最初の人
『イオン』(エウリピデス) 子にめぐまれないクストスと妻クレウサが、アポロンの神託を受けにデルポイへ赴く。神はクストスに、「神殿を出て最初に出会う者が、汝のまことの子である」と告げる。クストスが出会ったのは、神殿に仕える青年イオンであった。そして、イオンはかつてアポロン神とクレウサの間に生まれた子であることが、明らかになった。
『黄金伝説』3「聖ニコラウス」 ミュラの司教が死に、後任を選ぶため多くの司教たちが集まる。夜、「朝課の時刻に最初に教会にやって来るニコラウスという男を、司教にせよ」との声がする。翌朝いちばん先に教会に来た聖ニコラウス(=サンタ・クロース)が、司教に任ぜられる。
『落窪の草子』(御伽草子) 六角堂の観音に21日参籠する落窪の姫君は、「下向の折、最初に会う男を夫にせよ」との霊夢を得る。堂を出ると物狂いの男に会うので、悲しみつつもこれを家へ連れ戻りともに暮らす。後に姫の父との対面の場で、この男が、かつて姫君に求婚していた二位中将であることがわかる。
『今昔物語集』巻12-7 東大寺を建立した聖武天皇が、「開眼供養の日の朝、寺の前に最初に来る者を読師とせよ」との夢告を得る。当日やって来たのは、鯖売りの老翁だった〔*『宇治拾遺物語』巻8-5の類話には、最初に出会う人のモチ-フはない〕。
『今昔物語集』巻16-32 鬼の唾によって姿を消された生侍が、もとどおりの身体になるよう六角堂の観音に参籠して祈り、「堂を出て最初に出会う者の言葉に従え」との夢想を得る。翌朝、出会った牛飼い童から「一緒に来い」と言われ、生侍は、僧が病人を祈祷する家に行く。僧の火界呪によって生侍の着物に火がつき、彼の姿は見えるようになる。
『つぐみひげの王様』(グリム)KHM52 高慢な姫が花婿候補たちの容姿を嘲り、皆を拒否する。父王が怒って、「姫を、最初に戸口に来る乞食の嫁にする」と命ずる。姫は、やむなく物乞いの旅芸人と結婚するが、その旅芸人の正体は、かつて姫が嘲ったつぐみひげの王様だった。
『夏の夜の夢』(シェイクスピア)第2~3幕 恋の3色スミレの汁をしぼって、眠る人のまぶたにそそいでおくと、目がさめた人は最初に見るものを恋するようになる。妖精パックが、花の汁をそそぐべき人間を間違えたり、妖精の女王がロバ頭のボトムに恋したりなど、さまざまな騒ぎがおこる。
『日本霊異記』中-15 高橋連東人は法華経を書写し法会を催そうとして、従者に「道で最初に出会った人を法会の講師とするので、修行者らしい姿の人なら誰でもよいからお連れせよ」と命ずる。従者は、酔って道に臥す乞食僧を連れて来る〔*『今昔物語集』巻12-25に類話〕。
『マハーバーラタ』第5巻「挙兵の巻」 パーンダヴァ軍とカウラヴァ軍の大戦争が近づき、両軍からアルジュナとドゥルヨーダナがクリシュナのもとへ援助を請いに急行する。ドゥルヨーダナが一足早くクリシュナの寝所に入ったが、目覚めたクリシュナが最初に見たのはアルジュナだった。どちらを優先するわけにもいかず、クリシュナは2人に二者択一の条件を出す→〔二者択一〕2。
*最初に象がやって来る→〔象〕4aの『ブラフマヴァイヴァルタ・プラーナ』(ガネーシャ)。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章 ギリシアの艦隊がトロイアに遠征する時、テティスが息子アキレウスに「最初に船から上陸するな。最初に上陸する者は最初に死ぬだろうから」と命じた。プロテシラオスが一番に上陸し、多くのトロイア兵を殺した後に、ヘクトルの手にかかって倒れた。
『士師記』第11章 勇者エフタは神に誓願を立て、「戦勝して凱旋できたならば、わが家の戸口から出て来て私を迎える者を、主に捧げます」と言う。ところが、エフタが戦いに勝って家に帰った時、最初に出迎えたのは彼の1人娘であった。彼女は2ヵ月の猶予を請い、処女のまま死ぬことを泣き悲しんだ後に、主にささげられた。
『イドメネオ』(モーツァルト) 荒れる海を乗り切るため、クレタの王イドメネオは、「陸に上がって最初に会う人間を海神ネプチューンに生贄として捧げる」と誓う。しかし上陸した王が最初に会ったのは、息子イダマンテだった。イダマンテは死を覚悟するが、彼を愛するトロイアの王女イリアが「代わりに私を生贄に」と申し出る。ネプチューンの像が揺れ動き、「イドメネオは退位し、イダマンテが新王、イリアが妃となれ」と、神託を下す。
『ドイツ伝説集』(グリム)186「フランクフルトのザクセンホイザー橋」 フランクフルトのザクセンホイザー橋を作る時、棟梁が悪魔の手助けを借り、その返礼に、橋を最初に渡るものの魂を悪魔に引き渡すこととなった。棟梁は1羽の鶏を追いやって橋を渡らせ、その魂を悪魔に与えた〔*同・337「悪魔橋」では、羚羊に橋を渡らせて悪魔に与える〕。
『ドイツ伝説集』(グリム)187「狼と樅の毬」 教会建設が資材不足のため滞る。悪魔が、教会落成の際に最初に戸口から入る者の魂をもらう条件で、建設に必要な金銭を提供する。人々は相談して、狼を教会に走りこませる。
『今昔物語集』巻16-28 男が長谷寺に参籠して「寺を出る時、最初に手に触れる物を捨てるな」との夢告を得る。翌朝、男は寺門を出る時つまずき倒れ、我知らず握っていたものを見ると、1本の藁だった〔*『宇治拾遺物語』巻7-5・『古本説話集』下-58に類話〕→〔交換〕4。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 「灰かぶり(シンデレラ)」は、町へ出かける父親に、「帰り道で最初に帽子にぶつかった木の小枝を、土産に欲しい」と請う。父親が馬に乗って木の茂みを通る時、はしばみの小枝がさわって帽子が落ちた。父親は「灰かぶり」に、はしばみの小枝を与える。「灰かぶり」は小枝を亡母の墓に植え、やがて小枝は大きな木になる。1羽の真っ白な小鳥がこの木へ飛んで来て、「灰かぶり」の望むものを、何でも投げ落としてくれる。
『ソロモンの指環』(ローレンツ)7「ガンの子マルティナ」 「私(ローレンツ)」はハイイロガンの卵を孵卵器に入れ、ヒナが卵殻を破って出てくるありさまを見ていた。誕生したヒナは、頭を少しかしげ、大きな黒い目で「私」を見つめた。「私」はヒナの世話を鵞鳥にまかせるつもりで、鵞鳥の暖かい腹の下にヒナを押し込んだ。ところがヒナは大声で鳴きながら、「私」を追って走って来る。ヒナは、鵞鳥ではなく「私」を、母親と認めたのだ。
『饅頭こわい』(落語) 大勢が、たまの休日に馬鹿話でもしようと集まったところへ、1人が、路地で見た青大将を怖がって逃げこんで来る。「人間は、胞衣(えな)を埋めたその上を最初に渡ったものが、怖いんだそうだ」と誰かが言い、それをきっかけに、1人ずつ怖いものを言い合う→〔物語〕2b。
『沙石集』巻2-5 美女が勘解由小路の地蔵堂に参籠する。若い法師が美女に思いをよせ、眠る美女の耳に地蔵の告げをよそおって「帰り道で最初に出会う人を頼れ」とささやく。法師は帰り道に先回りして美女に出会おうとするが、履物を捜して手間取る。その間に美女は別の男と出会い、その妻になった。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「たまごの中のしずちゃん」 「刷りこみたまご」の中にしずちゃんを入れると、そこから出て最初に見る人を好きになる。のび太が最初の人になろうとするが、ちょうどその時、出木杉がやって来て、しずちゃんは出木杉に抱きつく。出木杉は「こんな機械に頼ってしずちゃんの心を動かすのはいやだ」と言い、しずちゃんは「ますます好きになったわ」と言う。
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