影 文化的現象としての影の意味

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/05 10:15 UTC 版)

文化的現象としての影の意味

人間の心理における影の概念の多様さと重要さが、影の神話や影の暗喩、また様々な思想的な意味を担って文化的に現象したと言える。人の生と死をめぐる影の現象学があり、また影の意味を問いかける文学が存在する。

宗教における影

影は、想像に現れる死者などのイメージであり、魂に付随する第二の魂でもある。自分自身の姿を見ることを「自己視」というが、自己視は魂の身体からの離脱を意味し、「二重身(ドッペルゲンガー)」の現象と関連する。

影ははかない魂であり、そのイメージであるが、自分自身で自分の影を見ることは、ある文化の解釈では、死を前にしていることを意味した。自分の姿を外部に見ることを「影の病」とも称したが、それは死の自覚であった。

魔術における影

魔術呪術においては光に対応する闇としてなど、多様な象徴性を持つ。また影にも本体の魂の一部がある、という考えがあり、それは他人、特に目上の人の影を踏まないという礼儀作法などとして表現される。

ファンタジーにおける魔術では、忍術で用いられる「影縫い」が有名である。忍者が敵の影である地面に手裏剣を投げると、本来物理的関係のない本体が傷ついたり行動不能になったりする。これは人形同様本体との呪術的な関係性をイメージしてと考えられる。他にも影が本体から離れて活動する忍術も見られる。また魔物の本体が、鏡像や絵同様、影であるケースもある。

心理学における影

影の現象は、宗教的に重要な意味を持ち、人の生死と関係していた。人の生死は、肉体的な意味の生死と、心理的な意味の生死があり、人の発達と成長は、心理的に未熟な自己の死を経験し通過し、新しい自己として生まれることであるとも言える。

このような構想において、カール・グスタフ・ユングは彼の分析心理学において、自我を補完する元型として、影(Schatten)の元型を提唱した。影の元型は分析の初期の段階で現れることが多く、また異性として現れるアニマアニムスと違って、被分析者と同性の人物として現れることが多い。影は、その人の意識が抑圧したり、十分に発達していない領域を代表するが、また未来の発展可能性も示唆する。その人の生きられなかった反面をイメージ化する力といえよう。

影は否定的な意味を持つ(しばしば恐怖の対象としてイメージ化される)場合が多いが、この否定性を乗り越えて、自己を発達させねばならない。それは影を無意識の世界に追いやるのではなく、むしろ影との対決、影を自分自身の否定的側面、欠如側面と意識化し、影を自我に統合することが、自我発達の道であり、自己実現の道(個性化の過程)であるとユングは唱えた。

文学における影

宗教的・心理学的に、影が個人にとって重要な何かだということは、文学のなかでも取り上げられている。日本において、戦国時代の武将などに使われた「影武者」という概念は、本体を守るために、二次的な模造者を代理的に立てることであるが、黒澤明の『影武者(1980年)』が示すように、影が本体と交替する可能性を持つ。

隆慶一郎の『影武者徳川家康』では、関ヶ原緒戦で暗殺された家康本人に代わって、影武者世良田次郎三郎が活躍するが、影の方が実像の家康よりも生き生きとして才知に満ちている。戦国時代の天下人であった織田信長豊臣秀吉、そしてここで述べた徳川家康の性格や、生き方を考えるとき、互いのあいだの影の投射や受影の現象が交錯していた。どれだけ深く無意識と自我のあいだの調整を取れたかが、武将や政治家たちの運命を決めたとも、ユング心理学的には言える。

影が人間にとっていかに重要な存在かということは、ドイツの作家、アーデルベルト・フォン・シャミッソーの『影をなくした男』の物語に示されているとも言える。ペーター・シュレミールは、無尽蔵に金貨が手に入るという魔法の誘惑に負けて、悪魔に自分の影を売り渡す。しかし、富を手に入れたシュレミールは、逆に「影」がいかに重要なものか、それが彼自身の存在の意味にも関わるかを覚る。影は、人間の自我に陰翳を与え、立体的な存在として支えるのである。




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