神坂四郎の陳述とは? わかりやすく解説

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神坂四郎の陳述

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 05:44 UTC 版)

神坂四郎の犯罪」の記事における「神坂四郎の陳述」の解説

私はなぜこの二つ犯罪疑い受けているのか、理解に苦しむ疑えばすべてそれらしく見えて来る。 三景書房への就職世話してくださったのは今村先生で、彼が私の就職の心配をしてくれたのには、私が「日本文化」につとめていた時分、妻雅子代理原稿取りに行かせたことがあり、先生雅子美貌により恥ずべき行為求められたからである。雅子はその要求拒むだけの強さ持たず良人職業不都合来す考えた弁明しているが、私には信じられないその結果、妻への愛情失い、その弱点を私に握られているので、就職斡旋してくれた。だから、「東西文化顧問になって社へ顔を出すたびごとに私の顔を見るのは辛かったのだろう。そこで先生積極的に私も泥沼へ曳きずりこんで、ともに泥まみれになろうとした。先生とともに酒を飲み乱酔をも求めたことはその第一歩で、私は逆に先生評論界での立場利用して編集者として仕事成功させようとした。「東西文化」は当初発行部数五万十二になっている。私にとってはこのことは立場安定せしめ、私の存在確実にするものであったが、先生からは目障りになってきたのだろう。 永井さち子今村先生紹介して三景書房出版部就職させた女で、先生冗談のように神坂独身で、いい男だから世話してやろうと言ったらしいと本人から聞いている。今村先生としては、私と永井との間の関係を生じた場合に、私の弱点握り、同じ立場になれるという考えだったと感じられる悪意解釈すれば永井結婚させれば雅子に対して、さらに積極的になれるとまで考えていたのかも知れない。私はその罠に落ちないよう、永井さち子に対して厳し態度取ったが、失敗だった。永井は私の私行上にあらぬ噂をまき散らし恰も永井ある種の関係を要求したかのように言いふらし、三景書房での自分信用破壊しようとした。原稿紛失し編集長の私の責任問題引き起こすような悪辣なことをしている。激怒して辞表を書かせたが。社長は彼女を庇って握りつぶしてしまった。そこで、このままでは私は四方敵の中にいることになってしまうので、方針変更し今村先生の誘うがままに自分も泥に足を踏み込みお互い弱点晒し合うことで妥協求めることにした。永井さち子誘って築地待合へも行ったが、もはや意地になっているので、誘い乗らず金銭買収するのも失敗した永井さち子媚態社長籠絡し、私を失脚させるための業務横領疑いほのめかしたのは成功だった。社長とは、仕事部下信頼しても、金銭問題では信用しないものだ。算盤の方はよく分かっているから、部下には任せない雑誌編集長は業務交際私的交際混雑して区別のつけがたいという弱点を、永井さち子悪賢くついてきた。私の敗北だ。「東西文化」の創刊にあたって社長との間で交際費相談があり、社長広告料予算入れず広告自分の手腕に任せる、その方二割交際費にしよう、広告が沢山とれれば交際費豊かになるだろう、と言明している。顧問今村先生ご存じのはずだ。ところが、創刊以来雑誌好評で、広告予想外に多く労せずして交際費得られた。そのため、二割毎月平均万円自由にできることになった社長はこのお金回収したいと考え何らかの口実設けて自分やめさせるのがはやいと考えたのだろう。この五月に大腸カタル七八休んだが、その時社長奇貨として大森記者命じて広告費集金をさせたが、大東製薬関東電気工業の二社はその前に私が受けとり済みになっていた。それを騷ぎ立てて、横領行為今村先生むかって訴えたのだろう。今村先生はこの機会をつかみ、嘗て自分非行記憶消し去ることができるというわけだ。先生はわざわざ酒場に連れて行き、人の見ている前で罵倒し弁明を許さなかった。その時口惜しさで泣いた先の二社から広告料を受けとっていたのは自分越度ではない。自分広告料二割自由に仕えるのだから、この二つ広告料二割にあてただけで、ほかの広告料三景書房渡してある。超過分ではない。いいがかりをつけているだけだ。用紙配給切符横流しの件も、社長言いがかりであり、名誉毀損訴え起こそう検討中だ。紙の切符横流ししたのは社長自身である。配給切符を受けとるのは私で、それを社長に渡す。その際社長から受領証を取るわけではないので、渡したという証拠はない。社長公定価の紙の切符横流ししたというのは、単行本出版近頃不振になり、予定の紙を使い切れないからだ。印刷紙の切符高く売って仙貨紙安く買い、出版物には仙貨紙を使うやりくり考えたこともある。社長に第二夫人がいるが、正妻喧しさのため、第二夫人廻す金に苦しんでいたからでもある。切符横流しした金の大部分第二夫人のもとへゆき、戦災なくなり新たに吉祥寺に買うための費用になっったらしい今村夫人永らく肺を病んで、その療養費苦心しているが、今村先生顧問料を欲しいと社長に要求している。横流し金の一部顧問料として今村先生渡されているのだろう。私の女性関係のために必要とされたと喧伝されているのは、永井さち子か、今村先生から出ているのだろう。 私には女性関係があるが、業務上横領とは関係ない。妻は子供二人平穏に暮らしているが、今村先生過失があったため、愛情継続することができず、週に一二見舞っているが、生活は最低の経済甘んじている。妻も自分過失悔いている。義務と責任観念の強い女だが、感情温かみがなく、性格的に気の毒だ大部分の生活を戸川智子の家で過ごしている。満鉄本社以来の関係だが、深いつながり終戦後で、歌謡歌手として再起するのに骨折っている。私は俗に言うマネージャーのような形だ、妻とは円満にゆきどうもないので、子供引き取って戸川智子再婚するつもりだった。できるだけはやく雅子処置をつけるのが彼女のためにも良い考えたので、指輪戸川智子から貰いたい申し出たが、意外に頑強な反抗会って愕いた。ただ満洲慰問旅行行ったぐらいのことで、甘粕戸川だけに宝石指輪贈ったのは理解しがたい。私が満鉄事務所打ち合わせをしている間に両者に何かあったと疑うため、あの指輪見たくない。戸川は私よりも四歳年長で、姉のような気持ち愛してくれ、困ったときには自分ポケットから金を出してくれた。合計凡そ七八万円になるか。すなわち私の女性関係は何ら大きな金銭上の負担はなっておらず、会社の金の横領に結びつかない梅原千代自殺幇助については、詳しく説明すると、岸本八重子梅原)と知り合ったのは今村先生の宅で、双方ともに警戒心と危険を感じ合っていたので、積極的に泥醉し今村先生宅に泊めて貰っていたので、そんな機会から知り合った。いつから二人に関係があったのかは不明だが、夫人病気だったから、いわゆる第二夫人のようなかたちであった梅原先生の間がうまくゆかなくなったのは、夫人嫉妬でもなく、梅原先生嫌ったのも真相ではなく。もっと複雑な事情がある。最初に先生熱海梅原連れ出したのは事実だが、それから後は梅原積極的で、先生女房に対してこれ見よがしになっている語っており、病室夫人にわざと聞こえるような声で甘えたり愛撫求めたりした、いささか常軌を逸した激情家で、理性がまるで感じられず、ヒステリックな小娘のように我が儘筋道通らない感情家で、毎日のように髪の結い方変え、眉の描き方違い淑やかな日があり、乱暴な日があり、心の定まらぬ女だった。和服洋服好み混乱していて、彼女の考えも生活方針その日によって違っていた。今村先生最初経験と言っていたが、それにより一種錯乱した心理陥ったようで、最初経験にすがりつこうとした正式な結婚求めた女に先生愕く同時に困惑し夫人病死したら正式に、と答えたが、梅原はそれを侮辱感じて家を出た。 私は先生頼まれ紅葉館アパート部屋借りたが、今度梅原の気が変わり絶対に家を出ないと言いだした。その結果、彼女を三景書房使いに出させ、私に処置をまかせるという詭計用い、私は何も言わずに梅原アパートに連れてゆき、すぐに荷物運び込んで落ち着かせてしまった。先生酒場飲み岸本について話し合って綺麗な薔薇には棘がある先生言ったが、自分刺されてみたいと希望し自分の手渡った肉体経験知り好奇心燃えていた彼女にとって、他の男だろうと選ぶところはなかった。道徳感情は薄弱で、肺を病んでいたので、異常な欲望をもっていたとも思われる。彼女は私が自宅帰るのを嫌がり夕方三景書房電話をかけてきて、是非ともアパート来てくれとねだった。そこで、自分も彼女を手放したくなくなり、偽名をさせた。 今村先生は手は焼いたものの、未練はあり、岸本アパート教えろ何度言っていた。私は心の中では雅子事件復讐をしている痛快さを味わっていた。 梅原一種異常な想像力幻想性をもっていたようで、空想現実勘違いしているようなところがあった。北海道郷里で、父親大地主、馬が三十匹と語っていたが、彼女の父は病気死にかけており、小さな農場人手渡っていたと手紙にあった。彼女は津田英学塾出身で、アメリカ人先生褒められ会話クラスで一番とも語っていたが、英語は街の看板読めない程度で、友人津田行っている人がいただけだった向かい部屋青年遅くに戸を叩いていきなり抱きついてキスしようとしたとか、今村からの手紙を焼きすてたとか、根も葉もないことを話し一方で死を望むところがあった。死も一種あこがれだった。 彼女の病気のために赤十字病院連れてこうとしたら、渋谷レストラン出ようとしたところで、日本文化の頃の婦人記者会って挨拶したら、いきなり怒りだし、婦人記者発言で、独身だと嘘をついていたと分かったと言いだした。その婦人記者はそんな話はしておらず、不思議な感覚そういうふうに会話解釈した。あるいは病的直感か。 梅原生活費全部負担しており、その経費戸川智子からの金と、自分収入一部やっていけたほどだった。梅原幻想で、海の見える丘の綺麗な療養所白い部屋から海を毎日眺めながら死にたいと言っており、ダイヤを売るようにと頼まれたが、ちょっと見ても模造品分かるのだった。売ると淋しくなるから持っていなさいと言った。彼女の話ではそのダイヤは彼女の父が上海買ったといい、あるときは父は北海道を非常に愛しており、生まれて一度北海道離れたことはなかったと言っていた。仕方なしにそのダイヤ銀座宝石屋へ持ってゆき、二千円なら買えるかもしれない、という返事で、彼女が信じないのっで、上野新宿宝石屋で見て貰ったという作り話をした。 その後病気悪化による梅原幻想性強くなり、しばらく遠ざからざるを得なかったが、何日かぶりに訪ねたら、自分毎日十時来ていたが、嘘つきだから開けなかったという独り芝居語ったそれだけ死期が近づいていた証拠かも知れない十日ばかり離れていたが、梅原ダイヤ三十万円売れたと言った。私も愕いたが、二千円そこらで売り払いお米などを買い込み三十万円幻想していたようだ警察調査でもそれらしい貯金通帳は見つかっていないし、都内銀行預金口座もなかった。私が売って出版社設立資金横領しようとしたとは根も葉もない話だ。私が疑われているのはダイヤの金を取ろう計画したことだが、ダイヤ偽物分かれば自殺幇助理由も自然消滅する梅原には死について一種幻想があり、事件の二ヶ月前から肺患による一種不眠症であり、一二頼まれ催眠剤買って与えたが、普通の分量ではまるで眠れない申していた。 戸川智子不眠症で、彼女のなら効くと、戸川が封を切ったばかりのものを持っていったが、最後役に立ったのは偶然である。その夜しばらくぶりに見に行ってやったが、精神病的な傾向強くなっており、しばらく近づかないでいたが、自分外出できない病人そのままにはできなかった。梅原今晩は是非とも泊まってゆけと言って聞かなかった。やむなく梅原眠った帰るつもりで承知した梅原一度床にはいってから起き上がり、五合の日本酒を夜十一時ごろ二人で全部飲もうと言いほんの少し飲んだところで酔ってしまい、私の胸にすがりつき、自分と一緒に死んでくれないか、と繰り返した隣家の人が様子聞きに来るような状態だったので、場を収めるつもりで、一緒に死ぬことを同意した梅原喜んだが、さらに信じはしない、きっと一人逃げてしまうのだろうと心を見透かしたようなことを言った慄然として、疑わないでくれ、どうやって死ぬんだ、手伝おうと言った。これは自殺幇助疑いがあるが、私としては相手の手段を聞いて、防ぐ方法考える、自殺防止目的だった。安心した、と梅原言い、まだ酒が残っている、十二時半だから、まだ寝るのははやい、みんな飲んで寝ようといい、錫の徳利入れて鉄瓶温め疲れたから寝ようと言いこれだけ一気飲んでおしまいにしようと、酒をコップ二つ分けて注いだ。そして、一気あおってしまった。 私は三分の一ばかりで、嫌な味が混ざっている、そのまずさが合成酒感じだと気にしなかった。梅原飮み終わると私の首に両手巻きつけてきた。私はそのままタバコをつけ、この女との関係は終わり考えていたが、すると、崩れ落ちるようにずるずる滑り落ちその頃になると自分一種胸苦しさ感じ吐き気催し流し行って吐こうとしたまでは覚えており、気がつくと、管理人部屋寝せられていて、夜明けだった。 自殺幇助どころが、自殺道連れされようとしただけだ。梅原日記は、彼女の幻想の手記であり、信頼する足らない。 以上で自分釈明は終わるが、今回はからずも告訴され人間社会をはじめて知り人間醜さ痛感した。名誉とは何なのか。彼らの業績評価であり、社会的意義称讃であれ、個人的な人格称讃しているわけではなく個人生活醜悪さ人格劣等さに愕かされる三景書房の社長はその一例で、相当の待遇敬意自分編集長としての手腕払ってくれたが、事業順調に進むと、貪欲さ吝嗇さで自分追放計画した狡兎死して走狗烹らるという諺の通りだ。今村先生かくのごとき社会現象評価せずに、みずから愚劣なる社会風潮加わり自分醜行掩うために神坂四郎出版界から葬りさろうと考えた。この二人恩人であり、仇敵で、自分お人好しのために疑うことさえせず、雑誌編集のために骨身削り告訴された。今村先生社長も、梅原千代戸川智子も、雅子都合の良い真相お知らせするに違いないしかしながら真相とは何なのか。犯罪容疑者にあらざる第三者の語る真相とは真相なのだろうか真相はどこにあるのか、私には分からない嫌疑受けたものの努力憤りと、無念さ持って関知し限り真相申し述べに過ぎない結局のところは、「真相」を発見し得ず、それらしきもを想定して判決与えられるであろうことを知っている。私はそれに抗弁しようとは考えていない裁判とは客観的な活動であっても犯罪においては客観的な真相はない。 今日私が申し述べ真相はあるいは大部分が嘘かも知れないし、嘘であることも証明できない。妻雅子への愛情も、戸川智子との結婚も、今村先生への怨みも、それともどこまでもすがりつくつもりだったかも、証明できず、あるのは外部的資料過ぎず、私の行為言葉過ぎず心の中真実推察されるだけである。独立して出版事業営みいために梅原千代殺してダイヤ横領したかも知れない巧みに誘導して梅原精神的絶望導き自殺させ、ダイヤひそかに取ってしまおうとしたのかも知れずダイヤ本物であり、三十万円売れたので、印鑑貯金通帳奪ったかも知れない梅原が誰の名義貯金したかは何人も知らず神坂名義貯金をしたのかも知れず今村先生自分よりも先にダイヤ目を付けダイヤ手に入れ前提梅原をものにしたらどうなるのか。梅原ダイヤ奪われる危険を感じて、家を出たのではないのか。 業務上横領についても、社長に広告料一万円報告し広告主からは一万三千円を受けとったのかも知れない。それを調べるには「東西文化」の創刊以来広告主全部帳簿調べる流必要があり、何らかの金品帳簿以外に受けた場合調査できない。私の消費した金額東西文化のためか、単なる遊蕩のためかその判定はどこでつけられるのか、私すらも知らないこの真実誰が判定するのか。私はその真実知り得た人に明確に裁かれたいと思う。しかし、私は判決抗議する意志はない。人間社会においては真相しきもの真相なのだから。これ以上申し上げる必要はあるまいと思う。

※この「神坂四郎の陳述」の解説は、「神坂四郎の犯罪」の解説の一部です。
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