競走馬 競走馬の性質・癖

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競走馬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 05:20 UTC 版)

競走馬の性質・癖

競走馬の持つ性質や癖について記述する。

性質

知能

競走馬に限らず、馬は動物の中でも比較的知能が高い。

生物の知性は一般的に脳と全体の比率によって知性の高さが予測できる。そのためただ単に脳の総重量が大きいからといって人間より知性が高いとは限らない。たとえば、知能が高い動物として知られるイルカの脳は人間のそれよりも重量が大きいが、全体の比率が人間よりも小さい。全体の総重量と比較して、脳の比率が馬よりも高い生物には、ヒトイヌサルネコなどがいる。

ただし、他の生物と比較して、記憶力は非常に良いという結果がでている。実際に牧場で飼育されている馬などにもそのような姿を見られることがある。

例えば引退後に社台スタリオンステーションにて繋養されていたエルコンドルパサーは、冬に道が凍結していた時にその道で足を滑らせ、怪我は無かったものの転倒してしまった。それからというもの彼は、冬場にその道を通行する際には非常に注意深く歩くようになったという。さらに夏場でも、撒いた水で道路がキラキラと光っているのを見て非常におびえ、ひどいときは恐怖のあまりひざをついてしまうこともあったらしい。

またアメリカの研究者が20セットの図形を用いて馬の学習能力の検討を行った。図形を1セットずつ用意し、そのうちの一方を正解と決め、どれか1セットを馬の前に差し出したときに正しい方を鼻で指し示せば餌を与えるということを繰り返した。これを完璧に覚えるまでの期間は、毎日20分を93日だった。これはイヌやネコと比較しても遅かったが、それ以降同じ訓練を半年間まったく行わなかったにもかかわらず、半年後に同様のテストを行ったところ、正解率は73%という非常に優秀な結果が出た。

さらに、競走馬がレース中にゴール板の位置を意識してレースをするという例は有名である。無敗で日本の中央競馬クラシック三冠を達成したディープインパクトが、菊花賞のレース中に突然ペースを上げるシーンがあった。これは、馬がゴール板の位置を覚えていたため、コースを1周半するレースの1周目のゴール板通過を正規のゴールと勘違いし、そこにたどり着くまでに先頭に立たなければならないと思い込んで馬が勝手にスパートをかけたと、騎乗していた武豊が語っている。ディープインパクトは1周目のゴール板を通過した後に落ち着きを取り戻しており、レースがまだ終わっていないことを理解したと想像されている。

また、同じく無敗の中央競馬クラシック三冠を達成したシンボリルドルフは、東京優駿において鞍上の岡部幸雄がレース終盤の大欅向こうの3コーナーに馬の位置取りが後方で反応があまりにも悪かったために焦って早めにしかけたものの反応せず、鞭を入れてもそ知らぬ顔をしていたという。ところが直線に入ったとたん突然の猛スパートをかけ、見事に優勝した。後日岡部は、ルドルフがスパートをかけた時に「しっかり捕まっていろ」とルドルフが言った気がした、と語っている。この経験から、岡部は「ルドルフに競馬を教えてもらった」と語っている。

当然馬が人語を解するわけは無いが、高度な状況判断の能力があり、状況によっては自ら判断を下すということは競馬界では良くあるらしい。

重要なレースが近くなるにつれて、周囲の関係者の様子やカイバの内容によって重要なレースが近いと感じることは良くあることのようで、更に名馬の多くにはレースにあわせて自らの体重を走りやすい程度に調整するといったこともある。

精神

馬は、一般的に臆病でデリケートな性格の動物である。競走馬もこの例外ではなく、突然の大きな音などにおびえたり(上記エルコンドルパサーの例も参照)、驚いて立ち上がったり走り出したりすることもある。過去には競馬場から逃走した例もある(スーパーオトメ)。競馬場のパドックでカメラのフラッシュ撮影や大きな音を出すことが禁じられているのはこのためである。

知能の高さや警戒心の強さなどから、極端に気難しい性格を示す個体も少なくない。育成過程の中で受けたストレスなどが原因の場合もあるが、気性は親馬から先天的に遺伝すると考えられている。例として19世紀末から20世紀初頭にかけて世界的な一大血脈を築き上げた大種牡馬、セントサイモンは現役時代から激しい気性を持つ馬として知られ、産駒の多くにも気性難を伝えた。

物見

競走馬は基本的に臆病な性格で警戒心が強い。特に初めて足を踏み入れた場所や初めて見る対象に対して強い警戒感を示す。これを物見といい、レースや調教において走りに集中できない要因となることがある。これらは調教によって克服することが望ましいが、馬の視界の一部を遮ることで改善を図る馬具(ブリンカーシャドーロールなど)の装着が認められている。

  • 咬癖 - 人に噛み付く癖。咬癖がある競走馬の頭部に、赤いリボンや丸い飾り玉をつける場合がある。
  • 蹴癖 - 人を蹴る癖。蹴癖がある競走馬の尻尾に、赤いリボンをつける場合がある。なお、馬の蹴りは非常に威力が強く、馬に蹴られたことによって人が死亡したという例も存在している。
  • 齰癖(グイッポ) - 空気を飲み込む癖のこと。齰癖をもつ競走馬は疝痛(腹痛)を起こしやすい。
  • 熊癖 - 身体を左右に揺らす癖。船ゆすりともいう。
  • 身っ食い - 自らの胸部や前脚を噛む癖。
  • 前掻き - 前脚で地面を削るような仕草をすること。欲求不満やストレスなどを示す、感情表現の一つと考えられている。

注釈

  1. ^ 地方競馬全国協会業務方法書第18条の2
  2. ^ 旧法人による馬名登録実施基準は「日本軽種馬登録協会馬名登録実施基準[21]」にある。
  3. ^ ディープインパクト=「大震撼」など。
  4. ^ 戦後ではゴールデンユートピアが唯一の10文字馬名である。[要出典]
  5. ^ 2019年11月17日デビューの「ラガービール」、2022年にデビューした「ジャスコ」など。
  6. ^ 子孫に2018年のNARグランプリ年度代表馬のキタサンミカヅキ等がいる。
  7. ^ 2004年以前は対象となる競走が一部異なっていた。
  8. ^ 2005年のみコックスプレート
  9. ^ 2020年は新型コロナウイルスの影響により開催中止。
  10. ^ a b G1レースはパートI国のみ。
  11. ^ 本来の意味は血統表で太字で表記される馬のことであり、ここでは特定のレースを勝利した馬のことを指す。日本の対象レースはJRAの重賞リステッド競走及び地方の交流重賞である。
  12. ^ 同馬は2021年のジャパンカップ優勝馬であるが、2020年時点で国際保護馬名として登録された。
  13. ^ 中京競馬場は2012年再開のリニューアルオープンに際して、周回距離が延長され最後の直線に坂が設けられたため、中央競馬からは「平坦」「左回り」「小回り」の3条件を満たす競馬場がなくなった。
  14. ^ 日本軽種馬協会『JBBA NEWS』2006年9月号の武市銀治郎の記事によると、高砂、四ツ谷、老松、巴黎、吾妻、第二四ツ谷などが歴史に名を残した。高砂も参照。

出典

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