1994年以降、猛暑となる年が急増しており、特に2010年以降は1994年に匹敵するかそれを上回る顕著な高温記録が続出するようになった。

月および旬ごとの気温の平年差および順位(10位以内のみ表示)
北日本 東日本 西日本 南西諸島 北日本 東日本 西日本 南西諸島
2010年 6月 +1.9(2位) +1.1(7位)   中旬 +2.5(1位) +1.7(3位) +0.7(10位)
下旬 +3.5(1位) +2.1(6位)  
7月 +2.0(4位) +1.6(5位)   上旬 +2.7(3位) +1.4(10位)  
中旬 +1.6(8位)  
下旬 +2.0(1位) +0.8(10位)
8月 +2.6(1位) +1.9(1位) +1.7(1位) +0.3(6位) 上旬 +2.5(4位) +1.5(4位) +1.3(3位)
中旬 +2.0(6位) +1.5(2位) +1.6(1位) +0.7(3位)
下旬 +3.1(2位) +2.7(1位) +2.1(1位)
9月 +1.4(5位) +1.5(4位) +1.6(3位) +0.5(6位) 上旬 +3.1(2位) +2.9(1位) +2.6(1位)
中旬 +1.6(6位) +1.7(9位) +1.8(5位) +0.7(5位)
下旬   +0.7(8位)
2011年 6月   +1.1(6位) +0.8(4位) +0.9(4位) 上旬   +1.1(7位)
中旬   +1.7(2位)
下旬 +1.5(8位) +3.8(1位) +3.3(1位)
7月 +1.4(8位) +1.4(7位)   上旬 +3.0(1位) +2.8(2位) +1.4(8位)
中旬 +2.1(4位) +2.9(1位) +1.0(9位)
8月   +0.1(9位) 中旬 +1.6(10位) +1.2(5位)  
下旬   +0.5(8位)
9月 +1.3(6位) +1.0(8位)   上旬 +2.5(3位)  
中旬 +1.7(5位) +3.1(2位) +2.1(3位)
2012年 6月   上旬   +0.8(9位)
7月   +0.3(10位) 中旬 +1.6(9位) +0.4(10位)
下旬   +0.9(8位) +0.3(9位)
8月 +1.4(9位) +1.2(4位) +0.9(4位)   上旬   +0.9(10位)
中旬 +0.9(8位) +0.7(8位) +0.3(9位)
下旬 +3.5(1位) +2.1(2位) +1.1(4位)
9月 +3.7(1位) +1.9(2位)   上旬 +3.3(1位) +1.5(2位)  
中旬 +5.5(1位) +3.1(1位)  
下旬 +2.2(3位) +1.3(6位)  
2013年 6月   +0.9(10位) +0.7(5位) +0.9(4位) 上旬   +1.0(8位)
中旬 +2.3(4位) +2.3(2位) +2.8(1位) +1.0(7位)
下旬   +0.8(2位)
7月 +1.3(10位)   +1.6(2位) +0.3(10位) 上旬 +3.4(1位) +2.2(7位) +1.8(6位) +0.9(3位)
中旬 +1.5(10位) +1.7(3位)
下旬   +1.2(3位) +0.4(8位)
8月   +1.3(4位) +1.3(2位) +0.8(2位) 上旬 +1.0(9位) +1.3(3位) +1.4(1位)
中旬 +2.7(1位) +2.4(1位) +2.3(1位) +0.6(4位)
下旬 +0.5(10位) +0.5(8位)

上記の通り、ラニーニャ現象やダイポールモード現象、エルニーニョもどき等、が発生している夏はテレコネクションにより猛暑になりやすいが、近年はこれらが発生していない年も猛暑になることが多い。

1994年(平成6年) - 2020年(令和2年)の27年間のうち、全国平均気温が当時の平年値で正偏差となった年は25年間に達し(2003年〈平成15年〉と2009年〈平成21年〉を除く全ての年が当てはまる)、猛暑が恒常化している。これに関しては地球温暖化も影響していると考えられるが、それだけが全ての原因とは考えにくく、様々な気象要因が考えられている。

近年の猛暑多発により、1991-2020年平年値において夏季の平年値は多くの地域で上昇している。これによって、以前は暑夏とされていた夏が平年並みになったり、平年並みとされていた夏が冷夏として扱われることになる。


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  10. ^ 気象庁|2013年7月以降の中国南部の高温・少雨について
  11. ^ 「永遠の独立」記念したセコイア、熱波で枯死 タジキスタン
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    正誤表 / [Correction] J. Agric. Meteorol. Vol.42 No.1 (1986) pp.87j-87j」『農業気象』第42巻第1号、1986年、 87j-87j、 doi:10.2480/agrmet.42.87j
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  16. ^ 6月なのに…山梨で38度超 列島また記録的猛暑 47NEWS 2011年6月29日
  17. ^ 6月下旬の暑さ、50年間で最高=九州では記録的大雨-気象庁 時事ドットコム 2011年7月1日
  18. ^ 観測史上1?10位の値( 年間を通じての値) 富士山
  19. ^ 猛暑で国産マツタケ7割減 2011年、過去2番目の少なさ
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  28. ^ 10km以上の高さまで高気圧で覆われている
  29. ^ ダブル高気圧で高温傾向、ピークは8月。猛暑見解2020
  30. ^ 伊勢崎、桐生で県内史上最高の40.5度を観測 今年の全国記録を更新 熱中症で38人が搬送
  31. ^ 群馬で40.5度 今年初40度超、埼玉でも―12日も熱中症警戒
  32. ^ 愛南で39度観測 県内史上2位
  33. ^ 浜松市天竜区40.9度…フェーン現象も加わって今夏全国1位、静岡県内では観測開始から最高気温
  34. ^ 浜松市で41.1℃の日本歴代最高気温 東京、大阪など全国250地点超で猛暑日に
  35. ^ サルもぐったり 猛暑いつまで... 南信濃で39.5℃ 7年ぶり観測史上最高更新 熱中症に要警戒
  36. ^ 肝付町前田で38.1度 鹿児島県内観測史上最高気温
  37. ^ 2日連続鹿児島県内最高気温更新 肝付町前田で38.5度
  38. ^ 古座川町西川で38・9度 観測史上最高を記録
  39. ^ 40℃寸前の暑さ
  40. ^ 那賀39・0度、県内最高更新 17日も猛暑
  41. ^ 滋賀・東近江で観測史上1位の39・2度
  42. ^ 大阪38.6℃は観測史上2番目の暑さ東京でも4日ぶりの猛暑日に
  43. ^ 兵庫・西脇市で39.2度 東・西日本猛暑、熱中症警戒
  44. ^ 9月として史上初の40℃突破、フェーン現象で北陸など記録的暑さに
  45. ^ ミスト扇風機で涼しく 24日連続猛暑日の高梁市役所
  46. ^ 6月の天候-気象庁
  47. ^ 7月の天候-気象庁
  48. ^ 札幌の真夏日の連続、97年ぶりの記録更新
  49. ^ 観測史上1~10位の値(年間を通じての値)-旭川(上川地方)
  50. ^ 渇く北海道 「災害級」干ばつ 深刻な農作物被害-日本農業新聞
  51. ^ 旭川市・江丹別で38.4℃を記録 北海道では異例の38℃突破
  52. ^ 北海道8月史上最高、38.7度 日本海側の小平町で観測―気象庁
  53. ^ 北海道 酷暑から一転…稚内2.6℃で128年ぶりの冷え込み 5日前と気温差30℃のところも-HTB北海道ニュース
  54. ^ 観測史上1~10位の値(8月としての値)-東京(東京都)
  55. ^ 観測史上1~10位の値(8月としての値)-宮崎(宮崎県)
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  57. ^ 出典:過去の地域平均気象データ検索・気象庁
  58. ^ 同日に、群馬県前橋市 (36.5℃)、桐生市 (35.0℃)、高崎市上里見 (35.6℃)、伊勢崎市 (36.1℃)、埼玉県寄居町 (35.6℃)、熊谷市 (35.2℃)、東京都八王子市 (37.1℃)、山梨県大月市 (35.0℃) でも猛暑日を観測。
  59. ^ アメダスにおける観測。この日は平成25年台風第24号から変化した低気圧の接近によりフェーン現象が起こった。気象台観測では1991年9月28日の富山県高岡市伏木。
  60. ^ 高梁の猛暑日24日間で途切れる 岡山、玉野で1カ月ぶりの雨日
  61. ^ 真夏日・猛暑日となった観測地点数(2013年日毎)
  62. ^ 歴代全国ランキング
  1. ^ 戦前には1927年に宇和島市で40.2℃を観測しており、歴代2位の記録である
  2. ^ 1994年7月に県内の穴吹で39.2℃を観測しているが、後に観測切断された
  3. ^ 9月18日に山梨県南部町で35.0℃を観測したのみ


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