【ドップラーレーダー】(どっぷらーれーだー)
レーダーの一種で、ドップラー効果により対象物との相対速度を測定することができるもの。
主な用途は気象レーダーである。大気中の水分(=雲)の動きを察知し、気象の変化を捉えるものである。
長距離を航行する飛行機や、飛行場などに装備される。
攻撃機などに搭載されるものは、地表で反射したレーダー波がドップラー効果により周波数が変化するのを利用し、対地速度を正確に測ることができる。
そのことから自律航法装置に応用され、機体の現在位置を知ることに役立つ。
ドップラーレーダー
ドップラー効果を利用して、移動体の速度や観測者との距離を測定する装置のこと。電磁波などを移動体に向けて発信し、発信した周波数と、移動体で反射して返ってくる波の周波数との差を測定して、移動体の速度、距離を求めるものである。レーザー光は高精度で分解能の高い測定を可能にしている。
参照 ドップラー効果ドップラー・レーダー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/12 01:58 UTC 版)


ドップラー・レーダー(英語: Doppler radar)とは、ドップラー効果による周波数の変移を観測することで、観測対象の相対的な移動速度と変位を観測する事のできるレーダーである。
概要
観測対象がレーダーから遠ざかっている場合にはドップラー効果により反射波の波長が長くなる。逆に近づいている場合には反射波の波長が短くなる。この波長の変化を測定することで、観測対象がレーダーサイトに対してどの程度の速度で遠ざかっているのか、もしくは近づいているのかを知ることができる。検出できるのはあくまでも相対的な速度と変位量であり、絶対的な距離の測定には適さない。
ただ、1台のドップラー・レーダーでは一次元的な動きしか捉える事ができないため、実際は複数台のドップラー・レーダーを用いて同時に観測(デュアル・ドップラー・レーダー観測)を行う事が多い。2台以上のドップラー・レーダーの観測結果を解析する事で二次元的な動きを捉える事ができる[1])。
なお、レーダーサイトに対して等距離を保つように観測点を中心とする円周上を移動している場合はドップラー効果による周波数の変移が起こらないため、静止している場合と区別する事ができない。対策として光学センサーなどを併用する製品もある。
近年ではモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)により大幅な小型化に成功し、野球やゴルフの弾道解析(トラックマン、スタットキャスト)、自動車の衝突防止装置[2] [3] [4]や高齢者のベッドや浴室での拍動や呼吸による微少変位を検出する見守りセンサー[5] [6]など、民生分野での応用が行われている。
気象観測用レーダー
ドップラー・レーダーは、雲内部の降水粒子の移動速度を観測することで、雲内部の風の挙動を知ることができるため、気象観測に多く用いられる。特に空港においては、離着陸する航空機に対するダウンバースト(下降噴流)などの発生を把握するため、順次更新設置されている。アメリカ合衆国では竜巻対策として、気象機関・企業のみならず、かなりのテレビ局が自前のドップラー・レーダーを所有するなど、監視・警告システムが発達しており、日本でも近年の竜巻の多発を受けて、気象庁が2008年(平成20年)3月より全国11ヶ所に設置したドップラー・レーダーによる「竜巻注意情報[7]」の提供を開始した。
ドップラー・レーダーによって得られる情報は風速の1次元量のみであるが、レーダーサイトを中心とした動径方向の風速の空間分布から観測領域内の2次元風速を求める代表的な手法としてVAD(Velocity Azimuth Display[8] [9])やVVP(Velocity Volume Processingがある。
航空機用レーダー
航空機搭載用のドップラー・レーダーは、上述の気象レーダーとしての他、対地速度を測定して航法に応用するためのものも多い。航空機において自機の速度を計測するにはピトー管が主に用いられるが、これは、対気速度(大気との相対速度)を計測するものである。目的地までの飛行ルートや時間の目安となるのは対地速度であり、これを測定する機器が必要となった。
また、航空機の場合は、観測対象の位置のみを計測するレーダーでは、その航空機より下方に位置する飛行物体については、地面との区別がつかず感知が不可能となる。加えて、地面からの膨大な反射波がレーダーの許容限度を超えるため、下方にレーダー波を照射する事自体が不可能になる。そこで、地面と航空機を区別し、地面からの反射波をレーダーの観測対象から除外し、自機よりも下方を探知する(ルックダウン能力)ため、パルス・ドップラーレーダーが搭載されるようになった。パルス・ドップラーレーダーは、特に戦闘機においては必須の装備となっている。現代の航空戦術においては、発見率を下げるために可能な限り低空で侵攻するのが常套手段とされており、低空で侵入した敵の機体を探知するためには、パルス・ドップラーレーダーが必要となっている。
哨戒機は海上の艦船を監視するため、大型のドップラーレーダーを装備することもある。
近接信管
攻撃対象に接近すると起爆する近接信管に使用される。
パルス・ドップラー・レーダー
パルスレーダーのうち、ドップラー処理を行うものをパルスドップラーレーダーと称する[10]。
これは処理装置と変調器のあいだにCW発生器を挟んで、各送信パルスをコヒーレントとしている。各送信パルスが同じ信号の継続であるために、位相に一貫性があり、受信機はエコーパルスをコヒーレントに検波できる。コヒーレント検波は感度において著しい利点を有するほか、ドップラ偏移の測定によって目標の相対速度も測定できる[11]。これらの特性により、クラッタから移動目標を抽出する能力に優れている。しかし一方で、パルス繰り返し周波数(PRF)に相当する距離以上の目標距離は不確かであるため、連続波レーダーと同様に周波数変調を用いて測距を行うものや、複数の異なるPRFを用いて不確かさを排除する方式が用いられる[10]。 さらに、SAMV (アルゴリズム)[12]のような最近の圧縮センシング技術は、ドップラーレーダーの通常の分解能限界を超える超解像度を得るのに有効である。
ドップラー・ライダー
マイクロ波の代わりにレーザーによるドップラーLIDARを用いる方法もある。これにより分解能が向上する。装置全体を小型化する事も可能で、軽飛行機に搭載可能な機種も開発されつつある。
超音波ドップラーレーダー
マイクロ波の代わりに超音波によるドップラー効果を用いる方法もある。医療機器や探傷等に使用される[13][14]。
マイクロ波ドップラーレーダー
マイクロ波によるドップラー効果を用いる方法もある。かつては大型で専門のオペレータが必要なであるなど利用に制限が多かったが、モノリシックマイクロ波集積回路の登場により急速に小型化した。
脚注
- ^ 杉本聡一郎・内田幸志・村里浩司. “2台のドップラーレーダーを用いた東北地方における雷雨観測と風速場の空間特性” (PDF). 土木学会 水工学論文集 第47巻(2003年2月). J-STAGE. 2025年6月12日閲覧。
- ^ クルマの衝突予防 ミリ波レーダー進化で普及加速へ
- ^ キーコム
- ^ 「ぶつからない自動車」を支える車載ミリ波レーダー、満を持して量産化へ
- ^ 3m離れていても心拍数を測定できるマイクロ波センサー
- ^ OKI、就寝時などの微細な呼吸レベルの動きも検知する「見守りシステム」を発売
- ^ “竜巻注意情報・竜巻発生確度ナウキャスト”. 気象庁. 2025年6月12日閲覧。
- ^ 坪木和久・若浜五郎 (1989年3月10日). “1台のドップラーレーダーを用いた風速場の測定法 : 最小二乗法を用いたVAD解析” (PDF). 北海道大学学術成果コレクション. 2025年6月12日閲覧。
- ^ 梶原佑介・大野洋 (2015年3月30日). “気象ドップラーレーダーから算出される VAD 風の品質管理手法の開発及びデータ特性の調査” (PDF). 気象庁. 2025年6月12日閲覧。
- ^ a b 吉田 1996, pp. 84–86.
- ^ Adamy 2014, pp. 38–39.
- ^ Abeida, Habti; Zhang, Qilin; Li, Jian; Merabtine, Nadjim (2013). “Iterative Sparse Asymptotic Minimum Variance Based Approaches for Array Processing” (PDF). IEEE Transactions on Signal Processing (IEEE) 61 (4): 933–944. doi:10.1109/tsp.2012.2231676. ISSN 1053-587X .
- ^ Robust Estimation of Fetal Heart Rate Variability Using Doppler Ultrasound Field - B
- ^ Detection of Breast Microcalcifications Under Ultrasound Using Power Doppler
参考文献
- 吉田, 孝『改訂 レーダ技術』電子情報通信学会、1996年。 ISBN 978-4885521393。
- アダミー, デビッド『電子戦の技術 拡充編』東京電機大学出版局、2014年。 ISBN 978-4501330309。
関連項目
- レーダー
- ドップラー・ライダー
- 航空レーザー測量
- 気象レーダー
- スピード測定器
- PITCHf/x
- 自動速度違反取締装置
- VT信管
- ドップラー効果
- 電磁波人命探査装置
- 定在波レーダー
- 周波数変調連続波レーダー - FMCWレーダー
- 陸上特殊無線技士 - 日本で電波レーダーを使用する際に必要な国家資格
- SAMV (アルゴリズム)
- 藤田哲也 (気象学者) - 空港へのドップラー・レーダーの設置に貢献
外部リンク
ドップラーレーダー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/11 03:33 UTC 版)
詳細は「ドップラーレーダー」を参照 電磁波を放射し、大気中の雨や雪によって反射して返ってくる電磁波を分析する点はマイクロ波レーダーと同じである。雨や雪の位置と密度も観測することができるが、最大の特徴はドップラー効果に伴う周波数の偏移を観測できる点である。小さな雨粒や雲粒は、風に乗って動くため風と同じ動きをする。この雨粒や雲粒に当たって反射してくる電磁波の周波数の偏移を観測することで、その場所の風速や風向を推定することができる。 通常は、風速や風向を立体的に捉えるために、2つ以上の複数のレーダーから得られた情報を解析して推定する。 風速や風向を捉えることで、気象レーダーでは分かりにくかった細かいスケールでの気流の流れや雲の動きを把握できる。そのおかげで、乱気流につながるウインドシアやダウンバーストの観測、竜巻などにつながる上空の気流の乱れを観測することができる。 荒天時に雨雲と風の移動を観測するのに適したドップラーレーダーだが、晴天時は電波を反射する雨粒が無いため風の観測ができない。これを補うために、音波を用いたドップラーソーダーや光(レーザー)を用いたドップラーライダーが併用されることがある。
※この「ドップラーレーダー」の解説は、「気象レーダー」の解説の一部です。
「ドップラーレーダー」を含む「気象レーダー」の記事については、「気象レーダー」の概要を参照ください。
「ドップラーレーダー」の例文・使い方・用例・文例
- 突風や集中豪雨の予測精度を向上させるため,気象庁は2007年度にドップラーレーダーを全国に設置する計画だ。
- ドップラーレーダーは風雨の向きや速度を観測することができる。
- 昨年11月に北海道・佐(さ)呂(ろ)間(ま)町を激しい竜巻が襲った後,同庁はドップラーレーダーをさらに7基設置することを決めた。
- 昨年,同庁は東京拠点のドップラーレーダーの有効性を検証し,その降雨予測的中率は従来のレーダーのものよりも5~10%精度が高いことがわかった。
- また,ドップラーレーダーは積乱雲の中の渦を観測することによって竜巻を予測するのにも有効である。
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