穀物 穀物の概要

穀物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/26 03:56 UTC 版)

概要

生産量としては、1位トウモロコシ(10.3億トン)、2位小麦(7.4億トン)、3位(4.8億トン)となっている[3]

上で挙げた特に生産量の多い3種は世界三大穀物と呼ばれている[4]

種類

イネ科作物の種子を禾穀類(かこくるい、Cerealsシリアル[1]といい、マメ科作物の種子を菽穀類(しゅこくるい、Pulses[1]という。広義の穀物のうち、禾穀類の種子(単子葉植物であるイネ科作物の種子)と似ていることから穀物として利用される双子葉植物の種子をまとめて擬禾穀類あるいは擬穀類(疑似穀類、Pseudocereals)と呼ぶ[2][5][6]。擬穀類には、ソバタデ科)、アマランサスヒユ科)、キヌア(キノア、アカザ科)などが含まれる[2][7]

栄養素

穀物が含む栄養素は主に炭水化物である。タンパク質脂肪も含まれるものの穀物の摂取だけでは不足しがちなため、多くの文化圏において穀物はタンパク質を補うための豆類とセットで栽培され、消費されてきた[8]。たとえば、アジア地域における「」、中近東における「小麦と豆」、アメリカ州における「トウモロコシと豆」の組み合わせである[9]

歴史

古代エジプトで描かれた小麦の収穫
アワの原種であるエノコログサの穂。栽培種であるアワに比べ、種子の脱落性があり実が小さく数も少ない。
アワの穂。原種のエノコログサに比べ、実が大きく数も多い。

現代において世界で栽培される穀物は、ほぼ7地域(近東アフリカサヘル地帯及びエチオピア高原)、中央アジア、中国雲南省東南アジアインド北部中国北部中央アメリカ、南米のアンデス山脈)を起源としている。これらの地域は農耕文明の発祥地と重なっている[10]

栽培化

近東地域(中近東)は穀物の栽培化が世界で最も早かった地域であり、コムギ、オオムギライムギエンバクといった世界でも重要な地位を占める穀物が栽培化された地域である。アフリカのサヘルからエチオピア高原にかけては、世界に広まったモロコシをはじめ、シコクビエトウジンビエフォニオテフなどが栽培化された。中央アジアではソラマメヒヨコマメレンズマメが栽培化され、中国雲南省~東南アジア~インド北部においてはイネを筆頭としてソバハトムギが、中国北部においてはキビヒエダイズアズキが栽培化された。中央アメリカにおいてはトウモロコシが栽培化された。南アメリカ・アンデスにおいては、アマランサスキノアの栽培化が行われた[10]

栽培化される前は、穀物の多くは播種のために熟すると種子が穂から脱落する性質(脱粒性[11])を持っていた。人類が野生の穀物を利用し始めた際には逆にそれを利用し、穂の下に容器を置いて穂をゆすり身を振るい落としたり、種子がまだ固定している未熟なうちに刈り取ったりするなどの手段を取っていた。しかしこうした方法には限界があり、やがて人類は穂が熟しても種子の脱落しない個体を選抜して栽培するようになり、穀物は非脱粒性[12]を獲得していった。このほかにも可食部分の肥大化など、選抜によってより利用しやすい形へと植物自体の性質が変化していった[13]

野生の穀物の粒は小さく、収穫しにくく、さらに加工しなければ消化もしにくいため、広く穀物を利用するようになるには石器の登場が必要であった[14]。石を原料とした器は旧石器時代のうち、4万年から1万2千年ほど前の間に出現したが、定期的な穀物の収穫は1万2千年前のナトゥフ文化にみられる[14]。ナトゥフ文化では野生の小麦、大麦、ライ麦を収穫し、ヤンガードリアス期に畑を作り穀物を蔵に保管するようになると、穀物を守るようにして野生のもそこに集まるネズミを狙った[15]

なお穀物の栽培化においては、もともと栽培化されていた穀物とは別に、それらの穀物の栽培の過程において畑に紛れ込んだ雑草が、本来の穀物に紛れて、または押しのけて成長する中で穀物として栽培されるようになっていったものがある。これらは二次作物と呼ばれ、コムギの栽培過程で作物化していったライムギやエンバクなどがあてはまる[16][注釈 1]

栽培化後も、農法の進歩は続いていた。たとえば上記のとおり穀物が非脱落性を獲得したばかりの場合、穀物の成熟度はその穂ごとに異なるため、熟した穂を選んで収穫する穂刈りが行われていた。しかしやがて農法の進歩によって同じ農地の穀物の成熟度をほぼ同じに調整することが可能となると、穂ではなくを根元から収穫する根刈りが主流となっていった[17]

栽培化された穀物はやがて起源地から広がっていくが、この過程において、コムギ、イネ、トウモロコシの三種の穀物が突出して栽培されるようになっていった。コムギは栽培化当初は加工のしやすいオオムギに比べ二義的な穀物だったと考えられているが、やがてではなくパンを製造するようになると、グルテンを持つコムギは他の穀物のパンよりはるかに美味なパンを作ることができ、また加工の幅もほかの穀物とは比べ物にならないくらい広がったため、旧大陸のパン食文化圏においてはほぼどこでもコムギが第一の穀物とされるようになっていった[18]

穀物は多くの国家において食糧生産の根幹であり、そのため栽培化以降も各地で品種改良の努力が続けられてきた。19世紀以降には農法の改善によって農業革命が起き、またこの頃から科学的な品種改良の理論が確立して各地で近代的な育種が行われるようになり、穀物の収量は激増した[19]。特に20世紀後半に入ると、肥料の多用に耐えられる穀物品種の開発などによっていわゆる緑の革命が起き、穀物の反収は激増して世界人口の急増を支えることに成功した[20]

精製加工

サドルカーンと呼ばれる石で作られた

工業革命以前は小麦粉などを粉にするには石臼が使われ、手で選別処理をしなければふすま(表皮)や胚芽を完全に除去することは不可能であった[14]。19世紀後半には、そうした処理が自動化され高度に精製された穀物が広く消費されるようになった[14]。しかし工業の発達は穀物の精製技術を向上させる一方で、食物繊維ビタミンミネラルを損失させることで摂取量を減少させており、健康に影響を及ぼしていることが考えられる[14]

1970年代後半には、クロマトグラフィー果糖濃縮技術の出現で異性化糖(高果糖コーンシロップ、HFCS)の大量生産を可能とした[14]


  1. ^ a b c 日本作物学会編『作物学用語事典』(農山漁村文化協会 2010年)p.241
  2. ^ a b c 『丸善食品総合辞典』(丸善 1998年)p.393
  3. ^ 世界各国の主食は何ですか。農林水産省(2021年6月27日閲覧)
  4. ^ 農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』(農山漁村文化協会 2006年)p.105
  5. ^ 日本作物学会編『作物学用語事典』(農山漁村文化協会 2010年)p.242
  6. ^ 『丸善食品総合辞典』(丸善 1998年)p.268
  7. ^ 『食料の百科事典』(丸善 2001年)p.18
  8. ^ 「世界の食用植物文化図鑑 起源・歴史・分布・栽培・料理」p24-25 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  9. ^ 国際連合食糧農業機関、国際食糧農業協会訳・編集『たんぱく質の品質評価 : FAO/WHO合同専門家協議報告』国際食糧農業協会、1992年。 Quality Evaluation, Report of the Joint FAO/Who Expert Consultation, 1991 ISBN 978-9251030974
  10. ^ a b 国分牧衛『新訂 食用作物』(養賢堂 2010年8月10日第1版)p.3
  11. ^ 【脱粒性】
  12. ^ 【非脱粒性】
  13. ^ 国分牧衛『新訂 食用作物』(養賢堂 2010年8月10日第1版)p.5
  14. ^ a b c d e f Cordain L, Eaton SB, Sebastian A, et al. (2005). “Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century”. Am. J. Clin. Nutr. 81 (2): 341–54. PMID 15699220. http://ajcn.nutrition.org/content/81/2/341.long. 
  15. ^ ジョン・ブラッドショー『猫的感覚―動物行動学が教えるネコの心理』早川書房、2014年
  16. ^ 中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』(岩波書店 1966年1月25日第1刷)154頁
  17. ^ 中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』p10-11(岩波書店 1966年1月25日第1刷)
  18. ^ 「小麦の機能と科学」(食物と健康の科学シリーズ)p2-3 長尾精一 朝倉書店 2014年9月10日初版第1刷
  19. ^ 国分牧衛『新訂 食用作物』(養賢堂 2010年8月10日第1版)p.6
  20. ^ 「食 90億人が食べていくために」(サイエンス・パレット025)p144-147 John Krebs著 伊藤佑子・伊藤俊洋訳 丸善出版 平成27年6月25日発行
  21. ^ 「穀物生産28億トン 過去最高見通し」『日本農業新聞』2021年6月9日2面
  22. ^ a b ProdSTAT”. FAOSTAT. 2006年12月26日閲覧。
  23. ^ The weight given is for paddy rice
  24. ^ 「熱帯作物学」p23 志和地弘信・遠城道雄編 朝倉書店 2022年4月5日初版第1刷
  25. ^ 三輪睿太郎監訳『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』(朝倉書店 2004年9月10日第2版第1刷)p.61
  26. ^ 「史上最強カラー図解 最新 世界の農業と食料問題のすべてがわかる本」p30 八木宏典監修 ナツメ社 2013年6月7日初版発行
  27. ^ 「史上最強カラー図解 最新 世界の農業と食料問題のすべてがわかる本」p31 八木宏典監修 ナツメ社 2013年6月7日初版発行
  28. ^ a b 農林水産技術会議/売れる麦に向けた新技術、6ページ。2016年8月6日閲覧[リンク切れ]
  29. ^ 平野克己『図説アフリカ経済』(日本評論社、2002年4月)46-48頁
  30. ^ 平野克己 『図説アフリカ経済』(日本評論社、2002年4月 ISBN 978-4-535-55230-2)42-43頁
  31. ^ 小麦に危機感「カーンザ」に期待 代替作物、米国で注目「持続的な農業を」土壌や水保持に高い能力 気候変動に対応朝日新聞』夕刊2022年9月30日1面(2022年10月8日閲覧)
  32. ^ NHK, 「放置しないで!飢えのない世界へ」
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  34. ^ 「新版 キーワードで読みとく現代農業と食料・環境」p38 「農業と経済」編集委員会監修 小池恒男・新山陽子・秋津元輝編 昭和堂 2017年3月31日新版第1刷発行
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  39. ^ a b c d [1]
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  48. ^ 石毛直道『世界の食べもの 食の文化地理』(講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷)p.234
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  52. ^ 『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』(小学館 2003年3月20日初版第1刷)p.313
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  55. ^ 国分牧衛『新訂 食用作物』(養賢堂 2010年8月10日第1版)p.204
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  61. ^ 「わかる!国際情勢 食料価格高騰~世界の食料安全保障~」日本国外務省(2008年7月17日)2016年8月6日閲覧
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  68. ^ 「食の人類史」p60-61 佐藤洋一郎 中公新書 2016年3月25日初版
  69. ^ 本山荻舟『飲食事典』(平凡社 昭和33年12月25日発行)p.197
  1. ^ 強勢雑草として忌み嫌われるものもあり、日本では、イネの水田におけるヒエはその例として知られる。


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