グルコース 発見の歴史

グルコース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/07 11:17 UTC 版)

発見の歴史

グルコースはドイツ帝国の化学者、アンドレアス・マルクグラーフ英語版によって1747年に干し葡萄(レーズン)から初めて単離された[6][7]。グルコースは多くの生物の基本的必需品であるため、その化学組成と構造の正しい理解は、有機化学の一般的進歩に大きく寄与した。この理解の大部分はドイツ帝国の化学者エミール・フィッシャーの研究の結果である。フィッシャーは糖の研究によって、1902年ノーベル化学賞を授与された[8]

グルコースの合成によって有機物質の構造が確立し、その結果としてヤコブス・ヘンリクス・ファント・ホッフの化学反応速度論と、炭素を含む分子における化学結合の配置の理論で、最初の決定的な検証となった[9]。1891年から1894年、フィッシャーは全ての既知の糖の立体化学的配置を証明し、ファント・ホッフの不斉炭素原子の理論を適用することで、可能な異性体を正確に予測した。

所在・製法

グルコースは果実蜂蜜体液中に遊離して存在している。工業的には、デンプン加水分解することによって生成する。

物理的性質

常温常圧で白色の粉末状の結晶。水に溶けやすく甘味がある。

化学的性質

単糖の一種であり、ヘキソース(六炭糖)およびアルドースに分類される、アルドヘキソースである。光学活性物質であり、天然に大量に存在するのはD体である。

グルコースは以下のようなオリゴ糖多糖の構成単位である。グルコースを構成単位とする多糖の総称をグルカンと称する。

おもな誘導体

  • キノボース(6-デオキシグルコース)キナの樹皮の配糖体
  • パラトース(3,6-デオキシグルコース)サルモネラ菌のリポ多糖

アルコール発酵

グルコースは、チマーゼと呼ばれる酵素群によりエタノール二酸化炭素に分解される。この反応をアルコール発酵という。

水中において平衡状態に達したとき、グルコースはほぼα-グルコース(α-ピラノース、38%、上図左)とβ-グルコース(β-ピラノース、62%、上図右)の形で存在しており(アノマー効果を参照)、他の異性体フラノース、鎖状体〈上図中央〉)は合わせても1%に満たない[10]

α-ピラノースとβ-ピラノースは、再結晶の溶媒や条件をきちんと選べばそれぞれの純品の結晶を作り分けることができる。その純品の結晶を水に溶かすと平衡状態へ移行する過程で旋光度の変化がみられる。この現象は変旋光と呼ばれる。

体内での役割

食事から摂取された炭水化物小腸でグルコースに分解され、ナトリウム-グルコース共輸送体タンパクのSGLT-1およびSGLT-2により大量のグルコースが体内に吸収される。

グルコースは、小腸から吸収されてから、体内で主要なエネルギー源として利用されており、特にでの通常時のエネルギー源として利用されている。

グルコースの分子は極性を有するため、細胞膜を通過するのには特別な膜輸送タンパク質を必要とする。

グルコースが細胞に取り込まれると直ちにリン酸化が起こり、グルコース-6-リン酸が生成される。このリン酸化は、グルコースが細胞外に拡散してしまうのを防ぐためである。リン酸化により電荷が導入されるので、グルコース-6-リン酸は容易に細胞膜を通過することができない。リン酸化されたグルコースは解糖系等の代謝経路に入る。

体内でのグルコースは、エネルギー源として重要である反面、高濃度のグルコースは生体に有害であるため、インスリンなどによりその濃度(血糖)が常に一定範囲に保たれている。

食後に大量のグルコースが体内に吸収されるが、体内のインスリンが十分に機能しないと血糖のコントロールができなくなり病的症状が現れる。

グルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さからタンパク質を修飾する作用(糖化反応メイラード反応参照)があり、グルコースによる修飾は主に細胞外のタンパク質に対して生じる。細胞内に入ったグルコースはすぐに解糖系により代謝されてしまう。インスリンによる血糖の制御ができず生体が高濃度のグルコースにさらされるとタンパク質修飾のために糖毒性が生じ、これが長く続くと糖尿病合併症とされる微小血管障害によって生じる糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症などを発症する[11][12]


  1. ^ 奥山格「有機化合物命名法」
  2. ^ "glucose." The Columbia Encyclopedia, 6th ed.. 2015. Encyclopedia.com. 17 Nov. 2015 http://www.encyclopedia.com.
  3. ^ WHO Model List of Essential Medicines”. World Health Organization (2013年10月). 2014年4月22日閲覧。
  4. ^ Online Etymology Dictionary”. Etymonline.com. 2016年11月25日閲覧。
  5. ^ Thénard, Gay-Lussac, Biot, and Dumas (1838) "Rapport sur un mémoire de M. Péligiot, intitulé: Recherches sur la nature et les propriétés chimiques des sucres" (Report on a memoir of Mr. Péligiot, titled: Investigations on the nature and chemical properties of sugars), Comptes rendus, 7 : 106–113. From page 109: "Il résulte des comparaisons faites par M. Péligot, que le sucre de raisin, celui d'amidon, celui de diabètes et celui de miel ont parfaitement la même composition et les mêmes propriétés, et constituent un seul corps que nous proposons d'appeler Glucose (1). … (1) γλευχος, moût, vin doux." It follows from the comparisons made by Mr. Péligot, that the sugar from grapes, that from starch, that from diabetes and that from honey have exactly the same composition and the same properties, and constitute a single substance that we propose to call glucose (1) … (1) γλευχος, must, sweet wine.
  6. ^ (英語) Encyclopedia of Food and Health. Academic Press. (2015). p. 239. ISBN 9780123849533. https://books.google.com/books?id=O-t9BAAAQBAJ&pg=RA2-PA239 
  7. ^ Marggraf (1747) "Experiences chimiques faites dans le dessein de tirer un veritable sucre de diverses plantes, qui croissent dans nos contrées" [Chemical experiments made with the intention of extracting real sugar from diverse plants that grow in our lands], Histoire de l'académie royale des sciences et belles-lettres de Berlin, pages 79–90. From page 90: "Les raisins secs, etant humectés d'une petite quantité d'eau, de maniere qu'ils mollissent, peuvent alors etre pilés, & le suc qu'on en exprime, etant depuré & épaissi, fournira une espece de Sucre." (Raisins, being moistened with a small quantity of water, in a way that they soften, can be then pressed, and the juice that is squeezed out, [after] being purified and thickened, will provide a sort of sugar.)
  8. ^ Emil Fischer, Nobel Foundation, https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1902/fischer/biographical/ 2009年9月2日閲覧。 
  9. ^ Fraser-Reid, Bert, “van't Hoff's Glucose”, Chem. Eng. News 77 (39): 8 
  10. ^ ピラノースは六員環、フラノースは五員環の環状ヘミアセタールである
  11. ^ High Blood Glucose and Diabetes Complications: The buildup of molecules known as AGEs may be the key link, American Diabetes Association, (2010), ISSN 0095-8301, http://forecast.diabetes.org/magazine/features/high-blood-glucose-and-diabetes-complications 
  12. ^ http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/doc3/doc3-03-5.html 生体分子に起こる加齢変化 05-異常たんぱく質はなぜ増えるのか?


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