化学物質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/27 20:20 UTC 版)
単離、精製、特性評価、および同定
混合物から純粋な物質を単離しなければならないことは多く、たとえば天然資源(多くの化学物質が混在することが多い)や化学反応後(化学物質の混合物が生成されることが多い)に行われる。
測定

化学量論(かがくりょうろん、英: stoichiometry)とは、化学反応の前、反応中、反応後における反応物と生成物の質量どうしの関係である。
化学量論は、反応物の総質量は生成物の総質量に等しいという質量保存の法則に基づいており、反応物と生成物の量の関係は、一般に正の整数比になるという洞察につながる。このことは、それぞれの反応物の量が既知であれば、生成物の量を計算できることを意味する。逆に、ある反応物の量が既知で、生成物の量が経験的に決定できる場合は、他の反応物の量も計算できる。
これを上の図で説明すると、平衡化学式(balanced equation) は次のとおりである。
- CH
4 + 2 O
2 → CO
2 + 2 H
2O
ここで、メタン1分子が酸素ガス2分子と反応して、二酸化炭素1分子と水2分子を生成する。この化学式は完全燃焼の一例である。化学量論はこのような量的関係を測定し、ある反応において生成される、あるいは必要とされる生成物と反応物の量を決定するために使用される。反応化学量論(reaction stoichiometry)は、化学反応に関与する物質間の量的関係を記述することを扱う。上記の例の場合、反応化学量論では、メタンと酸素が反応して二酸化炭素と水を生成する際の量的な関係を測定する。
モルと原子量との関係はよく理解されているため、化学量論によって得られる比率を利用して、平衡化学式で記述された反応における質量による量を決定することができる。これは、組成化学量論(composition stoichiometry)という。
気体化学量論(gas stoichiometry)は、気体が既知の温度、圧力、体積にあって、理想気体であると仮定できる気体を含む反応を扱う。気体の場合、理想気体の法則によって体積比は理想的に同じになるが、一つの反応の質量比は反応物と生成物の分子質量から計算しなければならない。実際には、同位体が存在するため、質量比を計算する際にはモル質量が代用される。
化学物質と危険性
現在、世の中に存在する化学物質は何十万種とあり、市場で広く出回っているものだけでも数万の物質がある[19]。
一般に化学物質と言うと危険というイメージが広がっている。確かに化学物質は使用方法によっては有害なものもある一方で、昔から人間が生活で用いてきたものも多い[20]。そういったものとしては、例えばアルコールや染料などが挙げられる。市場で出回っている化学物質の中で有害とされてきた物質は1割ほどではないかとも言われている。ただし、従来「安全」とされてきた物質であっても使いかたによっては健康に悪い影響を与えることがあることも徐々に判明してきている。また同様に、家屋の密閉度が高くなったことで、今まで見過ごされていた化学物質がシックハウス症候群といった症状を引き起こすようなケースも現れてきている[19]。
化学物質は固体、液体、気体(ガス)、ミスト等々の状態で我々の周りに存在している。固体が特に問題となるのは粉状になっている場合である。口の中や鼻の穴にとどまることになる。一部は咳とともに体外へと排出されるが、人間の鼻や口からは絶えず粘液が流れ出ており、その多くが胃へと流れてゆく。つまり呼吸により鼻や口へと入った粉は、気管や肺に溜まったり、やがて、胃などの消化器系へと移動してしまう可能性が高い。気体の化学物質は主として肺から吸収される。一部は肺以外の粘膜を通して血液中へと移動する[19]。
危険性の態様
- 作業者リスク
- 化学物質を取り扱う作業者が化学物質を吸い込んだり触れることで生じる作業者の健康リスク[21]。
- 製品経由リスク
- 製品に含まれる化学物質によって人や環境中の生物に生じるリスク[21]。
- 環境経由リスク
- 大気や水などの環境中に排出された化学物質によって人や環境中の生物に生じるリスク[21]。
- フィジカルリスク
- 事故によって生じる設備や建物、人や環境中の生物に生じるリスク[21]。
危険性の高い化学物質から身を守る方法
日常生活や一般の仕事の場で、危険性の高い化学物質から身を守る方法としては次のようなことが挙げられている[22]。
- 口に入れない、唇に接触させない。
- においを嗅がない。吸い込まない。
- 素肌・素手で触れない。
- 化学物質どうしを近づけない。
- やむを得ず扱う時は換気を確保し、風上に身を置く。
- 保管は屋外の離れた場所にする。
有害な化学物質への職業ばく露を防止するためには、有害な化学物質の代替化、装置の密閉化や局所排気装置等の設置、適切な管理や取扱い、保護具の着用などが重要である。このうち、もっとも効果が高いのは有害な化学物質の代替化であるが、安易な代替化はかえって危険性を増大させるという指摘もある[23]。また、保護具の着用も適切なものを選択し、適切に管理・使用しなければならない。
化学物質による食中毒
食中毒の中でも、何らかの原因によって鉛、ヒ素などの無機物質、PCB、メチルアルコールなどの有機化合物などの化学物質が食品中に混入し人を侵襲して起きる食中毒は「化学物質による食中毒」と定義されている[24]。
日本で起きた「化学物質による食中毒」事件で特に知られた件に限っても、今までに以下のような事件が起きている[24]。
- 富山県神通川の流域住民の方々にイタイイタイ病が起きたのは、金属鉱業所と関連施設から排出されたカドミウムが原因とされている(イタイイタイ病事件、1945年頃から)。
- ヒ素によって粉ミルクが汚染された事件(1955年)(森永ヒ素ミルク事件)。
- 米ぬか油へのPCBが混入したとされた事件(1968年) (カネミ油症事件)。
- 工業用メチルアルコールによる中毒事件(1974年)。
化学物質が人の口を通して健康に被害をもたらす例として、ヒ素による中毒が挙げられる。日本では、茨城県で高濃度のヒ素が井戸水から検出され健康への影響が出ているとされており、他国ではバングラデシュ、中国、ネパール、ベトナム、カンボジアなどのアジア諸国においてヒ素による中毒が広がっているという[24]。
食中毒には様々な原因のものがあるが、他の原因の食中毒であれば消費者の側で予防することができる場合があるのに対して、化学物質による食中毒というのは消費者の側で予防することは困難だということが言える[24]。
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- ^ The boundary between metalloids and non-metals is imprecise, as explained in the previous reference.
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- ^ 亀井太『化学物質取扱いマニュアル』
- ^ “有害な化学物質の代替化はリスクを常に低下させるのか”. 2019年3月21日閲覧。
- ^ a b c d 社団法人日本食品衛生協会『食品衛生責任者ハンドブック 第4版』p.86
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