穀物
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用途
穀物は、その種類によって用途の割合が異なっている[39]。(生産量1位の)トウモロコシは、6割が飼料用で、4割が食用である[39]。(生産量2位の)小麦は8割が食用で、2割が飼料用である[39]。(生産量3位の)コメはほぼ全量が食用として使われる[39]。
食用
穀物は、主にエネルギー源となる炭水化物を供給するための主食の材料として用いられており、イモ類などの根菜類やバナナなどを主食とする地域を除く、世界中の大半の地域において食糧の中心部分を占めている[40]。一日のカロリー摂取量に占める穀物の割合は発展途上国におけるほど高くなり、低所得国では70%を超えることすら珍しくない[41]。経済が成長するにつれて食生活が多様化し、脂質や肉類の消費が増加することで穀物の食卓に占める割合も低下していったが、もっとも食卓に穀類の占める割合の少ない北アメリカや西ヨーロッパでも一日のカロリー摂取量の20%程度は穀物から供給されている[42]。
穀物は、脱稃をして外皮を取り除かないと食べることができない[43]。脱稃をしたあと、通常は果皮、種皮、胚、胚乳表層部といった糠やふすま部分を取り除く精白を行う[44]。また、精白しない全粒穀物を食べることもある。全粒穀物の例としては、玄米やオートミール、全粒粉の加工品などが挙げられる。精白する場合と比べてビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれているため、健康に良いとされる[45]。精白の際に取り除かれた糠やふすまは通常食用とせず、飼料など様々な形で直接の食用以外に使用されることが多い[46]。
穀物を製粉した場合は、たいていは次に何らかの形で粉をまとめ成形してから食べることになる。ほとんどは、まず水を加えて練り上げ、必要に応じ塩などを混ぜて生地を作る。この生地をそのまま、あるいは発酵させて火を通したものがパンである[47]。パンはコムギから作るものがもっとも一般的であるが、トウモロコシやライムギなどから作られるパンも根強い人気がある。また、この生地を細長く切って成形したものを麺と呼び、これも世界中で広く食される。麺もやはりコムギから作るものが最も一般的であるが、コムギの出来ない東南アジアにおいては麺はコメから作られるものが多い。また日本ではソバを麺にして食べるが、ソバ単体の場合麺状にした場合ちぎれやすくなるため、つなぎとしてコムギを使用することも多い。ただし麺は作るのに手間がかかるため、近代において製麺機が実用化されるまではどの文化圏においてもかなりのごちそうとされていた[48]。こうした伝統的な調理法のほか、19世紀後半に穀物をローラーで圧搾しフレーク状にする技術が開発されたため[49]、これ以後、穀物を加熱加工して長期保存に適するようにした、いわゆるシリアル食品が開発され、朝食を中心に広く利用されている。
また、多めの水で穀物を煮た粥も調理が簡単であり、古くから広く世界で利用されてきた穀物調理法である。粥はそのまま煮るだけなので粒食もできるが、アフリカのウガリのように一度粉にしたものを粥にして食することもある。この場合、水分が多ければ普通の粥となるが、水分が少なければ粥というより粘りの強いペースト状の固体となる[50]。
一部の穀物には、アミロースを含む粳(うるち)性のものと、アミロースを全く、あるいはほとんど含まない糯(もち)性のものの二つに分かれているものがある。本来、穀物は粳性であり、糯性のものはそこから変異して誕生したため、なかには糯性の品種が存在しない穀物も存在する。また、糯性はうるち性に比べて劣性遺伝であるうえ交雑しやすいため、自然状態では存続が難しく、糯性を好む人々が品種維持の努力を継続して初めて品種として継続するものである[51]。糯性品種が存在するものとしては、コメ(もち米)を筆頭に、トウモロコシ、オオムギ(もち麦)、アワ(もち粟)、キビ、モロコシ、アマランサスなどがある。糯性の穀物は調理すると粘性が高くなるため、これを利用して、蒸したもち米をついて作る餅のような様々な食品が生み出された。
また、トウモロコシやソルガムなど一部の穀物には、火を通すと大きくはじける爆裂種(ポップ種)が存在し、ポップコーンなどに加工される[52]。
中国の粥。
日本の米飯。
ビーフン。コメを粉にしてから麺にしたもの。中国南部、台湾、東南アジアなどで広く食べられている。
中国北部の麺類
日本のうどん
トウモロコシのトルティーヤ。メキシコでは主食。
トウモロコシから作ったウガリ
飼料
穀物は飼料としても古くから盛んに使用されてきた。穀物は飼料としては、牧草などの粗飼料と対比して濃厚飼料と呼ばれ、栄養価が高く近代的な畜産には不可欠なものである。飼料用としてもっとも重要な穀物はトウモロコシである。トウモロコシは中南米やアフリカにおいては主食としても使用されるものの、主な用途は消費の64%を占める飼料用である[53]。この他、かつてはウマの飼料としてエンバクが非常に重要な飼料用作物であったが、第一次世界大戦後に軍用や輸送用のウマの需要が激減し、これにともなって飼料作物としてのエンバクの需要も激減して、栽培も少なくなった。ただし、現代においてもウマの飼育においてはエンバクはもっとも重要な飼料の一つである[54]。この他、オオムギの飼料向け割合も高い[55]。また、モロコシもアフリカや南アジアを除いては飼料用の利用がほとんどを占める。
醸造
穀物はそのまま食料として用いるほか、様々な食品に加工されても使用される。主食用以外の穀物用途で最も重要なものは、穀物を発酵させて醸造し、酒を造ることである。穀物は果実と並び醸造酒の原料として広く用いられるものである。[56]たとえば、オオムギを原料としてビール、コメを原料として日本酒が造られている。様々な種類の酒が各民族によって作られてきた。穀物の中で醸造用としての用途が特に大きな割合を占める穀物としては、ビールの原料であるオオムギが挙げられる[57]。
穀物は酢酸の原料として用いることも可能であり、例えば米酢のように実際に穀物から作られている酢も存在する[58]。このように、穀物は調味料の原料として用いられることもある。
その他
コーン油[59]や米糠から取る米油[60]などのように、一部の穀物は食用油の生産にも使われている。
2000年代には、穀物を醸造して得られるエタノールをアルコール燃料(バイオマスエタノール)として、機械装置の動力に利用する研究と実用化も進んでいた[61]が、このバイオマスエタノール生産の急成長は穀物価格の急上昇を招き、2007年-2008年の世界食料価格危機の主因の一つとなる[62]など問題が発生したことから、2015年頃からバイオマスエタノール利用は大きく鈍化している[63]。なお穀物由来のバイオエタノールの主要生産国はアメリカで、主にトウモロコシから生産を行っている[64]。
種を収穫した後の残部も広く使用され、たとえば米の茎部分である藁は工芸材料として広く利用されるほか、籾殻も充填材として利用される[65]。コムギの藁は敷き藁などに利用され[66]、またトウモロコシの茎は燃料や製紙原料として利用される[67]。
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