ラッカセイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/09 13:29 UTC 版)
ラッカセイ | |||||||||||||||||||||||||||
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![]() 落花生
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分類(APG III) | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Arachis hypogaea L. | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ラッカセイ、ナンキンマメ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
peanut |
リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである[1]。
名称
豆類では珍しく、花が咲いたあとに下に向かって子房柄を伸ばして地中に潜って実をつけることから、落花生(らっかせい)の名がつけられている[2][3]。日本における地方名に、沖縄方言の地豆(ぢまめ、ジーマーミ)、唐人豆(とうじんまめ)、異人豆(いじんまめ)、鹿児島県でのだっきしょ(落花生)、ドーハッセン、ローハッセン(落花生、長崎県)などがある。
英名 peanut (ピーナッツ)は「pea(マメ科植物)からとれるナッツ」の意で、本種から受ける印象を端的に言葉にしたもの。一説に、同じ意味の米国南部方言 pinder が異分析により転訛したものという[4]。ナッツと名につくが、種実類ではなく豆の一種である[2]。
特徴
草丈は25 - 50センチメートル。夏に黄色の花を咲かせる。花が咲く前に自家受粉する。受粉後、数日経つと子房柄(子房と花托との間の部分)が下方に伸びて地中に潜り込み、子房の部分が膨らんで地中で結実する(=地下結実性)。サヤは固い殻に包まれた木の実のような形態をしている[3]。サヤの中には通常1 - 2個の種子が入る。
南米原産で東アジアを経由して、江戸時代に日本に持ち込まれたと言われている。日本では主に食用として栽培されている。
栽培史
原産地は南アメリカ大陸である[2]。最も古い出土品は、ペルーのリマ近郊にある紀元前2500年前の遺跡から出土した大量のラッカセイの殻である[5]。また、紀元前850年頃のモチェ文化の墳墓にあった副葬品にラッカセイが含まれていることから、ラッカセイが生活の中で重要な位置を占めていたことが分かる[5]。
その後、メキシコには紀元前6世紀までに伝わっていた。16世紀のスペイン人修道士の記録では、アステカ族はラッカセイを食糧ではなく薬と考えていた[5]。また、カリブ海の島々でもラッカセイの栽培は行われており、そこでは重要な食糧とされていたという。
大航海時代の始まりで、ラッカセイはヨーロッパにも紹介されたが、土の中で成長するラッカセイはそれまでのマメ類の常識とはかけ離れた、奇妙な存在と感じられた[5]。気候もあまり適さないことから、ヨーロッパでの栽培はあまり行われなかった。
南アメリカ以外にラッカセイの栽培が広がったのは16世紀中頃である。ポルトガルの船乗りたちが西アフリカ-ブラジル間の奴隷貿易を維持するためにアフリカに持ち込んだのが始まりで、そのまま西アフリカ、南部アフリカ、ポルトガル領インドに栽培地が広がっていく[5]。ほぼ同時期にスペインへ伝わったラッカセイは南ヨーロッパ、北アフリカへと渡っていく。さらにインドネシア、フィリピンへの持ち込みもほぼ同時期である。
日本には東アジア経由で1706年にラッカセイが伝来し、「南京豆」と呼ばれた[3]。ただし、現在の日本での栽培種はこの南京豆ではなく、明治維新以降に導入された別品種である[3]。
日本で初めて栽培されたのは1871年(明治4年)に神奈川県大磯町の農家、渡辺慶次郎が横浜の親戚から落花生の種を譲り受け、自分の畑に蒔いたもの。花は咲いたが何も実を結ばないので「こんなもの」と足蹴りしたら地中から鞘(殻)が出てきて、地下結実性であることが判明した[6]。経済栽培に向けて、販売先の確保のため、地元旅館に試食を依頼したが「客は喜んだが、座敷が汚されて困る」と断られた逸話が残っている。その後、明治10年に0.4リットル袋入りにて横浜の駄菓子屋に売り込んだところ盛況となり、採算がとれる商業生産への見通しがたった[7]。千葉県においては1876年より栽培が開始されている。
18世紀以前の北アメリカでは、ラッカセイは家畜の餌か黒人奴隷向け食糧として栽培されていた。アメリカ合衆国における南北戦争による食糧事情の悪化により白人もラッカセイを食べるようになり、「ピーナツ」と呼ばれ愛されるようになった[8]。
1895年に、ジョン・ハーヴェイ・ケロッグがピーナッツバターの特許を申請。1921年には、ジョゼフ・ローズフィールドが「部分水素化」によりピーナッツバターの油脂分離問題を解決。1932年には、有名ブランドとなる「スキッピー」が発売。栄養価の高いピーナッツバターは、食料不足の折の肉類の代わりとなり、第一次世界大戦と第二次世界大戦を経て、アメリカの食卓に欠かせないスプレッドとなった。そのため、2020年現在、アメリカにおけるピーナッツの消費量は世界トップクラスである。
注釈
出典
- ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 741
- ^ a b c d e f g h i j 主婦の友社編 2011, p. 110.
- ^ a b c d e f g h 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 137.
- ^ “peanut”. Wiktionary. 2022年4月30日閲覧。
- ^ a b c d e ジョンソン 1999, p. 125-131.
- ^ 『落花生 栽培手引き』p47、2010年3月、相州落花生協議会。同時期に神奈川県二宮町の二見庄兵衛も「南京豆」の種子を入手し、試作した。後年、この中から立性種を選別した。
- ^ a b 『落花生 栽培手引き』(2010年3月、相州落花生協議会)p.48
- ^ ジョンソン 1999, p. 133-136.
- ^ a b c 主婦の友社編 2011, p. 111.
- ^ 文部科学省『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』
- ^ 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2015年版)』
- ^ USDA栄養データベース アメリカ合衆国農務省
- ^ 「情報:農と環境と医療 47号」北里大学学長室通信 No.47(2009年2月1日)
- ^ ピーナツは皮ごと食べよう:視的!健康論~眼科医坪田一男のアンチエイジング生活~読売新聞/ヨミドクター(2010年10月21日)
- ^ ピーナッツ摂取と脳卒中および虚血性心疾患発症との関連 JPHC Study 多目的コホート研究、 独立行政法人国立がん研究センター
- ^ http://www.nal.usda.gov/fnic/foodcomp/search/
- ^ [『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年05月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007]
- ^ “「みそピー」物語”. 日の出味噌ホームページ. 2018年10月20日閲覧。
- ^ KERI BLAKINGER Quebec woman opens up about daughter’s tragic death after allergic reaction from kissing boyfriend who ate peanut butter sandwich Daily News2016年6月13日
- ^ a b c d e f g 主婦の友社編 2011, p. 112.
- ^ 高橋芳雄「落花生の連作害に関する研究」『千葉県農業試験場研究報告』第11号、千葉県農業試験場、1971年3月、1-12頁、ISSN 0577-6880。
- ^ a b c d e f 主婦の友社編 2011, p. 113.
- ^ FAOによる生産統計(2004年)
- ^ FAOによる輸出統計(2004年)
- ^ FAOによる輸入統計(2004年)
- ^ 「27年産豆類(乾燥子実)及びそばの収穫量(全国農業地域別・都道府県別)」『作物統計』農林水産省、2016年
- ^ 千葉県農林総合研究センター・落花生研究室(2018年7月26日閲覧)
- ^ 落花生新品種は「Qなっつ」千葉県、10年ぶり/甘み強く後味あっさり■秋デビュー『日本経済新聞』朝刊2018年7月20日(首都圏経済面)2018年7月26日閲覧
- ^ 幻の「遠州半立」復活/静岡・浜松市 ピーナッツバターが評判/1904年万博で世界一 荒廃農地から発見『日本農業新聞』2021年9月7日13面(同日閲覧)
- ^ 千葉県では、2019年に新種「千葉P114号」を「Q(きゅー)なっつ」と命名した(“県育成落花生「Qなっつ」について”. 千葉県 (2020年2月27日). 2021年11月10日閲覧。)。
- ^ 農林水産省年報 第2章 国際部
- 1 ラッカセイとは
- 2 ラッカセイの概要
- 3 利用
- 4 ラッカセイアレルギー
- 5 脚注
ラッカセイと同じ種類の言葉
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