集中豪雨 災害と対処

集中豪雨

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/28 03:39 UTC 版)

災害と対処

集中豪雨による土石流で被害を受けた集落(2009年7月、山口県防府市

災害の特徴

地形などによって傾向は異なるが、集中豪雨をはじめとした大雨では、河川氾濫による洪水、堤防に守られた陸地内での増水による浸水(内水氾濫)、山の斜面が層ごと一気に崩れ落ちる山崩れ、山の斜面が層ごとゆっくり崩れ落ちる地すべり、斜面や崖の一部が崩れ落ちるがけ崩れ、川の急な出水(土砂を伴う土石流と水分が多い鉄砲水がある)による害、浸水後低地などに水が溜まって長期間湛水・冠水することによる害、強い雨の落下や多量の雨水が土壌を流失させる害、集中豪雨をもたらす積乱雲による竜巻などの突風落雷、その他の被害が起きる。日本では治水施設や防災体制の整備が進んだことから、大雨による災害は戦後大きく減少した一方、中小河川の氾濫や土砂災害の割合が増し、施設被害や地下の浸水が顕著な都市型水害が増加している[62]

防災上の注意点として、1時間以内で終わるような局地的大雨でも、雨量が一時的に河川や排水路の能力を超える一過性の洪水となって、被害が生じる場合は少なくない事が挙げられる。特に、大雨や洪水の注意報や警報が発表されない段階で急な増水となって、状況変化に対応できずに被害が生じる場合がある。例えば2008年8月初めに起きた東京都豊島区雑司ヶ谷の下水管増水による事故では、大雨注意報の基準に達しない段階で事故が起きている[5]

大雨は水害土砂災害などをもたらすが、「局地的大雨」や集中豪雨では、その変化が突発的なことが大きな特徴である。例えば2008年7月末に起きた神戸市都賀川の増水による事故(都賀川水難事故)では、急峻な地形の影響から10分間で1 m 30 cmという急激な速度で水位が上昇し事故に至っている。こうした急な大雨に対しては、早期の正確な予測が求められる一方、技術的に困難であるという課題がある[5][63]

対処

ここでは日本における防災気象情報や避難情報の活用例を挙げて説明する。

不安定な天気の下で起こる突発的な大雨の影響を受ける行動(例えば、川にレジャーに出かけるなど)は、猶予時間に応じて適切な種類の気象情報を利用できる[5]

  • 行動の前日や当日朝(数時間前) - 行動予定の地域における「天気予報」の内容や「大雨警報注意報」の発表状況に注意する。行動する地域だけではなく隣接する地域の予報も入手できれば更によい。雨や雷の予報が出ていたり、予報に「大気の状態が不安定」「天候が急変するおそれがある」などの文言がある場合は、集中豪雨を含めた雷雨になる可能性があることを把握しておく。数時間前の段階では予報の精度が上がるので、雷や不安定な天気が予想される時間帯、雨の可能性が高い時間帯には計画を変更する検討も必要[5]
  • 行動の直前 - 行動予定の市町村や隣接市町村における「警報・注意報」の発表状況、気象レーダーの観測値や「降水短時間予報」「キキクル(危険度分布)」などの予測値に注意する。大雨注意報・警報や雷注意報が発表されている場合、行動予定地域周辺に強い雨雲(例えば、土砂降りに相当する20 mm/時間など)が観測・予測されている場合は、計画を変更したり、天気の変化に注意しながら行動することが必要[5][64]
  • 行動中 - 行動予定の市町村や隣接市町村における気象レーダーの観測値や「降水ナウキャスト」「キキクル(危険度分布)」などの予測値に注意する。行動予定地域周辺にもうすぐ(概ね1時間以内程度)雨が移動してくると予測されている場合は、行動を中断するか、天気の急変にすぐに対応できるよう行動を変えることが必要。行動中も自ら空の様子を確認することが推奨され、積乱雲接近の兆候がある場合は、前述同様の対応を取ることが必要[5][64]

日常行動において大雨の可能性がある場合、以下のような情報を利用できる。

  • 「早期注意情報」(警報級の可能性) - 概ね前日から5日前に発表。気象台が「〇日までの期間内に大雨警報を発表する可能性がある(または 可能性が高い)。」 = 可能性[中]または[高] と周知する[65]
  • 「大雨注意報警報特別警報」、「キキクル(危険度分布)」 - 警報・注意報は市町村単位。キキクルは1km四方のメッシュ毎に低地浸水・土砂災害・河川洪水の各危険度を表示。「注意」(黄)は今後の危険度変化に気を付け避難経路等を確認する目安。「警戒」(赤)は今後警報基準値に達する予想で、安全確保や避難の準備を始め特に高齢者等は避難を始める目安。「危険」(紫)は警報基準を大きく超える予想で、避難を始めたり家屋内で安全確保のため上階へ退避したりする目安。「災害切迫」(黒)は特別警報相当に達したすでに災害が発生した可能性が高いもので、身の安全確保のため最大限の行動をとる目安[64]
  • 気象情報」 - 概ね24時間から2-3日先に大雨の可能性がある場合に知らせる。また大雨発生時には、これまでの雨量と今後の雨の見通しを知らせる。2022年からは線状降水帯発生の恐れがある場合の半日前の周知が開始されている[66]
  • 降水短時間予報」、「降水ナウキャスト」 - 過去の解析雨量と予測雨量を示す[67]

積乱雲が接近してきたとき、特に注意すべき場所がある。

  • 渓流の中や中州河川敷などの川のそば - 急な増水の恐れがあるため、川のそばや隣接する低地から離れる必要がある。水の色が濁る、木の枝が流れてくるといった増水の兆候や、ダムの放流に伴うサイレンの音などに注意することも必要[68]
  • 地下室アンダーパス(地下式の交差道路)などの周囲よりも低いところ - 浸水した道路では、濁った水により足元が見えないため側溝や蓋の開いたマンホールなどに注意が必要なほか、車の浸水時に水圧によりドアが開かなくなることがあるので注意を要する。地下室では、豪雨や浸水に気づくのが遅れること、停電が起きパニックに陥る可能性があることなどに注意が必要[69]

気象庁をはじめ天気予報では雨量について、1時間当たり30 mm 以上 50 mm 未満を「激しい雨」、50 mm 以上 80 mm 未満を「非常に激しい雨」、80 mm 以上を「猛烈な雨」と表現する[70]。ほかには、特別警報級の大雨について「数十年に一度の大雨」[71][注 11]、「○○豪雨に匹敵する大雨」、さらには「これまでに経験したことがないような大雨」[70][73]などと、異常事態であることを表現して最大級の警戒を呼びかける。

なお上記に加えて、著しい大雨の時には臨時の「気象情報」として以下のような情報が発表される。

  • 記録的短時間大雨情報」 - 数年に一度という、災害につながるような記録的な雨量を観測した場合に発表される[74]
  • 土砂災害警戒情報」 - 雨により土砂災害の危険が高まった時に発表される。市町村が避難勧告などを発令する目安となる[75]
  • 見出しのみの短文で伝える「気象情報」 - 「気象情報」の形式を変更したもので、大雨や洪水の重大な災害が差し迫っている場合に発表される。2012年6月開始[76]
  • 顕著な大雨に関する情報」 - 線状降水帯が確認され、激しい雨が降り続いていることを知らせる。2021年6月開始[77]

河川の氾濫による洪水に関しては、河川ごとに流量や水位を交えて危険レベルを示した「○○川はん濫発生情報」などの洪水予報(指定河川洪水予報)が一般にも発表される。これは一般市民向けと水防活動用を兼ねているもので、はん濫注意情報、はん濫警戒情報、はん濫危険情報、はん濫発生情報の4種類がある[78]。このほか、水防活動専用の情報として水防警報がある。

土砂災害に関しては予めいくつかの種類の危険区域が指定され、規制が行われている。法的に厳しく規定されている土砂災害警戒区域土砂災害防止法)、砂防指定地(砂防法)、地すべり防止区域(地すべり等防止法)、急傾斜地崩壊防止区域(がけ崩れ防止法)のほか、それを補完する土砂災害危険箇所(土石流危険渓流、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊危険箇所)がある。

災害の際には土砂災害に関する危険区域の指定漏れや周知不足が問題になることがある。他方では予報や警報・注意報の周知不足も問題となることが多い。加えて、雨粒の反射等により視程が損なわれるほか、ゴーゴーと滝のように響くことから周囲の音も聞き取りづらくなる。そのため集中豪雨の最中には、気象警報の視聴などの情報収集や適切な状況把握が妨げられることがある。

また、集中豪雨に限らず大雨災害全般に当てはまるが、避難のタイミングや方法、場所の判断が不適切であったことにより被災する例が多数ある。河川の堤防付近の家屋の住民が避難の機を逸して氾濫に巻き込まれたり、冠水した避難路を車で避難して被災したり、河川などがある避難路を経由して避難し被災したり、結果的に自宅の2階に逃げれば助かったものが避難所に避難したことで被災するといった事例がある。こうしたことから、普段から避難経路や避難先を把握しておくとともに、その時の状況やこれからの災害の進展の見通しに合わせて適切な避難行動を選ぶ必要がある[79]


注釈

  1. ^ 平成20年8月末豪雨2008年夏の局地的荒天続発を参照。
  2. ^ 例えば、Battan and Theiss(1966)はアメリカ西部で発生した積乱雲の鉛直ドップラー・レーダー解析から、最盛期には対流圏上層で20メートル毎秒(m/s)という地上の強風に匹敵する上昇流を観測したと報告している。
  3. ^ 冬の日本海側でこのような雨が断続的に続くものはしぐれと呼び分ける場合もある。
  4. ^ 地表の摩擦の影響を受ける地上付近の風に対して、摩擦の影響が少なく大局的な気圧配置の影響に支配される上空の風を一般風という。
  5. ^ 鉛直方向のシアーが強いということは地上付近と上空の風向が異なる事を意味する。積乱雲が発生するためには地上付近に暖かく湿った空気の流れがあって、かつ大気が不安定であることが必要である。大気が不安定になるためには、気温や湿度(水蒸気量)の差が大きくならなければならない。地上から上空まで同じ風向では、地上も上空も暖かく湿った空気が占めてしまい、不安定度はあまり大きくない。一方風向が異なると、例えば地上は暖かく湿った空気、上空は冷たく乾燥した空気という構造で不安定度が大きくなり、積乱雲が発達する。
  6. ^ 積乱雲の成熟期や衰退期には、氷晶・雨粒が空気を押し下げるとともに空気から昇華熱・気化熱を奪い、冷たい下降気流を生み出す。これを冷気外出流(cold outflow)といい、この強いものをダウンバースト、持続性のものをガストフロントという。冷気外出流は寒冷前線と同様に地面を這うように周囲に広がるため、そこにある暖気を押し上げて強制的に上昇気流を作り、雲を生む。
  7. ^ 「積乱雲が発生しやすい」とは、自由対流高度(LFC、積乱雲が外部からの上昇気流ではなく自身の浮力で発達し始める高度)が低く、通常より弱い上昇気流で積乱雲が発生することを意味する。また「積乱雲が発達しやすい」とは、中立高度(LNB、積乱雲が浮力を失い発達が弱まる高度)が高く、通常より大きなエネルギーで積乱雲が発達する事を意味する。
  8. ^ 暖湿流の流入と同様に、中立高度(LNB)が高くなって積乱雲が発達しやすくなる。また、潜在不安定が発達する場合があり、その時には通常より弱い上昇気流で積乱雲が発生するため、積乱雲が発生しやすくなる。
  9. ^ メソスケールの場合もある。
  10. ^ アメリカでは、下層への暖湿移流と中層への寒気移流が重なるものをdifferential advectionといい、雷雨の典型的なパターンとされている。
  11. ^ 特別警報の基準値には、数十年に一度の大雨に相当する値として過去の災害を参考に設定した土壌雨量指数・表面雨量指数・流域雨量指数を用いる。なお、2022年6月までは50年に1度の値を予め算出して用いていた[72]ため「50年に1度の大雨」という表現がしばしば用いられた。

出典

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