競走馬 競走馬の疾病・負傷

Weblio 辞書 > 同じ種類の言葉 > 生物 > > > 競走馬の解説 > 競走馬の疾病・負傷 

競走馬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 03:36 UTC 版)

競走馬の疾病・負傷

競走馬は馬が罹患する疾病のほか、競走馬に特有または多く見られる疾病や負傷に見舞われることがある。以下、それらについて詳述する。なお、脚部に関する疾病や負傷をとくに故障ということがある。

故障の疾病・負傷が重度のものである場合、競走馬が生命を失うこともある。重度の骨折など回復が困難な故障を発症した場合、当該競走馬に対して予後不良と診断され、薬物を用いた安楽死措置がとられる(予後不良を参照)。また、筋腱の損傷等、治療は可能であるものの、競走による強度の負荷に耐えうる程度まで回復することが見込めないような場合には競走能力喪失と診断され、引退・繁殖馬転向等を余儀なくされる場合もある。

脚部の疾病・負傷(故障)

競走馬の故障は、レース中や調教中に発症することが多い。脚部に故障を発症した競走馬は、脚を引きずるなどの歩行異常(跛行)を見せることがある。故障は競走馬の競走能力に影響を及ぼすことが多い。

  • 跛行 - 脚に故障・異常を発生させ歩様がおかしくなったことを指す。前肢に起きたものを肩跛行、後肢に起きたものを寛跛行という。肩の筋肉痛、前脚の骨・筋肉・関節部の異常によって走法が乱れた時も跛行とされる。後肢に起きた跛行の場合、骨折・関節の異常・股関節周りの異常が疑われる。
  • 骨折 - 完全な破断もしくは粉砕骨折などの重症例では整復・治療が困難なことから大半が安楽死の対象となる。亀裂程度の骨折であれば長期の保存療法を経て復帰できる場合もあるが、そのまま競走馬引退となる例も少なくない。
  • 屈腱炎(エビ、エビハラ)
  • 骨膜炎(ソエ) - 前肢の第3中手骨(管骨)に起きる骨膜炎が主。成長途上にある若馬が発症し、患部である骨の表面が炎症を起こし強い痛みを伴う。患部を冷やして強い運動を避けること、年齢を経て骨の成長が進むことで徐々に解消される。レーザーによって患部を焼いて固める治療法も存在する。この場合、若馬の前脚部分に黒い斑点が現れるが、月日を経ることで徐々に消滅する。
  • 繋靭帯炎
  • 球節炎
  • 股関節炎
  • 捻挫
  • クモズレ - 後肢の球節下部にできる円形の傷のこと。馬場の砂などによって発症する。
  • 裂蹄 - 蹄壁の一部が裂けた状態の総称で蹄の乾燥や強い衝撃によりおきる。部位によって蹄尖裂、蹄側裂、蹄踵裂、蹄支裂、蹄底裂、蹄叉裂に分けられ、蹄冠部から分裂したものを蹄冠裂、蹄負縁から分裂したものを負縁裂、蹄冠から蹄負縁まで達するものを前裂という。亀裂の浅いものは表層裂、知覚部に達するものは深層裂とに分類される。
  • 挫跖 - 蹄底部(まれに蹄叉)に発症する挫傷。人で言う血豆。不整地や硬い異物を踏むことで起きるが、装蹄が原因となることがある。通常、軽度の場合は冷却治療を施すが、感染症などを起こした場合は抗生物質の投与などを行う。
  • 蹄葉炎 - 蹄内部の葉状層が炎症を起こして壊死し、蹄骨が蹄壁から分離してしまう疾患。葉状層の炎症は血液循環の阻害により起きる。急性のものと慢性のものがあり、急性疾患で機能障害が残った場合には安楽死の要因となる。
  • 蟻洞 - 蹄に蟻の巣のような穴が開くのでこう呼ばれる。蹄葉炎から来ることも多い。

その他の疾病・負傷

  • 筋肉痛筋炎 - 馬の筋肉痛・筋炎のことをコズミという。重度になると跛行の症状を示したり、筋肉が痙攣するような感覚に襲われ、動けなくなってしまう(スクミ)[56]
  • 疝痛 - 俗に腹痛とよばれるものである。原因は様々であり、主として胃や腸など消化器系の内臓異常・疾病で発生する。代表的な疾患としては過食疝、便秘疝、風気疝、寄生疝、痙攣疝、血栓疝、変位疝などがある。馬は一度食べたものを嘔吐できない身体的構造を伴うので、胃腸に食物・消化物がつまりやすい。その結果、胃破裂などを引き起こす(ナリタブライアンがこの例)。また腸捻転の場合、非常に危険であるので開腹手術など早急な措置が求められる。また、馬がくっさく・グイッポ(馬房にある馬栓棒などを噛んでしまうクセ。空気を飲み込んでしまうので止めるよう調教される)などをしてしまって空気を飲むことでも発生する。馬はデリケートであるため、緊張のあまりひきおこすこともあるようである(ダイワメジャー)。
  • 心房細動 - 不整脈の一種だが、健康な馬でも予兆なく競走中に発症し、自然治癒するケースが多い。稀に心不全に至るケースについては、ほぼその場で死亡する。
  • 鼻出血 - 鼻血。主に1.運動誘発性出血、2.鼻粘膜からの出血、3.喉嚢からの出血に分けられる。1であれば両側の鼻孔より出血する。強度の運動による血圧の上昇が原因。2は通常片方からの出血。顔面打撲や鼻腔への異物の混入、鼻炎などによる鼻粘膜の脆弱化による出血。3は喉嚢で増殖した真菌により動脈が傷つけられて出血する。大量出血になりやすく、致死性の高い疾患である。
  • 熱発 - 馬の平熱は38度ほどだが、発熱をした状態をいう。疲労や輸送などによって引き起こされる。まれに逆体温と呼ばれ朝昼の体温が逆になり(昼の体温が下がる)調整困難となる馬が存在する。競走生活時代のフサイチコンコルドがこの症例であった。
  • 熱中症 - 近年の温暖化により、夏季の気候の高温多湿が顕著となり発汗などで体力が消耗し、呼吸が不安定になったり痙攣などの運動症状が起き、最悪の場合は多臓器不全に至るケースがある(北海道で放牧中だったアスクビクターモアがこの症例で死亡している)。中央競馬では競馬場のパドック・待機所などにミストシャワー設置など進めているが、熱中症を発症する馬が増加傾向であり、2024年の競馬からは、夏季の一部競馬場で昼間の時間帯の競走を休止するなどのさらなる対策が進められる[57][58]
  • 喘鳴症(ノド鳴り) - 運動中の異常呼吸音を発する症状。気管入り口の軟骨を開く筋肉の神経麻痺や呼吸器の感染症などにより気道が狭くなることによる。主に左側軟骨で発症する。
  • フレグモーネ - 小さな傷口や毛根部から細菌が侵入し発症する化膿症をいう。皮下組織が化膿して腫れあがり発熱して痛みを伴うので薬物投与の上、安静にしなければならない。寝藁の交換を怠る、もしくは調教運動後の馬体を洗った後よく乾燥させないことで感染の危険性が増すと言われている。
  • 腰痿(腰フラ、ウォブラー症候群) - 後躯の運動失調や感覚麻痺を主症状とする。生後12~24ヶ月齢の牡の若馬に多く発症し、急激な成長によって生じた頸椎の配列の不整、頸椎関節部の肥厚や骨棘、離断骨片などによる狭窄であり、脊髄が圧迫されることで生じる神経の損傷である。予後は悪く安楽死処分となるケースもあれば、温存療法で約30%の馬がレースに出走できるケースもある[59]
  • 輸送熱 - 長時間の輸送や疲労時の輸送により発症する病気。症状は感冒と同様で疲労・体温の上昇が起き、重症例では肺炎に移行することもある。
  • 馬パラチフス
  • 馬鼻肺炎
  • 馬伝染性貧血 - ウイルス感染によって発症する貧血症。ウイルスの特性上ワクチンが作れないため治療法が存在せず、陽性馬は感染拡大防止という防疫上の観点から摘発淘汰(殺処分)する規定になっていることから、馬にとっては致命的な疾病の一つ。現在の日本は清浄国で、この病気は存在しないが、過去には競馬場厩舎地区での集団感染により競走馬の大量殺処分などの事態が発生したことがある。
  • 馬インフルエンザ

注釈

  1. ^ 地方競馬全国協会業務方法書第18条の2
  2. ^ 旧法人による馬名登録実施基準は「日本軽種馬登録協会馬名登録実施基準[21]」にある。
  3. ^ ディープインパクト=「大震撼」など。
  4. ^ 戦後ではゴールデンユートピアが唯一の10文字馬名である。[要出典]
  5. ^ 2019年11月17日デビューの「ラガービール」、2022年にデビューした「ジャスコ」など。
  6. ^ 子孫に2018年のNARグランプリ年度代表馬のキタサンミカヅキ等がいる。
  7. ^ 2004年以前は対象となる競走が一部異なっていた。
  8. ^ 2005年のみコックスプレート
  9. ^ 2020年は新型コロナウイルスの影響により開催中止。
  10. ^ a b G1レースはパートI国のみ。
  11. ^ 本来の意味は血統表で太字で表記される馬のことであり、ここでは特定のレースを勝利した馬のことを指す。日本の対象レースはJRAの重賞リステッド競走及び地方の交流重賞である。
  12. ^ 同馬は2021年のジャパンカップ優勝馬であるが、2020年時点で国際保護馬名として登録された。
  13. ^ 中京競馬場は2012年再開のリニューアルオープンに際して、周回距離が延長され最後の直線に坂が設けられたため、中央競馬からは「平坦」「左回り」「小回り」の3条件を満たす競馬場がなくなった。
  14. ^ 日本軽種馬協会『JBBA NEWS』2006年9月号の武市銀治郎の記事によると、高砂、四ツ谷、老松、巴黎、吾妻、第二四ツ谷などが歴史に名を残した。高砂も参照。

出典

  1. ^ かつては数え1歳
  2. ^ 北海道方言辞書 索引トップ用語の索引ランキング北海道方言辞書北海道方言辞書 とねっこ
  3. ^ a b c 櫻井他 2004, p. 74.
  4. ^ 「日本中央競馬会競馬番組一般事項」IIの11「痼疾馬の出走制限」第1項に規定。
  5. ^ 【阪神6R】メロディーレーン レコードV!最少体重優勝記録を2キロ更新 スポニチ(2019年9月29日)2019年12月22日閲覧
  6. ^ グランローズがJRA最少体重出走記録を37年ぶりに更新 ラジオNIKKEI(2011年1月22日)2015年1月9日閲覧
  7. ^ JRA史上最軽量!334キロ馬デビュー サンケイスポーツ(2011年1月23日)2015年1月9日閲覧
  8. ^ “大物”新馬に2つの目標 東京スポーツ(2013年1月27日)2015年1月9日閲覧
  9. ^ 3歳馬ではJRA最高馬体重出走 JRA史上3番目に重い馬体重でショーグンが出走 ラジオNIKKEI(2013年11月3日)2015年1月9日閲覧
  10. ^ 警視庁騎馬隊
  11. ^ 「満13歳のゴールデンバージが復活勝利」十勝毎日新聞』電子版「ばんえい十勝劇場」(2010年7月24日閲覧)
  12. ^ ホッカイドウ競馬の競走能力・発走調教検査で13歳馬が合格”. 日本軽種馬協会「競走馬のふるさと案内所」 (2013年9月17日). 2016年6月7日閲覧。
  13. ^ 櫻井他 2004, p. 9.
  14. ^ 矢作 2008, p. 130.
  15. ^ 中央競馬の馬主活動(日本語版) (PDF) 」(P.25) 2012年9月30日閲覧
  16. ^ a b 列島をあるく■地域のチカラ、地元のタカラ:引退馬を活用し命を救う/再調教 乗馬用や神事に/各地で試み 教育にも『朝日新聞』朝刊2021年6月22日(道内面)2021年8月10日閲覧
  17. ^ 「引退馬 癒し・健康に/TCC、滋賀に交流施設」日経MJ』2018年7月13日(シニアBiz面)2018年10月3日閲覧
  18. ^ 勝てなくなっても 走れなくなっても――引退馬に生きる道を/競走馬の余生 牧場で見守る/支援の輪「ウマ娘」で広がり『朝日新聞』夕刊2022年8月5日1面(2022年8月15日閲覧)
  19. ^ 豪競走馬、年数千頭が虐待され食肉処理か 日本にも輸出 潜入調査報道”. AFP (2019年10月18日). 2019年10月18日閲覧。
  20. ^ a b 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル馬名登録基準” (PDF). 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル (2012年11月27日). 2015年7月21日閲覧。
  21. ^ 日本軽種馬登録協会馬名登録実施基準” (PDF). 財団法人日本軽種馬登録協会. 2015年7月21日閲覧。
  22. ^ a b c 1つのレースで同じ馬名の2頭が対戦(イギリス・アイルランド)[その他]”. 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル. 2022年7月28日閲覧。
  23. ^ a b c d e f g h 池田 2010, p. 40.
  24. ^ ザ・キング”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  25. ^ ザ・ビクター(NZ)”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  26. ^ ラ・フウドル”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  27. ^ a b c d 珍名馬年表”. 競馬道online. 珍名馬アワード in 20 century. 2020年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月26日閲覧。
  28. ^ 「ヲ」馬名と「ヴ」馬名。
  29. ^ 馬名登録実施基準.日本軽種馬登録協会
  30. ^ a b c d 優駿』2002年1月号 156頁
  31. ^ 優駿
  32. ^ 『優駿』2014年6月号、85頁。 
  33. ^ 競馬成績書 昭和9年 春季”. 2014年2月28日閲覧。
  34. ^ [外]アルマダ号の勝馬投票券における馬名表記(JRAホームページ、2009年6月4日)[リンク切れ]
  35. ^ NZ産まれ(アール・エフ・ラジオ日本「うまログ」、2009年6月6日)
  36. ^ 馬名登録実施基準』(プレスリリース)公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル、2012年11月27日https://www.jairs.jp/contents/pdf/bameitouroku.pdf2020年4月5日閲覧 
  37. ^ トヨタクラウン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  38. ^ (1951年生まれの馬)ヒヤキオーガン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  39. ^ (1961年生まれの馬)ヒヤキオーガン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  40. ^ タチカワの歴史”. 立川ピン製作所. 2018年6月1日閲覧。
  41. ^ タチカワボールペン”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  42. ^ マルマンガスライタ”. JBISサーチ. 日本軽種馬協会. 2018年6月1日閲覧。
  43. ^ 日本中央競馬会『優駿』2000年5月号、p.167
  44. ^ 地方競馬全国協会業務方法書
  45. ^ タケユタカ”. JBISサーチ. 2014年3月31日閲覧。
  46. ^ 『優駿』2011年8月号、166頁。 
  47. ^ デイリースポーツ 2016年5月17日 ダービー制覇へ 3代目ヒシマサル登場
  48. ^ a b c 優駿』1982年9月号、p.128
  49. ^ 『優駿』1987年11月号 p.62
  50. ^ 大橋 1989, p. 81.
  51. ^ INTERNATIONAL LIST OF PROTECTED NAMES”. IFHA. 2020年3月6日閲覧。
  52. ^ INTERNATIONAL LIST OF PROTECTED NAMES”. IFHA. 2021年3月2日閲覧。
  53. ^ 馬名にⅡ(セカンド)が付く馬
  54. ^ a b 『イギリス文化と近代競馬』彩流社、2013年10月25日、32-34頁。 
  55. ^ コース紹介:札幌競馬場 JRA”. JRA. 2020年5月4日閲覧。
  56. ^ 小島 2002, p. 172.
  57. ^ 熱中症にかかる馬は14倍に 暑さ対策にシャワーも登場 - 日本経済新聞 2020年8月1日
  58. ^ “災害級の暑さ”は競走馬にも大敵 JRAが進める熱中症対策とは? - netkeiba.com 2023年8月31日
  59. ^ 馬の資料室(日高育成牧場): サラブレッドの「ウォブラー症候群」について - 日本中央競馬会 2020年1月6日
  60. ^ 岩手競馬が刑事告発 禁止薬物問題”. 産経新聞 (2019年1月24日). 2019年9月5日閲覧。






競走馬と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「競走馬」の関連用語

競走馬のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



競走馬のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの競走馬 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS