紅い牙・VII 『ブルー・ソネット』
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「紅い牙」の記事における「紅い牙・VII 『ブルー・ソネット』」の解説
舞台は1981年、ランは20歳になっている。もうひとりの主人公ともいえるエスパーサイボーグ・ソネットが登場し、バード、ワタル、イワンといったこれまでのシリーズの登場人物たちも活躍する。5年余りに渡るシリーズ初の長期連載だが、登場人物の服装などから1981年春から初冬にかけてのわずか数か月間の物語であろう。 第1部(初出 花とゆめ 1981年11号-1982年9号) 白い肌、青味がかった長い銀髪の美少女、ソネット・バージ。スラム街で生まれ育った彼女は父親がなく、母親からもその容姿のため疎まれていた。母親から強要された売春のショックで、備わった超能力が目覚める。しかしその超能力がさらなる母親の嫌悪を招き、結果としてソネットは自分を捨て男に走ろうとした母親を逆に殺してしまう。そんな彼女を悪の組織であるタロンが目をつけ、誘惑する。何もかもが信じられなくなったソネットは、汚れた体を捨て、エスパー・サイボーグとして生まれ変わった。彼女の任務は古代超人類の血を引く唯一のエスパーである小松崎ランを捕らえること。そのため彼女は転校生として王翠学院にもぐりこむ。奈留の姉・榛原真知や杵島大介は転校生ソネットに疑いを持つが、サグの特命で学院に潜入した斐川和秀によって、真知は催眠をかけられ操られてしまう。 一方ランは桐生の説得により、タロンとの戦いに備え自分の中の「紅い牙」をコントロールするためESP能力の訓練に励む。小半教授のESP研究所を訪れ、催眠療法によりランの「紅い牙」が発動し暴走するが、小半の娘である由里のテレパシーの呼びかけで危ういところで暴走は止まる、しかしそれをタロンの手先に偶然発見されてしまい、小半の研究所にタロンのメンバーとソネットが急襲をかけてくる。小半は射殺されランと桐生はタロンに拉致される。タロンは桐生からハト計画の情報源を割り出そうとし、またランの卵子を取り出しエスパーのクローンを作ろうとしていたのだ。タロンは桐生のかつての恋人で杵島大介の母親でもある美子を誘拐し痛めつけることで、桐生の情報源が東都日報の榛原克規であることを聞き出す。一方、ランの卵細胞を移植される実験台になったタロンの女性メンバーたちは、ランから過去に彼女の血を輸血されたタロンのメンバーが発狂し死んだことを聞かされ恐怖におちいり、彼女を逃がし自分たちも逃亡する決意をする。 かつてタロンの海上移動基地で爆死したはずのバードが実は生きており、タロンに放火されたESP研究所から由里たちを救い出す。由里のテレパシーの呼びかけによりバードはワタルと再会し、三名はランと桐生を救出するため、タロン日本支部でもある富士裾野の安曇重工研究所に侵入する。サイボーグ体のバッテリーが残りわずかで限られた命であるバードは、自ら囮となる捨て身の戦法をとり、ランには自分が再び現れたことを黙っているようワタルに口止めする。脱出にはからくも成功するがランと桐生は瀕死の重傷を負う。そして彼らの脱出を阻止しようと現れたソネットとランの「紅い牙」が激突。タロンの研究所は跡形もなく崩壊し、地割れに押し潰されそうになったソネットをとっさに助けたバードは彼女とともに地割れに飲み込まれてしまう。ソネットはバードがなぜ敵である自分を助けたのか疑問を持つが、脱出のためにバードと地下洞窟をさまよう内、バードに惹かれていく自分に気がつく。 救出されたランと桐生は、「紅い牙」の力により奇跡的に一命を取りとめる。意識を回復したランは、由里からバードが生きていたことを聞き、束の間の幸福に包まれる。 第2部(初出 花とゆめ 1982年12号-1983年8号) バードは富士裾野の地下洞窟から脱出した後、ラン達の元には戻らず、ガソリンスタンドで働いていた。聖陵学園時代のバンド仲間・清水と高橋に再会し、オーディションに出場しプロデビューを目指さないかと誘いを受ける。 崩壊した安曇重工の研究所から、殺人兵器・タランチュラが抜け出す。タロンの秘密が漏れることを危惧するタロンは、タランチュラを追跡・破壊を試みる。東都日報デスク・榛原克規は、部下の血の犠牲の上にタランチュラのスクープ写真とタロンの存在を新聞の一面に掲載する。しかし、榛原が厳重に保管してきたタロンに関する情報は、斐川に操られた娘の真知によって盗み出されていた。記事はタロンの息のかかった政治家の圧力によりもみ消され、榛原は失脚する。 一方、連絡の取れないランや行方不明の美子を心配する奈留と大介ら新撰組のメンバーは、真知と共にソネットのマンションに忍び込むが、逆に斐川に殺されそうになる。謎の銀髪の外国人(イワン)により助けられ、真知も斐川の催眠から解放される。 イワンの強烈なESPを浴びせられ催眠能力を失った斐川は、自らの身の保全のためにタロンの秘密を握ると思われる奈留を誘拐する。斐川は真知に盗ませた資料から、奈留は元タロン幹部Kの娘であり、タロンの秘密情報を握っていると推し量ったのだ。斐川は奈留の口を割らせるために吸血ウナギで拷問すると共に、サグに強力なテレパス・ゲシュペンストを派遣させ奈留の意識下の秘密情報を引き出そうと躍起になる。一方、タロンに拷問され榛原の名前を出してしまった桐生は、ランに榛原の身辺保護を依頼する。訪れた榛原家で奈留誘拐を知ったランは斐川を追い、斐川と奈留抹殺命令を受けたソネットに出くわす。奈留に友情を感じるソネットは命令に背いて彼女を救うが、斐川を始末しランと突堤で対決する。ランは海中に落ち、タランチュラの体内に取り込まれてしまう。奈留は一命を取り留めたが、ゲシュペンストに憑依され、病院で付き添いをしていた由里を襲う。 最愛の人・真沙子を奪われたイワンは、タロンを憎み、世界各地のタロン要人を暗殺していた。ルーベ=マス会長ジョルジュ・マンディアルグの豪華クルージング船に忍び込み殺害、メレケスの命も狙うがソネットにより阻まれる。 第3部(「鮮血の檻」編を間に挟む)(初出 花とゆめ 1983年13号-1984年10号) ソネットからランを救ったタランチュラは、ランに子供のような情愛を見せるが、一人占めしたいあまりにランを無人島に閉じ込める。救出に来た桐生は、タランチュラは胎児の脳を使ったサイボーグで、兵器としての教育を受ける前に動き出したために、保護してくれる親を求めていたと推測する。 一方、奈留に憑依したゲシュペンストは、奈留の手を使って次々と殺人を犯していた。奈留を追いゲシュペンストの凶行を制止しようとした由里はテレパシー攻撃を受け、一時行方不明になる。肉体を持たず、悠久の中を生き続けているゲシュペンストは、自らの死を求めていた。奈留の体を殺して、斐川の父親に肉体を乗り換えようとしたゲシュペンストを、ランは自らに乗り移らせ、古代超人類の巨大な意識の集合体の中に吸収した。奈留は無事意識を取り戻す。だが実は、ゲシュペンストが「紅い牙」に取り込まれること自体が、サグの狙いだったのだ(鮮血の檻)。 バードはバンド・文無組の一員として、グリーン・アース運動主催のオーディションに出演する。サイボーグとなっていたバードは、超高速でベースの弦を弾く超絶技法を見せる。現在を生きていることを実感するバード。文無組は優勝し、バードは謎の外国人美女・ソニィとともに、バンド・NOVAのベーシストとしてプロデビューすることになる。素顔を見せず、メンバーに打ち解けようとしないボーカルのソニィに、バードはサングラスを取るように詰め寄る。なんと正体はソネットであり、バードに想いを告白する。衝撃を受けるバード。一方、ランはアーティストとして活躍するバードをメディアで目にし、彼が無事に生きていることを知る。ランはバードに会いたい気持ちが募るものの、自分と出会ったことで運命を狂わせてしまったとバードとの再会を躊躇するが、奈留に後押しされグリーン・アース事務所を訪れる。そこでソニィとすれ違ったランは、ソニィとソネットが同一人物であることに気づく。ランは、かつてタロンが彼女を手に入れるために、聖陵学園でバンドをしていたバードにハンナが近づいた時と、状況が酷似していることに不安を覚える。しかもグリーン・アース運動のスポンサーであるミューレックス社は、安曇グループの系列であった。ランは旧友清水と共にバードの自宅を訪れ書置きを残すが、後を追ってきたソネットは恋心から書置きを破いてしまう。その頃バードは、グリーンアース運動がタロンと無関係であることをサグに確認し(このバードとサグの関わりもストーリーの重要な伏線)、NOVAの活動を続けることを選ぶが、同時にランに関する決定的な秘密を知らされる。自分の命が続く間に「その時」が来たら、バードは愛するランを守るためにある決意をする。 奈留が行方不明の最中、榛原は真知をタロンの魔の手から守るため、隠れ里ともいえる寒村に匿っていた。その地で真知は、榛原家の養女は奈留ではなく自分であることを知ることになる。榛原夫妻が自分には距離を置いていると感じてきたことに合点がいく。真知の実の父親Kは、タロンを壊滅させるある秘密ファイルを、まだ幼かった真知の潜在記憶にプログラム・封印し、旧友の榛原に託していた。榛原は対タロンの切り札である真知を守るために実子として育て、実の娘である奈留を身代わりとしたのだ。専門家の元で真知の記憶の封印を解く作業が行われたが、真知はKの情報を語り終えた後、廃人になってしまう。榛原は情報を録音したテープとその解析を桐生に託し、一家は傷心のまま長崎へ旅立つ。 だが後日、真知の語った内容を解析するには、真知そのものがパスワードとして必要なことが判明するが、真知が廃人同様になってしまったために難航する(砂漠都市)。 砂漠都市(初出 花とゆめ 1984年15号-1986年18号) ラン、桐生、由里は、Kのデータにリストアップされていたタロン要人達に探りを入れようと試みるが、要人達はイワンと思しき人物に先回りされて次々と暗殺され、手がかりをつかめないでいた。ランと由里は、偶然クレーン事故からミューレックス・黒部の娘を救い出したことをきっかけに、タロン要人の会議が行われるという黒部の別荘でメイドとして働くことになる。陸の孤島ともいえる断崖絶壁に建つ別荘・安曇ヴィラでは、なぜか由里のESPが使えない。ラン達は、毎晩夢とも現実とも区別が付かない悪夢に悩まされ、徐々に神経が磨り減っていく。タロンの要人達を招待したパーティーではメイド達は客の命令には絶対服従で、淫らな要求に応じていた。度重なる疲労と目の前の乱交・凶行に、ランと由里は冷静さを失い、何者かによる幻影の中に陥れられていく。しかし、ラン達とは別に潜入していたイワンとともに幻影を打ち破り、相手を倒す。ラン達に幻覚を見せていたのは、タロンESP部隊のエリート・フェネロスのエデベック兄妹であった。彼らはお互いの生命エネルギーを与えたり受け取ったりするESPを持ち、安曇ヴィラの老若男女たちを演じ分けていた。彼らが倒されると、安曇ヴィラは廃墟に戻った。これを機に、イワンはランの仲間に加わる。 ミューレックスから、ヘッドホン音楽プレーヤー「レボ」が発売された。直前に飛行機事故死したアイドル・松賀聖子を効果的に広告に使い、一種の社会現象となっていた。レボ対応CDはNOVAの楽曲であった。実はレボは、聴覚を通して人間の快感中枢を刺激すると同時に強い中毒性を与えるもので、言わば電子工学が生んだ麻薬だった。さらに、刺激を強めた裏ディスク「赤盤(アカバン)」が、闇ルートで中高生に広まっていた。榛原の腹心の部下・坪井は東都日報で反レボキャンペーンを試みる。桐生はこう推測する。レボのマインドコントロールにより、若者たちは二極化する。正義の怒りを暴走させる善意の若者たち、反社会的で陰湿な悪の側の若者たち。二つのタイプの対立により、タロンの唱える世界大浄化が加速し、世界統一国家の実現につながるのではないか、と。 わずか数カ月間でスーパースターになったNOVA。屋外コンサートの最中、落雷がソニィことソネットを直撃、失神する。救急車に乗り込みソネットに付き添うバードは、メレケスに背後から襲われ、ソネットとともにレボ=ディスクの研究所に運び込まれる。これは戦士としての冷酷さが失われたソネットに「再教育」を施すための茶番だった。落雷で気絶させたのは、再教育を彼女に知らせたくない、メレケスのせめてもの親心だった。研究所で目を覚ましたバードは、レボ末期中毒者たちのケダモノと化した姿を目の当たりにする。バードは脱出を試みるが、「再教育」を受けたソネットに倒され、腕をもぎとられる。恋していたバードの腕を高々と持ち上げるソネットの姿に、メレケスは再教育の成功を確信する。だが、ソネットはメレケスに背いて、深夜の研究室からバードの腕を持ち出し彼の体に腕をつなげ、これを目撃した同僚エスパーの口を封じる。一方、ランはイワンとともに研究所に侵入し、タロンの海上移動基地以来数年ぶりに、バードとの再会を果たす。だが、ずっと会いたかったはずなのに、過ぎ去った年月が長すぎたのか二人はぎこちない。彼らはソネットとESPユニット・オクトパスと対決するが、バードには攻撃しきれないソネットの隙をつき危ういところを逃れる。メレケスはソネットの「再教育」が失敗に終わったことを知る。 一方、タランチュラがテレビ局によって発見され、浦賀港への水揚げがテレビ中継された。秘密を守るために手段を選ばないタロンから逃げるよう、ランはワタルとのテレパシー中継でタランチュラに必死に呼びかけるが、サグに奪われてしまう。サグは、ランに阿蘇での決戦を申し渡し、ランはそれを受けて立つ。 実はバードはサグに自動起爆装置を握られていたため、サグと取引し定期的にランの様子を報告していた。サグの真の目的は、古代超人類の怨念の解放にあった。ランに次々とエスパーをぶつけることで、「紅い牙」が力を増し逆にランを支配するのが狙いだった。自身も古代超人類の血を引くサグは、タロンを利用しているにすぎなかった。バードは「その時」が来た場合、ランが世界中に破壊と死をもたらす化け物と化す前に、ランの魂を守るために彼女の命を奪う覚悟でいた。決戦の前に、バードはその決意をイワンだけに明かす。 ラン、バード、ワタル、イワン、由里、桐生の6人は最終決戦の地・阿蘇でサグ一味を迎え撃つ。サグの許で容赦ない「再教育」を受けたソネットは、溶岩を身にまとった醜いゴーレムの姿に変えられ、ラン達を襲う。ソネットを冷徹な戦士に育て上げられなかったことを咎められ幹部の地位を剥奪されたメレケスも、ソネットの最後の姿を見届けるために駆けつけるが、サグはソネットのランへの憎悪を煽るため、ランの仕業に見せかけてメレケスを殺す。メレケスを父と慕うソネットは、サグの狙い通りにランを殺そうと暴走する。一方、ランのバリアに守られていたワタル、由里、桐生もサグによってあっけなく殺されてしまう。呆然とするランの目から血の涙が流れ出した。愛する人たちを失った怒り、悲しみと、以前取り込んでいたゲシュペンストが引き金となり、ついに古代超人類の全人類に対する憎悪が覚醒したのだ。これまで「紅い牙」を抑えこんでいたランの人間らしさ、優しさは完全に失われ、恐怖の力が暴走した。 一方バードはサグを倒すため、自らの原子爆弾付きバッテリーを取り出して爆破させるが、失敗に終わる。彼らを嘲笑うサグは、ソネットのESPは脳にある腫瘍が作用したために生じたもので、彼女の余命は数年であることを明らかにする。彼女のESPだけが目的だったタロンは、ソネットをサイボーグ体にし、脳の腫瘍は温存したのだ。長年の壮大な企みが結実し歓喜するサグだったが突如光線が襲い、頭を消し飛ばされ絶命する。バードがバッテリーを爆発させた際にサグの精神コントロールから逃れたタランチュラが放ったレーザーであった。タロンに、サグにただ利用されていた事実にソネットは感情を乱すが、バードの説得により「紅い牙」の暴走を止めるべく立ち向かっていく。一方、サグの遺志を受け継いだタロン最強のテレパス・パトナはレボに洗脳された学生たちを操り、太古の昔、古代超人類を迫害・根絶やしにした人間たちを髣髴とさせ、「紅い牙」の憎しみを一層煽るため阿蘇火口に集結させていた。 バード、ソネット、イワンは学生たちが巻き込まれる被害を抑えようとするも、「紅い牙」の暴走はついに阿蘇五岳の大爆発を引き起こす。また皮肉なことに、「紅い牙」のESPとソネットとイワンがそれを抑えるために放った重合ESPの激突がさらに大地震や雷嵐を呼んだ。その天変地異の猛威は榛原姉妹の住む長崎にまで影響を及ぼし、雲仙普賢岳までも噴火する。Kの情報を得る処置が姉・真知に悪影響を与えているとする奈留は、真知を連れて逃走。その先の崖が地崩れをおこし転落しかけた際、テレパシーによってランの身に起こったことを悟る。そして奈留はランが元の優しいランに戻る願いと引き換えに自らの身を投じた。奈留の献身的な祈りが通じ、ランは奇跡的に自分を取り戻す。 しかしその時、ランは見ていた。自らのバッテリーをバードの為に差し出し、死んでいこうとしたソネットを。バードは、そのソネットの手を取り、二人は火口に墜ちていった。 その後、正常な意識を取り戻した真知によってKの情報の解析が進み、レボシステムによるタロンの集団コントロールの理論とハト計画の全貌が明らかになった。この重大な暴露情報によって影響力を取り戻した榛原克規によって手配された東都日報の反レボキャンペーンにより、レボは残らず廃棄され、ハト計画は大きな後退を強いられることとなった。
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