書き間違い
『黒白』(谷崎潤一郎) 悪魔主義の作家水野は、彼自身を思わせる主人公が殺人を犯す小説『人を殺すまで』を執筆するに際し、殺される男のモデルに、知り合いの雑誌記者児島を選んで、名前を「児玉」と変えた。しかし徹夜で執筆するうち、2~3ヵ所「児島」と書いてしまい、それが雑誌に載る。水野は「万が一、実際に児島が誰かに殺されるようなことが起こったら、自分が犯人と疑われる」と不安になる。彼の不安は適中し、児島は何者かに殺された。水野は犯人と見なされ、警察に連行される。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「ライター芝居」 シナリオを書いてライターに入れ、点火すると、まわりの人物がそのとおりに動く。ジャイアンとスネ夫が犬をひっぱり、ダックスフントのように胴がのびた「のび犬」を作ろうとしているところへ、のび太が行き、西部劇風のシナリオを使って2人をやっつける。しかしシナリオの「のび太」を「のび犬」と書き間違えたため、のび太の活躍を見ていたしずちゃんは、犬にすがりつき、手を取り合って去って行く。
『雪中梅』(末広鉄膓)上編第4~5回 政治家志望の青年国野基は、友人武田猛に英和辞書『ダイヤモンド』を贈る手紙に、間違えて「ダイナマイト」と書く。国野基はすぐ誤りに気づいて「ダイナマイト」の文字を墨で消し、横に「ダイヤモンド」と訂正するが、そのことがかえって警察の疑いを招き、彼は国事犯として収監される。
★1c.思いがけない事故で、書いた文字が別の字になってしまう。
『剪燈新話』巻3「富貴発跡司志」 何友仁は45歳の時、立身出世の神から「日に遇いて康く、月に遇いて発し、雲に遇いて衰え、電に遇いて没す」と記したものをもらった。以後、彼は傅日英・達理月沙という人に会って中央の高官になり、雲石不花という人のために雷州に左遷され、お告げどおりの運命だった。ある時彼は書類に「雷州の文書係」と書いたが、風で紙がめくれ、「雷」が「電」になってしまった。その夜彼は病気になり、まもなく死んだ。
『アラカルトの春(献立表の春)』(O・ヘンリー) ニューヨークのタイピスト、セアラは、連絡の取れない恋人ウォルターを想いつつ、レストランのメニュー作りの仕事をし、文字を打ち違える。セアラを捜すウォルターは、たまたま入ったレストランで「ゆで卵つき、いとしいウォルター」と書かれたメニューを見て、セアラの居所を知る。
『精神分析入門』(フロイト)「間違い」第4章 殺人犯Hは、細菌学者と称して科学研究所から病原菌の培養を手に入れ、身辺の人々を殺そうとたくらむ。ある時Hは、培養菌に効力がないことを研究所長に訴える書類を書くが、「二十日鼠やモルモットで実験した」とすべきところ、「人間で実験した」と書いてしまった(*しかし研究所の医者たちは、この書き間違いの重大性に気づかなかった)。
『ねじ式』(つげ義春)「あとがき」 漫画の締め切りに追われた「ぼく」は、描く材料がないのに困り、自分の見た夢をヤケクソで描いた。それが『ねじ式』だ。だから、原稿の「××クラゲに左腕を噛まれた(*→〔片腕〕2e)」が、誤植で「メメクラゲ・・・・」となっていても、気にしなかった。しかし後に『ねじ式』は「芸術作品だ」と騒がれた。
『おぼえ帳』(斎藤緑雨)1 女郎が客に金を無心するが、断られる。女郎は「愛想づかしも手管(てくだ)の1つ」と思案し、「もう別れましょう」との手紙を客に送る。ところが文字を知らぬゆえ、「なき縁」と書くべきところを「なき円」と書いてしまった。手紙を読んだ客は、あまりのおかしさに、女郎の言うままの金額を与えた。
『今昔物語集』巻11-9 弘法大師が勅命を受けて、大内裏の南面の諸門の額(がく)を書いた。ところが應(=応)天門の額を打ちつけてから見上げると、「應」の字の最初の点が書かれていなかった。驚いた弘法大師は、下から筆を投げ上げて点をつける。人々は手をたたいて感嘆した。
*「龍」の字の点を後から打った、という物語もある→〔文字〕7の『かるかや』(説経)・『弘法大師の書』(小泉八雲)。
『太平記』巻12「大内裏造営の事」 かつて大内裏が造営された時のこと。高野大師(=弘法大師)は、「小国である日本の天子が、このような大内裏を造るならば、やがては国の財力も尽きるであろう」と案じた。大師は、諸門の額(がく)を書くに際して、大極殿の「大」の字の真ん中を切って「火」という字にし、朱雀門の「朱」の字を「米」という字に変えた→〔文字〕9〔*後に大極殿から火が出て、八省をはじめすべての役所が焼失した〕。
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