ポルトガル語 音韻と表記

ポルトガル語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/23 00:29 UTC 版)

音韻と表記

ポルトガル語圏で最大の人口を擁するブラジルとそれ以外では、文法や語法などに若干の違いが生じている。その違いに配慮しつつ、以下ポルトガル語の特徴を記す。

母音

ポルトガル語の母音
前舌 中舌 後舌
i ɨ u
半狭 e ɐ o
半広 ɛ ɔ
a

記号が2つ並んでいるものは、右が円唇、左が非円唇

  • ブラジルではイの音になりがちな語末の e がポルトガルでは非円唇中舌狭母音になる。
    • 例: tarde - /ˈtaɾdɨ/(Pt), /ˈtaɾdʒi/(Br)
  • 多くの母音が無強勢部で狭母音になる。以下は無強勢部の発音。
    • a: /ɐ/
    • e: 語頭 /i/, 他の位置/ɨ/
    • i: 全ての位置 /i/
    • o: 語頭の o, ho- /ɔ/, 他の位置・"honesto" とその派生語 /u/
    • u: 全ての位置 /u/
      pronúncia /pɾuˈnũsiɐ/, elemento /ilɨˈmẽtu/
    • ポルトガルでは語末の e, o が発音されないことがある。
  • 強勢のある /ɐ/ は、a または â で書かれ、多く鼻音の前に現れる。

二重母音:

  • ai: /aj/
  • ei: /ɐj/ (ブラジルでは/ej/)
  • êi: /ej/
  • éi: /ɛj/
  • oi: /oj/
  • ói: /ɔj/
  • ui: /uj/
  • au: /aw/
  • eu: /ew/
  • éu: /ɛw/
  • iu: /iw/
  • ポルトガルでは ei はアイに近い発音になる。
    • 例:não sei /nɐ̃w̃ sɐj/
  • ou は二重母音だったが、今は普通単母音 /o/ で発音される。(ブラジルに於いては必ずしもこの限りではなく、例えば動詞soubesseを/su'bεssi/のように発音をする人も居れば全ての単語でそのままouと発音する人もいる。)

鼻母音

  • /ĩ/
  • /ẽ/: en
  • /ũ/: un
  • /ɐ̃/: an
  • /õ/: on
  • ã の発音は、ブラジルでは後舌のア(暗いア)の鼻母音なのに対し、ポルトガルでは前舌のア(明るいア)の鼻母音であるが、両者共に /ɐ̃/ で表される。
  • ão, 語末-am /ɐ̃w̃/
  • ãe, ãi /ɐ̃j̃/
  • ãe /ẽj̃/
  • õe /õj̃/
  • ui /ũj̃/
  • フランス語同様鼻母音を有するが、二重鼻母音はポルトガル語独自である。
    • bom dia /bõ di.ɐ/(Pt), /bõ dʒi.a/(Br)
    • muitas estações /mũj̃tɐz iʃtɐsõj̃ʃ/(Pt), /mũj̃tas estasõj̃s/(Br)

子音

ポルトガル語の子音IPA[2][3][4]
唇音 歯音/
歯茎音
舌背音 後部歯茎音
無唇音化 唇音化
鼻音 m n ɲ
破裂音 無声音 p t k ()
有声音 b d ɡ ɡʷ ()
摩擦音 無声音 f s ʃ
有声音 v z ʒ
接近音 半母音 j w
側面音 l ʎ
R音 ふるえ音/摩擦音 ʁ
はじき音 ɾ

記号が2つ並んでいるものは、右が有声音、左が無声音。網掛けは調音が不可能と考えられる部分。

  • ti や di, あるいは語末の te や de はブラジルではチやヂという発音になるが、ポルトガルではティやディ(あるいはトゥやドゥ)のままである。
  • 音節末の s や z は、リオやポルトガルではシュの発音になる。
  • R はスペイン語とほぼ同じ。すなわち、語頭の r と 他の位置での rr は /r/ で、語頭以外の r は /ɾ/ で発音される。ただし、ブラジルでは /r/[x, h] と発音する(もとは有声口蓋垂摩擦音やそれが無声化した[χ]でも発音した)ので、特にブラジル音の表記には /x/ を用いる。なお、近年ポルトガルでもブラジル式に発音する傾向がある。
  • ポルトガル綴り(旧正書法のみ)における音節末の c, p は、ブラジル綴りでは脱落する。これらの多くはポルトガル、ブラジルともに読まない。また、新正書法の場合、ポルトガルでもこれら子音は記さない。ブラジル綴りで脱落しないものは常に発音するが、ポルトガルでは一定しない。またこの子音字の前の母音は、ポルトガルでは無強勢部でも必ず a /a/, e /ɛ/, o /ɔ/ で読む。
    • 例:acção(ポルトガル)、ação(ブラジル)/aˈsɐ̃w̃/
  • 語頭で無声子音の前の ex- は、ポルトガルでは "ech" または "eich" のように読む。
    • expôr /ɨʃˈpoɾ/ または /ɐjʃˈpoɾ/
  • 硬口蓋音 ch /ʃ/, j /ʒ/, lh /ʎ/, nh /ɲ/ の前の強勢のある e は、ポルトガルでは /ɐ/ と読む。
  • qu はポルトガルでは前母音(e, i)の前で /k/ とも // とも読むが、ブラジルでは // は qü と書く。/ɡʷ/ も同様。[要出典]
  • 音節末のLは、いわゆるdark L(暗い L)で発音するが、ブラジルではウと発音することがある。
    • Pt: Portugal /puɾtuˈɣaɫ/
    • Br: Brasil /bɾaˈziɫ/, /bɾaˈziw/
  • ポルトガルではスペイン語と同様に /b/, /d/, /g/ が広母音間で摩擦音 [β], [ð], [ɣ] になる。前後に鼻母音がある場合は摩擦音にならない。
  • e, i の前で c は /s/, g は /ʒ/で発音する。
    • engenheiro /ẽʒɨˈɲɐjɾu/

アクセント

  • 強勢の位置は、必ず語末から1~3番目の音節にある。アクセント符号などがないときは、2番目にある。語末に子音 l, r, z や、 i, u の口母音または鼻母音、ã またはティルの付いた二重母音字がある場合は、語末に強勢がおかれる。他の音節に強勢が来る場合は、アクセント符号が付く。語末の s の有無は強勢位置の変化に影響しない。
  • スペイン語学で a, e, o を強母音、i, u を弱母音というが、ポルトガル語学では「全て強母音」である。すなわち「―学」を意味する接尾語は -logia だが、強勢は -gi- にある。

例1「技術」

  • ポ tecnologia 「テクヌルア(テクノロア)」・・・アクセントの位置は太字で記載。以下同様。
  • ス tecnología 「テクノロア」。仮にアクセント記号がなければ、「テクノヒア」。

例2「歴史・物語」

  • ポ história 「イスリア」。仮にアクセント記号がなければ、「イストア」。
  • ス historia 「イスリア」

例3「警察」

  • ポ polícia 「プシア」。仮にアクセント記号がなければ、「プリア」。
  • ス policía 「ポリア」。仮にアクセント記号がなければ、「ポシア」。
  • 標準的ではないが、(例えばサンパウロ方言に於いて)アクセントのある音節が s あるいは z で終わる語はブラジルではイが付いた発音になることがある。
    • 例:vocês /voˈsejs/ rapaz /xaˈpajs/ português /portug'ejs/ inglês /ingl'ejs/

音韻対応

p, b の後の l の多くは r へと変化した。

  • 例(スペイン語との比較)
    • blanco(西)- branco(ポ)「白」
    • playa(西)- praia(ポ)「浜辺」

アルファベット

ポルトガル語の新正書法

子音のところでも記述した通り、ポルトガルとブラジルでは違う綴りで書かれる単語が少なくないが、2008年5月にポルトガル議会は今後6年かけて綴りを現在のものからブラジル風のものに変更する法案を可決した[5][6]。旧植民地での表記法に旧宗主国が従うという珍しい事態になっているが、これはポルトガル語圏におけるブラジルの圧倒的な人口から来る経済的・文化的・学術的影響力を反映したものである。ブラジルでも2008年9月に大統領令として公布され、2012年末までの移行期間を経た上で2013年以降はこの新正書法が採用される。この正書法により、今後は一部の単語を除いて以下のような綴りとなる。

  • 従来ôoと綴っていた単語が、単にooとなる(例:vôo(フライト)>voo)
  • 二重母音eiあるいはoiに強勢が来る場合、従来つけていたアクセント記号が不要となる(例: Coréia(韓国)>Coreia、apóio(支援)>apoio)
  • ポルトガル式では発音されないにも関わらずに表記されていた子音が表記されなくなる(例: acção (行動) > ação)
  • ブラジル式では従来使用されていたトレマが廃止され、qüi, qüe, güi, güeがqui, que, gui, gueという表記に変わる。

ただ、新正書法の施行後も、ポルトガル式とブラジル式の綴りの間では相違が残る。mおよびnの前のoおよびeに強勢が来る場合、両国における発音の差を反映して、ポルトガルではóおよびéが、ブラジルではôおよびêが使用される。例: アントニオ(人名): António(ポルトガル)、Antônio(ブラジル)




ポルトガル語の分布
ポルトガル語の話される地域
国または地域 母語話者
話者 人口
(2005年)
アフリカ州
アンゴラ[表1 1][表1 2] 60% 約80% 11,190,786
カーボベルデ[表1 3] 4% 72% 418,224
ギニアビサウ[表1 4][表1 5] 不明 14% 1,416,027
モザンビーク[表1 1] 9% 40% 19,406,703
サントメ・プリンシペ[表1 4][表1 3] 50% 95% 187,410
赤道ギニア[表1 4][表1 3] 50% 95% 523,040
非公式:
ナミビア[表1 4][表1 6] 20% 20% 2,030,692
南アフリカ共和国[表1 6] 2% 2% 44,344,136
アジア州
日本[表1 7] 0 0.21% 127,214,499
東ティモール[表1 4] 不明 15% 1,040,880
中華人民共和国マカオを含む) 2% 3% 1,395,380,000
非公式:
ダマンとディーウ, インド[表1 4] 10% 10% 不明
ゴア, インド 3-5% 5% 不明
ヨーロッパ州
ポルトガル 100% 100% 10,566,212
非公式:
ルクセンブルク[表1 6] 14% 14% 468,571
アンドラ[表1 7] 4-13% 4-13% 70,549
フランス[表1 7] 2% 2% 60,656,178
スイス[表1 7] 2% 2% 7,489,370
アメリカ州
ブラジル 98-99% 100% 194,000,000
非公式:
パラグアイ[表1 7] 7% 7% 6,347,884
バミューダ[表1 7] 4% 4% 65,365
ベネズエラ[表1 7] 1-2% 1-2% 25,375,281
カナダ[表1 7] 1-2% 1-2% 32,805,041
オランダ領アンティル[表1 7] 1% 1% 219,958
アメリカ合衆国[表1 7] 0.5-0.7% 0.5-0.7% 295,900,500
  1. ^ a b 公式統計、モザンビーク - 1997年; アンゴラ - 1983年
  2. ^ ポルトガル語系ピジン言語と簡易ポルトガル語が共通語として他部族とのやり取りに使われている。アンゴラ人の30%はポルトガル語のみを解するモノリンガルである。他の国民もポルトガル語を第二言語とする。
  3. ^ a b c ポルトガル語系クレオール言語の話者数
  4. ^ a b c d e f 政府、カトリック教会による予測
  5. ^ ポルトガル語系クレオール言語話者の大部分
  6. ^ a b c 公的なポルトガル語教育
  7. ^ a b c d e f g h i j 移民の人数から
  1. ^ 「事典世界のことば141」p459 梶茂樹・中島由美・林徹編 大修館書店 2009年4月20日初版第1刷
  2. ^ Cruz-Ferreira (1995:91)
  3. ^ Sobre os Ditongos do Português Europeu. Carvalho, Joana. Faculdade de Letras da Universidade do Porto. ページ 20. 引用: A conclusão será que nos encontramos em presença de dois segmentos fonológicos /kʷ/ e /ɡʷ/, respetivamente, com uma articulação vocálica. Bisol (2005:122), tal como Freitas (1997), afirma que não estamos em presença de um ataque ramificado. Neste caso, a glide, juntamente com a vogal que a sucede, forma um ditongo no nível pós-lexical. Esta conclusão implica um aumento do número de segmentos no inventário segmental fonológico do português.
  4. ^ Bisol (2005:122). 引用: A proposta é que a sequencia consoante velar + glide posterior seja indicada no léxico como uma unidade monofonemática /kʷ/ e /ɡʷ/. O glide que, nete caso, situa-se no ataque não-ramificado, forma com a vogal seguinte um ditongo crescente em nível pós lexical. Ditongos crescentes somente se formam neste nível. Em resumo, a consoante velar e o glide posterior, quando seguidos de a/o, formam uma só unidade fonológica, ou seja, um segmento consonantal com articulação secundária vocálica, em outros termos, um segmento complexo.
  5. ^ http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7405985.stm
  6. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/2704072 「ポルトガル語圏で「ブラジル式」に表記統一へ、国民は混乱」 AFPBB 2010年03月02日 2015年6月20日閲覧
  7. ^ a b c ブラジルでは「さようなら」の挨拶としては「Tchau.」をよく用いる。「Adeus.」はポルトガルでの「さようなら」の挨拶で、ブラジルでは永遠の別れを意味するので使用は控えたほうがよい。「Passe bem.」、「Fique bem.」は「ごきげんよう」といった挨拶で、ややフォーマル。「Até amanhã.」は直訳すると「明日まで」で、次も会うことが決まっている場合。「また来週」なら「Até semana que vem.」(直訳すると「来たる週まで」)。
  8. ^ Cabo Verdeは本来ポルトガル語 (緑の岬 の意味)だが、スペイン語でも同じCabo Verdeである。スペイン語、ポルトガル語両方ともCaboは"岬"、Verdeは"緑色の"という意味である。





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