古ラテン語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/26 18:15 UTC 版)
古ラテン語 |
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Lingua Latina archaica | |
発音 | IPA: [liŋgwa latiːna] |
話される国 | 古代ローマ |
消滅時期 | 紀元前2世紀頃まで。紀元前1世紀頃から古典ラテン語が話される。 |
言語系統 |
インド・ヨーロッパ語族
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表記体系 | ラテン文字 |
言語コード | |
ISO 639-1 | la |
ISO 639-2 | lat |
ISO 639-3 | lat |
古ラテン語(こラテンご、英語: Early Latin、Archaic Latin、Old Latin)は、古典期より前のラテン語をいう。
古ラテン語の特徴がみられる後代の作家として大カト(紀元前234年 - 紀元前149年)やプラウトゥス(紀元前3世紀 - 紀元前2世紀)があげられる。
特徴
- 格語尾の -os, -om (古典期には -us, -um になる)
- 二重母音の oi と ei (古典期には ū, oe と ī になる)
- 古典期に見られるロータシズムと呼ばれる母音間の s の変異(s > z > r)が起きていない
アルファベット
古ラテン語では最初期は以下の21文字のアルファベット(ラテン文字)が使われた。下段には現在の字形を記している。これはほぼ西方ギリシア文字・初期のエトルリア文字(古イタリア文字)のアルファベットを踏襲した。ただしΘΞΦΨϺ(サン)の文字を取り除いている。C(Γの異体字形)は /g/ の音を表す。
𐌀 | 𐌁 | 𐌂 | 𐌃 | 𐌄 | 𐌅 | 𐌆 | 𐌇 | 𐌉 | 𐌊 | 𐌋 | 𐌌 | 𐌍 | 𐌏 | 𐌐 | 𐌒 | 𐌓 | 𐌔 | 𐌕 | 𐌖 | 𐌗 |
A | B | C | D | E | F[1] | Z[2] | H | I | K | L | M | N | O | P | Q | R | S | T | V[3] | X |
五つの母音字 (A, E, I, O, V) は長短両方を表したが、文字の綴りでは長短の区別はなかった。
母音字兼半母音字
母音字兼半母音字は二つの音価を持った:
紀元前3世紀
紀元前3世紀になるとエトルリア語の影響[5]により、C が /k/ の音を表す主要な文字となり、それまでの文字 K の使用は少数の語中で KA として残るのみとなった[6]。また /g/ の音を区別して表すためにそれまでのCを元にして新たな G の文字が作られ、アルファベットの7番目の位置へ置き換えられた(それまでの Z[2]は不要として取り除かれた)。
A | B | C | D | E | F | G | H | I | K | L | M | N | O | P | Q | R | S | T | V | X |

最古の史料
文学上の史料が現れるのは前3世紀以降であるが、碑文や遺物に記された断片は前7世紀のものまで出土している。主な出土物を以下に挙げる。
- ローマ市のラピス・ニゲル遺跡から出土した石碑文。前5世紀頃と推定されている。
- プラエネステの留め金。黄金製のブローチに刻まれた刻文。前7世紀頃。古代プラエネステはローマ近郊の現パレストリーナ。ただし真贋論争がある。
- ガリリャーノの鉢。イタリアのラーツィオ州とカンパーニャ州の境のガリリャーノ川の河口の神殿遺跡から発掘された鉢に刻まれた文字。前5世紀頃。
- ローマ市クイリナーレ丘で出土したDuenos inscription
脚注
- ^ Ϝ(ディガンマ)の文字はラテン語の/f/の音に対応させラテン文字のFとなった。
- ^ a b ラテン語に不要となった/z/の音ではあるが、最初期のアルファベットはギリシャ語のΖ(ゼータ)に当たる文字は取り除かれなかった。紀元前3世紀頃にもはや不要と判断されたZに代わって、この位置に新たな G の文字が置かれた。なお古典ラテン語の時期にやはりギリシャ語由来語を表す必要から文字 Z が復活した。
- ^ Vは、ギリシア文字 Υの異体字形。
- ^ ラテン語は/v/の発音およびそれを表す文字を持たなかった。後世にラテン文字Vが/v/の発音を表すようになった。また母音字 V /u/ は後世に字形を U へ変えた。
- ^ エトルリア語の影響により、「CE(/ke/),CI(/ki/),CO(/ko/),QV(/kw/),CAもしくはKA(/ka/)」と綴り分けされるようになった。
- ^ 例えば、kalendae と calendae の二通りの綴りが使われた。
関連項目
外部リンク
古ラテン語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 14:51 UTC 版)
詳細は「古ラテン語」を参照 ラテン語が属するイタリック語派は、インド・ヨーロッパ語族内ではケントゥム語派に分類され、インド・ヨーロッパ祖語の *k および *g はラテン語でも K, G として保たれた。イタリック語派の話者がイタリア半島に現れたのは紀元前2千年紀後半と見られており、ラテン語の話者がラティウム地方(現在のイタリア、ラツィオ州)で定住を開始したのは紀元前8世紀だった。現在発見されているラテン語の最も古い碑文は紀元前7世紀に作られたものである。この時期から紀元前2世紀頃までのラテン語は、のちの時代のラテン語と区別され古ラテン語と呼ばれる。この時代のラテン語は、語彙などの面で隣接していたエトルリア語などの影響を受けた。 古ラテン語では以下の21文字のアルファベットが使われた。下段には現在の字形を記している。これは、西方ギリシア文字・初期のエトルリア文字・古イタリア文字のアルファベットをほぼ踏襲した 𐌀 𐌁 𐌂 𐌃 𐌄 𐌅 𐌆 𐌇 𐌉 𐌊 𐌋 𐌌 𐌍 𐌏 𐌐 𐌒 𐌓 𐌔 𐌕 𐌖 𐌗 A B C D E F Z H I K L M N O P Q R S T V X このうち、C はΓ の異字体で [ɡ] の音を表し、I は [i] と [j]、V は [u] と [w] の音価を持った。五つの母音字(A, E, I, O, V)は長短両方を表したが、文字の上で長短の区別はなかった。紀元前3世紀になると C は [k] の音も表すようになり、K はほとんど使われなくなった。その後 [ɡ] の音を表すために G の文字が新たに作られ、使われなかった Z の文字の位置へ置き換えられた。 古ラテン語は、古典ラテン語に残る主格、呼格、属格(所有格)、与格(間接目的格)、対格(直接目的格)、奪格に加え、場所を表す所格(処格、地格、位格、依格、於格などともいう)があった。名詞の曲用では、第二変化名詞の単数与格および複数主格が -oī だった。古典ラテン語における第二変化名詞単数の語尾 -us, -um はこの時代それぞれ -os, -om だった。また、複数属格の語尾は -ōsum(第二曲用)であり、これはのちに -ōrum となった。このように、古ラテン語時代の末期には母音間の s が r になる「ロタシズム」という変化が起きた。
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