病気
*関連項目→〔風邪〕・〔癌〕・〔結核〕・〔仮病〕・〔チフス〕・〔破傷風〕・〔白血病〕・〔ハンセン病〕
★1a.病気を治してくれる神や仏。
うば神様の伝説 昔あるお婆さんが、咳でたいへん苦しんだ。お婆さんは死ぬ時、「こんな苦しみは、私1人でたくさんだ。私を、うば神として祭ってほしい。咳で悩む人は真綿をひとかけら持って来て、私の首に巻いてある真綿と取り替えなさい。私の真綿を首に巻けば、咳は治るよ」と遺言した。以来、咳に苦しむ人々は、うば神様の真綿を首に巻き、咳が治れば、お礼に新しい真綿をうば神様の首に巻いた(山梨県南巨摩郡中富町宮木)。
弘法の片腕観音の伝説 旅の弘法大師が石を刻んで、一夜のうちに観音像を造ろうとする。ところが、ほぼ全身ができてあと片腕を残すだけ、というところで一番鶏が鳴き、弘法大師はその地を去った。その観音像が、ある時「私は手が1本しかない。それで、手の病気なら何でも治してやる」と言った。村人はお堂を建て、観音像を祀った(福井県三方郡三方町)。
*足の悪い人が拝む神様→〔片足〕1の道陸神(どうろくじん)様と弁天様の伝説。
『和漢三才図会』巻第10・人倫の用「疱瘡(みっちゃ)」 ある書に言う。〔第33代〕推古天皇34年(A.D.626)、日本国では穀物が実らず、三韓(朝鮮半島)から米粟170艘分を調達した。船が浪華(なにわ)に入った時、船中に痘瘡を病む少年3人があり、その1人には老夫、1人には婦女、1人には僧が添うていた。彼らは、「我々は生前に痘瘡を病み、死んで疫神となったものである。今、この少年について渡って来た。今より後は、この国の人も痘瘡を患うようになる」と言って、姿が見えなくなった。
*疱瘡(痘瘡)の神を海へ流す→〔うつほ舟〕3bの『椿説弓張月』後篇巻之2第19回。
『イスラーム神秘主義聖者列伝』「アブル・ホセイン・ヌーリー」 聖者ヌーリーが病気になった時、導師ジュナイドが花と果物を持って見舞いに来た。しばらく後、今度はジュナイドが病床に臥したので、ヌーリーは見舞いに仲間たちを連れて行き、「皆、ジュナイドの病気を少しずつ引き受けてくれ」と頼んだ。仲間たちが承知すると、すぐにジュナイドは回復した。ヌーリーはジュナイドに「病気見舞いの時は、花や果物を持って来るのではなく、このようにするのが良いのだ」と言った。
『なめる』(落語) うら若い美女から「お乳の下のおできをなめてほしい。なめてくれたら夫婦になりましょう」と、もちかけられて、男が美女の乳房の腫れ物の膿をなめる。ところが美女は病気が治ると逃げてしまい、おまけに、「膿をなめた人間は毒がまわって7日以内に死ぬ」と聞かされて、男は目をまわす〔*友人が気付け薬をなめさせようとすると、男が「なめるのはこりごりだ」と言うのがオチ〕。
『延命の負債』(松本清張) 零細企業の社長・村野末吉が、心臓発作を起こし手術を受ける。彼は懇切な治療を望んで、執刀医に多額の礼金を渡す。また、大手企業の下請けになる話があって、入院中も系列会社の人と交渉する必要があるので、病室は大部屋でなく、最上等の個室に入る。それやこれやで村野は金融業者から借金をし、健康を回復して退院したものの、金が返せず、首をつって死んでしまった。
*『仮名手本忠臣蔵』7段目で、大星由良之助が語るたとえ話「人参飲んで首くくる」(=病気を治すために借金をして高価な朝鮮人参を買い求め、病気は治ったが借金が返せず首をくくった)の、忠実な小説化とも言うべき作品である。
★4.病気と心。
『寒山拾得』(森鴎外) 唐の貞観の頃。台州の主簿・閭丘胤が頭痛に苦しんでいた時、豊干(ぶかん)という托鉢坊主が訪れ、「病は幻です。咒(まじない)で治して進ぜます」と言う。豊干は、水を入れた鉢を胸に捧げ持ち、閭は無意識のうちに精神を水に集注させる。豊干は水を口にふくんで閭の頭にフッと吹きかけ、その瞬間に閭の頭痛は癒(なお)った。これまで気にしていた頭痛を、水に気をとられて、取り逃がしてしまったのである→〔仏〕1a。
『正法眼蔵随聞記』第5-15 病気は、心にしたがって転変する。「私(道元)」は、昔、宋へ渡る時、船の中で痢病にかかったが、暴風が吹いて船中が大騒ぎになったために、病気を忘れて、下痢がとまってしまった。ここから考えると、一心に仏道修行をして他事を忘れるならば、病気も起こらないのではなかろうか。
『蒼白の兵士』(ドイル) 南アフリカの戦地へ派遣された青年ゴドフリイが、誤って癩病患者たちと接触した。ゴドフリイはイギリスへ帰ってから、皮膚が白くなるなど、癩病のような症状が表れた(*→〔ハンセン病〕1)。ホームズが皮膚科の名医サンダーズを連れて、ゴドフリイに会いに行く。サンダーズは「これは癩ではない。治療可能な魚鱗癬だ」と診断し、「『癩に感染したのでは?』と心配したことが生理的に作用して、擬似症状を起こしたのかもしれません」と、ホームズに言った。
*蛇のたたりで魚鱗癬になった→〔たたり〕2の『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「白葉さま」。
『新しき家』(武者小路実篤) 「自分」は肩の痛みが続くので、医者に診てもらうと「肺が少し悪い」と言われる。肺病でも長生きする人はいるが、若死にの可能性も高いので、生きている間に良い仕事をせねばならぬ、と「自分」は覚悟する。しかしそれは誤診で、別の医者は「病気とは思えません」と言った〔*「自分」は幸運を感謝し、友人Sの住む安孫子に新しい家を建てて、妻とともに引っ越す〕。
『いじわるばあさん』(長谷川町子)朝日文庫版第1巻47ページ 医者が、いじわるばあさんの息子の嫁を診察して、「単なる胃炎です」と言う。いじわるばあさんは隣室で待ちうけ、雁を描いた絵を医者に見せて、「何でしょうか?」と問う。医者は「ガンですなァ」と答える。それを聞いて、息子と嫁は震え上がる。
『大誘拐』(岡本喜八) 80歳の柳川とし子刀自(とじ)は体重が激減したため、「自分は癌で、まもなく死ぬのだ」と思う。大金持ちの彼女が死ねば、巨額の相続税を国に取られてしまう。折しも、3人組の若者がとし子刀自を誘拐し、身代金を要求したので、彼女はそれを利用して財産を隠そうと考える(*→〔誘拐〕2c)〔*体重減少はただの夏痩せで、秋になって、とし子刀自は少し肥った〕。
*「胃癌だ」と誤解した男→〔殺し屋〕1の『豚と軍艦』(今村昌平)。
『病は気から』(モリエール) アルガンは「自分は病気だ」と思い込んでおり、医者や薬剤師の言うままに多くの薬を飲み、浣腸をする。彼は「医者の卵トーマを娘アンジェリックの婿にして、将来面倒を見てもらおう」と考える。ところが娘アンジェリックには、クレアントという恋人がいた。アルガンはクレアントに、「君が医者になってくれるなら、娘をやろう」と言う。しかしアルガンの弟ベラルドが「兄さん自身が医者になったら良い」と提案し、アルガンもその気になる。
*3人から「お前は病気だ」と言われ、「自分は病気だ」と思い込む→〔三人目〕3。
『古今著聞集』巻2「釈教」第2・通巻51話 永観律師は病弱だったが、常に、「病気は善知識(=仏道への良い導き手)だ。私は苦痛があるゆえに、菩提を深く求めるのである」と言っていた。永観律師は阿弥陀仏を信仰し、79歳で極楽往生した。
*→〔戦争〕5cの『走れ、走りつづけよ』(大江健三郎)の、重い障害を負ったから死を受け入れやすい、というのと同様の考え方。
『復活の日』(小松左京) 1969年2月。生物兵器として開発されたMM88菌を運ぶ小型機が、アルプス山中に墜落する。密閉容器が壊れ、MM菌は空中に四散した。最初それは、死亡率の高い新種のインフルエンザ、と見なされた。有効なワクチンはなく、またたく間に病気は世界中に広がって、その年の夏の終わりに人類はほぼ全滅した。しかし、大洋に隔てられた冬の南極大陸には、ウィルスは侵入しなかった。各国の観測基地の約1万人(うち女性16名)が生き残った。彼らは、新しい世界の最初の人類とならねばならないのだ。
★7b.エイズの流行 → 若者(=兵員)の大量死 → 戦争の根絶。
『赤い氷河期』(松本清張) 2005年。世界のエイズ患者は1500万人、未発症の感染者を含めると1億5千万人に達しようとしていた。これは人為的なものであった。ヨーロッパのある組織が、エイズ・ウイルスとインフルエンザ・ウイルスを結合させ、空気感染するエイズを作り出したのだ。組織の1人は言う。「エイズの猛威で北半球の若者=兵役要員が激減し、もはや東西両陣営とも戦争はできない。世界の全員が非戦闘員となるのが、ぼくらの理想だ。地上から戦争がなくなり、エイズの流行が終息した後に、未知の偉大な文明が生まれるだろう」。
★8.看病。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「亡妻看病」 備中笠岡・荏原村の農家に、妻を亡くした嘉右衛門という者がいた。ある時、嘉右衛門は百日間ほど瘧(おこり)を病んだが、その病中、亡妻が毎夜来て看病した。風の夜も雨の夜も、一夜もかかすことがなかった。これは、亡妻が毎夜来るゆえに、瘧を病んだのであろう(『中陵漫録』巻4)。
★9a.病気見舞い。
『誰』(太宰治) 「私」の小説の読者である女の人から、毎日のように手紙が来る。その人は長く入院しており、「逢いたい。見舞いに来てほしい」と言う。現実の「私」を直視したら、その人の見ている綺麗な夢はこわれてしまうに違いないので、「私」は病室の戸口で「お大事に」とだけ言って、明るく笑って帰って来た。翌日、手紙が来た。「生まれて23年、今日ほど恥辱を受けたことはありません。私を見るなり、背を向けてお帰りになった。あなたは、悪魔です」→〔悪魔〕10。
『月と六ペンス』(モーム) ストリックランド〔*ゴーギャンがモデル〕は極貧の中で絵を描き続けるが、やがて重い病気になる。善良な男ストルーヴは、ストリックランドを天才と認めていたので、彼を自分の家へ連れて来て世話をする。ところがストルーヴの妻ブランシュは、夫の命令でストリックランドの看護をするうちに、彼と男女の関係になってしまう。ストルーヴは妻に「すべて許すから、帰って来てくれ」と訴える〔*ブランシュは夫のもとへは戻らず、服毒自殺する〕→〔画家〕1。
★10.難病。
『打撃王』(ウッド) ニューヨーク・ヤンキースのルー・ゲーリッグは、ベーブ・ルースと並ぶチームの中心打者で、10数年間に渡って活躍した。しかし2千試合連続出場を達成した頃から、彼は手足の動きに異常を覚え、打撃や守備の失敗が目立つようになった。新聞は「大スランプ」と書いたが、ゲーリッグは全身が次第に麻痺して死に到る難病・筋萎縮性側索硬化症に侵されていたのだった。彼は選手生活を断念し、引退試合には6万2千人の観衆が詰めかけて、別れを惜しんだ。
『レナードの朝』(マーシャル) 1969年、ニューヨーク市北部のブロンクス。医師セイヤーは、脳炎・硬化症など中枢神経系の難病の専門病院に赴任する。患者の1人レナードは、もう30年も入院しており、全身が硬直して、意識の有無も不明であった。「極度の痙攣が、硬直のように見えるのではないか」と考えたセイヤーは、パーキンソン病の治療薬「Lドーパ」を、レナードに試験投与する。その効果は劇的であった→〔もとにもどる〕。
★11.奇病。
『奇病連盟』(北杜夫) 37歳の独身サラリーマン山高武平は、3歩あるくと、4歩目は足の爪先でピョコリと伸び上がる、という奇病の持ち主だった。そのため彼はスカウトされて、奇病連盟の会員になった。会合では、互いの奇病の披露や、奇病についての研究発表などが行なわれた〔*武平のピョコリ症状は進行もせず治癒もせず、彼は一時(いっとき)大金を手にしたり、金持ちの娘に惚れられたりするが、結局、昔の恋人とつつましい結婚式を挙げて、物語は「大団円」ならぬ「小団円」を迎える〕。
『倭仮名在原系図(やまとがなありわらけいず)』 在原行平に仕える奴・蘭平は、白刃を見ると乱心する奇病の持ち主ゆえ、充分な働きができず、あさましい中間(ちゅうげん)奉公をしている。しかしこれは、周囲の人々を油断させるための仮病であり、蘭平は行平の命をねらっていた〔*行平が、蘭平の子供・繁蔵を武士に取り立て、家名再興が可能になったので、蘭平は行平への害意を捨て、出家する〕。
★12.病気と階級。
『大いなる幻影』(ルノワール) 第1次大戦下。捕虜となったフランス将校たちが、収容所内で病気について語り合う。貴族出身の将校が言う。「癌と通風は、労働者たちの病気ではない。しかしすぐに大衆化するだろう」。他の将校たちも口々に言う。「インテリは?」「我々は結核だな」「ブルジョアは?」「肝臓病に胃病。連中は食べ過ぎだ」「誰でも自分の病気で死ねる。戦争さえなければ」。
『のんきな患者』(梶井基次郎) 吉田は肺が悪く、母の世話を受けて自宅で療養している。彼が平常よく思い出す、ある統計の数字があった。それは、肺結核で死んだ人間100人のうち、90人以上は極貧者であり、上流階級の人間はそのうちの1人にはまだ足りない(すなわち1パーセント以下)、という統計であった〔*『のんきな患者』脱稿の3ヵ月後、梶井基次郎は肺結核で死去した〕。
*病気だと思ったら、妊娠だった→〔妊娠〕5aの『カズイスチカ』(森鴎外)。
病気...?と同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書から病気...?を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。

- 病気...?のページへのリンク