月経 月経の概要

月経

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/27 01:12 UTC 版)

月経周期における卵巣、基礎体温、ホルモン分泌、子宮内膜などの変化。

正式な医学用語は月経だが、「生理(せいり)」「女の子の日」「メンス」「アレ」など様々な名称で呼ばれる。他には「名称」節を参照。

名称

古事記』の、倭健命美夜受比売の服に経血の跡を見付けて交わし合った歌についての説明に「月経」という文字の並びが登場し[5]、これが日本に於ける初出とされている。1872年、奥山虎章が『医語類聚』にて 「Menses」 「Menstruation」の訳語として「月経」を採用する[6]

月経という言葉が普及する以前は「月水」「経水」などと呼ばれていたが、時代や階級などによって様々な名称で呼ばれた(例:「おまけ」「おめぐり」「はつはな」「めぐり」「おてなし」「かりや」「おてあい」等[7])。おおよそ1ヶ月の周期であることから、古くから「月の障り」と呼ばれ、異称として「月のもの」「月やく」「月の障り」「お月様」などと呼ばれた[8]。また、直接的な表現を忌み言葉として避け婉曲な表現を用いることも多く、地方での異称も数多く存在する[9]

大正期の広告などには「月役」の名称も見られる[6][10]。昭和に入ると「生理」という表現が用いられるようになり、当初は婉曲的な表現だったものが、やがて完全に月経の別称となっていった[11]。このほか同時期には、「メンス」(: menstruation, menses のカタカナ表記の省略形)、紙ナプキンの普及以降は「アンネ」(生理用品のメーカー名より)[12]、「お客さん」(ナプキンを座布団に見立てて「予め座布団を敷いてお客さんを待つ」などともいう)、「お弁当箱」(ナプキンが梱包されている形から)などとも呼ばれるようになり、また現代では「セーラームーン」{月経周期が月の満ち欠け周期(29.5日)に近いことから}などと呼ぶ場合もある。また直接的な表現を避ける傾向は平成時代に入ってもみられ、「あれ」「あの日」「女の子の日」などとも呼ばれる[13]

月経周期

子宮内膜の変化の模式(英語版)
排卵直前の卵巣

月経周期とは、月経開始日を1日目として、次の月経が開始する前日までの日数をいう。月経周期は個人差はあるが、閉経時期までの間におよそ28日周期で起こり、通常3〜7日間続く(正常月経周期:25〜38日)[1]。25〜36日とする文献もある[2]

月経周期は卵胞期、排卵期、黄体期に分けられる[14]

  • 卵胞期 : 卵巣内で下垂体前葉分泌する卵胞刺激ホルモン(FSH)の影響で卵胞が成長し、子宮内膜が厚くなる。同時に分泌を促されたエストロゲン中濃度が高まると下垂体前葉から黄体刺激ホルモンが分泌され、排卵が起こり黄体が形成される[1][14]
  • 排卵期 : 排卵卵子の放出)が起こる。エストロゲン濃度が最大値となり、プロゲステロン値も上昇を始める、貯蔵されていた黄体形成ホルモンが通常36〜48時間に渡り大量に放出される黄体形成ホルモンサージ(LHサージ)が起きる。卵胞刺激ホルモンもわずかに上昇する。黄体形成ホルモンサージ開始から約16〜32時間以内に、卵胞壁の崩壊と成熟した卵子の放出を生じさせる酵素が活性化される。また、卵母細胞の第一減数分裂が約36時間以内に完了する[14]
  • 黄体期 : 平均14日間活動を維持する。しかし排卵した卵子が受精しなかった場合、やがてエストロゲンなどの分泌が低下し、子宮内膜が脱落する[1]。そして血液とともに子宮口、を経由して体外に排出されるのが月経である。そのため妊娠すると、出産の数か月後まで月経は停止する。

初潮

乳房タナー段階III、陰毛のタナー段階IIまたはIIIで発生することが多い。

生まれて初めての月経を初潮(しょちょう、: menarche)、または初経(しょけい)とも言う。古くは「初花(はつはな)」とも言われた。初経時の印象がその後の月経感に影響し、よい印象がなかった人は月経前症候群(PMS)や月経痛が多いという研究結果がある[15]

年齢
栄養状態や健康状態で初潮を迎える年齢は変動し、栄養状態と健康状態が共に良好であれば早く訪れる[16]。初潮の数ヶ月前から透明又は色の帯下の増加が見られるようになった後、初潮が発生する。初潮の平均年齢は12.3歳[17]で、大部分は年齢で10歳から15歳の間、陰毛が発育し始めてから一定後(タナー段階で2-3度)、身長の伸びが低くなり始めた頃に発生することが多い[18]。平均初潮年齢は栄養・健康状態の改善により、19世紀以降全世界的に一貫して早まる傾向にある。日本も同様の傾向があり、19世紀末には15歳前後だった平均初潮年齢が、1997年には12歳2ヶ月にまで低下している[19]
  • 10歳未満 早発月経(思春期早発症)[17][20][21]
  • 15歳以上 遅発月経[17]
  • 18歳で初経を見ない 原発無月経[17]、染色体異常、性の発生・分化異常が疑われる[17]
妊娠
「初潮=子供が産める体」になったという風に受け取られがちだが、始まっても1-2年間は周期は不規則で排卵が無い(無排卵性月経)場合が多く[18]、妊娠の可能性は低い。反面、排卵があれば妊娠の可能性はあり、10歳以下でも妊娠するケースもある。最年少出産記録で知られるリナ・メディナは5歳7ヶ月21日で出産した(詳細は本人の項を参照)。月経は受精が成立しなかった場合に起こるものであり、初潮もまた例外ではないことから、初めて排卵された時に子宮内に精子が存在すれば、初潮を迎える前に妊娠する可能性も否定できない。
成長
思春期開始から初経の1年以上前は乳房の発達開始(Thelarche・乳頭期、後に乳輪[22])や外陰部の発達し始め[23]など、大人の体型へ変化し始めで、骨盤が前傾傾向(女児型)のままなど、まだ子供の体型に近いが、初経を挟む前後1年間は乳房全体が膨らみ始め(第1乳房期、後に第2乳房期)、骨盤が前傾傾向から直立傾向(女児型から女性成人型)に転換し始めることからがまっすぐになり、ヒップが大きくなり始めるなど急激に体型が変化し[24][25]、初経の1年後以降になると骨盤が直立傾向(女性成人型)となり、大人の体型に近くなる(乳房は形成期)。乳房は途中で初経を挟む約4年間で発達する[26][27]。初経時は身長の伸びのピークが過ぎており、初経後はあまり身長が伸びなくなる[20]
病気
初経前後は脊椎側彎症の発症が多いとされている[28]

  1. ^ a b c d e 『生化学辞典』第2版、p.427 【月経周期】
  2. ^ a b 月経周期 - 22. 女性の健康上の問題 MSDマニュアル家庭版
  3. ^ a b 経済産業省ヘルスケア産業課『健康経営における女性の健康の取り組みについて』平成31年3月
  4. ^ a b c d e 経異常・排卵障害 慶應義塾大学病院 KOMPAS
  5. ^ 居駒永幸「景行記の歌と散文(I): 表現空間の解読と注釈」『明治大学教養論集』第534号、明治大学教養論集刊行会、2018年9月、 111-123頁、 ISSN 0389-6005NAID 1200064717182021年3月11日閲覧。
  6. ^ a b 鈴木明子「月経の名称 : 現代の月経」『跡見学園女子大学文学部紀要』第48号、跡見学園女子大学、2013年3月、 133-146頁、 ISSN 1348-1444NAID 1100096053902022年5月21日閲覧。
  7. ^ 井之口有一、中井和子、堀井令以知「<資料>御所ことば語彙の調査研究 : 続編食物を除く  」『京都府立大学学術報告 人文』第15号、京都府立大学学術報告委員会、1963年11月、 22-52頁、 ISSN 00757381NAID 110000057145(記述は p.32)
  8. ^ 鈴木明子『おんなの身体論 月経・産育・暮らし』(岩田書院 2018年10月11日第1刷発行)p.47
  9. ^ 鈴木明子『おんなの身体論 月経・産育・暮らし』(岩田書院 2018年10月11日第1刷発行)pp.48-51
  10. ^ 太田恭子「大正期の「母親による性教育モデル」の形成」『人文学報. 社会学』第467号、首都大学東京人文科学研究科、2013年3月、 1-26頁、 ISSN 0386-8729NAID 120005325502
  11. ^ 鈴木明子『おんなの身体論 月経・産育・暮らし』(岩田書院 2018年10月11日第1刷発行)p.52
  12. ^ 川瀬良美「人間発達における女性の特質:思春期と月経」『淑徳大学社会学部研究紀要』む 1998-03-15, 32巻, pp.17-32, ISSN 1342-7792, NAID 110004783233
  13. ^ 鈴木明子『おんなの身体論 月経・産育・暮らし』(岩田書院 2018年10月11日第1刷発行)pp.58-68
  14. ^ a b c 女性の生殖内分泌学 - 18. 婦人科および産科 MSDマニュアル プロフェッショナル版
  15. ^ ユーゴ『布ナプキン:こころ、からだ、軽くなる』産経新聞出版、2010年
  16. ^ 守山正樹、柏崎浩、鈴木継美「日本における初潮年齢の推移」『民族衛生』1980年 46巻 1号 pp.22-32, doi:10.3861/jshhe.46.22
  17. ^ a b c d e f g h 高橋俊之「研修コーナー:症候論(その1)」『『日本産科婦人科学会雑誌』63巻1号』http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/63/1/KJ00007017607.pdf 
  18. ^ a b 大山建司「思春期の発現」『山梨大学看護学会誌』第3巻第1号、山梨大学看護学会、2004年、 3-8頁、 doi:10.34429/00003695ISSN 13477714NAID 110006184827
  19. ^ 鈴木明子『おんなの身体論 月経・産育・暮らし』(岩田書院 2018年10月11日第1刷発行)pp.17-19
  20. ^ a b 思春期早発症 日本小児内分泌学会
  21. ^ 森下一「早発月経・遅発月経」『臨床婦人科産科』46巻11号(1992年11月), doi:10.11477/mf.1409901061, 有償閲覧
  22. ^ バストの先が痛がゆい|からだの疑問|小学生・中学生女の子下着の悩み解決”. ワコール. 2021年8月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月3日閲覧。
  23. ^ 三宅婦人科内科医院・外陰部の発育”. 2016年3月4日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年11月21日閲覧。
  24. ^ バストと初経のヒミツの関係”. ワコール. 2021年8月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月27日閲覧。
  25. ^ (pdf) 『『初経』をキーにした現代ティーンの成長と体型変化について』オリジナルの2019年4月17日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20190417000834/http://www.cocoros.jp/data/pdf/wacoal/release/W-P-6.pdf2019年4月17日閲覧 
  26. ^ ワコール探検隊|「少女」から「おとな」へ約4年間で変化する成長期のバスト”. ワコール. 2021年1月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月15日閲覧。
  27. ^ バストの発育、形態とブラジャーの関係”. 2013年2月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年5月11日閲覧。
  28. ^ 脊柱側わん症-現状と治療 東京都予防医学協会
  29. ^ a b 横谷進「性早熟・男性化」『日本内科学会雑誌』1992年 81巻 4号 pp. 506-511, doi:10.2169/naika.81.506
  30. ^ 目崎登、相澤勝治、中村良三、山口香「一流柔道選手の体重管理と月経現象の現状」『日本体育学会大会号』第53回(2002) p.332-, doi:10.20693/jspeconf.53.0_332
  31. ^ コロンビア大学公衆衛生学チーム (2003年9月19日). “Is it weird to feel hornier than usual during my period?”. コロンビア大学. 2018年9月29日閲覧。
  32. ^ a b c Stephanie Watson. “Is It Safe to Have Sex During Your Periods? Tips, Benefits, and Side Effects”. Healthline. 2018年9月29日閲覧。
  33. ^ a b c 河野美代子、永田由紀子. “心と体の交差点”. 小学館. 2014年8月12日閲覧。
  34. ^ Siladitya Bhattacharya、Mark Hamilton編. Management of Infertility for the MRCOG and Beyond. ケンブリッジ大学出版局. p. 57 
  35. ^ a b AMANDA MACMILLAN (ebruary 09, 2015). “6 Things You Should Know About Having Sex During Your Period”. メレディス・コーポレーション. 2018年9月29日閲覧。
  36. ^ a b デビー・ハーベニック (2008年7月7日). “Q&A: Can Having Sex Help To Alleviate Menstrual Cramps?”. Kinsey Institute for Research in Sex, Gender, and Reproduction. 2018年9月29日閲覧。
  37. ^ 古代律令制の休暇には女官のために「淋假」が設けられていたので、近代以前には生理休暇は存在していた。生理休暇の導入経緯については、田口亜紗『生理休暇の誕生』(青弓社)を参照。
  38. ^ 雇用における男女の機会の均等及び待遇の平等の確保のための法的整備について - 婦人少年問題審議会建議 (PDF)”. 国立社会保障・人口問題研究所 (1984年3月26日). 2015年7月1日閲覧。
  39. ^ 性ホルモンを学ぶ④職場で話せる?女性の体調 理解したい男性に「セクハラ懸念」の壁 産経デジタル(2021年12月28日)2022年5月21日閲覧
  40. ^ 生理中の女性隔離、ネパールの15歳少女が死亡”. CNN.co.jp (2016年12月23日). 2016年12月25日閲覧。
  41. ^ 世界中の女の子が「初めての生理」を経験したとき”. BuzzFeed Japan. 令和2年11月5日閲覧。
  42. ^ 【女の相談室】初潮を赤飯で祝う「謎風習」 「DVでしょ」「男子の精通も祝福すべき」”. ジェイ・キャスト. 令和3年12月15日閲覧。


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