物語
『源氏物語』「帚木」 五月雨の夜。宮中の宿直所で、17歳の光源氏が、頭の中将・左馬の頭・藤式部丞たちから、彼らのさまざまな恋愛体験や女性論を聞く。中流階級の女性の魅力を聞かされた光源氏は、翌日、紀伊守の後妻空蝉を見出し、一夜をともにする。
『十訓抄』第7-15 鳥羽院の御代。雨の降る夜に若い殿上人が大勢集まって「優なる文を書く女を誰が知っているか」と議論し、各々愛人たちのもとへ文をやって、その返事を見せ合い劣り勝りを判定した。
『堤中納言物語』「このついで」 春雨の降る昼間。帝の訪れを待ち望む中宮(あるいは女御)の心を慰めようと、兄弟の中将やお仕えする女房たちが、順番に3つの物語をする。しかしそれらは、「帰ろうとする男を、かろうじて歌で引き止めた女の話」・「寺に籠もり、身の上を嘆く女の話」・「出家する高貴な姫君の話」など、薄幸な女性の物語ばかりだった〔*中宮の心は、しだいに暗くなる〕。そこへようやく帝が訪れる。
『古屋の漏り』(昔話) 雨の降る夜、爺と婆が「虎狼よりもこわいのは古屋の漏りだ」という話をする。爺婆を食いに来た虎狼がこれを聞く(熊本県阿蘇郡)→〔逃走〕6。
★2b.自分が本当は好きなもの・欲しいものを「嫌い」・「こわい」と言って、仲間たちをだます。
『饅頭こわい』(落語) 大勢が集まって、お互いの怖いものを言い合う。「蛇が怖い」「なめくじが怖い」などと言ううち、1人の男が「実は自分は饅頭が怖い」と打ち明ける。皆が面白がり、たくさんの饅頭を買って来て見せると、男は「怖い怖い」と言いつつ饅頭を食べてしまい、「今度はお茶が怖い」と言う。
★2c.自分が本当は好きなもの・欲しいものを「嫌い」・「こわい」と言って、幽霊や化け物をだます。
『述異記』(祖冲之)13「お金がこわい」 王という男が死んだ後、ひょろ長く色黒で、ふんどし姿の幽霊が現れ、汚い物を人の口に投げ入れるなどの悪戯をした。隣家の男が「土や石を投げ入れたって、こわくない。お金をぶつけられたら、困るけれどね」と言う。すると幽霊は銭を取り出して6~7度投げつけたので、男は百銭余りを手に入れた。
『たのきゅう』(昔話) うわばみと旅役者たのきゅうとが、互いに嫌いなものを言い合う。うわばみは正直に「煙草のやにと柿の渋が嫌いだ」と教え、たのきゅうは「小判が嫌いだ」と嘘を言う。たのきゅうが、うわばみの嫌いなものを村人たちに知らせたので、うわばみは怒り、仕返しに、たのきゅうの家に小判を山ほど投げこむ。
『牛肉と馬鈴薯』(国木田独歩) 冬の夜。明治倶楽部で男たちが、「理想」を「馬鈴薯」、「現実」を「牛肉」にたとえて、「理想」と「現実」のどちらに従うべきか議論する。意見を求められた作家岡本誠夫は、「理想か現実か論ずる以前に、僕には切実な願いが1つある。習慣の圧力から脱して、この宇宙の不思議を驚きたいという願いだ」と言う。
『三教指帰(さんごうしいき)』(空海) 亀毛(きもう)先生が休暇の日に兎角公(とかくこう)の館を訪れ、兎角公の外甥(がいせい)の道楽者・蛭牙公子(しつがこうし)を善導すべく、儒教の教えを述べる。「勉学し努力を重ねて、世間有用の人材となれ」。次いで虚亡隠士(きょぶいんじ)が、道教の教えを語る。「世俗を離れ、神仙となって隠棲せよ」。そこへ托鉢のために仮名乞児(かめいこつじ)が通りかかり、座に加わって、仏教の教えを説く。「衆生は永遠に六道を輪廻する。すみやかに輪廻を離れ、生死の苦海を脱して、涅槃の楽に到れ」。亀毛先生と虚亡隠士は、仏教の教えを賛嘆する。
『大菩薩峠』(中里介山)第32巻「弁信の巻」 冬の白骨温泉で、盲目の法師弁信、鐙小屋の神主、国学者池田良斎の3人が、四角の湯槽の三方を占めて、「真如と無明」「光と闇」などを論じ合う。弁信は、「麻・縄・蛇」の譬えで『大乗起信論』を説明する。「麻が形を変えて縄になりますが、本来、麻も縄も同じものです。真如と無明も同様で、1つの仏性が2つに姿を変えたものです。縄を蛇と見て驚くのが、人の妄想でございます」。神主は、真如と無明の2つを認めることに反対し、「すべてお光ばかりで、闇なんというものは無いのじゃ」と言う。池田良斎は、「この問題はもう1ぺんも2へんも、よく考え直さねばならぬ」と思う。
『無名抄』 雨の降る日。気の合う者どうしが語りあううち、歌に詠む「ますほの薄」はどのようなものか、との議論になった。ある人が、「渡邊(わたのべ)に住む聖が、このことを知っている」と言ったところ、登蓮法師がすぐに蓑笠を着け、渡邊まで出かけようとする。皆が驚いて「せめて雨がやんでから」と止めると、登蓮は「命は、我(=登蓮)も人(=渡邊の聖)も、雨の晴れ間など待ってくれぬ」と言い捨てて、行ってしまった〔*『徒然草』第188段に類話〕。
『ダフニスとクロエー』(ロンゴス)巻2 レスボス島の山羊飼いラモーンは、山羊1頭および笛1管をシチリアから来た山羊飼いに与え、それと引き換えに、美しい声の娘がシュリンクス(=笛)になったという物語歌を、うたってもらった。
『夜叉ケ池』(泉鏡花) 伯爵の三男萩原晃は、「国々に伝わる面白い、異(かわ)った、不思議な物語を集めてみたい」と志していた。「日本中残らずとは思うが、この夏は、山深い北国(ほっこく)筋の、谷を渡り峰を伝って尋ねよう」と言って、東京を出た。彼は越前国琴弾谷に到って、夜叉ケ池の伝説(*→〔封印〕1b)を聞き、美女百合と出会う。彼は鐘撞き男となってその地にとどまり、百合を妻として人里離れた一軒家に住んだ。
『カンタベリー物語』(チョーサー) 春4月、イギリスの人々はカンタベリー大聖堂へ巡礼の旅に出る。ある宿に泊まり合わせた「私」と29人の客、それに宿の亭主も加わって、皆が2話ずつ物語を語りながら、カンタベリーへ向かう〔*23人の物語が記された所までで終わっており、未完である〕。
『ペンタメローネ』(バジーレ)「序話」 妊娠中の妃(実は奴隷女)が魔法をかけられ、昔話が聞きたくて我慢できなくなる。夫のタッデオ大公が、びっこや出目やせむしの女10人を集め、1人1日1話ずつ、5日間に渡って昔話をさせる〔*最終日には王女ゾーザが話をして奴隷女の悪事を暴き、奴隷女に代わって妃になる〕。
『七賢人物語』 ポンティアーヌス皇帝の妃が、継子にあたる王子に言い寄って拒絶されたため、「王子が私を襲おうとした」と皇帝に讒訴する。妃は毎日いろいろな物語を皇帝に語り、王子処刑を促すが、それに対抗して、王子の教育係の七賢人が、1日1話ずつ物語をして、皇帝に処刑執行を思いとどまらせる。処刑は7日に渡って延期され、その間無言だった王子は、8日目に口を開き、妃の嘘を暴露する。
『千一夜物語』 シャハリヤール王は毎夜1人ずつ処女を召し寄せ、一夜をともにして翌朝殺す。大臣の娘シャハラザードが自ら志願し、妹ドニアザードを連れて王のもとに行く。王がシャハラザードの純潔を奪った後、夜明けまでに時間があるので、シャハラザードが面白い物語を語り始める。王は続きを聞きたく思い、シャハラザードを殺さずにおく。シャハラザードは毎夜、物語を語り続けて、千一夜がたつ〔*その間、王とシャハラザードの間に3人の子が生まれる。妹ドニアザードは、王の弟シャハザマーンと結婚する〕。
*人妻の不義を止めるために、様々な物語を語り続ける→〔留守〕4の『鸚鵡七十話』。
★5c.演説終了とともに議員を罷免されるので、議員の地位を保持するためにいつまでも演説をし続ける。
『スミス都へ行く』(キャプラ) 上院の青年議員スミスは、利権がらみの不正なダム工事を阻止しようとする。ところが彼自身が汚職の濡れ衣を着せられ、議会でスミス罷免の動議が出される。スミスが起立して発言している間は罷免決議ができないので、スミスは長時間、アメリカの理想と正義について演説をし続ける。24時間が経過し、ついにスミスは力尽きて倒れる。それを見た長老議員は良心の呵責に堪えかね、ダム工事の不正を認める。
*「演説し続けねばならない議員」と類似した設定で、「走り続けねばならないバス」という物語がある→〔乗客〕5の『スピード』(デ・ボン)。
★6.物語の中の物語。
『ドグラ・マグラ』(夢野久作) 夢野久作『ドグラ・マグラ』の主人公である「わたし」は、一切の記憶を失った状態で目覚め、「わたし」自身がかつて書いたらしい『ドグラ・マグラ』の小説原稿を見るが、「わたし」はそのことを忘れており、原稿を読もうとも思わない。「わたし」の『ドグラ・マグラ』と夢野久作の『ドグラ・マグラ』は、ともに巻頭歌「胎児よ胎児よ何故躍る 母親の心がわかっておそろしいのか」を持ち、「ブウウ・・・・ンンン」という時計の音で始まって時計の音で終わり、内容も同じである。
『伊曾保物語』(仮名草子)中-4 夜、伊曾保が国王に、「ある人が千5百疋の羊を川の対岸に渡そうとしたが、小舟1艘しかなかった」という物語を始めつつ、途中で眠ってしまう。国王は「無礼者。最後まで語れ」と怒る。伊曾保は「千5百疋を小舟で1疋ずつ渡せば、多大の時間がかかります。その間に眠りました」と言い、国王は伊曾保を許す。
『カター・サリット・サーガラ』「マダナ・マンチュカー姫の物語」2・挿話7 旅中の夜、王子が乳母に請われて物語を始めるが、疲労して途中で眠ってしまう。そのため、物語を聞こうと集まった、姿の見えぬ神々が怒り、王子に死をもたらすべく呪詛する。王子の親友が起きていて神々の呪詛を知り、首飾りによる絞殺・マンゴーの実による毒殺・家の倒壊などの危険から、王子を守り抜く。
『話堪能』(昔話) 長者の息子が物語好きで、皆に話をせがみ、誰も息子を満足させられない。ある日旅人が来て「榎があって、赤い実が川へ、カラカラッ、ポショーン。カラカラッ、ポショーン・・・・」と語り出し、朝から晩まで同じことを言い、翌日も翌々日も続ける。とうとう息子は「もう話は飽きた」と言い、旅人は長者から褒美をもらう。
★7c.いつまでも続く物語に、たとえ読者が飽きても著者は飽きない。
『大菩薩峠』(中里介山) 著者・中里介山は記す。「『大菩薩峠』は、すでに『源氏物語』の6倍・『南総里見八犬伝』の約3倍強の紙筆を費やして、なおかつ未完である」(第39巻「京の夢おう坂の夢の巻」)。「起稿以来28年。1万頁、文字無慮5百万、世界第一の長篇小説である。読者は倦(う)むとも著者は倦まない、精力の自信も変わらない」(第40巻「山科の巻」)〔*『大菩薩峠』は第41巻「椰子林の巻」まで書き継がれ、完結せぬまま中里介山は没した〕。
『創作余談』(志賀直哉) 「私(志賀直哉)」が、「床屋が剃刀で客の咽(のど)をかき切る」という小説(『剃刀』)を書いた時のこと。深夜12時過ぎに、咽を切る前までを書き、それから寝て、翌朝、後を書き上げた。その晩、「私」が書きつつあった時か、寝てからか、わからないが、垣一重隣りに住む人が、西洋剃刀で咽を切って自殺していた。妙な偶然があるものだ、と「私」は思った。
『氷の微笑』(ヴァーホーヴェン) 1人の男が性交中に、アイス・ピックで刺殺された。男の恋人は小説家キャサリンで、彼女は今回の事件そっくりのミステリーを、昨年出版していた。当然、彼女に容疑がかかるが、わざわざ自分に疑いを招くやり方で殺人を犯すとは考えにくいので、これは逆に、彼女の無実を示す証拠かもしれなかった。キャサリンは捜査担当のニック刑事を誘惑して関係を持ち、「次はニックをモデルに小説を書く」と言う。その小説では最後に主人公が死ぬのである。小説を書き上げたキャサリンは、ニックとベッドをともにする。ベッドの下にはアイス・ピックが隠されていた。
*小説中で殺される人物のモデルとなった男が、実際に殺されてしまう→〔書き間違い〕1aの『黒白』(谷崎潤一郎)。
『ハウス・バイ・ザ・リヴァー』(ラング) 売れない小説家スティーヴンは、妻の留守中に若い家政婦を殺し、死体を布袋に入れて川へ棄てる。やがて死体は発見され、警察が捜査を始める。スティーヴンは、犯罪小説『デス・オン・ザ・リヴァー』を執筆する。それは彼が犯した家政婦殺しと死体遺棄をそのままに、しかし弟ジョンを真犯人と思わせるように書いた小説である。スティーヴンは自分の悪事を知る弟や妻を殺そうとはかるが、死んだ家政婦の幻覚を見て錯乱し、階段から転落する。
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