可降水量
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/09 16:46 UTC 版)
可降水量(かこうすいりょう、英: precipitable water[1], total precipitable water[1], precipitable water vapor(PWV)[2])とは、大気中の水蒸気量の指標のひとつで、鉛直気柱に含まれる水蒸気を液体の水の深さに換算したもの[1][3][4][5][6]。降水量と同じようにミリメートル(mm)で表す[4][6]。
地表面から大気の上端までの大気に含まれる、単位面積あたりの水蒸気量である[5]。地球上の水蒸気量の平均は底面積1平方センチメートルの気柱に約3グラム(g)で、可降水量にして30 mmに相当する[5]。
詳説
可降水量は、気柱に含まれる水蒸気を、(実際の環境条件を無視して)すべて凝結させ雨として落下させたと仮定した降水量と考えることができる。しかし実際には、水蒸気すべては凝結し得ないことに注意が必要[4][5][6]。実際の環境条件で雨として落下しうる水蒸気量は、特に有効可降水量と定義して区別される[6]。また、雲として存在する水(雲水量)も含まない。
大気中の水蒸気量を把握しデータを数値予報に取り込むことで、集中豪雨や線状降水帯、夏の雷雨などの急な強い雨の予測精度が向上することが、研究者間で期待されている[4][7]。また、熱収支を通して気候に影響を与える変数の1つで、気候モデルのデータにも利用されることがある[8]。
鉛直積算水蒸気量 (total column water vapour, integrated water vapour) の用語がほぼ同義に用いられる[2][8][9]。
ラジオゾンデの直接観測データから算出することができるが、空間的にも時間的にもサンプル数が少ない欠点があった。人工衛星(気象衛星・地球観測衛星)のセンサーによっても面的な観測ができるが、天候によっては観測できないなどの課題ももつ[4][10][11]。
GPSなどの衛星測位システム(GNSS)を利用した観測は、天候に左右されにくい。原理としては、地上観測局がGNSS衛星から受信する電波の遅延時間、いわばノイズ成分から求めるもの。大気の性質による遅延(大気遅延量)から、気圧と気温の違いに起因する「静水圧遅延」を除外し、水蒸気量の違いに起因する「湿潤遅延」から可降水量を導き出す。課題だった水蒸気以外の誤差成分も、研究開発により迅速に測定・除外することが可能になった[4][9][12]。
GNSS観測を基に作成したPWVデータは数値予報プロダクトとして提供されている[4][9][13]。日本では国土地理院の電子基準点網GNSS連続観測システムが利用されている。地殻変動監視を主目的に作られた同システムが天気予報にも資する形となっている[4][11]。
出典
- ^ a b c “pw - National Weather Service Glossary” (英語). National Weather Service. 2025年10月9日閲覧。
- ^ a b 小司, 岩淵 & 畑中ほか 2009, p. 18.
- ^ 小倉 2005, p. 693.
- ^ a b c d e f g h 喜多充成 (2018年5月17日). “電子基準点で天気を予測する「GPS気象学」の可能性”. みちびきウェブサイト. 関連ニュース. 内閣府宇宙開発戦略推進事務局. 2025年10月9日閲覧。
- ^ a b c d 「可降水量」、『日本大百科全書』.
- ^ a b c d 「可降水量」、『百科事典マイペディア』.
- ^ 小司, 岩淵 & 畑中ほか 2009, pp. 25–26, 32–33.
- ^ a b “Global monthly and daily high-spatial resolution of total column water vapour from 2002 to 2017 derived from satellite observations” (英語). National Weather Service. 2025年10月9日閲覧。
- ^ a b c 気象庁 2025, pp. 18, 72–74.
- ^ 小司, 岩淵 & 畑中ほか 2009, p. 20.
- ^ a b 辻宏道「GPS気象学 - 日本における地上型GPS気象学の展開」『Webテキスト測地学 新装訂版』日本測地学会、2015年11月。2025年10月9日閲覧。
- ^ 小司, 岩淵 & 畑中ほか 2009, pp. 20, 22, 25, 30, 32–34.
- ^ 小司, 岩淵 & 畑中ほか 2009, pp. 25, 30, 32–33.
参考文献
- 小倉義光「お天気の見方・楽しみ方(1)序章(天気の教室)」『天気』第52巻第9号、日本気象学会、2005年9月、691-696頁、CRID 1520853832499439104。
- 小司禎教、岩淵哲也、畑中雄樹、瀬古弘、市川隆一、大谷竜、萬納寺信崇「GPS気象学:GPS水蒸気情報システムの構築と気象学・測地学・水文学への応用に関する研究」『測地学会誌』第55巻第1号、日本測地学会、2009年、17-38頁、 CRID 1390001204068340608、doi:10.11366/sokuchi.55.17。
- 『令和6年度数値予報解説資料集』気象庁〈数値予報解説資料〉、2025年3月。 ISSN 2758-1330。
- 篠原武次「可降水量」『日本大百科全書』小学館。コトバンクより2025年10月9日閲覧。
- 「可降水量」『百科事典マイペディア』平凡社。コトバンクより2025年10月9日閲覧。
関連項目
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