穀物の収穫 (ブリューゲル)とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 穀物の収穫 (ブリューゲル)の意味・解説 

穀物の収穫 (ブリューゲル)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/23 04:08 UTC 版)

『穀物の収穫』
オランダ語: De korenoogst
英語: The Harvesters
作者 ピーテル・ブリューゲル
製作年 1565年
素材 キャンバス上に油彩
寸法 119 cm × 162 cm (47 in × 64 in)
所蔵 メトロポリタン美術館ニューヨーク

穀物の収穫』(こくもつのしゅうかく、: De korenoogst: The Harvesters)は、初期フランドル派の巨匠ピーテル・ブリューゲルが1565年に板上に油彩で制作した絵画である。7月か8月、または晩夏の収穫時期を描いたものである[1][2]。 作品は、アントウェルペンの金融業者で美術収集家でもあったニコラース・ヨンゲリンク英語版 により委嘱された[1][2][3][4][5][6]。作品は1919年以来、ニューヨークメトロポリタン美術館に所蔵されている[2][7]

背景

本作は、1年の異なる時期を描いた「季節画」6連作(5点が現存する)のうちの1点である[1]。制作を依頼した二コラース・ヨンゲリンクは、ハプスブルク家の為政者に仕えた人物で、彼はこの連作以外にも『バベルの塔』、『ゴルゴタの丘への行進』(ともにウィーン美術史美術館所蔵)など16点のブリューゲル作品を所有していた重要なパトロンであった[3]

ヨンゲリンクは、アントウェルペンの郊外テル・ベーケに広大な敷地と別荘を持ち、その1室に「季節画」6連作を飾った。当時、ヨンゲリンクなど富裕層の人々は、経済活動の激務から解放されるために週末に近郊の別荘のサロンで文化交流を享受していた。ヨンゲリンクの別荘には、イタリアルネサンス様式を導入したフランス・フロリス神話画連作『ヘラクレスの功業』も掛けられていた。ヨンゲリンクと知識階級の友人たちは、フロリスの古典古代の英雄的主題とブリューゲルの雄大な自然の中で勤勉に働く農民讃歌の対比に大いに議論を楽しんだであろう[3]

ブリューゲル研究者の森洋子によると、フランドル聖務日課書や時祷書、フランドル、ドイツフランスなどの月歴版画とブリューゲルの「季節画」の相違は、ブリューゲルが農民を主人公として描き、貴族や市民の月歴行事を描かなかったことである。また、ブリューゲルは月々の伝統的な農事に捉われることなく、季節感にあふれた自然環境の中で勤勉に働く農民を讃えている[3]

作品

暗い日』(美術史美術館) では暗褐色、『干草の収穫』 (プラハ国立美術館) では黄緑色が基調をなしているのに対し、本作では黄金色が基調をなしている。この作品ではブリューゲルが好んだ雄大な山岳風景は見当たらず、連作の中では異質である。海辺の農耕地に限定されているだけに、特定地域の実景を再現したかのような親近感のある風景になっている[8]

本作では、ブリューゲルの多くの作品のように農民とその労働に焦点が当てられており、当時の風景画に一般的な宗教的主題は持っていない[1][2]。構図の中心は前景の大きなナシの木である[6]。真夏の昼時に、なお麦刈りに励む農夫もいれば、すでに昼食をしたり、昼寝をしている農夫などもいる[6][8]。描かれている大鎌は普通牧草用で、麦を刈るのは珍しく、民俗学者L・テウヴィッセンの研究によれば、リンブルフ州 (オランダ) ケンペン地方のみの習慣である。この事実は、ケンペン地方がブリューゲルの生地の候補地から近いということから興味深い[7]

6月と7月の2ヵ月の表現となっている『干草の収穫』 (プラハ国立美術館) と異なり、本作品は8月のみの表現となっている。オランダ語で8月の俗称は「収穫の月」 (Oogtmaand)、「小麦の月」 (Koornemaand) とも呼称される[7]。収穫時の昼食はごく簡素で、パンと果物か、パップと呼ばれる一種のお粥だけである[7]。目を引くのは、食事をしている農民もいれば、麦を収穫している農民もいることで、それは、すなわち食物の生産と消費が描かれていることになる[9]

画面は、16世紀のベルギーの田舎の生活を表す数々の行動を表している[10]。たとえば、右端の人物は木からリンゴを落としている。中央左寄りの背景の草原では、ボール投げを楽しんでいる子供たち[3] (あるいは、ブラッド・スポーツ鶏投げに参加している人々[11]) が見える。メトロポリタン美術館は、本作を「西洋絵画史における分水嶺」[1]であり、「最初の風景画」であると呼んでいる[2][12]。 距離感が、小麦畑の間を通って束を運んでいる農民たち、池で入浴している人々、遊んでいる子供たち、遠くの船によって生み出されている。

連作

「季節画」連作中、現存するのは以下の作品である。

脚注

  1. ^ a b c d e Pieter Bruegel the Elder: The Harvesters (19.164)”. Heilbrunn Timeline of Art History. The Metropolitan Museum of Art. 2015年9月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年5月20日閲覧。 “Through his remarkable sensitivity to nature’s workings, Bruegel created a watershed in the history of Western art, suppressing the religious and iconographic associations of earlier depictions of the seasons in favor of an un-idealised vision of landscape.”
  2. ^ a b c d e The Harvesters”. メトロポリタン美術館公式サイト (英語). 2015年10月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年5月20日閲覧。
  3. ^ a b c d e 森洋子 2017年、108項。
  4. ^ 岡部紘三 2012年、87-91項。
  5. ^ 幸福輝 2017年、80-83項。
  6. ^ a b c 『ブリューゲルへの招待』、2017年、18項。
  7. ^ a b c d 阿部謹也・森洋子 1984年、82-83項。
  8. ^ a b 岡部紘三 2012年、94-95項。
  9. ^ BBC Radio 4. “The Harvesters by Pieter Bruegel the Elder”. 2014年5月20日閲覧。
  10. ^ A discussion of The Harvesters by Pieter Bruegel the Elder”. TripImprover – Get more out of your museum visits!. 2017年10月26日閲覧。
  11. ^ Brown, Mark (2011年2月1日). “Google Art Project aims to shed new light on classic works of art”. The Guardian. https://www.theguardian.com/technology/2011/feb/01/google-art-project-classic-works 
  12. ^ MetMedia: The Harvesters”. The Metropolitan Museum of Art. 2015年10月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年5月20日閲覧。 “It’s a landscape that’s really the first modern landscape in Western art. Bruegel has inserted a completely coherent middle ground, and it increases both our engagement with the landscape—he puts us into the landscape along with the peasants walking down those paths—and the sense of a measurable distance.”

参考文献

外部リンク




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  穀物の収穫 (ブリューゲル)のページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「穀物の収穫 (ブリューゲル)」の関連用語

穀物の収穫 (ブリューゲル)のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



穀物の収穫 (ブリューゲル)のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの穀物の収穫 (ブリューゲル) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS