現代文化と女性
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ファッション 女性の洋服は学生の制服から独身女性へと普及が進んだが、既婚女性は昭和初期まで主に着物だった。第二次大戦中のモンペがきっかけとなり、戦後に既婚女性の洋服が増えていった。欧米式の化粧品は、1950年代から普及が始まり1960年代に使用が急増した。「明るい」「清潔」「健康」などがキーワードとなり、バニシングクリームやコールドクリーム、ピンク系のファンデーションの使用が広まった。その後、重点は口元をへて1960年代に目元と移動してゆき、1970年代からは眉が注目されるようになった。流行のモデルや俳優の顔が意識されるにつれて、形状を変えやすい眉が重要性を増していった。 メディア 戦前から続いていた女性雑誌に加えて、戦後には1946年に『主婦と生活』、1948年に『暮しの手帖』(前身は『スタイルブック』)などが創刊された。『暮しの手帖』では衣類、家電、食品など家庭の日用品の品質を試したり国際比較をする商品テストの企画が人気を呼び、長期連載となった。戦後は女性雑誌の種類も増え、1983年には250誌となり日本史上最高を記録した。 性別に関する意識は、広告においても表現される。1961年から1993年に放送されたテレビCMの中で、ACC賞を受賞したCMを調査したところ、性的なステレオタイプ描写は減少していなかった。CM内の女性は従属者で家の中におり、商品のユーザーであり、商品のよさを説明せず、安い商品をすすめ、年齢層は若かった。これに対して男性は、家の外にいる有識者であり、商品の説明を行う役であり、高い商品をすすめる年配者だった。33年間で女性の社会進出には大きな変化があったが、その変化がCMには反映されていないことが判明した。 文学 戦時中の作家の行動は、戦後に大きな影響を与えた。反戦を表明して弾圧された者、戦争協力を明示しなかった者、戦争協力に積極的だった者がおり、葛藤を作品に反映させる作家、葛藤を明らかにしない作家などに分かれた。戦争協力を理由に文学団体入会を拒否される作家もいた。戦時中の翼賛的な作品がもとで論争も起きたが、これらの論争は男性を中心としており、女性は戦後の解放の中で活発化した。それまで男性作家の作品が多かったため「女流文学」という言葉も使われたが、寿岳章子は女性作家24作品のデータにもとづき、男性と女性の文体に差がないという結論を出した。 戦時中の抑圧下で子供時代をすごした1930年代生まれの作家にとって、戦後の解放感は多彩な活動となって表れた。短歌では、1949年に女人短歌会が設立された。俳句は、戦中までは大半が男性俳人だったが、戦後に女性の参加が増えていった。女性詩人は同人誌『女神』(1947年)を創刊して多くの詩人を輩出した。GHQの検閲廃止以降は原爆をテーマにした作品も増え、1960年代には性文化の変化や学生運動、公害による環境問題も影響を与えた。 フェミニズム運動の開始をへた1980年代に入ると、社会における女性の位置を意識する作品の他に、戦中まで少なかった性愛を描いた作品、ライトヴァースとも呼ばれる口語体や軽快な詩など作風が増えていった。演劇では、1974年に女性メンバーによる劇団青い鳥が設立され、現在の関心をもとにエチュードを重ねて舞台に表現し、それぞれ戯曲の制作も行った。戦中までは少なかったタイプの作家も活動できるようになり、年配から創作を始める作家も増えた。小児麻痺の影響により、足を使って執筆活動を行った箙田鶴子は『神への告発』(1977年)を発表した。幼少期からの困難や、女性障害者への差別、当時の障害者寮や医療における虐待が語られている。ハンセン病の患者でもある塔和子は、療養所生活の中で1950年代から詩作に励み、20冊の詩集を発表した。 女性作家やマイノリティの文芸作品が世界的に注目される流れの中で、翻訳によって日本作家の小説の読者も増えた。多和田葉子『献灯使』(マーガレット満谷(英語版)訳)や柳美里『JR上野駅公園口(英語版)』(モーガン・ジャイルズ(英語版)訳)が、全米図書賞翻訳部門を受賞した。 音楽 最初期の女性音楽家には、戦後も活動を続けた者も多かった。松島彝は自宅で音楽教室をひらいて人々に勉強の機会を提供した。金井喜久子は器楽曲の他に宝塚やオペラ、歌舞伎などの舞台音楽でも作曲し、女性の作曲は声楽曲といわれていたイメージをくつがえした。外山道子は、ミュージック・コンクレートに触発されて留学し、電子音楽を作曲した。吉田隆子は反戦活動で逮捕されてから病身となったが、戦後に歌曲や組曲を作り、与謝野晶子の詩をもとに『君死にたもうことなかれ』(1949年)を発表した。渡鏡子は作曲家と音楽学者の双方で活動し、明治から昭和の女性音楽家を紹介した『近代日本女性史第5巻 音楽』(1971年)を執筆した。 1946年にデビューし、1989年(平成元年)に死去した美空ひばりは、戦後の昭和時代を代表する歌手とも呼ばれる。1949年に12歳で映画デビューして1971年までに159本に出演し、歌手とともに映画俳優としてもスターだった。子役時代から性別を問わずに役を演じ、成長してからも男装と女装を使い分けて女性と男性の双方から人気を集めた。 舞台・映画・テレビ 日本人女性初のアカデミー賞受賞者は、ジャズ歌手で俳優のミヨシ・ウメキ(ナンシー梅木)だった。ウメキは『サヨナラ』(1957年)でアメリカ兵と婚約する女性を演じ、アカデミー助演女優賞を受賞した。これはアジア人俳優として初のアカデミー賞受賞でもあった。ブラジル日系2世の映画監督チズカ・ヤマザキ(英語版)は、1908年にブラジルに渡った日系移民女性の苦難をテーマに『ガイジン(英語版)』(1980年)を制作し、カンヌ映画祭特別賞など40近い映画賞を受賞した。NHKの連続テレビ小説『おしん』(1983年-1984年)は、明治末から昭和にかけて生きた女性を主人公として平均視聴率50%を記録し、国外でも70カ国以上で放送され、最も観られた日本発ドラマとなっている。2019年のベルリン映画祭では、HIKARI監督による『37セカンズ』が、史上初のパノラマ観客賞と国際アートシネマ連盟(CICAE)賞のダブル受賞をした。脳性麻痺の女性の成長物語という形式をとりつつ、他人との協力や自己表現、親子関係など身近で普遍的な問題を描いて高く評価された。 美術 戦後は女性芸術家も増加し、カテゴリーを横断する作家も増えた。草間彌生は増殖・反復・自己消滅をテーマとして絵画、彫刻、写真、小説や詩集を発表し、オブセッショナル・アートやサイコソマティック・アートと呼ぶ作品世界を展開した。石岡瑛子はグラフィック・デザイナーやアート・ディレクターとして活動し、日本人初のグラミー賞をはじめ、アカデミー衣裳デザイン賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、カンヌ国際映画祭などを受賞したほか、オリンピックの2008年北京大会で衣装デザインもした。 国公立の美術館4館を対象とした調査では、2019年時点で男性作家の作品が78%から88%を占める。全国55館の美術館職員は、学芸員は女性が74%と多いが、館長は男性が84%を占めていた。芸術祭のあいちトリエンナーレ(2019年)では、日本初の試みとして参加する芸術家の男女比を半々にすることが企画された。その結果、男女混在やカンパニーをのぞいた総数63組のうち32組が女性となり、過半数を女性が占めた。 スポーツ 日本のオリンピック参加は1952年ヘルシンキ大会から復帰となり、選手72名のうち11名が女性だった。1964年東京大会では355名のうち61名となり、特に女子バレーボールでの金メダル獲得が女性スポーツの社会的向上に影響を与えた。1960年代から国際オリンピック委員会(IOC)は議論を重ね、女性選手や女性役員の増加を推進した。女性選手は増加を続けたが、役員は男性が大半を占める状態が続いた。2004年から2012年にかけて、オリンピック日本選手の女性比は50%前後だったが役員は12%から15%であり、同年のパラリンピックは女性選手が40%、女性役員が30%とオリンピックよりも参加比が高くなった。IOCは2005年に女性役員参加比の目標数値を20%としたが、日本オリンピック委員会(JOC)の女性評議員は2014時点で61名中3名、2020年東京大会の組織委員会は43名中6名と達成できていない。 スポーツ界におけるハラスメントとしては、女子柔道強化選手への暴力問題(2013年)が起き、組織の体質が明らかにされた。伝統競技と女性に関するトラブルでは、2018年の大相撲の巡業がある。舞鶴市の市長が急病により土俵で倒れた際、救命処置をする女性に土俵から下りることを行司が求めたため問題となり、日本相撲協会の理事長が謝罪をした さまざまなスポーツ分野で女性参加が進むにつれて、記録も生まれていった。また、差別に対するアスリートの連帯も進んでいる。女子テニスでアジア人初のシングルス世界ランキング1位(2019年)を獲得した大坂なおみは、ブラック・ライヴズ・マターのデモに参加し、スポーツ界のジェンダー平等を目指すプレイ・アカデミーを設立した。 ノーベル賞 核兵器廃絶の活動をしている国際NGOの核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、2017年にノーベル平和賞を受賞した。ICAN発足から中心メンバーの1人として参加し、自らの被爆体験を語ってきた女性にサーロー節子がいる。
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