七つの大罪 七つの大罪の概要

七つの大罪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/07 04:11 UTC 版)

ヒエロニムス・ボス画『七つの大罪と四終』。1485年頃。プラド美術館所蔵。

歴史

七つの大罪(七つの罪源)は、4世紀エジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作『修行論』に八つの「人間一般の想念」として現れたのが起源である。キリスト教の正典である聖書の中で七つの罪源について直接に言及されてはいない。八つの想念はエヴァグリオスによると、下記のとおりである[2]

  • 「貪食」
  • 「淫蕩」
  • 「金銭欲」
  • 「悲嘆(心痛)」
  • 「怒り」
  • 「アケーディア(嫌気、霊的怠惰)」
  • 「虚栄心(自惚れ)」
  • 「傲慢」

それを5世紀の初め(420年頃-430年頃)にカッシヌアスが「八つの主要な悪徳」としてラテン語世界へ伝えた。一覧の四番目と五番目が入れ替わり、順序が<1>貪食、<2>淫蕩、<3>金銭欲(強欲)、<4>怒り、<5>悲しみ、<6>倦怠、<7>虚栄、<8>高慢、となった[3]

6世紀後半には、グレゴリウス1世(540年頃-604年)がその内の「高慢」をすべての悪の根として別格扱いとし一覧から外し、高慢から生まれる「七つの主要な悪徳」として次のものを挙げた。<1>虚栄、<2>嫉妬、<3>怒り、<4>悲嘆、<5>強欲、<6>腹の貪食、<7>淫蕩、である。カッシアヌスの伝えた一覧の「怠惰(アケーディア)」は「悲嘆」に含めてまとめられ、新たに「嫉妬」が加わった。順序は「虚栄」が先頭に移動し、次に「嫉妬」が加わり、「貪食」、「淫蕩」が最初から最後に移動した。グレゴリウスの一覧は、精神的なものが前に、身体的、物質的な悪徳が後ろに並んでいるのが特徴である。[3]

13世紀トマス・アクィナス(1225年-1274年)も、その著作の中で、キリスト教徒の七つの枢要徳と対比する形で七つの「枢要悪」をあげている。<1>虚栄(inanis gloria)<2>嫉妬(invidia)<3>倦怠(acedia)<4>怒り(ira)<5>強欲(avaritia)<6>貪食(gula)<7>淫蕩(luxuria)となっており、グレゴリウスが外した怠惰(アケーディア)が悲嘆に代わって復活している[3]

カトリック教会の七つの罪源

現代の『カトリック教会のカテキズム』では、「七つの罪源」について、ヨハネス・カッシアヌス(英語: Johannes Cassianusグレゴリウス1世以来伝統的に罪の源とみなされてきたものとして言及されている。それは以下の七つである[4]

七つの掲載順は、『カトリック教会のカテキズム』のラテン語規範版[5]と日本語版(2002年)[4]で一部異なるが、ここではラテン語規範版および『カトリック教会のカテキズム 要約(コンペンディウム)』日本語版(2010年)[1]に書かれている順番による。教会のカテキズム 要約(コンペンディウム)』日本語版(2010年)では訳語が異なるものがあるが[1]、ここではそれを()内に付記する。

日本語 ラテン語 英語[6]
傲慢 superbia pride
強欲 avaritia greed
嫉妬 invidia envy[注 1]
憤怒 ira wrath
色欲 luxuria lust
暴食 gula gluttony
怠惰 pigritia/acedia sloth

中世のキリスト教の世界観が最もよく表されているダンテ・アリギエーリの叙事詩、『神曲』煉獄篇においても、煉獄山の七つの冠において、死者がこの罪を清めることになっている(煉獄篇を参照)。


注釈

  1. ^ 七つの大罪において、その元の言葉はいくつかの日本語に翻訳することができるが、その一例としてenvyが挙げられる。envyは「羨望、嫉妬、羨み、妬み」等と翻訳することができる。それらは心理学領域では嫉妬(jealousy)と羨望(envy)という近似した、しかし異なる感情として議論されることがあるが、七つの大罪(七つの罪源)における元々の言葉はenvy(ラテン語のinvidia)一つであり、そうした議論とは無縁である点に注意が必要である。
  2. ^ 傲慢はベリアルとする説がある。
  3. ^ 怠惰はアスタロスとする説がある。

出典

  1. ^ a b c 『カトリック教会のカテキズム 要約(コンペンディウム)』207頁 カトリック中央協議会 ISBN 978-4877501532
  2. ^ 『中世思想原典集成3 後期ギリシャ教父・ビザンティン思想』p.38
  3. ^ a b c 倦怠と悲しみ-トマス・アクィナスのacediaについて松根伸治、2018年10月10日閲覧。
  4. ^ a b カトリック教会のカテキズム』 #1866(日本語版556 - 557頁) カトリック中央協議会 ISBN 978-4877501013
  5. ^ Catechismus Catholicae Ecclesiae_Articulus 8: Peccatum #1866(『カトリック教会のカテキズム』ラテン語規範版) ローマ教皇庁公式サイト
  6. ^ Catechism of the Catholic Church_Article 8 SIN_V. The Proliferation of Sin #1866(『カトリック教会のカテキズム』英語版) ローマ教皇庁公式サイト
  7. ^ a b c d e f g h フレッド・ゲティングズ 著、大瀧啓裕 訳『悪魔の辞典』青土社、1992年6月30日、288-289頁。 
  8. ^ バチカンが新しい「7つの大罪」を発表、リサイクルしない者は地獄行きに Gigazine 2008年03月11日
  9. ^ Recycle or go to Hell, warns Vatican”. 2014年10月30日閲覧。
  10. ^ ガンジーの言う「九つの社会的罪(Nine Social Sins)」とは?”. 2014年2月2日閲覧。


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