おひつじ座
一番明るい星(アルファ星)から「ヘ」の字に連なる小さな星座
黄道12星座の第1番めに位置する星座です。日本では秋から冬にかけて見られ、クリスマスの頃、午後8時に南中します。アンドロメダ座の南東(左下)にあり、2000年ほど前には、春分の日の太陽はこの星座と同じ位置にありました(現在では西どなりのうお座)。赤く見える一番明るい星(アルファ星、アラビアではハマル〈羊の頭〉と呼ぶ)が2等星という目立たない小さな星座で、アルファ星を中心に、「へ」の字をさかさまにしたような形で3等星と4等星が並びます。星の並びを見つけるのは難しくありませんが、それから羊の姿を連想するのはほとんど不可能です。アルファ星の距離は80光年、表面温度は約4,000℃と観測されています。
ゼウスにささげられた金色の毛皮をもつ雄羊
アテナイの北方ポエオチア地方の王子プリクソスとその妹ヘレは、継母イーノに憎まれていました。そしてイーノの策略で、いけにえにされて殺されそうになったとき、きょうだいの実母ネペレは大神ゼウスに助けを求めました。ゼウスは息子のヘルメスに命令して、金色の毛をもつ雄羊をきょうだいのもとにつかわします。その雄羊の背に、きょうだいがまたがると、雄羊は空高く舞い上がり、ギリシャから海峡を越え、遠くコーカサスの山に近いコルキスの国を目指して飛び続けました。途中アジアに入ろうとしたそのとき、妹のヘレがめまいをおこし、海に転落。しかし、兄は無事コルキスに着き、そこの国王に手厚く迎えられました。プリクソスは神のお告げどおり、祭壇にその雄羊をささげ、その金色の毛皮はコルキスの神殿に飾られて、一睡もしない1匹の龍に守られることになったといいます。この雄羊が空にあげられたのが、おひつじ座です。
おひつじ座
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/26 17:47 UTC 版)
Aries | |
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属格形 | Arietis |
略符 | Ari |
発音 | 発音: [ˈɛəriːz]、正式には/ˈɛərɪ.iːz/; 属格:/əˈraɪ.ɨtɨs/ |
象徴 | ヒツジ |
概略位置:赤経 | 3 |
概略位置:赤緯 | +20 |
広さ | 441平方度[1] (39位) |
主要恒星数 | 3, 10 |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 67 |
系外惑星が確認されている恒星数 | 4 |
3.0等より明るい恒星数 | 2 |
10パーセク以内にある恒星数 | 2 |
最輝星 | α Ari(2.01等) |
最も近い星 | ティーガーデン星;(12.5光年) |
メシエ天体数 | 0 |
流星群 | おひつじ座五月流星群 おひつじ座秋季流星群 おひつじ座δ流星群 おひつじ座ε流星群 おひつじ座白昼流星群 おひつじ座-さんかく座流星群 |
隣接する星座 | ペルセウス座 さんかく座 うお座 くじら座 おうし座 |
おひつじ座(おひつじざ、牡羊座、Aries)は、現代の88星座の1つで黄道十二星座の1つ。2世紀頃にクラウディオス・プトレマイオスが選んだ「トレミーの48星座」の1つ。ヒツジをモチーフとしている。
主な天体
恒星
国際天文学連合 (IAU) によって6個の恒星に固有名が認証されている[2]。
- α星:おひつじ座で最も明るい恒星で、唯一の2等星[3]。「ハマル[4](Hamal[2])」は、アラビア語で「羊」を意味する言葉に由来する。
- β星:おひつじ座で2番目に明るい恒星で、3等星[5]。A星は「シェラタン[4](Sheratan[2])」という固有名を持つ。
- γ星:4.52等のγ2星[6]と4.589等のγ1星[7]のほぼ同じ明るさを持つ2つの恒星からなる連星。γ2星Aは「メサルティム[4](Mesarthim[2])」という固有名を持つ。
- δ星:4等星[8]。「ボタイン[4](Botein[2])」という固有名を持つ。
- 39番星:[9]。「北のユリ」を意味する「リリーボレア[10](Lilii Borea[2])」という固有名を持つ。
- 41番星:4等星[11]。Aa星は「バラニー[10](Bharani[2])」という固有名を持つ。
上記以外で、以下の星が知られている。
- ティーガーデン星 - 太陽系から12.5光年の距離にある赤色矮星。2つの系外惑星を持つとされる。
- おひつじ座AU星 - 半規則型変光星のうち、周期が数日-1ヶ月程度のグループ「SRS型脈動変光星」のプロトタイプ[12]。
- おひつじ座SX星 - 「ヘリウム変光星」とも呼ばれる、回転変光星の一種「おひつじ座SX型変光星」のプロトタイプ[12]。
- おひつじ座TZ星 - 閃光星。2つの系外惑星が発見されている。
- BD +20°307 - 地球サイズの惑星同士が衝突して生じた塵の雲を持つ。
星団・星雲・銀河
どれも暗く、望遠鏡でもかすかにしか見えない。
由来と歴史
紀元前500年頃に制作されたとされる古代メソポタミアの粘土板文書『ムル・アピン』では、「雇夫」と呼ばれる麦播きの農繁期に雇われる日雇い農夫を指すアステリズムであった[13]。この雇夫は、現在「ペガススの四辺形」と呼ばれているペガスス座α星、β星、γ星、アンドロメダ座α星からなるアステリズムである「野(耕地)」を耕すものとされた[13]。「男」と「羊」を表す言葉の発音が共に「ル (lu)」であったことから、羊と同一視されるようになったとされる[13]。
中国
中国の天文では、おひつじ座の星々は、二十八宿の婁宿と胃宿、昴宿に配されていた[14]。α・β・γの3星は婁宿の星官「婁」を成した[14]。μ・ν・ο・π・σの5星からなる婁宿の星官「左更」は山林を管理する官職を指す[14]。35・39・41の3星からなる胃宿の星官「胃」は穀倉を指すとされる[14]。昴宿に属するδ・ζを含む5つの星は星官「天陰」を成した[14]。同じく昴宿のHD 20644は単独で星官「天河」を成した[14]。
神話
![](http://weblio.hs.llnwd.net/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fwikipedia%2Fcommons%2Fthumb%2F0%2F0f%2FSidney_Hall_-_Urania%2527s_Mirror_-_Aries_and_Musca_Borealis.jpg%2F320px-Sidney_Hall_-_Urania%2527s_Mirror_-_Aries_and_Musca_Borealis.jpg)
紀元前3世紀頃の学者エラトステネースの著書『カタステリスモイ[注 1]』や紀元前1世紀の著作家ヒュギーヌスの著書『天文詩』では、ヘーシオドスやペレキュデースが伝える伝承として、ボイオーティア王アタマースの息子プリクソスと娘ヘレの双子の兄妹が、継母イーノーの悪巧みによって生贄にされそうになったときに、大神ゼウスが遣わして二人を乗せて逃げた金の毛皮を持つ雄羊であると伝えている[14][15]。ヘレは羊が走る途中に手が滑り、現在のダーダネルス海峡に落ちて溺れ死んでしまった[14]。そのため、ギリシアではこの海を「ヘレの海」を意味する「ヘレースポントス (Έλλης πόντος)」と呼んだ[14]。プリクソスは逃亡先のコルキスでこの羊を生贄に捧げ、その金羊毛を当地の王アイエテスに贈った[注 2]。この羊の皮を手に入れるための冒険がアルゴー号(アルゴ座)の冒険、アルゴナウタイ神話である[14]。
またヒュギーヌスは著書『天文詩』の中で、紀元前5世紀頃のアテネの喜劇作家ヘルミッポスの伝える話として、アフリカに遠征したローマの豊穣神で酒神のリーベルの軍隊が渇きに苦しんでいるときに彼らを水場へ導いた羊の伝承を紹介している[15]。羊は兵を水場に導くと姿を消した。リーベルはこの地にユピテル・アモン[注 3]を称える神殿を建立し、雄羊の角を持つ神の像を立てた[15]。
呼称と方言
日本では、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳した『洛氏天文学』が刊行された際には「牝牛」と誤訳されていた[16]。のちに「牡羊」という訳が充てられ、1908年(明治41年)4月に創刊された日本天文学会の会誌『天文月報』では同年9月の第6号から「牡羊」という星座名が記された星図が掲載されている[17]。1910年(明治43年)2月に訳語が改訂された際も「牡羊」がそのまま使用された[18]。戦後の1952年(昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[19]とした。このときに、Aries の訳名は「おひつじ」と定まり[20]、以降この呼び名が継続して用いられている。
方言
二十八宿の婁宿を「たたらぼし」と訓読みしていた[4]。
脚注
注釈
出典
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2022年4月4日). 2022年11月13日閲覧。
- ^ "alf Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ a b c d e 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、210頁。ISBN 978-4-7699-0825-8。
- ^ "bet Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ "gam2 Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ "gam1 Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ "del Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ "39 Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ "41 Ari". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月13日閲覧。
- ^ a b Durlevich, Olga. “GCVS Introduction”. Sternberg Astronomical Institute. 2022年11月13日閲覧。
- ^ a b c 近藤二郎『わかってきた星座神話の起源 古代メソポタミアの星座』誠文堂新光社、2010年、56-57頁。ISBN 978-4-416-21024-6。
- ^ a b c d e f g h i j k Ridpath, Ian. “Aries”. Star Tales. 2022年2月5日閲覧。
- ^ a b c Condos; Theony (1997). Star myths of the Greeks and Romans : a sourcebook containing the Constellations of Pseudo-Eratosthenes and the Poetic astronomy of Hyginus. Grand Rapids, MI, U.S.A.: Phanes Press. pp. 36-42. ISBN 978-1-60925-678-4. OCLC 840823460
- ^ ジェー、ノルマン、ロックヤー 著、木村一歩、内田正雄 編『洛氏天文学 上冊』文部省、1879年3月、55頁 。
- ^ 「九月の天」『天文月報』第1巻第6号、1908年9月、8頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2。
- ^ 「星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466。
おひつじ座
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/09 21:40 UTC 版)
「星・星座に関する方言」の記事における「おひつじ座」の解説
おひつじ座は二十八宿の婁宿に当たり、江戸時代にはこれをタタラボシと訓読したことから、野尻抱影はこの星座をフイゴの形と見た方言があったのではないかと推測しているが、確認されていない。 『日本の星』139~140頁
※この「おひつじ座」の解説は、「星・星座に関する方言」の解説の一部です。
「おひつじ座」を含む「星・星座に関する方言」の記事については、「星・星座に関する方言」の概要を参照ください。
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