錬金術
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錬金術と化学
影響
現代人の視点からは、卑金属を金に変性しようとする錬金術師の試みは否定される。だが、歴史を通してみれば、錬金術は古代ギリシアの学問を応用したものであり、その時代においては正当な学問の一部であった。そして、他の学問同様、錬金術も実験を通して発展し各種の発明、発見が生み出され、旧説、旧原理が否定され、ついには科学である化学に生まれ変わった。これは歴代の錬金術師の貢献なくしてはありえなかったともいえる[6]。文献からは、成立し始めた自然科学が錬金術を非科学的として一方的に排斥しているわけではなく、むしろ両者が共存していたことが見てとれる。様々な試行錯誤を行う錬金術による多様な分離精製の事例は、化学にとって格好の研究材料であった[7]。
錬金術師たちは、俗にイメージされるような、魔法使いやマッドサイエンティストのような身なり・研究一辺倒の生活をしていたのではなく、他の職業を持ちながら錬金術の研究も行うといった人物も多く存在していた。例えば、万有引力の発見で知られるアイザック・ニュートンも錬金術に深く関わり膨大な文献を残した一人である[53]。最近ではこれらの文献を集めた研究書も刊行されるなど、いわば錬金術的世界観の再評価が行われていると言える[54][55]。
錬金術の成果
- 磁器の製法の再発見(ヨーロッパ、18世紀)
- ヨーロッパでは磁器を中国・日本から輸入しており非常に高価な物だった。それをヨーロッパで生産する方法を再発見したのは錬金術師である。ザクセン選帝侯フリードリヒ・アウグスト1世が錬金術師ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーに研究を命じ、ベトガーは1709年に[56]白磁の製造に成功した[57]。
- 蒸留の技術(中東、紀元前2世紀頃)
- アランビック蒸留器の発明(ジャービル・イブン=ハイヤーンが考案したとされる)とそれによる高純度アルコールの精製、さらに天然物からの成分単離は化学分析、化学工業への道を開いた。日本では江戸時代にランビキの名で使用された。
- 火薬の発明(中国、7 - 10世紀頃)
- 中国の煉丹術師の道士が仙丹の製作中、硫黄と硝酸、木炭を混合して偶然発明したといわれる[58]。のちに西洋に伝わる。
- 硝酸、硫酸、塩酸、王水の発明(中東、8 - 9世紀頃)
- 緑礬や明礬などの硫酸塩鉱物[注釈 2]と硝石を混合、蒸留して硝酸を得た。錬金術師ジャービル・イブン=ハイヤーンは、緑礬や明礬などの硫酸塩鉱物を乾留して硫酸を得[59]、硫酸と食塩を混合して塩酸を得、塩酸と硝酸を混合して王水を得た。
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- ^ 水銀から金を作る研究、クラウドファンディングで 財経新聞
- ^ 東京都市大学 水銀から金をつくる「原子炉錬金術」を実証する! 学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」
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