化け狸 信仰

化け狸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/20 01:38 UTC 版)

信仰

佐渡の団三郎狸徳島県金長狸・六右衛門狸香川県太三郎狸愛媛県松山市お袖狸などのように、特別大きな能力や神通力を持つと考えられた狸は寺社や祠などが造営され、民間からの祭祀や信仰の対象にもなっている[11]。現在確認されるその多くは江戸時代末期から昭和初期にかけて整備されたもので、霊験などが話題となり「流行神」といえるかたちで民間に大きな人気を得たものもある。

各地の狸の例

狸(狢や猯とも呼び習わされる)が化ける話は日本各地に伝わっている。全国的には人間に化けた話、寺の僧に化けた話、大入道のっぺらぼうなどの妖怪に化けた話、狸囃子などといった不思議な音を起こした話、呼び掛けながら人の家の戸を叩いた話、金玉八畳敷の話などが知られる。とりわけ四国などでは狸に関する伝承が多く確認されており、さまざまな話や霊験、妖怪が他の土地以上に狸と結びつけられて語られていた。

江戸時代末期から大正・昭和初期にかけて大きな勢力をもった名のある狸としては、団三郎新潟県佐渡島)・芝右衛門兵庫県淡路島)・太三郎香川県屋島)などをはじめとして、寺社にまつられ信仰の対象ともなっている狸も数多い。ほかには八百八匹の眷属(八百八狸 はっぴゃくやだぬき)を従えていたとされている隠神刑部などが江戸時代末期以後、講談を通じてよく知られていた。

狸が化けた茶釜が寺の持ち物となる昔話。群馬県館林市茂林寺の伝説では、狸が守鶴(しゅかく)という僧に化けて七代寺を守り、汲んでも尽きないを沸かしたとされている。
発生源をはっきりつかむことも確かめることも出来ない不思議な太鼓お囃子の音。江戸東京都)では、本所七不思議や番町七不思議のひとつなどにも数え挙げられており、深夜にどこからともなく太鼓の音が聞こえてくるものを「狸囃子」といった。童謡『証城寺の狸囃子』は證誠寺に伝わる伝説を元に作られた。
  • 宗固狸(そうこだぬき)
茨城県飯沼弘教寺に墓がある。寺の僧に化けていたが、ある日昼寝をして正体を現した。しかし、長く仕えたというのでその後も給仕をさせていたと伝えられている[5]
  • 袋下げ(ふくろさげ)
長野県北安曇郡大町(現・大町市)。タヌキが高い木に登り、通行人目がけて白い袋をぶら下げたという[14]
京都府南桑田郡保津村大年(現・亀岡市)。山の竹藪の中に棲んでおり、を切る音を立てて人を化かす古狸。
  • 負われ坂(おわれざか)
大阪府南河内郡。夜にある坂を通ると「おわれよか、おわれよか」という声がするので、気丈な男が「負うたろか負うたろか」と言うと、松の株太が乗りかかった。家に帰ってナタで割ろうとすると、古狸が正体を顕わして詫びたという[15]
  • 死霊に化けた狸(しりょうにばけたたぬき)
兵庫県播州。先年死んだ家の隠居の亡霊に化ける。
  • 重箱婆(じゅうばこばば)
熊本県玉名郡宮崎県日向市。古狸が重箱を手に持った老女に化けて現れたという。熊本ではさらに重箱婆が「重箱婆じゃ、ご馳走はいらんかえ」と言いながら、人に石のようなものを担がせるという[16][17]
  • 赤殿中(あかでんちゅう)
徳島県板野郡堀江村(現・鳴門市)。夜中、タヌキが赤いでんちゅう(袖のない半纏)を着た子どもに化けて背負うことをしつこくねだる。仕方なく背負うといかにも嬉しそうな様子で、その人の肩を叩くという[18]
  • 傘差し狸(かささしたぬき)
徳島県三好郡池田町(現・三好市)。雨の降る夕方など、をさした人に化けて通行人を招く。傘を持ち合わせない人がうっかり傘に入れてもらうと、とんでもない所に連れていかれるという[18]
  • 首吊り狸(くびつりたぬき)
徳島県三好郡箸蔵村湯谷(現・三好市)。人を誘い出して首を吊らせるという[18]
  • 小僧狸(こぞうたぬき)
徳島県麻植郡学島村(現・吉野川市)。小僧に化けて夜道を行く人を通せんぼし、怒った相手が突き飛ばしたり刀で斬ったりすると、そのたびに数が倍々に増えて一晩中人を化かすという[18]
  • 坊主狸(ぼうずたぬき)
徳島県美馬郡半田町(現・つるぎ町)。坊主橋という橋を人が通ると、気づかぬ間に坊主頭にしてしまうという[18]
  • 白徳利(しろどっくり)
徳島県鳴門市撫養町小桑島字日向谷。狸が白徳利に化け、人が拾おうとしてもころころ転がって捕まえることができないという[18]
  • 徳利ころがし(とっくりころがし)
徳島県美馬郡岩倉村字田上[18]。徳利に化けて坂道などを転がって行き、人に本物の徳利が転がっていると思わせる[18]。欲深い人などが、拾おうとして追いかけると、谷へ落とされたり、溝へはまらせられたりする[18]
また、香川県多度津地方には、徳利回し(とっくりまわし)または徳利転がり(とっくりころがり)という怪異が伝わっており、二升徳利を回す様な音を立てて転がってくるといわれる[19]。狸の仕業かは不明だが、実際に徳利が転がるのではなく、音のみの怪異とされる[19]
  • 兎狸(うさぎたぬき)
徳島県吉野川沿いの高岡という小さな丘で、ウサギに化けてわざとゆっくりと走り、それを見つけた人は格好の獲物と思って追いかけた挙句、高岡を何度も走り回る羽目になったという[18]
  • 打綿狸(うちわただのき)
香川県。普段は綿のかたまりに姿を変えて路傍に転がっているが、人が拾おうとして手を伸ばすと動き出し、天に上ってしまう[20]
愛媛県や香川県など。人間に化けた狸が兵士として日露戦争などに従軍したというもの。[21]

脚注


  1. ^ 『和漢百物語 月岡芳年』(町田市立国際版画美術館、1991年)107-108頁
  2. ^ a b c 日野 1926, pp. 105–139
  3. ^ 村上他 2008, p. 15.
  4. ^ a b c d 中村 1990, pp. 209–220
  5. ^ a b c d 多田 1990, pp. 235–240
  6. ^ 中村 1990, p. 33
  7. ^ 佐野他 1980, p. 184
  8. ^ 島田勇雄訳注『本朝食鑑』5巻 (<東洋文庫平凡社、1981年) 304-305頁
  9. ^ 中村禎里『狸とその世界』(朝日新聞社、1990年)
  10. ^ 関敬吾『日本昔話大成』第7巻(角川書店、1979年) 107-112頁
  11. ^ a b 宮沢光顕『狸の話』有峰書店、1978年、226-230頁。 NCID BN06167332 
  12. ^ 藤井乙男『諺語大辞典』(有朋堂、1910年) 304頁
  13. ^ 立石憲利 「兵庫県南但馬の民話―養父・朝日敏雄の伝承―」(日本民話の会 『聴く・語る・創る』第12号 2005年)11頁
  14. ^ 大藤時彦他 著、民俗学研究所 編『綜合日本民俗語彙』 第3巻、柳田國男監修、平凡社、1955年、1354頁。 NCID BN05729787 
  15. ^ 大藤時彦他 著、民俗学研究所 編『綜合日本民俗語彙』 第1巻、柳田國男監修、平凡社、1955年、308頁。 NCID BN05729787 
  16. ^ 能田太郎「玉名郡昔話 (3)」『昔話研究』1巻4号、三元社、1935年8月、25頁、NCID AN004070602014年9月13日閲覧 
  17. ^ 加藤恵「県別日本妖怪事典」『歴史読本』第34巻第24号(通巻515号)、新人物往来社、1989年12月、331頁、NCID AN00133555 
  18. ^ a b c d e f g h i j 笠井 1927, pp. 41–49; 笠井 1974, pp. 261–263
  19. ^ a b 村上健司『妖怪事典』毎日新聞社、2000年、241頁。
  20. ^ 三宅周一「妖怪語彙」『民間伝承』4巻11号、民間伝承の会、1939年8月、2頁、NCID AN002366052014年9月13日閲覧 
  21. ^ 愛媛県”. 2022年2月26日閲覧。


「化け狸」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「化け狸」の関連用語

化け狸のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



化け狸のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの化け狸 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS