軍隊 原理

軍隊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 00:57 UTC 版)

原理

存在意義

軍隊は、政治の実行手段の一つである軍事を司る。軍隊を保有することで、他国からの急迫不正の侵害を抑止し、保有戦力に相応した外交関係が保障され、国内政情を安定化する働きをもつ。

カール・フォン・クラウゼヴィッツは『戦争論』において、戦争の本旨とは、武力による実力行使であり、戦争を行う機関である軍隊は国家間の武力衝突を制御する組織と述べている。またマックス・ウェーバーの、国家とはある領域での合法的な武力行使を独占する集団、として定義する考えの中にも、軍隊がこの合法的な武力の行使を担当する組織、という意味が含まれていることになる。これら思想に見られるように軍隊は物理的な強制・加害行為をなしうる執行機関であり、国家権力の主要な権力資源である。

このような軍隊の存在意義についての議論は、古く古代ギリシアにまで遡ることができる。古代ギリシアの哲学者プラトンは、国家の独立を維持するためには、国の自足性が重要だと考えており、外国に軍事力や経済力で依存することはその国と従属関係を結ぶことになると論じ、国家が独自的な軍事力を持つことの必要性を説いている。この考え方は、近世ヨーロッパのにも通じており、実際に中世都市国家フィレンツェでは、傭兵のみに国防を任せることによって(傭兵が給料目当てでわざと戦争を長引かせて)国力が衰退した。その末期に生まれた外交官ニッコロ・マキャヴェッリは、自国民から編制された常備軍のみが信頼に足る国防力と論じ、外国軍や傭兵に依存した国の惰弱さを論じている。

機能

軍隊の機能は、大きく分けて武力の執行と武力による抑止という二点が挙げられる。武力の執行は「敵」と設定された相手を直接的に加害行為することであり、これは軍隊という組織の基本的な存在意義でもある。この武力の執行の政治的な意義は、国家の目的達成に寄与することであり、侵略や防衛などの安全保障政策のために運用される。敵の撃滅は軍事的合理性の上で行われる限りは戦時国際法により認められるが、この場合の敵とはすなわち交戦者資格を持つ敵軍であり、民間人や民用物に対する加害行為は認められていない。第二に上記の能力が持つ可能性によって「敵」からの侵略などの軍事行動を抑止することである。この武力による抑止は古来より存在していた[注釈 3]が、体系的に理解されたのは米国とソ連が核兵器を相互に配備した冷戦期であり、また国際関係において軍隊は国家の政治意思を反映したプレゼンスやパフォーマンスとしても機能している。以上のように物理的で具体的な暴力行為を行うこと、あるいはそれを行う潜在力があることにより対外的に抑止を行うことである(軍事力の項目も参照されたい)。

自己完結性

自己完結性とは、軍隊が食料エネルギー燃料電源)・通信・移動などの生存、ひいては作戦行動の遂行に必要なインフラを自分たちで用意する能力である。

軍事施設には武器弾薬、発電施設や通信施設などが常に維持・保管されており、一定の自己完結性を維持している。これは戦争においてインフラが破壊された地域、また砂漠山岳荒野などのインフラが元々無い地域で作戦行動をすることもあることを想定しているためである。

インフラが破壊され、消防が活動できなくなる大規模災害において軍隊が有用な理由はここにある。さらに軍隊では部隊の構成員や物品が不足した場合を考慮し、その能力を代替できるように準備がなされている。これは殊に指揮系統の維持は統率上の観点からも最重要とされる。

自衛隊においては、超長波や衛星電波を利用した(既存の電話回線やインターネットに頼らない)通信システム、各基地・駐屯地における燃料の確保の他、

等がある。有事における最前線はともかく、師団段列などではできるだけ平時に近い生活環境を用意することが士気の維持に不可欠であることを米軍の戦訓などから学んだためであるが、近年では災害派遣で民間人を優先して利用することが多い。

用兵能力

用兵とは作戦戦闘を遂行するために戦力を運用することであり、軍隊の最も根本的な能力である。軍隊の持つ多様な能力も原則的にこの機能に寄与するためにある。戦力の運用は、個々の兵員の練成された体力と共に武器爆発物、通信機器、戦術行動、緊急医療築城などの戦闘技術が求められ、また部隊レベルでは作戦行動の連携を維持するための指揮統率、後方支援などを担当する基本的な能力が求められる。これらの総力が戦闘力となり、司令部情報活動戦略・戦術、意思決定が軍隊の作戦行動を実施させて作戦用兵の機能を果たす。この活動は陸海空で細部が異なっており、別個に高度な専門技能と知識が求められるために陸軍、海軍、空軍と並立している。

練兵能力

練兵とは、軍隊の構成員である兵員の育成であり、軍隊の重要な能力の一つである。軍隊の構成員も礼式など基本的な事項を別として、階級や部署によって役割が異なるために、別の教育訓練を受ける必要がある。例えば部隊の作戦に携わる士官には精神教育、戦術学教育、一般教養などが教育訓練される。軍隊の中でも現場に携わる下士官は、軍隊の骨格であり、精神教育、身体訓練、装備の取扱い、サバイバル技術などのより発展的な戦闘技術などが教育訓練される。また士官と下士官は共に兵とは異なって部下を統率するためにリーダーシップも教育される。兵卒はその精神教育、身体訓練、基本教練、装備の取扱い、射撃術、築城技術などの教育訓練を受ける。教育訓練は兵科によっても大きく異なる。

造兵能力

造兵とは、武器・兵器の研究・開発・生産であり、軍隊の主要な能力の一つである。この造兵の機能は一般的な科学技術と関連して軍事技術の水準を向上させ、兵員により優れた装備を提供する上で非常に重要である。特に海軍空軍では戦力の兵器性能への依存度がより高く、兵器開発が戦力の質に決定的に影響しうる。その内容はさまざまであるが、例えば軍用車両に用いられる装甲技術は兵士の生存性に直結し、航空機に用いられる航空工学材料工学などの研究、ミサイル技術や通信技術などは戦闘の行方そのものを左右しえる重大な要因である。特に近代以降は他国との技術開発の競争があり、軍事技術が陳腐化しないためにも継続的な研究開発が進められている。


注釈

  1. ^ 戦法上「遠方から識別しうる標識」を集団的に隠すこと(すなわち、有しないこと)はあり、また、国家によって運営されている正規軍でも実際上は戦争法規を遵守しないことも時としてあることは広く知られている。だが、そのようなものでもやはり「軍隊」と呼ばれている
  2. ^ これはこれで、実態とはそぐわないケースもある。
  3. ^ 孫子 (書物)謀攻篇第三に曰く、百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。q:孫子
  4. ^ 陸軍の基地は戦術上必要な点に置かれるため、平時に駐屯する場を基地とは言わない。ただし、日本陸軍では永久に一つの地に配備駐屯する地を衛戍地といい。アメリカ陸軍においても同様の地をフォート(砦)と表記している。

出典

  1. ^ 軍隊(ぐんたい)の意味”. goo国語辞書. 2020年11月6日閲覧。
  2. ^ 『世界大百科事典』より
  3. ^ a b 『世界大百科事典』より
  4. ^ 服部実『防衛学概論』(原書房、1980年)を参照
  5. ^ 防衛大学校・防衛学研究会『防衛学研究』第34号、2006年3月、108-112頁を参照
  6. ^ 平成2年10月18日第119回臨時国会衆議院本会議における中山太郎外務大臣答弁。
  7. ^ 韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について - 韓国海軍の艦艇へ英語で呼びかける際にJapan Navyと発言している。
  8. ^ 民主・菅代表、国連待機軍を提唱へ 自衛隊と別組織で2003年12月30日、朝日新聞
  9. ^ a b O’Sullivan, Michael; Subramanian, Krithika (17 October 2015). The End of Globalization or a more Multipolar World? (Report). Credit Suisse AG. 2018年2月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月14日閲覧






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