小説のストーリー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 13:21 UTC 版)
大阪立売堀は鉄問屋の町である。その立売堀でも一流の機械器具問屋前戸文治商店に福井から大阪に出て来た主人公・山下猛造(やました もうぞう)が、親友の尾坂とともに丁稚として住み込んだのは昭和十年春のことである。背が低く小太りの新入丁稚、山下猛造が一人で円タクに乗って来た、しばらく後に猛造の父と親友の尾坂が大阪駅から歩いて来た。猛造の型破りな行動は入店早々から店主前戸文治、支配人岡田に「どてらい男が入ってきよった」と期待と恐れを抱かせるが、その反面先輩からの風当たりは強く特に手代格の竹田は何かにつけて露骨に敵意を示す。猛造は女中のお秋に特別に握りめしを作ってもらい、迫害に対抗する。 前戸文治の義妹の弥生は文治夫人とは長女と四女で違いがあるだけに歳の開きは親子ほどあった。京都の両親は早くに他界し、弥生は女学校を卒業すると前戸家に引き取られた。竹田は弥生との縁談が進行中で弥生への満たされぬ思いを芸妓の糸路を抱くことで憂さを晴らしていた。その隙をついて猛造は、偽電話で竹田に復讐するが、かえって前戸から手厳しい叱責を受ける。 取り扱う商品がすべて輸入商品である商売は、英語が読めるか読めないかが大きくものを言った。竹田をはじめ先輩店員達は猛造を苦しめるのに特別の手段がいらないことを悟った。アルファベットを言うだけで猛造は手も足も出なかった。風呂焚きを日替わり交代でしていた猛造と尾坂は弥生に英語の教えを乞う。弥生は風呂の湯気で曇った窓ガラスにA B Cと書くが猛造達には反転文字である、尾坂がそれに気づいて大笑いの二人だった、そうこうして翌年の春に夜間中学に入学する。 背広を着た中学生ケント商会の芋生と出会った、芋生に食事に誘われ料理屋へ行くと芸妓が、七、八人。猛造は二人の芸妓は挟まれてドギマギしていた、遅れて千代菊という名の芸妓が現れた。芋生は千代菊を好いているようであったが、芋生を相手にしたくなかった千代菊は山下猛造さんと呼び、芋生が驚いていると千代菊が猛造の授業料を払って学校へ行かせていると言い出した。千代菊は隣の部屋にある風呂敷に山下猛造の名前を見たのであった。千代菊は別のお座敷に呼ばれて行った。猛造は酔いつぶれて寝てしまう。猛烈な喉の渇きに目を覚ますと隣に糸路という芸妓が居た。時間を尋ねたら午前三時であることを伝えられた、丁稚は仕事以外の外出は如何なる場合にも許可を得て十一時半までに帰店、無断外泊は厳罰に処された。店に着いたのは午前四時を過ぎていた。結局竹田に見つかってしまい主人の前戸から減俸処分と外出禁止処分を受ける。竹田の妨害で学期末試験の勉強が出来ず芋生と教師の買収を思いつくが失敗に終わる。しかし何とか落第はまぬかれた。 猛造は屋根の上に居た。そこからは主人一家の住居が丸見えであった、竹田の両親と前戸夫妻が縁談の話し合いをしていた。猛造は何気なく、主人達の話し会いを立ち聞きしているお秋を発見する。お秋が前戸夫人に見つかりそうになり、お秋に大声で叫ぶと猛造は屋根から地面に落ち、お秋がこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げた、それにびっくりした前戸は、けつまずき棚の茶碗を頭から浴びてしまった、猛造は前戸と同じ病院に入院したのである。お秋は立聞きしたことで暇を出された、尾坂の忠告で痛む身体の猛造は前戸の病室へ赴き、竹田の倍売って倍儲け半年間で竹田の倍売ったら竹田と弥生の縁談を破談にするとの約束を前戸から取り付ける。この縁談に気の進まない弥生は猛造に感謝する。 猛造は外交の基本を知らない為最初の一カ月は全く売れず、竹田に給料泥棒と罵倒される。ある店で初商いをし喜んで店に帰り岡田支配人に話したところ、前戸では国産品は扱わないと聞かされるが、岡田支配人を説き伏せて猛造は国産品専門で商いするのであった。商いをするにあたり猛造は新規の店には開店直後か閉店間際を狙って売り込みに行き、一度取引が出来たら中間時間に行って「こんにちは前戸おおきに!」と背の低い分声を張り上げて入っていく。いつしかそんな猛造が人気者になっていった。そして四カ月目の今、売上成績は竹田と同額に追いついた。「前戸おおきに」鳥打帽に丁稚の着物、のそりと小太りの姿を現す猛造を見て、こって牛と言われた。そして六カ月目 竹田の二倍はおろか三倍を売上げたのである。 前戸から竹田と弥生の縁談を破談にすると言われた。とある店の事務所で、くたびれた背広にネクタイも曲がり無精ひげの年老いた外交に声をかけられた、外交に行く先々で時々見かける顔だったその老人から昼食に誘われ、大石老人から得意先を自分のものにする為には心がなければならない事を商いは心やと教えてもらった、店に帰り岡田支配人に大石老人のことを聞くと外交の神さんと言われる。大石は大石善兵衛といい大石善商店店主をやりながら堀田商店の番頭を兼ねていた。その翌日から得意先に行き掃き掃除や拭き掃除をした外交が目的では無い掃除だけ済ませて帰る時もあった。 戦争が激化してくる中、前戸の店からも先輩店員三名が招集令状を受けた。猛造は近畿一円に得意先を広げ、かつての前戸商店の総売り上げの一か月分を一人で売っていた。そのころ竹田にも召集令状が届いた。猛造は東京に進出し、軍隊を得意先にしようとしたが陸軍省は東京にある。岡田支配人に東京に販路を広げる事を告げると岡田に帰りに家に寄れと言われる、そこで岡田の娘清子と出会う。岡田は嫁と別居していて嫁は東京暮らしの為清子は東京育ち、岡田は猛造の為に東京を教えるために清子に会わせたのである、清子に逢ううちに愛が芽生えた、そんな時に岡田に召集令状が届いたのである。岡田の出征祝いが前戸商店の二階で執り行われた。そこで前戸から猛造を次の支配人にすると告げられる。猛造と岡田は二人きりの二次会をしていた。その席で岡田から清子の婿に尾坂を迎えたいと告げられる。猛造にとっては、まさに青天のヘキレキであった。自分の愛する清子が尾坂の嫁にと苦悩するが親友尾坂の為自ら身を引き、また清子も東京に帰ったのである。 猛造の東京での初仕事は玄関払いであった。店の主人と会っても大阪商人が嫌いだから取引をしないと言われる。翌日も三軒断られ四軒目の店で主人から安ければ大阪であろうが取引すると告げられた。ところが猛造が値段の駆け引きをした為に大阪では通じても東京じゃ通じないぜと断られ店を出ると、いきなりタクシーが急停車した。その車から大石が降りて来た。大石は東京では決まった車を貸し切り一日目はあいさつ回り、二日目は横浜の車で回り、三日目に東京の集金と注文をしていた。そこで猛造は二日目に車が空いてることを知って貸し切り、大石と同じ所を回って、そのほとんどの店で注文を取ったのである。大阪に戻った猛造は五万六千円の売上報告とタクシーを使用した事を報告すると前戸はタクシー代を猛造の給料から天引きにする。東京の繁華街を歩いていた時に何気なく横を見ると清子が居た。清子は母からの勧めで中学教師と結婚したのであった。 猛造がガムシャラに売っていた東京方面の売上は月間百万円を突破した。猛造の販売成績を上回る者は、立売堀のどこを探しても見当たらない、兵隊にとられた店員は二十歳未満か五十歳以上に限られ十八歳の猛造は群を抜いていた。前戸はこの飛躍的な利益を見て会社組織に切り換えた。会社組織になると同時に給与規定も改められ、小学校卒と中学校卒とはっきり基準が分けられた、猛造の月給は八円と支配人手当の二円で合計十円、同期で入店した中学校卒は十二円、前戸社長の給与は百五十円だった。この給与の不公平差で前戸と衝突した。会計担当者村田が特高警察に通報し、猛造は逮捕され取り調べを受けたが、引取人として来た前戸に「この山下にアカの嫌疑は無いつまらんことで訴えるな」と刑事が怒鳴りつけた。尾坂は猛造に対して、こんな事を告げられる程、恨まれる自分をもう一回考えろと猛造の心臓を突き刺すことを言う。
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