月の模様
『今昔物語集』巻5-13 兎が、自分の身を焼いて帝釈天に捧げた(*→〔兎〕2)。帝釈天は兎を哀れみ、兎が火に飛び入った形を月の中に移して、一切衆生に見せるために月面にとどめた。
『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第20歌 「私(ダンテ)」とヴェルギリウスが地獄の第8圏谷第4壕を通過したのは、明け方近くであった。ヴェルギリウスは「『カインとその茨』(=月)が、西の水平線に沈もうとしている」と言った〔*中世のイタリア人は月面の斑点を、「茨をかつぐカインの姿」と見たのである。『幻獣辞典』(ボルヘス他)「月の兎」は、『神がカインを月へ追放し、時の終わりまで茨の束を背負う罰を与えた』というトスカナ地方の伝説を記している〕。
月の陰影の由来(フランスの神話) 欲深い男が財産を殖やそうと、日曜も祭日も休みなく働いた。神が「掟を守れ」と戒めるが、男は従わなかった。柴を束ねて森から帰って来る男に、神が「罰としてお前を牢に入れるが、太陽と月と、どちらがいいか?」と尋ねた。男は「太陽に行けば焼け死ぬ」と思い、月を選んだ。だから満月の中には、働く男の姿と柴の束が見えるのだ。
月の中のハンス(ドイツの伝説) ハンスは働き者で、日曜日にも森へ薪(まき)を採りに出かけた。山のように薪を背負って帰ろうとすると、1人の男が現れ、「日曜日は神の定めた安息日だ。仕事を休み、教会へお祈りに行くべきだ」と諭(さと)した。ハンスは「働くのはわしの勝手。罰が当たってもかまわない」と言い返す。男は「それなら、月世界で永久に薪を背負って歩くがよい」と宣告し、今でも月の中に、薪を背負うハンスの姿が見える。
『月と不死』(ネフスキー)「月と不死」 2つの水桶を天秤棒で運ぶ農夫が、月を泥の中から助け出してやる(*→〔太陽と月〕3b)。月は謝礼として農夫を招き、今もなお農夫は月に留まっている。満月の夜には、天秤棒をかつぐ農夫の姿が、はっきり見受けられる(沖縄県宮古群島、多良間島)。
『月と不死』(ネフスキー)「月と不死」(二) アカリヤザガマが人間に死水を浴びせたので(*→〔死の起源〕1)、お日様はたいへん怒り、「永久に桶をかついで立っておれ」と命じた。それで今もなお、アカリヤザガマはお月様の中にいて、桶をかついで立つ罰を受けている(沖縄県宮古島平良町)。
『月に住む女』(ニュージーランド、マオリ族の神話・伝説) ある晩、ローナという女が水を汲もうとして、瓢箪で作った水入れを持って泉へ出かけた。その時、月が雲でかげったので、ローナは「暗くて見えないじゃないか。この役立たず!」と、月を罵った。怒った月は、ローナをさらって月へ連れて行った。それで月には、瓢箪の水入れを抱(かか)えたローナの姿が見えるのだ。
月の中の人の起源の伝説 怠け者の娘がいた。母親から「水を汲んでおいで」と言いつけられ、娘は腹を立てて出かける。娘は月を見て、「お月さんはいいな。何もしないで黙っていればいいんだから。私は家にいると、何だかんだと使われる」と言う。月は怠け者へのみせしめに、娘を月の中へさらって行く。母親が泣く泣く見上げると、月の中に、手桶を持った娘の姿が見えた(アイヌの伝説。北海道千歳市蘭越)。
『星座の伝説』(草下英明)5「月の神話と伝説」 インディアンの子供が、草むらで昼寝をする月を見つけ、箱の中に閉じ込めた。月は夜までに空へ戻らないといけないので、中で大暴れする。子供が箱のふたをちょっと開けてのぞくと、月は隙間をするりと抜けて逃げる。子供は月を取り押さえるが、かすかに手にさわっただけで、月は無事に空へ戻った。その時についた子供の泥だらけの手の跡が、月面の模様である(アメリカ・インディアンの伝説)。
太陽と月(北米、エスキモーの神話) 美しい女性である太陽のもとへ、毎晩、謎の男が通って来る。男の正体を知るために、太陽は両手をランプの煤(すす)で黒くして、男の背中をなでる。夜が明けて、太陽は、謎の男が彼女の兄弟の月であることを知った。月面の黒い斑点は、この時につけられた煤である。
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