操兵概要
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 15:07 UTC 版)
仮面 狩猟機、呪操兵は頭に、従兵機は殆どが胸に装着されている。 仮面は素焼き状の素材で作られており、表面と裏面に特殊な顔料(塗料)によって聖刻文字が文様に書かれている。その仮面に儀式によって加工された8種類の聖刻石を8個ずつ、縦・横8列ずつ均等に64個を仮面に埋め込み二天六大の力を導き出す。この配列で仮面に聖刻の意思が宿り仮面の能力が決まる。聖刻石の大きさや純度と種類、研磨技術、配列の組み合わせは数億とも数兆とも言われ同一の仮面は存在しない。 機体の定められた場所に仮面を固定する事で操兵は機体生命を得て、心肺機が稼動を始め自律的に制御される。また操手の意思を読み取り機体を動かす。仮面が機体制御と動力の源であり、仮面こそが操兵そのもともいえる。 機体は破損しても修理ができるが、仮面は割れてしまうと復旧は不可能で、装着されていた聖刻石は砂と化しその操兵は「死ぬ」。また、仮面に衝撃を受けると、人間の脳震盪に似た症状を起こして機体が操作不能に陥る事もある。このため接近戦を主体とする機体は、仮面の上に面覆いをつけて保護している場合が多い。操兵最大の急所である。 仮面の寿命は無限ではない。仮面の力は年を経ることに弱くなり、現在の機体の寿命はおよそ100年前後で仮面の寿命も100〜150年程度である。古代から伝わる古操兵に関しては、今なおこの範疇を越えて稼働しており、今後の寿命も極めて長久にわたるであろう操兵も少なくない(ただし休眠期間も含んでいる場合も多いため、実際の寿命は不明である)。また操兵としての起動時間が長いほど仮面の寿命も短くなるため、機体の起動時間は可能な限り短く収めるのが操兵運用における鉄則となっている。 仮面が機体に命を吹き込むというのは誇張ではなく、筋肉筒や血液等の生体部品が心肺機のような単純な循環器でも維持できるのは仮面の聖刻力の賜物である。仮面を取り付けなくても、機体の近くに仮面を置く事で機体の状態を維持する事も可能で、納屋に長期放置されていたヴァシュマールが整備も無しに稼働できたのは、機体の下の地面に仮面が埋めてあったためである。 仮面を失った機体と機体を失った仮面を組み合わせようとしても、多くの場合相性問題が発生する。特に狩猟機や呪操機のように格の高い仮面の場合は顕著で、正常に動くことの方が稀であるという。そのため機体のみが破壊された場合、残された仮面に合わせて機体を製造するという場合がままみられる。面齢と機齢が異なる操兵とが存在するのはそれゆえである。 操兵の生産数が飛躍的に増大したがために聖刻石の需要が膨れ上がっている昨今では聖刻石の枯渇から仮面の質も年々下がらざるを得ず、鍛冶匠合総代ユジックの言によれば、五世紀前なら従兵機にしか使わないような聖刻石で狩猟機の仮面を製作しているとのこと。 「金剛石よりも希少」と称される聖刻石を64個も使用する仮面は、最強兵器のコア部品という面を除いたとしても、恐ろしく高価な財産となりうる。このため、戦果確認や誉だけでなく、戦利品としての面からも打ち倒した敵操兵の首級を取る習慣が生まれた。<狩猟機>という呼び名も相手の首を取る習慣から生まれたとされる。逆に、戦闘に敗北し機体を放棄する場合、可能であれば仮面を回収するように努めている。 仮面の意思 仮面には意思・自我のようなものが宿っている。通常の操兵ではこれらの意思は表に出ることは無く、操兵が操手と会話や意思疎通をする事は無い。また(古操兵などの特殊な例外を除き)、仮面が自らの意思で機体を動かす事も無い。しかし、操兵を操作する際に仮面の意思が介在する事は、操兵に係る者には半ば常識として認識されている。操手の多くは、操兵を操作する際にそこに居る何か(誰か)の存在を感じているし、操兵の好調・不調は操兵の機嫌のようなものに影響されることも知られている。 操兵は誰でも動かせる物ではなく、搭乗して正規の手順を踏んでも起動すらしなかったり、甚だしいときには苦痛を感じて機体を降りざるを得なくなることもある。これらは総じて「操兵に嫌われる」などと称されるが(現聖刻騎士団団将グラハが操兵に乗れないのはこのためである)、比喩でも何でもなく仮面の意思が「操手を嫌っている」、あるいは「操手に逆らっている」ためであり、苦痛を感じるのは仮面が操手の精神に干渉しているためである。狩猟機のように「格が高い」高性能な仮面ほどこの意思は強力で、操手にはこの仮面の意思をねじ伏せ、従わせる精神力が無ければ、操兵を思い通りに動かす事はできない。このため操手の間では「操兵は腕ではなく気合で乗る」とさえ言われている。 こういった事例から、操兵を乗りこなすことは騎手と馬の関係にも喩えられており、「悍馬(気性の荒い馬)こそよく走る」の喩え同様に、潜在性能が高い操兵は操作が難しいと認識されている。実際に、聖刻騎士団正式騎も、前世代の正式騎(ワルサの乗るダイカーや、イスルギーンの乗るレイファーン)は、現世代の正式騎であるパイダーやシャトールと比べ、まさしく暴れ馬の如く操縦が難しい機体となっている(逆を言えば、現世代機は「大動乱」による聖騎士補充を容易とするため操縦性の向上と引き換えに故意にスペックを落としている)が、乗りこなせれば現行騎以上の性能を発揮する。 こうした操兵と操手の一種の力関係の一方で、乗りこなし心の通い合った愛機は、時にスペック以上の性能を出す事がある。操手が危機に陥ったときや高揚状態にあるとき、あるいは後述される「人機一体」のときにおいて、長年乗った愛機がいわゆる火事場の馬鹿力のように常識外れの性能を発揮する事例が見られ、このような点からも操兵がただの機械ではなく、意思・自我を持つ存在であることを覗わせている。 この「操兵が好もしいと思う/思わない」基準は、はっきりしていない。操手の能力の高さ(あるいは低さ)や血筋などが関係している場合もあるものの、外見だったり、言動が影響していると思われることもある。したがって、例え話ではなく、操兵の前でその機体の悪口は口にしない方がよいとされる。 従兵機の仮面 狩猟機の簡易型である従兵機の仮面は、各段に「格が低い」ものの技術的には狩猟機の仮面と同様のものである。狩猟機のような「格の高い」仮面は、自分が望む姿(例えば人型に近い姿であるなど)の機体でないと受け入れないが、「格の低い」従兵機の仮面はこういった制限が緩く、頭が無く簡略化された機体でも受け入れ起動するとされる。 呪操兵の仮面 狩猟機や従兵機の仮面は八種の聖刻石を八個ずつ均等に使用するが、呪操兵の仮面は所属属性の聖刻石を重点使用するとも言われている。しかし、呪操兵の仮面の多くは製法も失伝した古代の発掘品であること。新規の仮面を作成できるのは聖刻教会のみであり、しかも一般に表に出る機体では無い事から、詳細は不明である。操兵の仮面と対になる操手用の仮面があり、この仮面で操作する。 特殊な仮面 《八の聖刻》であるヴァシュマールやハイダルの仮面には強烈な自我が宿っており、操手抜きで機体を動かすなど、あたかも真・聖刻の意思であるようにさえ見える。だが、強力ではあって機体を制御する部品としての仮面に付与された自我に過ぎない。これは、ダム・ダーラのハイダルに対する態度の違いにも表れており、真・聖刻に対しては下僕としてへり降るが、仮面に対しては主として振る舞っている。《八の聖刻》の本体はあくまで真・聖刻であり、機体や仮面は従属物にすぎないのである。 古操兵ラジャス・カーラ・ギータの仮面には、かつての白き王の家臣達の意識が宿っている。この意識は機体制御の補佐(本質を言えば乗っ取り)が可能で、操手が素人であっても達人の剣技で戦う事ができる。 呪操兵キノ・ザウール・ラギュラの仮面は、機体を獣型に変形させる事で僅かに知能が発生し、自立行動が可能となる。 機体 機体は鋼の骨格に生体部品である筋肉筒が配されており、人間同様筋肉の伸縮より動作する。筋肉筒を維持するためには操兵用の血液が必要であるほか、駆動の際に熱が発生するために多量の冷却水が必要となる。筋肉筒から発生する熱はかなりのもので、本編中でも操手槽が冷却水の蒸気で蒸し風呂状態になったり、整備員が素手で機体に触れて火傷をするような描写がある。とくに無酸素運動は筋肉筒に大幅な負担と発熱とを及ぼす。操兵を運用する際は交換部品の他にこれらの消耗品の手配が必要であり、特に大半が砂漠地帯の中原では大きな制約となる。 機体は人間同様に疲労し、疲労が蓄積した機体は休ませなければ動作しなくなったり、所定の性能が出せなくなる。筋肉筒は大きさはともかく動物の筋肉と同様のものであり、一般の兵士の武器でも簡単に傷つく。特に膝の関節は騎馬の兵に攻撃しやすい位置にあるため、騎兵が操兵と戦う場合は第一に足を狙う。また、激しい運動により筋肉筒が焼きついた場合、交換しない限りその部分は稼働しなくなってしまう。これを防ぐため、限界を超えた加熱状態が発生した場合安全機構が働いて機体が停止するようになっているが、交戦中にこれが発生した場合は逆に操手にとっては絶体絶命の危機となる。なお、なんらかの形で操兵が古戦場等に遺棄された場合、有機物である筋肉筒は速やかに他の生物によって蚕食されてしまうため、発掘された機体を再起動させるには新造機を組み立てるのとさほど変わらないほどの大規模なリペアが必要となる。 装甲 操兵はほとんど全てが軍用であるため、機体には鉄の装甲が施されている。一般的には加工性を考慮した錬鉄や鋳鉄の装甲であるが、聖刻騎士団操兵などの高級機は鍛造鋼の装甲となっている。ただし、稼動部の確保や軽量化のために、部分を選んで革や布など軽量な素材も少なからず用いられている。装甲は隙間が多く、操手の視界の確保にも役立つものの、雨が降れば水浸し、風が吹けば砂塵も吹き込み、火攻めにされると操兵が破損する前に操手が煙で窒息することもある(伝説の古操兵であるアヌダーラの場合この隙間がなく野ざらしで駐機しても何ら問題がないことからミシャーギから「財布に優しい機体」というあまり嬉しくない評価を受けている)。なお、操兵の仮面は隙間から操手が手を伸ばして着脱する場合が多い。古操兵では装甲に陶器や岩石、未知の物質が用いられている場合も見受けられる。 操手槽(ディポッド) 操兵は基本的に全てが有人操縦であり、人間で言う胸の位置に操手(パイロット)の収まる操手槽(操縦席)がある。操手槽には手で操作する一対の操縦桿、両足で踏み込む一対の足踏板(フットバー)があり、これらで機体を制御する。計4つの制御系で操縦がまかなえるわけもなく、これらのレバーはただ付いているだけで、どこにも接続されていない。実際には仮面が操手の思考を読み取って動いている。ただし操縦桿も飾りではなく、操縦系統には動きのパターンが定義付けられており、咄嗟の場合に思考を読み取って機体が再現するタイムラグを経ずに直接機体に指示を送ることで動作を補助している。高い技量を持つ操手は操兵と文字通り一心同体となり、機体を自分の身体同様に動かすことができる。これを「同化」「人機一体」と言い操手として最高の境地に達したものとして讃えられるが、一方でこの状態では操手の心臓が停止するため、長時間の同化はしばしば危険を伴う。 このほか、血液と冷却水の容量計や、傷を受けた際に一時的に手足の付け根で循環を止めるためのバルブが設けられている。操兵が大きな損傷を受けた場合は手動でバルブを操作することにより、一時的な手当を施すことが出来る。従兵機の操手槽は開放型と密閉型があり、開放型では操主が半ば向き出しとなるが、元々狩猟機の打ち込みに耐えられる装甲は望むべくも無いため、視界を優先して開放型にしている機体が多い。狩猟機と従兵機は程度の差こそあれ似たような作りであるが、呪操兵は座席がなく胡坐で乗り込み、また計器類や操縦のためのレバー類が無いなどまったく異なる作りになっている。 操手は操兵の主であると共に、操兵の一部ともなる。操縦を続けると操手も著しく消耗し、足腰が立たなくなることさえある。 映像盤 視界は操兵の目が見た映像を、操手槽の映像盤に投影することで得られるが、死角が多くなるため機体の各所に覗き窓が設けられている。従兵機の映像盤は映りが悪く、装備していない機体も多い。 感応石 黒水晶に操兵の仮面の反応を投影するレーダーのような装置。視界外の敵の位置を知ることができる便利な装置で、光点の反応で機種も見判られる。一方で仮面を外して起動していない状態の機体は捉えられず、また高性能な機体になると感応石から姿を隠す機能を持つものもある。従兵機では装備しない機体が多い。 心肺機 血液や冷却水の循環を司る器官で、ポンプとふいごを組み合わせて構成されている。動力は無く、所定の位置に仮面をセットすると、はずみ車が自然に回転を始めてポンプとふいごを動かす。大概は操手の座席の下(操兵の腹部)に配置される。ポンプにより全身を循環する血液はふいごによって取り込まれた空気で活性化され、筋肉筒を維持している。血液には凝固作用があり、筋肉筒に受けた傷が小さい場合は凝固して自然治癒を促す。すなわち、操兵は巨大ロボットでありながら、呼吸し血を流す存在である。冷却水は基本的には汗と同じく気化熱で冷却するタイプで、ラジエターに当たる装置はない(シン国のラグン・ファーケンは背中に冷却板を持っているが、猛暑用の追加装備であり、これだけで冷却を賄っている訳ではない)。このため、激しい運動を続けると冷却水はあっという間に消費してしまう。 戦闘状態になると、心肺機は操手の呼吸に合わせて駆動する。ふいごの音から相手の打ち込みの機を察するのも操手の技術の一つであり、気配を読まれぬよう防音装置を持つ機体もある。 また人間同様空気の薄い高地では機体の性能が大幅に低下する。 操兵の急所の一つとなっており、意図的に操手も操兵も殺さずに倒す場合は心肺機を狙うことになるが、その強度は装甲板と変わりないため、破壊には相応の努力を必要とする。 操手 上述の通り操兵は基本的に有人操縦である。古操兵ラジャス・カーラ・ギーターは仮面に宿る千の守護者により素人操手でも達人並に戦え(ただし、未熟な操手では仮面の意思に精神侵食されるおそれがある)、緊急事態では操手抜きでも稼働させることが可能だが、逆に言えば素人でも操手が搭乗しなければまともに動くことができないということでもある。意思を持つ<真・聖刻>を備えた《八の聖刻》に至っては操手無関係に動作し覚醒状態に至っては物理法則を歪めるほどの人智を逸した異常な能力を発揮するが、本来の力はあくまで「選ばれし者」と呼ばれる操手が搭乗しない限り解放されない。すなわち、操手には「操兵を操作する」以外の役目があることになる。それは聖刻力の導管となることである。 仮面の項の通り、仮面は操兵の制御と動力の要であり、仮面を装着することにより操兵に命が吹き込まれる。しかし仮面の聖刻石には、操兵を稼動させるだけの力は備わっていない。そもそも聖刻石は異世界(精霊界)から力を導き出すための媒介であり、定められた術式により聖刻の力を引き出すのは人間である。つまり、自らの身体を通して操兵を稼働させるための聖刻の力を引き出すことが操手の役目なのである。「格の高い」操兵ほど操手の適正が厳しくなるのは、仮面の意識をねじ伏せる精神力のほかに、大量のエネルギーの導管となる資質が求められるからである。この人体を通して聖刻力を引き出す原理は錬法と同じであり、操手はただ座席に座って思考を送るだけに見えながら、自覚せずに「操兵を制御するための術」を行使していることになる。操兵を動かすと操手が激しく疲労し、操兵での長距離移動は自力で歩くよりも疲れるなどと言われるのはこのためである。
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