ネズミ ネズミの概要

ネズミ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/21 15:41 UTC 版)

ネズミ
ユーラシアハタネズミMicrotus arvalis
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目(齧歯目) Rodentia
亜目 : ネズミ亜目 Myomorpha
上科

形態および生態

ネズミのほとんどが夜行性である。また、ネズミの前歯は一生伸び続けるというげっ歯類の特徴を持っているため、常に何か硬いものを(必ずしも食物としてではなく)かじって前歯をすり減らす習性がある。硬いものをかじらないまま放置しておくと、伸びた前歯が口をふさぐ形になり食べ物が口に入らなくなってしまい餓死してしまう。

世界中のほとんどあらゆる場所に生息している。ネズミ上科のほとんどのが、丸い耳、とがった鼻先、長い尻尾といった、よく似た外観上の特徴をもち、外観から種を見分けることは難しい。このため、頭骨や歯によって識別がなされている。

繁殖力が旺盛である。ハツカネズミなどのネズミは一度の出産で6-8匹生むことが出来、わずか3-4週間程度で性成熟し子供が産めるようになる。

分類

スナネズミ Mongolian gerbil
ファンシーラット

古い分類では、ネズミ亜目の総称とされていた[3][1][2]。ただし、ネズミ亜目の分類は当時から変化し、現在のネズミ亜目はかなり異なる。あるいは狭義にはネズミ上科[1][4]、さらに狭義にはネズミ科[1][5]の総称ともされる。

旧ネズミ亜目

広義に取った場合、古い分類でネズミ目ネズミ亜目に分類されていた3上科9科が含まれる。これは現在の分類では、ネズミ亜目の2上科8科とリス亜目の1科に分類される(いずれも、科数は分類により若干増減する)。

現在のネズミ亜目には、以前はリス亜目に分類されていた、ホリネズミ科ポケットマウス科ビーバー科ウロコオリス科トビウサギ科も含まれるが、これらは通常、ネズミとされない。

ヤマネ科は、古い分類ではネズミ亜目とされ、ネムリネズミの異名もあり、ネズミに含められてきた[3]。しかし、現在の分類ではリス亜目であり、標準和名に「ネズミ」が入ってないことも相まって、ネズミとしないことも多い。

その他の「ネズミ」

ネズミ目

ネズミ亜目の残りや、近縁なヤマアラシ亜目にも、和名に「ネズミ」が含まれる種が散見され、俗に「ネズミ」と呼ばれることがある。ただし、解剖学的にはネズミ亜目と異なる点もあり、生物学的な観点からは「真のネズミではない」とされる[2]。ただし、ホリネズミ科をネズミに含めることがある[6]

和名に「ネズミ」を含む主な種は以下の科に含まれる。分類群は関連するもの以外は省略。

さらにこれら以外でも、顕著な外見上の特徴(ヤマアラシのような)がない、チンチラなどの小型種はいずれも、漠然とネズミと呼ばれることがある。また、カピバラやフーティアのような(ネズミ目としては)大型動物でさえ、「巨大なネズミ」と表現されることもある。古来から、地上性の小獣をネズミと総称したとされる[2]

ネズミ目以外

ネズミ目以外にも「〜ネズミ」という和名の生物がいるが、これらは最も広義のネズミにも含められることはなく、あくまで名前がそうであるだけのものとして扱われる。

人間との関わり

人類にとって、ネズミは収穫した後の穀物を食害したり、家財を損なう害獣と古来認識されている。農作業において、自然の鳥獣が時折田畑の作物を食べに出てくるのは自然なことであり、人間が自然の恵みによって間接的に自然から食料を得ているという意識のもとでは、そうした鳥獣は必ずしも殺して駆除すべき対象ではなく、基本的に追い払うだけであった。しかし、収穫後の穀物は自然と切り離された人間の所有物であり、それを食べるネズミは大事な物を盗み取っていると見なされ、古今東西忌み嫌われてきた。

アリストテレスの『博物誌』では、農作物に害をなすことが述べられているとともに、塩を舐めているだけで交尾をしなくても受胎すると考えられていて、繁殖力が強い事は知られていた。中世ヨーロッパでは、ネズミは不吉な象徴であり、ペストなどの伝染病を運んでくると考えられていた(実際にペストを媒介する)。また、「ゾウはネズミが天敵」と信じられていた(ネズミはゾウの長い鼻に潜り込んで窒息死させると言われていた)。これは単なる迷信などではなく、ネズミは自分より体の大きなものであっても襲うことがあるためである。人間の乳児や病人などはネズミにかじられてしまうことが多々あった。飢饉などで動けなくなり周囲も看病をできなかった弱った人間がネズミにかじられて指を失った事例などは世界中にある。

鼠害を受けたLANケーブル

また、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミの3種はイエネズミと呼ばれ、人間社会にとってもっとも身近なネズミである。現代でも病原体を媒介したり、樹木や建物、電気機器などの内部や通信ケーブルなどをかじったりして人間に直接・間接の害を与える衛生害獣であり、駆除の対象となっている。

20世紀に入って以降になると、次第にネズミはイヌやネコと並んで、物語や漫画、ゲーム、アニメなどの動物キャラクターとして登場するようになる。個体の均一性やネズミの体重が軽いことと安く飼育して増やせることに着目し、薬品や化粧品開発などの実験動物として使われたり、アフリカ・タンザニアでは、ベルギー人のバート・ウィートジェンスが創設したNGO・APOPOが、ネズミを使って地雷を発見するという活動を始めている。ネズミの仲間のハムスターなどはペットとして人気がある。

日本列島におけるネズミ

高床倉庫、小判形のねずみ返し(登呂遺跡)

ネズミでは、人たちが暮らしていた。縄文時代貝塚における発掘調査で、微小な動物遺体の水洗選別を行った際にネズミのが回収されている[7]。これらはアカネズミヒメネズミなど森林性のネズミ類であり、狩猟対象獣であるイノシシシカタヌキなどに比べて微量であること、また小さいことから食用ではなかったと考えられている[7]。また、貝塚から出土する動物遺体には、ネズミの齧り跡が認められることもある[8]

東京都北区に所在する七社神社裏貝塚では、魚骨・貝殻などが廃棄されていた縄文後期前葉の土坑内部からハタネズミ・アカネズミで構成される大量のネズミが出土している[7]。ゴミ坑から出土したことから食用であることも想定されるが、全身の部位が残っている個体が多く、焼けた形跡も見られない。このため食用ではなく、縄文人の採集生活において、堅果や加工品を食糧とする森林性のネズミは競合関係にあり、このため駆除を目的としてゴミ坑に廃棄しており、また土坑は落とし穴として機能していた可能性も考えられている[9]

弥生時代にも人間の生活圏にネズミが存在した痕跡が見られる[10]1947年(昭和22年)に静岡県静岡市に所在する登呂遺跡における発掘調査により出土した楕円形・蓋状の木製品は、その後の類似した木製品の出土事例の増加により、食料貯蔵庫である高床倉庫に設置するネズミ返しであるとする説が提唱された[10]。高床倉庫のネズミ返しは、取り付け位置・ネズミの種類からクマネズミ属クマネズミドブネズミには通用せず、ハタネズミを対象としたものであり、そもそもクマネズミ属は弥生時代には生息していなかったとも言われる[11]

一方で、奈良県磯城郡田原本町唐古に所在する唐古・鍵遺跡では、弥生時代のものと推定されるドブネズミの骨が出土している[10]。また、同遺跡から出土した壺形土器には、4本の掻き傷が見られ、大きさ・本数からネズミのものであると考えられている[10]。ドブネズミは東南アジアを起源とするクマネズミ属であり、世界中に進出している[11]。一般に集落の形成期にはハタネズミ・アカネズミなどの野ネズミが多く出土し、集落の成長に伴い人家の周辺に生息するドブネズミが出現し、さらに集落が衰退すると再び野ネズミが増加するという[10]。唐古・鍵遺跡における出土事例から、弥生時代には稲作農耕の開始に伴い渡来したとする説がある[11]。従来、日本列島へのネズミの渡来は飛鳥時代遣唐使の往来に伴い渡来したとする説や、江戸時代に至って渡来したとする説もあったが、唐古・鍵遺跡の事例により、これを遡って弥生時代には渡来していたと考えられている[11]

石川県金沢市に所在する畝田ナベタ遺跡から出土した平安時代(9世紀)の木簡には、ネズミ歯形が認められてる[11]。この木簡は籾の付札で、穀倉を棲家とするネズミが存在していたことを示している[12]。同時代には、宇多天皇の日記『寛平御記』などの文献資料において、飼育に関する記録が見られ、仏典などを守るためネズミの天敵である猫が導入されたとする説もある[13]

ネズミの飼育

江戸時代の大阪では、養鼠家による飼育が行われ、変わった毛色のネズミが珍重された[14]。『養鼠玉のかけはし』『珍翫鼠育艸』などの飼育書が販売された[15][14]

実験用シロネズミ
ラットが実験動物化されるようになった19世紀か、それ以前に繁殖させる過程で、まだら模様のネズミがアルビノ変異したものとされる[16]
ハムスター
1839年にジョージ・ロバート・ウォーターハウスが記載したのが歴史に最初に記載された例である。それから繁殖と家畜化に成功したのが、1939年である[17]

語源説

和名の「ネズミ」という言葉について、過去に以下のような語源説が唱えられた。

  • 「ネ」は「ヌ」に通じ「ヌスミ」の意味。盗みをする動物であることから。(『日本釈名』)
  • 「寝盗」。寝ている間に盗みをする動物であることから。(『和訓栞』)
  • 「ネ」は「根の国」の「根=暗いところ」、「スミ」は「棲む」。暗いところに棲む動物であることから(『東雅』)

家ネズミ

野外に棲息するアカネズミハタネズミなどの「野ネズミ」に対して、人家やその周辺に棲息するネズミ類を「家ネズミ」と呼ぶ。日本のネズミ類のうち家ネズミに当たるものは、ドブネズミクマネズミハツカネズミの3種類にほぼ限られる。

スーパーラット

近年ではクマネズミを中心に、ワルファリン薬剤抵抗性のある肝臓の毒代謝能力の高いものが現れている。クマネズミ以外のネズミにも、同様の耐性を持つ個体が見られるようになり、これらを含め総括してスーパーラットと呼ばれる。スーパーラットのほとんどがクマネズミである。スーパーラットにも効く殺鼠剤も研究されて、薬局などで市販されている。

湖南省の大鼠害

2007年6月と7月に中華人民共和国湖南省岳陽市を中心に洞庭湖の周辺地域で、洞庭湖の水位上昇を受けて居場所から追い立てられた野ネズミ20億頭が、農村部へ流出する事件が発生した。農作地の被害は160万ヘクタールに及んだ。

食材として

ベトナムタイなどでは、穀物を主食とする田ネズミが食材として用いられ、農家等で飼育されることもある。

南洋のイースター島においては、遺跡から出土する動物遺体のうちネズミがを上回る量で出土しており、陸鳥の絶滅や大型魚の減少・の小型化などの食糧条件の変化によりネズミを食用としていたと考えられている。イースター島は環境破壊によって樹木が枯渇し、漁船を作って海に出ることが困難になったことでも知られる[18]

ネズミとチーズ

関西学院大学教授の中島定彦らが2015年に発表した論文では、ラットもマウスも固形飼料よりもチーズを好むとし[19]、さらに同年に発表した別な論文では、マウスはアーモンドリッツ干し芋よりもチーズを好んだとした。同論文で中島は、ネズミはチーズを好まないという先行研究は妥当性を欠いていると指摘した[20]


  1. ^ a b c d フランク・B・ギブニー, ed. (1993), “ネズミ rat; mouse”, ブリタニカ国際大百科事典 4 小項目事典 REFERENCE GUIDE, 第2版改訂版, ティービーエス・ブリタニカ 
  2. ^ a b c d 平凡社「「今泉忠明 ネズミ 鼠 rat; mouse」」『世界大百科事典』(2009年改訂新版)平凡社、2009年。ISBN 4582034004 
  3. ^ a b 宮尾獄夫 著「ネズミ〔鼠〕 rat, mouse, vole」、相賀徹夫 編『日本大百科全書 18』小学館〈初版〉、1987年。ISBN 4-09-526018-1http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F/ [リンク切れ]
  4. ^ 金子之史日本の野ネズミを四国から見ると : 野ネズミの分布を調べる」『どうぶつと動物園』第60巻第2号、東京動物園協会、2008年4月、36-37頁、CRID 1050006297344364544ISSN 0288-4887 
  5. ^ 三省堂編修所, ed. (2012), “ネズミ”, 三省堂 生物小事典, 三省堂, ISBN 978-4-385-24006-0 
  6. ^ 新村出, ed. (1998), “ねずみ【鼠】”, 広辞苑, 第5版, 岩波書店 
  7. ^ a b c 植月(2015), p. 18
  8. ^ 植月(2015), p. 19-20.
  9. ^ 植月(2015), p. 19.
  10. ^ a b c d e 植月(2015), p. 15
  11. ^ a b c d e 植月(2015), p. 16
  12. ^ 植月(2015), p. 16-17.
  13. ^ 植月(2015), p. 17.
  14. ^ a b 安田容子「江戸時代後期上方における鼠飼育と奇品の産出 -『養鼠玉のかけはし』を中心に-」『国際文化研究』第16巻、2010年3月、205-218頁、CRID 1050001202754285184hdl:10097/00120333ISSN 1341-0709NAID 1100075905052023年9月13日閲覧 
  15. ^ 寺島俊雄:「珍翫鼠育艸 (ちんがんそだてくさ)」全訳”. www.anatomy.or.jp. 日本解剖学会. 2023年8月30日閲覧。
  16. ^ 庫本高志; Nakanishi, Satoshi; Ochiai, Masako; Nakagama, Hitoshi; Voigt, Birger; Serikawa, Tadao (2012-08). “Origins of Albino and Hooded Rats: Implications from Molecular Genetic Analysis across Modern Laboratory Rat Strains [実験用シロネズミの起源. 京都大学プレスリリース]”. PLoS ONE (Public Library of Science) 7 (8). hdl:2433/159101. ISSN 1932-6203. NAID 120004622552. https://hdl.handle.net/2433/159101. 
  17. ^ Barrie, Anmarie. 1995. Hamsters as a New Pet. T.F.H. Publications Inc., NJ ISBN 0-86622-610-9.
  18. ^ 『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』ジャレド・ダイアモンド著、楡井 浩一 翻訳、草思社出版
  19. ^ 中島定彦, 木原千彰, 金下真子「ラットおよびマウスにおけるチーズ選好」『関西学院大学心理科学研究』第41巻、関西学院大学心理科学研究室、2015年3月、7-15頁、CRID 1050282813195783680hdl:10236/13210ISSN 2187-6355NAID 1200056040912023年9月13日閲覧 
  20. ^ 中島定彦「マウスにおけるチーズ選好」『人文論究』第65巻第2号、関西学院大学人文学会、2015年9月、31-47頁、CRID 1050001202538402432hdl:10236/13482ISSN 0286-6773NAID 1200056520882023年9月13日閲覧 
  21. ^ 駆除できないネズミ 増殖の背景は - NHK 特集まるごと」日本放送協会、2013年1月25日、2013年4月4日閲覧
  22. ^ ネズミ駆除の新しい武器はドライアイス、米ニューヨーク”. AFP (2018年6月17日). 2018年8月18日閲覧。
  23. ^ (無題)”. 平成11年度 公正取引委員会年次報告. 公正取引委員会 (2010年3月31日). 2011年10月15日閲覧。
  24. ^ 「蚊よけ器」公正取引委員会による排除命令につきまして:” (2007年11月21日). 2011年10月15日閲覧。
  25. ^ a b 彌永信美「鼠毛色の袋の謎」『大黒天変相』法蔵館 2002年。
  26. ^ a b c 小林美和, 冨安郁子「室町時代食文化資料としての『鼠の草子絵巻』(その2)料理と食材を中心として」『帝塚山大学現代生活学部紀要』第4号、帝塚山大学、2008年2月、11-22頁、ISSN 13497073NAID 110006550002 
  27. ^ a b 小林美和, 冨安郁子「室町時代食文化資料としての『鼠の草子絵巻』(その1)調理場面を中心として」『帝塚山大学現代生活学部紀要』第3号、帝塚山大学、2007年2月、11-24頁、ISSN 13497073NAID 110006487554 
  28. ^ 井戸田総一郎「図書館特別資料紹介 雑誌『ユーゲント』の魅力--言葉・デザイン・図像」『図書の譜』第9号、明治大学図書館、2005年3月、1-10,図巻頭2p、ISSN 1342808XNAID 400070011002021年4月1日閲覧 
  29. ^ 金融市場NOW Financial Market Review vol.121 ニッセイアセットマネジメント、2020年1月13日閲覧。






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