太陽
★1a.日光感精。
『三国遺事』巻1「紀異」第1・高句麗 部屋に閉じこめられた女(柳花)を日光が照らし、身を避けると追って来て照らした。彼女は身ごもり卵を産んだ〔*『三国史記』巻13「高句麗本紀」第1・第1代始祖東明聖王前紀に同記事〕→〔誕生〕2。
うつぼ舟の伝説(天道童子の伝説) 天武天皇の頃。内院の女御と侍女を乗せた、箱型の大きな虚船(うつぼぶね)が対馬に流れつき、2人は島に住みついた。ある時、侍女は朝日にむかって小便し、太陽の光をうけて孕み、子を産んだ。その時、5色の雲がたちこめて誕生を祝った。この子は「天道(=太陽)童子」と名づけられ、十一面観音の化身とも言われた(長崎県下県郡厳原町豆酘)。
『八幡愚童訓』下 震旦国陳の大王の娘大比留女は、7歳の時、仮寝していて朝日の光が胸にさして懐妊した。
★1b.太陽神によって子を得る。
『かるかや』(説経)「高野の巻」 夫を持たぬ「あこう御前」は、日輪に申し子をしたいと思い、屋根の上に1尺2寸の足駄をはいて立ち、3斗3升の水を入れた桶を頂いて、二十三夜の月を待つ。その時、「西海から黄金の魚が胎内に入る」との夢想を得て、彼女は男児(=後の空海)を産んだ。
『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」 行者ドゥルヴァーサが、天界の神から子種を授かるマントラを、少女クンティー(=プリター)に与える。クンティーが太陽神スーリヤを心に念じると、スーリヤが現れてクンティーと交わる。彼女は身ごもり、男児カルナを産む〔*クンティーは、カルナの処置に困って川に捨てる。カルナはドリタラーシュトラの御者夫婦に拾われて育ち、やがてパーンダヴァ5兄弟と戦う〕。
黒住宗忠の逸話 黒住宗忠は労咳で重態に陥ったが、文化11年(1814)、35歳の年の正月19日、「心が陽気になれば病気は治る」と気づいた時から、身体は回復し始めた。3月19日、入浴した後、縁側に匍(は)い出て太陽を拝み、宗忠の病は一時に全快した。そして11月11日、冬至の朝。日拝をして一心に祈ると、太陽の陽気が彼の身体全体に満ちわたった。身に迫る一団の温かい玉のごときものを胸におさめ、まるごと呑み込んで、たとえようもなく爽やかな良い気持ちになった。宗忠はこの時、天照大神と同魂同体になったことを実感した。
ラオタイとラオクー(中国・ペー族の神話) 大小2つの太陽がぶつかり合い、小さな太陽が海へ落ちた。海底の金龍が太陽を飲み込んだが、太陽は大きな肉塊となって龍のえらから飛び出し、山に当たって炸裂する。無数の肉片が飛び散り、雲や鳥や草花や獣になった。肉塊の真ん中の部分は2つに割れ、先に地面に落ちた左半分が女になり、後の右半分は男になった。こうして人類がこの世に現れた。女の名はラオタイ、男はラオクーと言った。
*太陽から男が発生する→〔人間〕1bの『饗宴』(プラトン)。
『漢武故事』1 漢の武帝の母は、太陽が懐に入る夢を見て懐妊した。
『太閤記』(小瀬甫庵)巻1 豊臣秀吉の母は、太陽が懐に入る夢を見て懐妊した。
★3a.十個の太陽。
『山海経(せんがいきょう)』第9「海外東経」 黒歯国の北に湯のわく谷があり、そこで10個の太陽が湯浴みをする。扶桑の大木があって、9個の太陽は下の枝におり、1個の太陽が今まさに出ようとして上の枝にいる〔*もとは絵があって、その説明文と考えられている〕。
『山海経(せんがいきょう)』第15「大荒南経」 東南の海の外、甘水のほとりに羲和(ぎか)の国がある。羲和は帝・俊の妻となって、10個の太陽を産んだ。今、彼女は太陽を甘淵に浴(ゆあみ)させている〔*もとは絵があって、その説明文と考えられている〕。
★3b.十個の太陽を矢で射る。
『淮南子』「本経訓」第8 堯の時代に、10個の太陽が並んで空に出た。穀物や草木が焦げ、民は食を失った。また、さまざまな怪物が現れて害をなした。堯の命令で、弓の名人ゲイが怪物たちを射殺し、10個の太陽(のうち9つ)を射落とした。
『今昔物語集』巻10-16 弓の名手養由は、天に10個の太陽が出た時、9つを射落とした〔*正しくは養由基。『史記』「周本紀」第4では、百歩離れて柳葉を射、百発百中の名手だった、とする〕。
巨人グミヤー(中国・プーラン族の神話) 9つの太陽と10個の月が空に出たので、強烈な光の下、地は干上がり、生き物は苦しみあえいだ。巨人グミヤーが怒り、弓矢で太陽と月を次々に射落とす。最後に残った1つの太陽と1つの月は、東方の天地の果ての岩屋に身を隠す→〔日食〕5b。
二つの太陽の伝説 ある夏、2つの太陽が出て、人々は旱天に困り果てた。1つは魔物の仕業であろうと、行者が矢で射ると、黒雲とともに3本足の白烏が落ちてきた。烏の魔物を射たので、「入間(=射る魔)」という地名ができたのだという(埼玉県狭山市入間川)。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章 ヘラクレスがリビア地方を旅していた時、太陽神(ヘリオス)に照りつけられたので、神に向かって弓を引きしぼった。神はヘラクレスの剛気に感嘆して黄金盃を与え、ヘラクレスはこれに乗ってオケアノスの海を渡った。
★3f.太陽を飲み込む。
『ラーマーヤナ』第4巻「キシュキンダーの巻」 猿のハヌーマンは、風神ヴァーユの息子である。ハヌーマンは生まれるとすぐ、太陽を見て食物と思い、飲み込もうとして空にかけり上がった。これを見たインドラ神が怒って、雷霆をハヌーマンに投げつける。ハヌーマンは岩上に落下し、左顎が割れた〔*「ハヌーマン」には、「砕けた顎」の意味があるという〕。
★3g.太陽を吐き出す。
『ホーキング、宇宙と人間を語る』第6章 中央アフリカのブションゴ族の神話によると、世界の始まりには、闇と水と大いなる神ブンバが存在していた。ブンバは胃の痛みから、太陽を吐き出した。太陽は水を乾かし、大地を創った。ブンバの胃痛は治まらず、さらにいくつかのものを吐き出した。それで月や星々が現れ、豹や鰐や亀が現れ、最後に人間が現れた。
『淮南子』「覧冥訓」第6 楚の魯陽公が韓と戦った時、激戦中に太陽が西へ傾きかけた。魯陽公は、戈(ほこ)を手にして太陽をさし招いた。すると太陽は、三星宿ほど東へ戻った〔*『太平記』巻10「長崎高重最期合戦の事」にこの故事を引く〕。
『源氏物語』「橋姫」 中君が琵琶の撥を手まさぐりしていると、雲に隠れていた月が明るく出てきたので、中君は「撥で月を招くことができました」と言った。それを聞いた大君は、「舞楽『陵王』では撥を上げて夕日を招き返しますが、月を招くとは変わった思いつきですね」と笑った。
『還城楽物語』(御伽草子) 天竺龍国の龍王が、敵の還城楽との合戦に破れそうになった時、虚空から呼びかける声の教えのままに、入り日を3度招く。日はもとに戻り、諸天も加勢して、龍王は勝利をおさめる〔*『入鹿』(幸若舞)中の挿話では、亡骨をつないで作った龍王の身体は日が沈むとバラバラになってしまうので、西日を巳の刻ごろまで引き戻した、と記す〕。
*金の扇で太陽を招き返す→〔扇〕4の音戸の瀬戸の伝説・湖山長者の伝説。
*太陽が沈むまでになすべき仕事→〔土地〕1aの『人はどれほどの土地がいるか』(トルストイ)・〔嫁〕2aの嫁殺し田の伝説。
『ヨシュア記』第10章 モーセ(=モーゼ)の死後、神は従者ヨシュアをモーセの後継者とした。ヨシュアはアモリ人たちと戦った時、神に呼びかけて太陽をまる1日、中天にとどまらせ、敵軍を打ち破った。
『ローランの歌』 シャルルマーニュ大帝の大軍がロンスヴォーの谷に駆けつけ(*→〔合図〕5)、異教徒の軍を撃破しようとした時、薄暮が迫った。シャルルマーニュは、「夜の来るのを遅らせ給え」と神に祈る。天使が現れ「駒を進めよ。日は暮れはせぬ」と告げ、太陽は中天に留まる。異教徒の軍を討ち果たしてシャルルマーニュが神に感謝すると、太陽はたちまち沈んだ。
『金枝篇』(初版)第1章第2節 フィジー諸島の、ある小さな丘の頂に、葦の生えた区画がある。旅程の遅れを懸念する旅人たちは、ここを通る時、一握りの葦の先端を縛りつけて、太陽が沈むのを遅らせようとした。おそらく、太陽を葦に絡ませようというのであろう。
『山海経(せんがいきょう)』第8「海外北経」 夸父は太陽とかけくらべをして、入日を追った。しかし口が渇いて道で死んでしまった。その時彼が棄てた杖は、化して鄧林となった。
『太陽』(落語) 信心を勧められた与太郎が、早起きして朝日を拝む。朝日はどんどん昇って行くので、与太郎は西の方へ追いかける。日が暮れてしまっても、与太郎は西へ走り続ける。夜明けになり、後ろ(=東)から朝日が昇って来る。与太郎はふり返って、「ああ、行き過ぎてしまった」。
*泥棒を追いかけ、追い越してしまう→〔競走〕5cの『坐笑産(ざしょうみやげ)』「かける名人」。
★6a.太陽が東へ沈む。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第2章 アトレウスとテュエステスが、ミュケナイの王の候補になる。テュエステスはゼウスに欺かれて、「もしも太陽が通常と逆の道を行ったなら、アトレウスを王にする」と約束する。その時、太陽は東へ沈み、アトレウスが王国を得る。
『聴耳草紙』(佐々木喜善)130番「酸漿(ほおずき)」 山中の一軒家に宿を借りた旅人が、朝、畑の紅い酸漿を1つ取り、中の種を出して、口に含んで吹き鳴らした。すると家の人が、「罰が当たる」と言って顔色を変えた。「お日様は毎日、東から出て西へ沈みなさるが、夜になると地の下を潜って、酸漿の中へ1つ1つお入りになる。それでこんなに紅くなる。酸漿はお日様の赤ン坊だから」。
『幻獣辞典』(ボルヘス他)「アブトゥーとアネット」 エジプト人は皆、アブトゥーとアネットが2匹の聖なる魚で、太陽神の船の舳先の前を泳ぐことを知っていた。太陽神の船は、昼間は東から西へ天空を航行し、夜は逆方向に地下を巡るのだった。
*太陽は地下を通る時、熱で温泉をあたためる→〔温泉〕6の『出現』(星新一『どんぐり民話館』)。
★7.円筒形の太陽。
『花笑顔』「春日(はるのひ)」 「『春の日は長い』というので、おれは気をつけて見たが、やっぱり丸い」「あれか、あれはお日様のこぐち(=切り口)だ」。
★8a.太陽と目。
『山海経(せんがいきょう)』第8「海外北経」 鐘山に住む燭陰という神の目は太陽である。神が目を閉じると夜になり、開くと昼になる〔*神が息を強く吹けば冬になり、声を出して呼べば夏になる〕。
*鐘山の石首が左目を開くと昼になり、右目を開くと夜になる→〔目〕4cの『玄中記』。
*イザナキの左目から太陽神アマテラスが誕生する→〔目〕4bの『古事記』上巻。
『日食』(三島由紀夫) 妙子は、戦争で両眼を失った松永と結婚した。古風な暦にこだわって決めた挙式の日取りは、日食の前日だった。母親は「日食だなんて縁起でもない」と、苦に病んだ。妙子は「いいじゃないの。太陽が松永に花を持たせて、にわかめくらになってくれるんだから」と言った。
★9.太陽が人間に及ぼす力。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)46「北風と太陽」 北風と太陽が強さを争い、「道行く男の服を脱がせた方が勝ち」と決める。北風が勢いよく吹きつけると、男は服をしっかり押さえる。太陽がはじめ穏やかに、しだいに熱く照りつけると、男は服を脱いでゆき、ついに裸になって川で水浴する〔*太陽が照りつけて男を裸にする『イソップ寓話集』とは逆に、→〔性器(女)〕1の『古事記』上巻では、女神が裸になって太陽神を誘い出す〕。
『異邦人』(カミュ) 夏の浜辺の昼下がり。焼けつく太陽の下で「私(ムルソー)」は、友人レエモンに恨みを持つアラビア人に出会う。匕首(あいくち)を構えるアラビア人を「私」はピストルで撃ち、倒れた彼にさらに4発弾丸を撃ちこむ。「私」は逮捕され、裁判で動機を問われて、「太陽のせいだ」と答える。
『古事記』中巻 カムヤマトイハレビコ(=後の神武天皇)と兄・五瀬の命が、河内の白肩の津に船を泊め、ナガスネビコの軍と戦った。五瀬の命は手に矢傷を負い、「私は神の御子なのに日に向かって戦ったので、傷ついた。今から迂回して日を背に負って戦おう」と言って南下した。しかし五瀬の命は、紀伊の国の男の水門で没した〔*『日本書紀』巻3神武天皇即位前紀戊午年4月~5月に類話〕。
*入り日(西日)を背中に負わない→〔極楽〕10の『宇治拾遺物語』巻5-4。
★10.太陽を見ない。
『ロケット・マン』(ブラッドベリ) 「ぼく」の父さんはロケット・マンで、いろいろな惑星へ出かけて行く。母さんは、「もし父さんが金星で亡くなったら、夜空に輝く金星を見るのがいやになるでしょう。火星で亡くなったら、火星を見るのがいやになるでしょう」と、「ぼく」に言った。父さんの宇宙船は、太陽に落ちた。その後、母さんは昼間はずっと寝ているようになった。太陽の見えない雨降りの日にだけ散歩するのが、「ぼく」たちの習慣になった。
コンヴムの神話(コッテル『世界神話辞典』アフリカ) コンヴムは、ピグミーの信仰における至高の霊である。コンヴムの毎夜の仕事は、太陽の更新だ。彼は、壊れた星々の断片を袋の中に集め、両腕いっぱいにかかえて太陽へ投げ渡す。そのおかげで、太陽は次の朝、再び自分の本来の光輝とともに昇ることができるのである(中央アフリカ。ピグミー)。
『何故私は奴さんたちを好むか』(稲垣足穂) あのお天道が今一つ気がきかないわけも、それが持つ青空という影(=背景)の薄いことにある、と「私」は考えている。青空を真っ黒に塗りつぶしてごらん、お天道はたちまちダンディになってしまう。実際のお天道は、そのようなしゃれ者だ。それをヤボに見せるのは「お昼」である。「お昼」とは、実は地球の上っ皮だけに仕組まれたペテンではないか。
*太陽神の息子パエトン→〔父と息子〕2の『変身物語』(オヴィディウス)巻2。
*太陽光線が人を殺す→〔死因〕3aの『火縄銃』(江戸川乱歩)。
*太陽光線で視力を回復する→〔盲目〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第4章。
*太陽光線を避ける→〔弱点〕1の『吸血鬼ドラキュラ』(ストーカー)・〔百〕1の『三国遺事』巻1「紀異」第1。
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