月 (暦) 世界の暦における様々な月の名称

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月 (暦)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/27 00:12 UTC 版)

世界の暦における様々な月の名称

季節や生活のサイクルに基づく名称

農耕や狩猟などに大きく依存する原始的社会では、必ずしも月の満ち欠けに倣わない暦も作られた。例えばフィリピンルソン島のボントク・イゴロット族の暦では、農作業に応じた不定期の8つの月が定められていた[18]

ボントク・イゴロット族の月 意味 期間
イナナ 稲作の作業が無い期間 3か月
ラトゥプ 初期の収穫期間 4週間
チョオク 本格的にを収穫する期間 4週間
リバス パレイの収穫を終える期間 10-15日
バリリング キャモーツを植え付け期間 6週間
サガンマ 稲作の苗床を作る期間 2か月
パチョング 種まきの期間 5-6週間
サマ 苗の植え付け期間 7週間

北海道アイヌが用いた暦が、1892年刊行の『あいぬ風俗略志』(村尾元長 著)に記録された。旧暦の3月から始まる一年に不定期の閏月を設けていた点から、素朴な太陰太陽暦と考えられる[19]。自然現象や生活行動に基づく各月の名や、日照時間が長くなり始める月から一年が始まる特徴は、アメリカイロコイ族が用いた暦にも共通する[20]

旧暦の月 北海道アイヌ暦 意味
3月 イノミ チュブ
トエンタンネ チュプ
祝いの日[19]
日照時間が長くなり始める月[19]
4月 ハプラプ チュプ が来て鳴く月[19]、あるいは木の葉の開く月[21]
5月 モ キウタ チュプ ヒメイズイ(ユリ科の植物[22])を採り始める月[19]、あるいはオオウバユリを採り始める月[21]
6月 シ キウタ チュプ ヒメイズイが盛んに採れる月[19]、あるいはオオウバユリを盛んに採る月[21]
7月 モ マウ タ チュプ ハマナスを採り始める月[19]
8月 シ マウ タ チュプ ハマナスが盛んに採れる月[19]
9月 モ ニヨラプ チュプ 落葉が始まる月[19]
10月 シ ニヨラプ チュプ 落葉が盛んな月 または サケが来る月[19]
11月 ウンボク チュプ 足の裏が冷たくなる月[19]
12月 シュナン チュプ たいまつ漁撈をする月[19]
1月 ク エ カイ が折れるほどに狩猟を行う月[19]、あるいは弓が折れるほど寒い月[21]
2月 チウ ルプ チュプ 凍結する月[19]
閏月 ホルカバ 後戻りする月[19]

より寒冷な樺太に住む樺太アイヌの暦は、北海道アイヌとは微妙に異なる。

旧暦の月 樺太アイヌ暦
3月 日脚の長くなる月[21]
4月 小鳥の来る月[21]
5月 オオウバユリを掘る月(気候の関係で、実際には掘れない)[21]
6月 キュウリウオが登る月[21]
7月 鱒が登る月[21]
8月 鱒の焼き乾しを作る月[21]
9月 木の葉が落ちる月[21]
10月 罠をかける月[21]
11月 罠を集める月[21]
12月 雪が降る月[21]
1月 寒い月[21]
2月 融ける月[21]

また、鳥居龍蔵が採録した千島アイヌの暦は、野鳥海産物の名に由来している

旧暦の月 千島アイヌ暦 意味
1月 アシヌエ キ チュプ 初めて来た月[21]
2月 トタネニタ 日の長き月[21]
3月 ハクラプ 意味不明[21]
4月 バイケンチリ チュプ バイケン鳥が来る月[21]
5月 コピウノカ チュプ が卵を産む月[21]
6月 ハルノカ チュプ ハル鳥が卵を産む月[21]
7月 シキイビカル チュプ 鮭が川に登る月[21]
8月 シイヌム チュプ 鱒が川に登る月[21]
9月 チラルカル チュプ チラルカ鳥が多く居る月[21]
10月 モルサスムカ 意味不明[21]
11月 トーアシ 意味不明[21]
12月 クエカイ 狐を掛ける月[21]


イロコイ族の暦
太陽が再び大きくなる月
落葉が水に落ちる月
落葉が水に沈む月
草木が芽吹く月
果実が実付き始める月
草木が伸びる月
草木が豊穣を迎える月
収穫を始める月
収穫が終わる月
寒さが再び訪れる月
とても寒い月
太陽が再び訪れる月

日本の和風月名

現代の日本では、グレゴリオ暦の各月に旧暦太陰太陽暦)で使われた呼称を引き継いだ和名(和風月名)を充てることがある(ただし、例えば「睦月」は旧暦1月の呼称なので、本来は誤用)。和風月名の語源には諸説ある[23]。一方で、「一月」「二月」という表記も古代から使用され、最古の例は奈良時代720年に編纂された『日本書紀』(神武紀)に見られる漢字「二月」に片仮名の訓で「キサラギ」など、数字表記と和風月名が併記された部分がある。なお11月は「十有一月(シモツキ)」、12月は「十有二月(シハス)」である[23]

また、各月には様々な異称がある。8月を例に取ると、「葉月」の他に「建酉月(けんゆうげつ)」「壮月(そうげつ)」「桂月(けいげつ)」「秋風月(あきかげづき)」「ささはなさ月」「仲秋(ちゅうしゅう)」「竹の春(たけのはる)」などがある[23]

和名 主な異称
1月 睦月(むつき) 建寅月(けんいんげつ)、初春(しょしゅん)、新春(しんしゅん)、月正(げっせい)、他
2月 如月(きさらぎ) 建卯月(けんぼうげつ)、仲春(ちゅうしゅん)殷春(いんしゅん)、星鳥(せいちょう)、他
3月 弥生(やよい) 建辰月(けんしんげつ)、晩春(ばんしゅん)、殿春(でんしゅん)、竹秋(ちくしょう)、他
4月 卯月(うづき) 建巳月(けんしげつ)、初夏(しょか)、首夏(しゅか)、乾梅(けんばい)、他
5月 皐月(さつき) 建午月(けんごげつ)、仲夏(ちゅうか)、盛夏(せいか)、茂林(もりん)、他
6月 水無月(みなづき) 建未月(けんびげつ)、長夏(ちょうか)、晩夏(ばんか)、鶉火(じゅんか)、他
7月 文月(ふみづき、ふづき) 建申月(けんしんげつ)、初秋(しょしゅう)、新秋(しんしゅう)、瓜時(かじ)、他
8月 葉月(はづき) 建酉月(けんゆうげつ)、仲秋(ちゅうしゅう)、深秋(しんしゅう)、竹春(ちくしゅん)、他
9月 長月(ながつき) 建戌月(けんじゅつげつ)、晩秋(ばんしゅう)、暮秋(ぼしゅう)、霜辰(そうしん)、他
10月 神無月(かんなづき) 建亥月(けんがいげつ)、初冬(しょとう)、立冬(りっとう)、極陽(きょくよう)、他
11月 霜月(しもつき) 建子月(けんしげつ)、仲冬(ちゅうとう)、正冬・盛冬(せいとう)、天泉(てんせん)、他
12月 師走(しわす) 建丑月(けんちゅうげつ)、晩冬(ばんとう)、残冬(ざんとう)、月窮(げっきゅう)、他

太陰暦に基づく月名

イスラム教社会では、世界標準暦(西暦)と並び太陰暦であるヒジュラ暦(イスラム暦・マホメット暦・回教暦)が使われる[24]

ヒジュラ暦 日数
1月 ムハッラム(المحرّم) 30日間
2月 サファル / サーファール(صفر) 29日間
3月 ラビーウ・アル=アウワル英語版 /(ربيع الأوّل) 30日間
4月 ラビーウ・アル=サーニー英語版 / ラビア2(ربيع الثاني , ربيع الآخر) 29日間
5月 ジュマーダー・アル=ウーラー英語版 / ジョマダ1(جمادى الأولى) 30日間
6月 ジュマーダー・アル=サーニー英語版 / ジョマダ2(جمادى الآخرة, جمادى الثانية) 29日間
7月 ラジャブ英語版(رجب) 30日間
8月 シャアバーン / シャーバン(شعبان) 29日間
9月 ラマダーン / ラマダン(رمضان) 30日間
10月 シャウワール英語版 / シャウワル(شعبان) 29日間
11月 ズー・アル=カーイダ英語版 / ドゥルカーダ(ذو القعدة) 30日間
12月 ズー・アル=ヒッジャ英語版 / ドゥルヘジア(ذو الحجّة) 29/30日(閏年)

イスラム圏内ではこのヒジュラ暦と併せ、農耕民のためのイラン暦(イスラム太陽暦)も作られた[24]

太陰太陽暦に基づく月名

イスラエルでは世界標準暦(西暦)と並び、太陰太陽暦であるユダヤ暦も使用される。西暦の9月頃に相当するティシュリ(チスリ)の月から始まり、閏月は19年に7度加えられる(19年7閏法)[25]

西暦の月 ユダヤ暦 日数
1月 9月 ティシュリー英語版 / ティシュリ 30日間
2月 10月 マルヘシュバン / ヘシュウアン 29/30日間
3月 11月 キスレーヴ英語版 / キスレウ 29/30日間
4月 12月 テベット英語版 / テベット 29日間
5月 1月 シュバット英語版 / シエバト 30日間
6月 2月 アダル 30日間
7月 3月 ニサン英語版 30日間
8月 4月 イヤール英語版 / イツヤル 29日間
9月 5月 シバン (ユダヤ暦)英語版 / シウアン 30日間
10月 6月 タムーズ英語版 / タンムズ 29日間
11月 7月 アブ (ユダヤ暦)英語版 30日間
12月 8月 エルール英語版 / エルル 29日間
閏月 - アダル・シェーニー / アダル2 29日間

月齢に則らない月名

中央アメリカで栄えたマヤ文明は高い天文知識を持ち、紀元前7-6世紀には正確な月や金星の周期を割り出していた。しかし彼らが用いたマヤ暦の「月」は月の満ち欠けに関係しない20日を単位としていた。宗教暦では13か月の260日を一年とし、常用暦では18か月の360日に5日だけになる19番目の月を加え365日としていた[26][27]

マヤ常用暦の月名 日数
1月 ポプ/ポップ (Pop) 20日
2月 ウォ/ウオ (Uo)
3月 シップ/シプ (Zip)
4月 ソッツ (Zotz)
5月 セック (Tzec)
6月 シュル (Xul)
7月 ヤシュキン (Yaxkin)
8月 モル (Mol)
9月 チェン (Chen)
10月 ヤシェ (Yax)
11月 サック (Zac)
12月 ケフ (Ceh)
13月 マック (Mac)
14月 カンキン (Kankin)
15月 ムアン (Muan)
16月 パシュ (Pax)
17月 カヤップ (Kayab)
18月 クムク (Cumku)
19月 ワィエプ/ワヤッブ (Uayeb) 5日



注釈

  1. ^ 天文や天文台についての質問:国立天文台では、冬の2か月に相当する期間は時間としての経過はあるが「暦」が無い空白として取り扱われたと説明する。

脚注

  1. ^ a b c d 岡田ら (1994)、pp.70-72、四季と暦、月と暦
  2. ^ 「【月】」『日本語大辞典』講談社、1989年、第一刷、1291頁。ISBN 4-06-121057-2
  3. ^ 佐藤 (2009)、pp.77 - 81、世界統一暦の試み
  4. ^ a b 質問3-7 1月1日はどうやって決まったの?”. 国立天文台. 2011年12月20日閲覧。
  5. ^ a b c d 池内 (1999)、3.俺は北極星のように不動だ、pp.44-47、改暦の歴史
  6. ^ 青木 (1982)、序章 月と時、pp.1-2、月のみちかけ
  7. ^ 「【年】」『日本語大辞典』講談社、1989年、第一刷、1507頁。ISBN 4-06-121057-2
  8. ^ a b 青木 (1982)、序章 月と時、pp.3-4、太陰太陽暦
  9. ^ a b c 馬嶋玄敏「暦法・とくに置閏法についての一考察」『研究紀要』第7巻、奈良女子大学、1965年、 15-20頁、 ISSN 03891704NAID 1100010304802020年6月4日閲覧。
  10. ^ 月と地球の軌道”. 北海道大学理学部地球惑星科学科. 2011年12月20日閲覧。
  11. ^ 7月22日皆既日食”. 国立天文台. 2011年12月20日閲覧。
  12. ^ a b 松本晃治/国立天文大学電波研究部. “やさしい海洋潮汐モデリング (PDF)”. 東京大学地震研究所. 2011年12月20日閲覧。
  13. ^ 井本正介「制限三体問題とサロス周期」『福井工業大学研究紀要. 第一部』第25号、福井工業大学、1995年、 275-281-275-281頁、 ISSN 0286-8571NAID 1100004848482020年6月4日閲覧。
  14. ^ 2000年1月1日 12:00 TT;Derived from ELP2000-85: M. Chapront-Touzé, J. Chapront (1991): Lunar tables and programs from 4000 B. C. to A. D. 8000. Willmann-Bell, Richmond VA; ISBN 0-943396-33-6
  15. ^ 青木 (1982)、第4章 単位と天体暦、p.165、三 一年の長さ 一年の日数
  16. ^ 沼澤茂美、脇屋奈々代『宇宙』成美堂出版、2007年、50頁。ISBN 978-4-415-30019-1
  17. ^ a b 池内 (1999)、3 俺は北極星のように不動だ、pp.42-43、ローマの暦
  18. ^ 岡田ら (1994)、p.297、原始的な暦法、ボントク・イゴロット族の暦
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 岡田ら (1994)、pp.297-298、原始的な暦法、アイヌの暦
  20. ^ 岡田ら (1994)、p.298、原始的な暦法、イロコイ族の暦
  21. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 『アイヌの民俗』更科源蔵1982
  22. ^ アイヌ民族の有用植物”. 北海道立衛星研究所. 2011年12月20日閲覧。
  23. ^ a b c 岡田ら (1994)、pp.15-28、和風月名の由来
  24. ^ a b 岡田ら (1994)、pp.299-300、太陰暦、イスラム暦
  25. ^ 岡田ら (1994)、pp.301-302、太陰太陽暦、ユダヤ暦
  26. ^ 岡田ら (1994)、pp.315-317、太陽暦、マヤ暦
  27. ^ 佐藤悦夫. “マヤのカレンダー”. 富山国際大学現代社会学部. 2011年11月2日閲覧。
  28. ^ 民法 第6章 期間の計算”. 民法条文解説.com. 2011年11月2日閲覧。
  29. ^ 計量法(平成四年五月二十日法律第五十一号)”. 総務省. 2019年12月23日閲覧。
  30. ^ a b 暦の基礎知識”. 筑波大学附属図書館. 2011年11月2日閲覧。
  31. ^ 二十四節気”. 国立天文台. 2011年11月2日閲覧。

脚注2

  1. ^ 暦象年表2009


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