軍隊 軍隊の概要

軍隊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/03 03:25 UTC 版)

概説

現代において、軍隊は侵略または防衛を遂行する権限と能力を持ち、軍事力及び警察力の一部の行使機関であり、主権国家の象徴でもある。戦時国際法においては、戦時において一定の人道的な制約の下で作戦行動により敵を直接的に加害する権限を持ち、敵の指揮下に入ればその成員は捕虜として扱われる権利がある。

軍隊は概ね軍事法制によって建設、保持されており、その制度を「軍制」、行政を「軍事行政」、作戦を「軍令」と呼ぶが、その内容は国によって異なる場合がある。軍隊の具体的な役割は自国の安全保障、国内の治安維持、軍事力による外交支援、軍事外交などがある(→ 軍隊の機能、さらに詳細は別項の「軍事力」)。人間は古来から武装集団を一時的に組織してきたが、それが時代と共に恒常的な専門家による組織として成長していき、主要な国家機関として確立された(→軍隊の歴史職業軍人)。

現代における軍隊は従来のような戦争だけではなく、対麻薬作戦、平和維持活動、対テロ作戦、情報活動、国民教育、学術研究、技術開発、などの幅広い活動を行っている。

定義

文脈や前提条件、定義しようとしている者の視点や役割などによって、様々な定義がある。例えば以下のようなものがある。

そしてハーグ陸戦条約中における交戦者によれば、
第一章 交戦者の資格
戦争の法規および権利義務は、単に正規軍だけでなく、下記の条件を満たす民兵や義勇兵団にも適用する。
一  上官として責任者がいること
二  遠くからでも判り易い特殊徽章をつけること
三  武器を隠さず携帯すること
四  行動する際は戦争の法規と慣例を遵守すること
民兵や義勇兵団を軍の全部または一部とする国においては、これも正規軍と称することができる。
とされる。
  • 1978年12月7日に発効した ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第43条によれば、「軍隊とは「部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を負う司令部の下にある組織され及び武装したすべての兵力、集団及び部隊から成る」と定義されている。国際法上交戦権を有する存在で、責任ある指揮者の指揮のもと、遠方から識別しうる標識を有し、公然と武器を携行し、戦争法規を遵守するもの。正規の陸・海・空軍のほかにも、民兵、地方人民の蜂起したもの、商船が軍艦に変更したものまで含む[2][注釈 1]
  • ゲリラ等に関しては、交戦権を有しているかどうかが議論となることがあるので、交戦権を定義文に含める場合は、ゲリラが軍隊かどうかは議論となることがある。また、識別という点でも、軍隊か否か議論となることがある[3]。 定義文に「国家によって管理運営されている」といった表現が入る場合もある[注釈 2]。また、別の角度からとらえた極めて狭義の定義としては「学校、研究所、工作庁、官庁などを含まない部隊」などというものもある。

発達史

軍隊の形態は、その時代と国によって細部が異なるために一概には言えないが、ここでは西欧と日本における軍隊の発達史を概観する。

前近代の軍隊

原始社会においては、集落における男性が戦闘員の役割をも担っていたが、今日のような常備軍や職業軍ではなかった。古代において、人口の増加と共に国家体制が組織化または階級化されていき、それに従って軍隊組織の合理化が進んだ。古代ギリシャにおいては市民には兵役が課せられており、例えばスパルタにおいては、20歳から60歳の男性市民は軍事教練を受け、都市の防衛力の維持に努めていた。同時に古来より職業的な戦闘技術を習得した傭兵も登場しており、エジプト等の諸地域で活躍している。

中世には都市の発達と関連して自発的な市民軍の専門化と有給化が進んで傭兵とは異なる職業軍人が現れる。このような軍人は封建制の中で騎士階級として成長した。そのために騎士団やその装備を維持管理するだけの経済負担に耐えられるだけの地位にある貴族だけが軍人としての地位を独占した。しかし部隊を維持するための経済的な負担を最低限にすることも必要であったために、14世紀15世紀には営利目的の傭兵団も活躍し、英仏百年戦争で兵士に賃金を俸給として支払うことがイギリスから始まって後、ヨーロッパで一般化していった。

中世の戦法は、騎兵が主体となった儀式的な一騎討ちであったが、13世紀小銃の発明によって小銃を装備した歩兵が主体となった集団戦法が普及し、また射撃や築城についての専門的な技能を身に着けた職人を雇い入れて砲兵工兵として組織することもこの頃に始まる。これらの変化はそれまで貴族が独占していた戦士階級を民衆にも広げ、軍隊の民衆化を促進することになった。

近代化の思想

近代に入ると軍隊はより効率的な組織運営が求められ、指揮官は貴族など身分によるものではなく専門教育を受けた士官が任命され、命令系統は上意下達により一本化されるようになった。

近代的な軍事制度の先駆者としては、『君主論』を執筆したマキャヴェリ三兵戦術の創始者でもあるグスタフ2世を挙げることができる。グスタフ2世は、それまで曖昧であった階級や編制を整理してスウェーデン軍の制度を大きく改革した。それまでの民間からの技術者を正式に兵員として組織して砲兵を兵科として創設し、現在でも広く用いられている大佐中尉軍曹等という軍隊における階級が整理され、4個中隊から成る大隊を基本的な戦闘単位とし、3個大隊から一個旅団を編制し、この旅団編制を恒常化した。旅団または連隊指揮官は大佐、大隊中佐中隊大尉、小隊長は中尉や少尉を充てて制度化し、ヨーロッパ諸国と近代的な軍隊の標準として受け入れられていった。

マキャヴェリは、それまで傭兵団に依存していたイタリアの軍事力を批判して、市民から構成される常備軍の必要性を主張し、彼の軍事力を重要視する現実主義の政治哲学と共に、この考え方は広くヨーロッパに普及した。また、軍事教練を段階的に実施して、部隊の錬度を高める教育法を論じた。

国民軍への変化

軍隊の組織が大きく変化した契機となった事件にフランス革命がある。フランス革命は貴族軍という従来の軍制を覆して国民軍に変化した。フランス革命の後に勃発したナポレオン戦争においてナポレオン1世徴兵制によって膨大な兵力を集中的に運用する戦法でヨーロッパでの覇権を確立した。これは当時のジョミニクラウゼヴィッツ等の軍事学者たちに大きな衝撃を与え、ナポレオンの戦史研究が進み、国民軍の必要が各国政府で認められ、徐々に広まっていった。軍人に求められる専門性が飛躍し、それまでの貴族軍人の制度は廃れ、専門知識や技能を身に着けた職業軍人が軍隊で台頭した。

国家制度の改革、徴兵制の普及、軍法兵站制度の確立、兵器の大量生産体制の充足等によってヨーロッパ諸国の軍隊は近代化された国民軍に成長した。蒸気機関の開発によって軍艦の技術が高度化し、海軍の常備化も進む。そのために、20世紀における第一次世界大戦では、西欧諸国は長期に亘る大規模な戦闘を継続することが可能となり、続く第二次世界大戦では、戦場から離れた国民までも軍事産業に動員し、戦略爆撃通商破壊作戦で住民や商船までもが攻撃されうるという、国家の総力を挙げた総力戦を戦うことが可能であった。

現代の軍隊

第一次世界大戦から使用されてきた航空機は、改良が重ねられて大きな軍事力の一角となったために、独立した空軍が創設され、さらに核兵器ミサイルなどの新しい軍事技術をも管理する組織になった。また旧来の軍隊が想定していた国家同士の大規模な戦闘ではなく、ゲリラ、テロ、コマンド部隊による攻撃などの新しい脅威に対抗することも求められている。

民主国家では軍隊も予算に縛られており、兵器や技能などの「質」を高めることで人件費を減らす、分化された兵科の整理や陸海空を統合的に運用する統合軍などによりコンパクト化を進めている。

日本における発達史

奈良時代645年大化の改新伴造が組織され、7世紀には全国的に軍団として編制した。大宝律令養老律令によって中央に兵部省、首都に五衛府、地方に軍団・鎮守府防人を配備した。鎌倉時代鎌倉幕府では全国の御家人を戦時に運用する体制を整えて元寇を戦った。国内が内戦状態に陥った戦国時代においては集団戦法が主流となっていたために軽装の歩兵である足軽が登場する。当時の小銃の技術や築城技術の発達、また、安土桃山時代に入り織田信長豊臣秀吉兵農分離刀狩りを進め、江戸時代徳川幕府の体制で社会的身分としての武士身分が確立された。

江戸幕府では大名寄合旗本御家人が組織化されているが、大きな軍制の変化はない。しかし1853年マシュー・ペリー黒船来航に伴い西洋の知識が流入すると、フランス式の軍制が幕府軍に導入され始める。明治維新の後に軍制改革は特に活発化し、明治時代に大日本帝国陸軍および大日本帝国海軍(旧日本軍)を組織し常備軍徴兵制度を推進する。廃藩置県で日本の軍事力を鎮台として編制するが、後にこれは洋式軍制の模倣をして師団として再編される。1873年には徴兵令を発令して国民皆兵を導入し、日清日露戦争で軍備を増強した。

大正時代での第一次世界大戦で戦勝国の一員となり軍事大国として国際的地位をより確立させるが、昭和時代の第二次世界大戦後、全日本軍の無条件降伏を要求したポツダム宣言を受諾した日本の軍備は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の占領政策によって解体されたために不在であったが、朝鮮戦争を機に警察予備隊海上警備隊が創設され、保安隊を経て専守防衛を旨とする自衛隊陸上自衛隊海上自衛隊航空自衛隊)が発足し、現在に至る。


注釈

  1. ^ 戦法上「遠方から識別しうる標識」を集団的に隠すこと(すなわち、有しないこと)はあり、また、国家によって運営されている正規軍でも実際上は戦争法規を遵守しないことも時としてあることは広く知られている。だが、そのようなものでもやはり「軍隊」と呼ばれている
  2. ^ これはこれで、実態とはそぐわないケースもある。
  3. ^ 孫子 (書物)謀攻篇第三に曰く、百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。q:孫子
  4. ^ 陸軍の基地は戦術上必要な点に置かれるため、平時に駐屯する場を基地とは言わない。ただし、日本陸軍では永久に一つの地に配備駐屯する地を衛戍地といい。アメリカ陸軍においても同様の地をフォート(砦)と表記している。

出典

  1. ^ 軍隊(ぐんたい)の意味”. goo国語辞書. 2020年11月6日閲覧。
  2. ^ 『世界大百科事典』より
  3. ^ a b 『世界大百科事典』より
  4. ^ 服部実『防衛学概論』(原書房、1980年)を参照
  5. ^ 防衛大学校・防衛学研究会『防衛学研究』第34号、2006年3月、108-112頁を参照
  6. ^ 平成2年10月18日第119回臨時国会衆議院本会議における中山太郎外務大臣答弁。
  7. ^ 韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について - 韓国海軍の艦艇へ英語で呼びかける際にJapan Navyと発言している。
  8. ^ 民主・菅代表、国連待機軍を提唱へ 自衛隊と別組織で2003年12月30日、朝日新聞
  9. ^ a b O’Sullivan, Michael; Subramanian, Krithika (2015-10-17). The End of Globalization or a more Multipolar World? (Report). Credit Suisse AG. オリジナルの15 February 2018時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180215235711/http://publications.credit-suisse.com/tasks/render/file/index.cfm?fileid=EE7A6A5D-D9D5-6204-E9E6BB426B47D054 2017年7月14日閲覧。. 






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