電気の缶詰とは? わかりやすく解説

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アルミニウム

(電気の缶詰 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/12 00:41 UTC 版)

マグネシウム アルミニウム ケイ素
B

Al

Ga
13Al
外見



アルミニウムのスペクトル線
一般特性
名称, 記号, 番号 アルミニウム, Al, 13
分類 貧金属
, 周期, ブロック 13, 3, p
原子量 26.9815386(13) 
電子配置 [Ne] 3s2 3p1
電子殻 2, 8, 3(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 2.70 g/cm3
融点での液体密度 2.375 g/cm3
融点 933.47 K, 660.32 °C, 1220.58 °F
沸点 2792 K, 2519 °C, 4566 °F
融解熱 10.71 kJ/mol
蒸発熱 294.0 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 24.200 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 1482 1632 1817 2054 2364 2790
原子特性
酸化数 3, 2, 1
(両性酸化物)
電気陰性度 1.61(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 577.5 kJ/mol
第2: 1816.7 kJ/mol
第3: 2744.8 kJ/mol
原子半径 143 pm
共有結合半径 121±4 pm
ファンデルワールス半径 184 pm
その他
結晶構造 面心立方格子構造
磁性 常磁性[1]
電気抵抗率 (20 °C) 28.2 nΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 237 W/(m⋅K)
熱膨張率 (25 °C) 23.1 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(r.t.) (rolled) 5000 m/s
ヤング率 70 GPa
剛性率 26 GPa
体積弾性率 76 GPa
ポアソン比 0.35
モース硬度 2.75
ビッカース硬度 167 MPa
ブリネル硬度 245 MPa
CAS登録番号 7429-90-5
主な同位体
詳細はアルミニウムの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
26Al trace 7.17×105 y β+ 1.17 26Mg
ε - 26Mg
γ 1.8086 -
27Al 100 % 中性子14個で安定

アルミニウム: aluminium, : aluminum[注 1], : alūminium[3])は、記号Al、原子番号13の化学元素である。アルミニウムは他の一般的な金属よりも密度が低く、鋼鉄の約3分の1である。酸素との親和性が高く、空気に触れると表面に酸化物の保護膜が形成される。外観はに似ており、色も光を反射する性質も強い。軟らかく、非磁性延性がある。アルミニウムの同位体組成はほぼ100%が安定同位体27Alであり、この同位体は宇宙で12番目に多い核種である。26Al放射能放射年代測定に利用される。

化学的には、アルミニウムはホウ素族後遷移金属であり、他のホウ素族元素同様、主に酸化数+3の化合物を形成する。アルミニウム陽イオンAl3+イオン半径が小さく、強く正に帯電しているため分極性が高く、アルミニウムが形成する結合共有結合になる傾向がある。酸素との親和性が高いため、天然には酸化物の形でみられることが多い。このため、地球上ではアルミニウムはマントルよりも地殻を構成する岩石中に主に存在し、地殻中における存在度は酸素とケイ素に次ぐ第3位を占める。遊離金属の形でみられることはほぼ皆無である。

アルミニウムは、1825年デンマークの物理学者ハンス・クリスティアン・エルステッドによって発見された。アルミニウムが最初に工業生産されたのは1856年であり、フランスの化学者アンリ・エティエンヌ・サント=クレール・ドビーユによる。1886年にフランスのポール・エルーとアメリカのチャールズ・マーティン・ホールがそれぞれ独自に開発したホール・エルー法により大量生産法が確立され、アルミニウムは一般に広く普及し、産業や日常生活で広く使われるようになった。第一次第二次世界大戦においては、アルミニウムは航空にとって重要な戦略資源となった。1954年には、アルミニウムの生産量はを抜き、最も多く生産される非鉄金属となった。21世紀におけるアルミニウムの用途は、主に輸送、エンジニアリング、建設、包装が占める。

環境中に広く存在するため、生物学的な役割をもつ可能性が考えられ、現在も研究が続いているが、これまでにアルミニウム代謝に用いる生物は知られていない。ただし、動植物は高いアルミニウム耐性を持つことが知られる。

名称

軽銀(けいぎん)、礬素(ばんそ)とも呼ばれる。軽銀は、軽いことと、外見が銀に似ていることにちなむ。礬素は、ミョウバン(明礬)にちなむ[4]

アルミニウムは、化合物のミョウバン: alumen、アルーメン)にちなみ、イギリスの化学者ハンフリー・デービーらによって命名された[5][2]

俗にアルミまたはニュームとも略される[5]

単体の性質

単体は銀白色の金属で、常温常圧で高い熱伝導性電気伝導性を持ち、加工性がよく、実用金属としては軽量であるため、広く用いられている。熱力学的に酸化されやすい金属ではあるが、空気中では表面にできた酸化皮膜により内部が保護されるため高い耐食性を持つ[6]

単体は常温常圧では良好な熱伝導性電気伝導性を持つ。融点660.32 °C沸点2519 °C(別の報告もある)。密度2.7 g/cm3で、金属としては軽い。常温における安定面心立方格子構造をとる。アルカリに侵されやすいが、空気中では表面酸化アルミニウムAl2O3の膜ができ、内部は侵されにくくなる。この保護現象は酸化物イオンO2−のイオン半径(124 pm)とアルミニウムの原子半径(143 pm)が近く、アルミニウムイオンAl3+68 pm)が酸化物の表面構造の隙間にすっぽり収まることが深く関係している。また濃硝酸に対しても表面に酸化被膜を生じ反応の進行は停止する(不動態[7][8]陽極酸化による酸化被膜アルマイトとも呼ばれる。

化学的性質

アルミニウムは両性金属で、にも塩基にも溶解する。塩基性の水溶液では、以下の反応によって還元されて水素を発生する。

アルミニウムの原料となるボーキサイト。赤い色をしているのは、中に含まれている分のためである

アルミニウムは、鉱石のボーキサイトを原料としてホール・エルー法で生産されるのが一般的である。ボーキサイトを水酸化ナトリウムで処理し、アルミナ(酸化アルミニウム)を取り出したあと、氷晶石(ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム、Na3AlF6)とともに溶融し電気分解を行う。

したがって、アルミニウムを作るには大量の電力が消費されることから「電気の缶詰」と呼ばれる。ちなみに、ホール・エルー法での純度は約98 %であるため、より高純度なアルミニウムを得るには三層電解法を使う。

アルミニウム1トンを生産するために消費される、材料および電力は以下の通りである[9][11]。なお、1トンあたりの電力使用量はで1200 kW⋅h亜鉛で4000 kW⋅hであり[12]、アルミニウムの製錬には銅の約11倍、亜鉛の約3.5倍の電力が必要となる計算になる。

  • アルミナ 1.96トン(ボーキサイト 4トン)
  • 氷晶石 0.07トン
  • 炭素陽極 0.5トン
  • 電力 13–14 MW⋅h

電力価格が高いためコスト競争に弱い[11]日本国内のアルミニウム製錬事業は、オイルショック後採算困難になり、大部分は国外に拠点が移った[9]。日本国内で原石(ボーキサイト)から製品まで一貫生産を行っていたのは、自前の水力発電所により自家発電を行っているため、低価格の電力が入手可能な日本軽金属(蒲原製造所・静岡市清水区)のみであったが、設備の老朽化と採算性の理由で2014年3月閉鎖された[13]昭和電工社長の鈴木治雄は、座談会において「日本で製錬を行うのは、北海道サトウキビを作るようなもの」と述べており[14]、いかに日本で製錬した場合の費用が高いかを比喩的に表現している。

順位 アルミニウム
生産量
(万トン)
 世界合計 4930[15]
1 中国 2330[15]
2 ロシア 350[15]
3 カナダ 294[15]
4 アラブ首長国連邦 240[15]
5 インド 210[15]
6 アメリカ合衆国 172[15]
7 オーストラリア 168[15]
8  ノルウェー 120[15]
9 ブラジル 96[15]
10 バーレーン 93[15]
11 アイスランド 81[15]
12 南アフリカ共和国 73.5[15]
13 カタール 61[15]
14 モザンビーク 56[15]
15 サウジアラビア 50[15]
15 ドイツ 50[15]
16 アルゼンチン 42.5
 その他 444[15]

アルミニウムの生産量は2014年時点で4930万トンに及ぶ。中国が約40 %を生産し、これにロシアカナダを加えた3か国で生産量の過半数を占める。中国、ロシアはボーキサイト原産国でもある。ほかのボーキサイト原産国であるアメリカオーストラリアブラジルインドも世界生産量のシェア10位以内に含まれる。一方で、ボーキサイトの世界4位の生産国であるギニアや同第5位のジャマイカでまったくアルミニウムが生産されていないように、ボーキサイトの生産とアルミニウムの精練工場との間にはそれほど強い関連性はない。

これに対し、電力供給とアルミニウム製錬工場との間には強い相関性がある。アルミニウムは製錬に非常に多くの電力を消費するため、ボーキサイトからの精練は電力の安い国で行われる傾向が強い。アラブ首長国連邦カタールは豊富な石油を元にした火力発電で、またカナダノルウェーは地形を生かした水力発電で、アイスランドは水力発電と地熱発電によっていずれも電力が安価であるため、アルミニウムの大生産国となっている。14位のモザンビークは、カホラ・バッサ・ダム英語版の豊富な電力に目をつけたBHPグループ三菱商事が製錬会社としてモザール社を設立し、2000年に工場が稼働し始めたことで大生産国となった。ここで製錬されたアルミニウムはモザンビークの総輸出額の50 %を占め[16]、モザンビークの基幹産業として同国の経済成長を支えている。

アルミニウムの消費量も中国が飛び抜けて多く、2014年には2406万トンを消費して、全世界生産量5005万トンのほぼ半分を消費している。消費量は次いで米国が多く、さらにドイツ、日本と続く[17]

アルミニウム生産企業としては、カナダリオ・ティント・アルキャン、ロシアのルサール(ロシア・アルミニウム)、アメリカのアルコア、中国の中国アルミニウムなどが特に大きな生産企業である。日本国内ではすでに精練は行われていないが、圧延や加工に関しては地金を海外から輸入したうえで盛んに行われており、日本軽金属UACJ神戸製鋼などがおもなメーカーとなっている。

電力を必要としない生産方法

アルミニウムは電気分解以外の手法でも製造が可能である。たとえばアルミナを2000 °C以下で炭素と反応させ、炭化アルミニウムを生成させる。これを2200 °C以上の高温部へ移動させ、今度はアルミナと反応させて金属アルミニウムと一酸化炭素に分離させる[18]

化学式としては以下の通りである。

1円硬貨。純アルミニウムである
アルミホイル
アルミホイル製のカップ

20世紀のうちにアルミニウム及びそれを主体とする合金は鉄鋼材に次ぐ主要金属材料としての地位を確立している。日用品も多く、非常に生活に身近な金属である。天然には化合物のかたちで広く分布し、ケイ素酸素とともに地殻を形成するおもな元素のひとつである。自然アルミニウム(Aluminum、Native Aluminum)というかたちで単体での産出も知られているが、稀である。単体での産出が稀少であったため、自然界に広く分布する元素であるにもかかわらず発見が19世紀初頭と非常に遅く、上述のとおり製錬にも大きなエネルギーを必要とすることから産業的に広く使用されるようになるのは20世紀に入ってからと、金属としての使用の歴史はほかの重要金属に比べて非常に浅い。

アルミニウムの比重は鉄の3分の1程度と軽量であるために利用しやすく、また、軟らかくて展性も高いなど加工しやすい性質を持っており、さらに表面にできる酸化皮膜のためにイオン化傾向が大きい割には耐食性もあることから、一円硬貨アルミ箔、缶(アルミ缶)、外構エクステリア、建築物の外壁、道路標識、ガソリンエンジンシリンダーブロック自転車フレームリム、パソコンや家電製品の筐体など、さまざまな用途に使用されている。ただし大抵はアルミニウム合金としての利用であり、1円硬貨のようなアルミニウム100 %のものはむしろ稀な存在である。代表的なアルミニウム合金であるジュラルミン航空機材料などに用いられているが、金属疲労に弱く、腐食しやすいという欠点を持つため、アロジンクロメート処理)やジンククロメートで表面を保護し、定期的な点検で腐食部を早期に発見する体制を取ることが求められる。

2014年度において、日本のアルミニウム用途でもっとも大きかった用途は輸送用機械の製造であり、40.1 %を占める。次いでアルミサッシなどの建築用途が12.9 %、アルミ缶やアルミ箔などの容器包装用途が10.6 %を占め、この3分野がおもなアルミニウムの用途であるといえる[25]

輸送用機械

軽量で加工性もよいことから、軽さと強度の両立のため部材形状の工夫も求められる航空機ではアルミ合金が主流となった。冷戦中盤あたりまで、塗装まで削って軽量化したアルミの銀色の輝きは高速航空機の象徴であった(ただし20世紀末頃からさらなる性能向上の要求のため炭素繊維複合材料やチタン合金等の新素材の割合が増えつつある)。鉄道車両でも新幹線電車をはじめとして特急型電車や通勤型電車などでアルミ車体の採用例も多い。押し出し材を使って長大な部材を一体成型し、さらに連続溶接組立する低コスト化量産法が確立され、同一断面を保った16–25 mに及ぶ車体を持つ鉄道車両では、生産性の面でメリットが大きい。なお、一時期自動車も航空機材料に倣うかたちでアルミ化の取り組みがあったが、一部メーカーの高級車やスポーツカーなど特殊な車種での導入に留まり、費用対効果を両立させるため、現在はアルミではなくハイテン材料(高張力鋼)の適用が進み、また炭素繊維の適用も始まっている[26]。軽量さが要求される高速船でもアルミが船体材料に選択されることがある。アルミ合金は軍事分野では装甲車輌や戦闘艦にも応用されているが、鉄鋼に比べて火災時の高熱や被弾に弱いため、軽量さを求められる小型の艦船や、自走砲など直接敵と交戦することを想定しない装甲車輌での使用が主流である。

建材

構造材としての使用もある(アルミニウム構造)が、窓枠(アルミサッシ)やフェンス等、外構での使用が多い。工場での規格集中生産により高い精度で加工されており、また軽量であるため、建付けや現場での組み立てやすさ、基本的な耐候性が優秀で、1960年代以降急速に普及した。しかし、断熱性の問題から窓ガラスともども結露を生じやすく、近年は代替品として樹脂サッシや現代化された木製サッシが増えている[27]

導電体

高圧送電線にもアルミニウム線が使用される。に比べ単位体積あたりの電気伝導度は劣るが、密度が低いため銅線よりも軽量に抑えながら断面積をより大きく取る(太くする)ことができ、単位質量あたりの電気伝導度で優り材料費でもほぼ拮抗する。このため支柱(送電鉄塔)のスパンが大きくなる高圧送電線の材料として有利である。

粉末

粉末になったアルミニウムは可燃物であり、粉塵爆発を起こす場合がある。アルミニウム粉は燃焼熱が大きく、燃焼するときにガスを生じないため熱が集積して高温となり、強い白色の光を発する。これを利用して火薬類に発熱剤として添加される。スペースシャトルの固体燃料補助ロケットでも燃料として使用された。アルミニウム粉の性質は表面積の大きさによって左右されるため、等級は粒度ではなく重量あたりの表面積を示す水面拡散面積で表示される場合が多い。粒度で表示されるような粒の大きいものは粒状アルミニウム粉(アトマイズドアルミニウム粉)と呼んで区別することが多い。

スラリー爆薬などの水湿状態の火薬に混ぜると、アルミニウムの表面で以下のような反応が起きて発熱し、水素が発生する。このため、アルミニウム粉の火災には水をかけることは禁忌である。

アルミニウムの性質を研究したフリードリヒ・ヴェーラー(1856年)

アルミニウムの歴史はミョウバン(明礬)の使用で始まった。ミョウバンの記述が最初に文書に残されたのは、紀元前5世紀の古代ギリシア歴史家ヘロドトスによる記述だった[33]。古代人にとって、ミョウバンは媒染剤、薬、そして(要塞を敵の放火から守るための)木の防火塗料であり、ウェットエッチングにも使用した[34]十字軍以降、ミョウバンは国際貿易の商品のひとつになり[35]、ヨーロッパの織物業では欠かせない存在になった[36]。ミョウバンは15世紀中期にオスマン帝国が輸出関税を大幅に上げるまで、地中海東部からヨーロッパに輸出された。

ルネサンス初期まで、ミョウバンの性質は不明のままだった。1530年ごろ、スイスの物理学者パラケルススはミョウバンをウィトリオル英語版硫酸塩)と区別し、「ミョウバンの土の塩」であると主張した[注 2][37]。1595年、神聖ローマ帝国の医師、化学者アンドレアス・リバヴィウスはミョウバンと緑ウィトリオル青ウィトリオルが同じ酸と違う土で構成されると示し[38]、ミョウバンを構成した未発見の土の名前については「アルミナ」を提唱した[37]。1722年、神聖ローマ帝国の化学者フリードリヒ・ホフマン英語版はミョウバンの土が別の種類であると信じると宣言した[39]。1754年、神聖ローマ帝国の化学者アンドレアス・ジギスムント・マルクグラフ英語版は硫酸で粘土を煮て、続いてカリを加えることでミョウバンの土を生成した[39]

1824年、デンマークの物理学者、化学者ハンス・クリスティアン・エルステッドは金属アルミニウムの作製に成功したと主張した。彼は無水英語版塩化アルミニウムとカリウム合金で化学反応を起こさせ、見た目がスズに似ている金属の塊を得た[40][41]。彼は1825年に結果を発表、新金属のサンプルを展示した。1826年、「アルミニウムは金属の光沢があり、やや灰色で、かなり緩やかに水を分解する」と記述した。1827年、ドイツの化学者フリードリヒ・ヴェーラーはエルステッドの実験を再び行ったが、アルミニウムは発見できなかった。彼は後にベルセリウスに手紙を書き、「エルステッドがアルミニウムの塊と仮定したものは確実にただのアルミニウムを含有するカリウムである」と述べた[注 3]。彼は続いて似たような実験を行った。その内容は無水の塩化アルミニウムとカリウムを混ぜることであり、アルミニウム粉末の作製に成功した[41]。彼は研究を続け、1845年に小さなアルミニウムの塊を作製することに成功、その物性を記述した。しかし、ヴェーラーの記述はそれが不純物を含むアルミニウムだったことを示している[43]。ヴェーラーなどほかの科学者がエルステッドの実験を再現できなかったことは、エルステッドが金属アルミニウムの発見者とされない理由のひとつになり、逆にヴェーラーは1845年の実験の成功とその詳細が発表されたことで金属アルミニウムの発見者とされた[44]

フランスの化学者アンリ・エティエンヌ・サント=クレール・ドビーユは、1854年にパリ科学アカデミーでアルミニウムの工業製法を発表した[45]。塩化アルミニウムはヴェーラーが使ったカリウムよりも便利で安いナトリウムでも還元することができるのであった[46]。その後、アルミニウム棒は1855年のパリ万国博覧会で初めて公開展示された[47]。1856年、ドビーユは数人のパートナーとともにルーアンの製錬所で世界初のアルミニウム工業生産を開始した[45]。1855年から1859年にかけてアルミニウムの価格は1パウンド500米ドルから40ドルまでと、10分の1以下に下落した[48]。しかし、ドビーユの製法でもアルミニウムの純度の高さが足りず、サンプルによって性質が異なった[49]

アルミニウムの最初の工業(大規模)生産法は1886年にフランスの工学者ポール・エルーとアメリカの工学者チャールズ・マーティン・ホールが開発したホール・エルー法である。ホール・エルー法がアルミナをアルミニウムに変える手法である一方、オーストリア=ハンガリー帝国の化学者カール・ヨーゼフ・バイヤー英語版は1889年にバイヤー法というボーキサイト(鉄礬土)をアルミナに純化する手法を発見した。現代の金属アルミニウム生産はバイヤー法とホール・エルー法に基づく手法を使用している。1920年にはスウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・セーデルベリ(Carl Wilhelm Söderberg)率いる研究チームがホール・エルー法を改良した。

同位体

市場

日本のアルミニウム地金輸入量は2021年は約280万トン、金額は7,463,024,528ドルで前年より60.9%上昇した。最大の輸入相手国はロシアである[50]。2021年から国際市場価格も変動しており、2022年ロシアのウクライナ侵攻のあとは3月に一時的な暴騰があった。

日本の造幣局財務省理財局の貨幣回収準備資金として1円玉の原料であるアルミニウム地金を保管しており、理財局が毎年数回、売払いの入札公告を行っている[51][注 4]

参考文献

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 北米ではaluminumの綴りが用いられ、国際的にはaluminiumの綴りが用いられる[2]
  2. ^ 訳注:ここでの「土」は西洋の四元素における土元素を意味する。
  3. ^ 原文:Was Oersted für einen Aluminiumklumpen hielt, ist ganz gewiß nichts anderes gewesen als ein aluminiumhaltiges Kalium.[42]
  4. ^ 産金法(1937年)、金、銀又は白金等の取引等取締に関する件(1945年)、貴金属地金の取引等についての帳簿及び報告に関する政令(1949年)の廃止と同時に新設された貨幣回収準備資金に関する法律(2002年)により、財務大臣は貨幣回収準備資金に属する地金(引換貨幣及び回収貨幣を含む)を貨幣の製造に要する地金として造幣局に交付することができる。

出典

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  49. ^ Drozdov 2007, p. 46.
  50. ^ 日本貿易図鑑「アルミニウムの輸入(輸入額、輸入先、輸入量)」
  51. ^ 財務省「地金の売払いスケジュール(地金の売払い見通し)」

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