ナチス・ドイツ 国名

ナチス・ドイツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 04:52 UTC 版)

国名

ベーメン・メーレン保護領で発行されたチェコの作曲家スメタナが描かれた切手(1944年)。
「大ドイツ国」(GROSS DEUTSCHS REICH)の国号が用いられている。

正式な国名は、帝政時代およびヴァイマル共和政時代と同じく「Deutsches Reichドイツ国ドイチェス・ライヒ)」であった。

1938年オーストリア併合以降ドイツ民族主義の意識が高まり、民間などで「Grossdeutschland(大ドイツ)」等の呼称が使われ始め、グロースドイッチュラント師団などの部隊名にも用いられた。1943年6月24日には、総統官邸長官ハンス・ハインリヒ・ラマースが、公文書の中で初めて「Grossdeutsches Reich(グロースドイッチェス・ライヒ、大ドイツ国)」の名称を用いた[2]。同年10月24日以降は切手にもこれが印刷されるなど、事実上の国号として扱われたが、正式な改称は最後まで行われなかった。

「ナチス」という呼称は、本来NSDAPの対立者による蔑称であり、党が政権をとる前から世界に広く知られていた[注 1]英語圏では党の政権掌握後のドイツ国を指して「Nazi Germany」という呼称が用いられた。日本においても昭和8年(1933年)10月27日付の『大阪毎日新聞』で「ナチス独政府[3]という表記が見られ、昭和10年(1935年)4月28日付の『大阪朝日新聞』では「ナチス・ドイツ」の呼称が用いられている。昭和11年(1936年)5月31日付『大阪朝日新聞』の天声人語でも「ナチ・ドイツ[4]と表記され、戦時中の昭和18年(1943年)1月11日でも「ナチス・ドイツ」という語が用いられた[5][注 2]

また、ドイツ全国を統一的に統治した国家体制として、神聖ローマ帝国、ドイツ帝国を継承する「理想国家」という意味で、「第三帝国: Drittes Reich: Third Reich)」という呼称も宣伝に使用したが、逆にナチスへの批判や反ナチの風刺などに利用されたため、1939年夏以降ヒトラーやヨーゼフ・ゲッベルス宣伝相は、この語の使用を控えるよう通告している。ただし、完全に禁止されたわけではなく、以降も「第三帝国」の呼称を引用することはあった。

再統一後のドイツにおいてはNazizeit(ナチ時代)、Nazi-Deutschland(ナチ・ドイツ)という用法もあるが[6]分断時代の西ドイツにおいても、「NSDAP」などの呼び方が一般的であり、ナチスの名称はほとんど用いられなかった[7]。Nationalsozialismus、もしくはそれを略した「NS」がナチスの呼称として用いられる[8][9][注 3]。またHitlerdeutschland(ヒトラー・ドイツ)という用法もある [11][注 4]


注釈

  1. ^ 日本においても昭和7年(1932年9月29日付の『中外商業新報』で「ドイツ社民の統制経済案 ナチス案に対抗」という表記が用いられている。
  2. ^ 同盟国であったにもかかわらず、日本ではナチス(ナチ)が蔑称であるという認識は薄く、来日したヒトラーユーゲントを歓迎する歌を依頼された北原白秋も「万歳ヒトラー・ユーゲント」という歌において「万歳、ナチス」の歌詞を使用している。
  3. ^ 例:"Das nationalsozialistische Deutschland 1933–1945"[10]
  4. ^ 例:"Mathematische Berichterstattung in Hitlerdeutschland"(1997)[12]

出典

  1. ^ 南利明 2003a, p. 1-27.
  2. ^ Erlass RK 7669 E ウィキメディア・コモンズ
  3. ^ 神戸大学 電子図書館システム --一次情報表示--”. 新聞記事文庫. 神戸大学附属図書館. 2019年2月13日閲覧。
  4. ^ 新聞記事文庫 : 大阪朝日新聞 1936.5.31”. 神戸大学附属図書館. 2019年2月13日閲覧。
  5. ^ 新聞記事文庫 : 東京朝日新聞 1943.1.11”. 神戸大学附属図書館. 2019年2月13日閲覧。
  6. ^ Hans Sakowicz/Alf Mentzer『Literatur in Nazi-Deutschland. Ein biographisches Lexikon. Hamburg/Wien: Europa Verlag (Erw. Neuauflage) 』
  7. ^ 村瀬 1968, p. 78.
  8. ^ NS-Staat”. 連邦政治教育センター. 2019年2月13日閲覧。
  9. ^ Nationalsozialismus, der”. DWDS. 2022年8月23日閲覧。
  10. ^ ルドルフ・ハーベストドイツ語版
  11. ^ NHitlerdeutschland, das”. DWDS. 2022年8月23日閲覧。
  12. ^ ラインハルト・ジークムント=シュルツェドイツ語版
  13. ^ ドイツが突如、ソ連に宣戦布告(『朝日新聞』昭和16年6月23日)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p390 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  14. ^ 児島襄『第二次世界大戦ヒトラーの戦い』 3巻、文藝春秋〈文春文庫〉、1992年8月、333-336頁。ISBN 4167141388 
  15. ^ Watch Web of Make Believe: Death, Lies and the Internet | Netflix Official Site” (英語). www.netflix.com. 2022年6月23日閲覧。
  16. ^ Ukraine’s ‘Neo-Nazi’ Battalion Is Greasing Bullets in Pig Fat for Rus…”. archive.ph (2022年3月8日). 2022年5月20日閲覧。
  17. ^ 極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり | 国際テロリズム要覧2021 | 公安調査庁”. www.moj.go.jp. 2022年5月20日閲覧。
  18. ^ アマゾンとグーグル、ネオナチや白人至上主義の商品を削除 BBC番組の指摘受け」『BBCニュース』。2022年5月20日閲覧。
  19. ^ 元ネオナチが白人至上主義者の脱会を手助け “排除”ではなく、“かかわり”を :朝日新聞GLOBE+”. 朝日新聞GLOBE+. 2022年5月20日閲覧。
  20. ^ 私はネオナチだった 黒人女性と恋に落ちるまでは」『BBCニュース』。2022年5月20日閲覧。
  21. ^ ウクライナ:EUは首脳会談でLGBTの権利について取り上げるべき”. Human Rights Watch (2013年2月21日). 2022年5月20日閲覧。
  22. ^ 極右過激主義者の脅威の高まりと国際的なつながり | 国際テロリズム要覧2021 | 公安調査庁”. www.moj.go.jp. 2022年5月20日閲覧。
  23. ^ Gerasimova, Tanya (2019年3月14日). “U.S. Considers C14 And National Corps Nationalist Hate Groups”. Ukrainian News Agency. https://ukranews.com/en/news/619748-u-s-considers-c14-and-national-corps-nationalist-hate-groups 2022年2月27日閲覧。 
  24. ^ 南利明 2002, p. 40-42.
  25. ^ 南利明 2003a, p. 115.
  26. ^ 南利明 2002, p. 172.
  27. ^ 田野 2003, p. 188-193.
  28. ^ 南 1989, p. 259.
  29. ^ 南 2003a, p. 7.
  30. ^ 南 2003a, pp. 7–11.
  31. ^ 南 2003a, p. 11.
  32. ^ 南 2003a, pp. 8–9.
  33. ^ 南 2003a, pp. 16–17.
  34. ^ Hans-Joachim Braun (1990). The German Economy in the Twentieth Century. Routledge. p. 78 
  35. ^ ヒトラーの経済学”. 別宮暖朗. 2012年5月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月13日閲覧。
  36. ^ 児島襄『第二次世界大戦ヒトラーの戦い』 1巻、文藝春秋〈文春文庫〉、1992年7月。ISBN 4167141361 
  37. ^ 川瀬 2005, p. 25.
  38. ^ 三石善吉トット・アウトバーン・ヒトラー:アウトバーン物語 p2-3
  39. ^ 三石善吉トット・アウトバーン・ヒトラー:アウトバーン物語 p11
  40. ^ 小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』p91
  41. ^ 鈴木 1985.
  42. ^ 山中敬一 /刑法I /32P
  43. ^ Berben 1975, pp. 276–277.
  44. ^ 村瀬、369p
  45. ^ 村瀬、370p





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