ハッブル‐うちゅうぼうえんきょう〔‐ウチウバウヱンキヤウ〕【ハッブル宇宙望遠鏡】
ハッブル宇宙望遠鏡 Hubble Space Telescope(HST)
ハッブル宇宙望遠鏡
大気や天気に左右されない宇宙空間で活躍
望遠鏡の発明により、天文学は飛躍的な発展をとげました。しかし、いかに望遠鏡のサイズを大きくしても、地上にあるかぎり、地球の大気の制約や天候の影響を受けるので、決して理想的な観測を行うことはできません。そこで、地球大気の外に望遠鏡を設置すれば、これまでにない天体像を得られるのではないかという構想のもとにつくられたのが「ハッブル宇宙望遠鏡」です。この宇宙望遠鏡は、「宇宙が膨張している」ことを発見したアメリカの天文学者ハッブルにちなみ「ハッブル宇宙望遠鏡」と名づけられ、1990年4月24日、スペースシャトル・ディスカバリー号によって宇宙に設置されました。ハッブル宇宙望遠鏡は現在も運用されており、私たちに宇宙のさまざまな発見と驚きをもたらしてくれています。
重さ11t、主鏡の直径2.4mの巨大な宇宙天文台
ハッブル宇宙望遠鏡はアメリカが1990年に地球周回軌道上に運んだ光学望遠鏡です。形態は、長さ13.1m、 重さ11t、 主鏡の直径2.4mで、宇宙に浮かぶ巨大な天文台といえます。この望遠鏡は97分で地球を1周し、寿命は15年とされています。このハッブル宇宙望遠鏡との通信は、人工衛星を介しておこなわれています。ハッブル宇宙望遠鏡によって得られたデータは、観測の提案者がいる場合にはその提案者に渡され、ほかの科学者は1年間はそれを使えませんが、1年後には世界中の科学者が利用できるように公表されます。ハッブル宇宙望遠鏡は世界で唯一の宇宙望遠鏡であり、その成果は、地球上のすべての人々のためにあるという理念のもとに運用されているのです。
シャトル飛行による修理など多くのトラブルを克服
ハッブル宇宙望遠鏡は1986年夏に飛び立つ予定でしたが、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故により延期され、4年後の1990年にようやく打ち上げられました。ところが、当初、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた画像はピンぼけで、地上の大望遠鏡を使って撮影した天体の姿と大差なく、期待を大きく裏切るものでした。その後も太陽電池パネルやデータの記録装置が故障するなどのアクシデントに見舞われ、災難が続きました。しかし、1990年にピンぼけを修正するソフトの開発によって画像処理ができるようになり、続いて1993年には、スペースシャトル・エンデバー号の飛行士たちが、宇宙空間での船外活動により望遠鏡の修理を成功させました。1994年1月13日、修理後に送られてきた画像は、それまでに目にしたことのない鮮明な画像でした。以後、この望遠鏡がとらえたものの多くが新たな発見をよび、遠方の宇宙に浮かぶ新しい種類の銀河を発見することもできました。いまでもハッブル宇宙望遠鏡はすばらしい映像を届けてくれています。
ハッブル宇宙望遠鏡は2003年までに4回の修理ミッションが行われ、5回目の修理ミッションも予定されていました。ところがコロンビア号事故のために、そのミッションはキャンセルされました。しかしその後も科学界などからの強い要望があり、NASAは2008年に5回目の修理ミッションを行うことを決定しました。この修理が成功すれば2013年まで観測が可能になります。
数々の業績を支える観測機器
NASAとESAの共同プロジェクトであるハッブル宇宙望遠鏡の活躍により、地上からでは観測できない多くの天体が発見されています。その能力の高さは、搭載された数々の観測機器によって支えられています。ハッブル宇宙望遠鏡の主な観測機器は、広角/惑星カメラ2、宇宙望遠鏡撮像分光器、近赤外カメラ多天体分光器、微光天体カメラなどです。
サービスミッションにより、最新の機器が取り付けられる
広角/惑星カメラ2(WF/PC2)は、1993年12月のスペースシャトルによるサービスミッションで、打ち上げ当初から搭載されていたWF/PC1と交換したもので、3つの広角カメラと1つの惑星カメラで構成されており、近赤外から遠紫外領域で精密なイメージを得ることができます。また、このカメラは、アメリカのパロマー山にあるヘール望遠鏡より、100倍も暗い銀河の天体をも観測することができます。
宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)は、1997年2月のサービスミッション時に新しく取り付けられたスペクトル観測装置で、天体の化学的成分、温度、視線速度、回転速度、地場などといった特性を調べることができます。
近赤外カメラ多天体分光器(NICMOS)も1997年2月のサービスミッション時に新しく取り付けられた赤外線観測装置で、3つのカメラから構成されています。この装置は非常に低い温度を維持する必要があるため、液体窒素によって冷却されます。しかし、その液体窒素が打ち上げ時に予想以上に膨張し、カメラの1つを所定の位置から押し出してしまっており、観測されたイメージがピンボケの状態となってしまいました。その後、2002年3月に冷却装置が交換され、観測を再開しました。
微光天体カメラ(FOC)は、非常に暗い天体を観測することができます。観測した光より10万倍明るいイメージを作り出すことができますが、非常に高感度なため、正確に観測できるのは通常で21等級、それより明るい天体は減光させるためのフィルターを通しても20等級までです。
2002年3月には新しく掃天観測用高性能カメラ(ACS)をとりつけました。WFPC2(Wide Field Planetary Camera 2)と比べ視野が2倍、解像度が2倍、感度は4倍です。波長域は紫外線から可視光線、近赤外線の一部までと広範囲にわたっています。2007年1月に電気系統の異常によって、停止しています。
2008年にスペースシャトルで行われる予定の修理ミッションでは新しく紫外線分光器(COS)とワイドフィールドカメラ3(WFC3)をとりつけます。WFC3は近紫外線から可視光、近赤外線までの広範囲での観測が可能で、解像度も飛躍的に向上する予定です。
木星と土星のオーロラ
1997年9月には、木星と土星のオーロラをとらえました。この画像は、新たに取り付けられたSTIS(宇宙望遠鏡撮像分光器)を使って紫外線光を撮影したもので、両極の上空でリング状のオーロラを見ることができます。
星の最期
1997年12月には、星の最期の様子をとらえました。それによると、星雲状のガスがその最後の輝きを見せるとき、さまざまな形をとることがわかりました。さらに1998年3月には、太陽と同じくらいの質量をもつ様子の恒星の最期の様子の鮮明な画像を送ってきています。この恒星(NGC7027)は地球から約3,000光年離れたはくちょう座の方向にあり、画像では星から水素とヘリウムが宇宙空間に放出される様子と、中心には死んでいく星が白く輝く点として見えています。
巨大なブラックホール
1998年5月には、地球から約1,000万光年離れたところにある巨大な銀河「ケンタウルスA」の姿をとらえました。この銀河のもっとも明るく輝いている中心部には、太陽の10億倍もの質量をもつブラックホールがあると考えられ、生まれたばかりの無数の青白く輝く星がそのまわりのガスやチリをオレンジ色に輝かせています。
ハッブル宇宙望遠鏡
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スペースシャトル・ディスカバリー号から見たハッブル宇宙望遠鏡(1997年2月STS-82での画像)
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基本情報 | |
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NSSDC ID | 1990-037B |
所属 | NASA / ESA / STScI |
打上げ日時 | 1990年4月24日午前8:33:51 EDT |
打上げ機 | ディスカバリー(STS-31) |
ミッション期間 | 35年1か月と20日経過 |
質量 | 11,110 kg (24,490 lb) |
軌道 | 円に近い地球低軌道 |
軌道高度 | 559 km (347 mi) |
軌道周期 | 96–97分 |
周回速度 | 7,500 m/s (25,000 ft/s) |
重力による加速 | 8.169 m/s2 (26.80 ft/s2) |
所在地 | 地球低軌道 |
形式 | リッチー・クレチアン式反射望遠鏡 |
観測波長 | 可視光、紫外、近赤外 |
口径 | 2.4 m (7 ft 10 in) |
開口面積 | 4.5 m2 (48 sq ft)[1] |
焦点距離 | 57.6 m (189 ft) |
観測装置 | |
NICMOS | 赤外線カメラ/分光計(窒素冷媒がなくなり一時停止したが2002年に冷却機が付けられ観測を再開) |
ACS | 掃天用高性能カメラ (部分的に失敗) |
WFC3 | 広域カメラ |
COS | 宇宙起源分光器 |
STIS | 画像分光器 |
FGS | 3つのファイン・ガイダンス・センサー |
公式サイト | asd.gsfc.nasa.gov/archive/hubble/ hubblesite.org esahubble.org |
ハッブル宇宙望遠鏡(ハッブルうちゅうぼうえんきょう、英: Hubble Space Telescope、略称:HST)は、グレートオブザバトリー計画の一環として1990年4月24日に打ち上げられた、地上約600km上空の軌道上を周回する宇宙望遠鏡である。名称は、宇宙の膨張を発見した天文学者エドウィン・ハッブルに因む。長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型で、内側に反射望遠鏡を収めており、主鏡は直径2.4メートルである。地球の大気や天候による影響を受けないため、地上からでは困難な高い精度での天体観測が可能。
当初の計画では15年程度の運用予定だったが[2]、その成果の大きさから35年以上も運用が続けられている[注釈 1]。
概要
ハッブル宇宙望遠鏡は、地球の周回軌道にのせられた望遠鏡の中では、一番成功を収めたものだとされている。
ハッブル宇宙望遠鏡が行う観測のほとんどは、目で見える光の波長(可視光)を使う。そのため、望遠鏡を地球の大気の薄い所に置く最も大きな利点は、シーイングによる歪みを受けないことである。観測する天体を細かなところでまで明らかにすると同時に、光を狭い範囲へ集めることで暗い天体まで観測することができる。 逆に、宇宙空間に展開することでの欠点は、様々な宇宙線が大気によって減衰されずに暴露されること、故障時の対応に時間とコストが大きくかかることである。その軌道高度は国際宇宙ステーションよりもさらに100km以上外側であり、その軌道傾斜角も大きく異なるため、スペースシャトルが退役して以降、一度も直接アクセスしていない。搭載機器は基本的に故障以外での交換はされていないため、宇宙観測機器の根幹は打ち上げ当時の1990年における技術である[注釈 2]。
望遠鏡の大きさを例えるとバスほどになる。これまでにスペースシャトルは設置を含めて5回この望遠鏡とドッキングし、宇宙飛行士が打ち上げ後の試験運用で判明した光軸のずれを補正したり、観測装置を補修したり、新しいカメラや分光器を取り付けるなどしてきた[4]。無人機等でのアクセスなどは実施されておらず、今後もその計画は無い。
地球周回軌道を回りつつ、自身の姿勢を全天に向けられるように制御され、姿勢制御はリアクションホイールを使用する。電源は主鏡の両脇に設置された太陽電池パネルを用いて発電されている。
観測用装備


5つの観測機器に加えて、望遠鏡の照準に使用され姿勢制御や正確な位置天文観測にも使用されるファイン・ガイダンス・センサーを備えている。これらの装備は、スペースシャトルでの整備によって交換が行われ、初期の装備はすべて交換されている。
2009年の最後のサービスミッション以降、稼働しているものは、ACS、COS、STIS、WFC3で、残りのNICMOSは休止状態だがWFC3が故障した場合に稼働させる可能性がある。
2024年現在、ジャイロスコープ6個中4個が故障しており、1個を予備用に確保して残り1個のみを使用して位置制御している[5][6]。
- 現在の装備
- 掃天観測用高性能カメラ(ACS、2002–現在)
- 宇宙起源分光器(COS、2009–現在)
- 宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS、1997–現在、非稼働期間:2004–2009)
- 広視野カメラ3(WFC3、2009–現在)
- 近赤外線カメラ・多天体分光器(NICMOS、1997年–現在、2008年から休止状態)
- ファイン・ガイダンス・センサー(FGS、1990–現在)
- 旧装備
- Faint Object Camera(FOC; 1990–2002)
- Faint Object Spectrograph(FOS; 1990–1997)
- Goddard High Resolution Spectrograph(GHRS / HRS、1990–1997)
- High Speed Photometer(HSP、1990–1993)
- 球面収差修正装置(COSTAR、1993–2009)
- 広視野惑星カメラ(WFPC; 1990–1993)
- 広視野惑星カメラ2(WFPC2; 1993–2009)
- COSTAR、FOS、WFPC2は、アメリカ合衆国国立航空宇宙博物館に展示されている。HSPは、ウィスコンシン大学マディソン校にある。WFPCは解体され、一部のコンポーネントはWFC3で再利用された。FOCは、ドイツ連邦フリードリヒスハーフェン近郊のドルニエ博物館に展示されている。
成果

- シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突する様子を克明に捉えた(1994年)。
- 太陽系外の恒星の周りに惑星が存在する証拠を初めて得た。
- 銀河系を取巻く暗黒物質(ダークマター)の存在を明らかにした。
- 宇宙の膨張速度が加速しているという現在の宇宙モデルはハッブル宇宙望遠鏡の観測結果によって得られた。
- 多くの銀河の中心部にブラックホールがあるという理論は、ハッブル宇宙望遠鏡の多くの観測結果によって裏付けられている。
- 1995年12月18日 - 28日、おおぐま座付近の肉眼でほとんど星のない領域について十日間にわたり観測を行い、「ハッブル・ディープ・フィールド」と呼ばれる1500 - 2000個にも及ぶ遠方の銀河を撮影した。これに続き、南天のきょしちょう座付近において「南天のハッブル・ディープ・フィールド」 (Hubble Deep Field - South) 観測を行った。 双方の観測結果は非常に似かよっており、宇宙は大きなスケールにわたり均一であること、地球は宇宙の中で典型的な場所を占めていることを明らかにした。
- 2011年12月、科学誌に投稿された論文が21年間で10,000件に到達[7]。
光学系の不具合・修理

幾度の打ち上げ延期を乗り越え、1990年にスペースシャトル・ディスカバリー号によって打ち上げられた。しかし打ち上げ直後の調整で天体の光を集める鏡の端が設計より0.002mm平たく歪んでいることが発覚。この誤差により分解能は予定の5%になってしまった(ただし5%でも地上の望遠鏡より遥かに高い分解能を有していた[要出典])。
この歪みは、主鏡を製造したパーキンエルマー社(光学事業売却により現在はグッドリッチ光学宇宙システム部門)の工場において鏡面の歪みを検出するヌル補正装置が正しく取り付けられていないことが原因だった。本来小型の鏡の歪みを検出する用途に使われていたこの装置を、2.4mの大型鏡の補正に用いるために無理に取り付けたことが歪みを生む結果につながったのである。
この問題を修正するために、焦点に入ってくる15%の光を最大限に活用するソフトウェアが開発された。これで性能は58%まで回復。これ以上の修復は直接宇宙へ行き、ハッブルを修理するしかなかった。
元々ハッブルは運用期間15年(当初の予定)の間に数回スペースシャトルから修理などを受ける予定だったので、NASAはこの修理に鏡の誤差を修正する光学系の装置を入れる事を急遽決定。この修理に伴う船外活動のため、宇宙飛行士たちは一年以上、延べ400時間に及ぶ訓練を受けることとなる。この訓練のおかげで、この大修理は成功。ハッブルは当初の予定を遥かに超える性能を手にし、天文学史に残る数々の貴重な天体写真を捉えている。非常に美しい芸術的な天体写真も多数公開されている。ただし、これらの写真は必ずしも本物の色ではないことがある。肉眼では見えない領域の光(赤外線、紫外線など)を撮影した場合は、擬似カラーと呼ばれ、わかりやすいように波長ごとに色付けするためである。
歴史
- 1990年4月24日: スペースシャトル ディスカバリー号によって打ち上げられる (STS-31) 。
- 1993年12月: 初のサービスミッション (SM1) (STS-61) 。球面収差修正用の光学系であるCOSTAR (Corrective Optics Space Telescope Axial Replacement) を設置。これにより鮮明な画像が得られるようになった。WF/PCの代わりに、WFPC2 (Wide Field Planetary Camera 2) を設置。太陽電池パネルの交換も行なった。
- 1997年2月: 2度目のサービスミッション (SM2) (STS-82) 。FOS (Faint Object Spectrograph) の代わりにNICMOS(近赤外カメラ及び多天体分光器: Near Infrared Camera and Multi-Object Spectrometer)や、GHRS (Goddard High Resolution Spectrometer) の代わりにSTIS(宇宙望遠鏡撮像分光器: Space Telescope Imaging Spectrograph)の設置などを行った。
- 【故障】1999年11月25日: 6台ある姿勢制御用ジャイロスコープのうち4台目が故障し、観測不能に陥る。
- 1999年12月: 3度目のサービスミッション (SM3A) (STS-103) 。ジャイロスコープ6台全てを交換、主コンピュータの交換など。
- 2002年3月: 4度目のサービスミッション (SM3B) (STS-109) 。新型メインカメラACS (掃天用高性能カメラ: Advanced Camera for Surveys) の取り付け(FOC (Faint Object Camera) と交換)、太陽電池パネルを新型のものに交換、NICMOSの冷却装置の設置など。
- 2004年1月16日: NASAは今後、ハッブル宇宙望遠鏡の修理を行なわないと発表。予定されていた5度目のサービスミッション (SM4) は中止された。
- 【故障】2006年6月25日: 新型メインカメラACSが故障。同年6月30日に復旧。
- 【故障】2006年9月23日: ACSが再度故障。同年10月6日に復旧。
- 2006年10月31日: 方針を転換し、5度目のサービスミッションを行い、2013年まで運用を続けるための修理を行うことがNASAより発表された。
- 【故障】 2007年1月23日: ACSが再度故障。同年2月19日になって一部機能の復旧に成功したものの、主要機能の復旧は絶望的である。WFPC2などの旧型機器は動作し続けているため、機能は劣るものの代用が可能。
- 2009年5月11日: 最後のサービスミッション (SM4) (STS-125)。WFPC2をWFC3 (Wide Field Camera 3) へ交換、故障したACSとSTISの修理、COS (Cosmic Origins Spectrograph) の設置、ジャイロとバッテリーの交換など大幅な修理を行う。ハッブルは「今までで最高の性能」(NASA) になり、少なくとも2014年まで寿命が延びる。ミッションは無事完了し、4ヶ月間のテスト期間を経て活動を再開する。
- 2009年7月24日: 本格稼動前であるが、木星への天体衝突跡が発見されたため、新しく取り付けられたWFC3で衝突跡を撮影・SM4終了後の画像を初公開した。
- 【故障】2018年10月5日: SM4により旧式3基、改良型3基の計6基のジャイロスコープが搭載された。HSTは3基のジャイロを用いて姿勢制御を行うが、2018年10月までに既に旧式2基は故障しており、残る4基のうち旧式1基と改良型2基による運用がなされていた。この日、3基ある旧式ジャイロのうち稼働状態にあった最後の1基が故障したため、HSTは自動的にセーフモードへと移行した[9][10]。この故障は既に予期されていたものであり、故障発生時には予備のジャイロを稼働させることとなっていた。しかし、予備の改良型1基に電源が投入された際に所期の性能を発揮できないことがHSTの自律診断で判明したため、HSTはセーフモードを継続した[9][10]。
- 【故障】2021年6月13日: ペイロードコンピューターとメインコンピューターとの間で行う「生存確認」信号が受信できなくなり、メモリモジュールに問題があると考えられた。メインコンピューターによって全科学機器をセーフモードにして、ペイロードコンピューターも再起動させたが14日に停止した。6月18日、他の3つのバックアップメモリモジュールのうちの一つへの切り替えも失敗した。6月23・24日に、ペイロードコンピューターのバックアップに切り替えたが同様のエラーによって失敗している。6月28日に、エラーの原因調査をメモリモジュール以外にも広げるとしている[13][14]。ペイロードコンピューターは、搭載されている望遠鏡や科学機器の制御に使われているため、再起動できなければ以後活動が行えなくなる[15][16]。
- 【復旧】2021年7月14日: 問題箇所を特定した。PCU (Power Control Unit) と呼ばれるペイロードコンピュータのハードウェアの電源となるユニットで、電圧が許容電圧範囲を外れた値を検出して停止していたことが判明した。電源の検出回路が劣化したか電源に問題があると考え、問題の電源部をSI C&DHユニットごとバックアップに切り替え、7月15日に再起動を行い成功した[17]。
- 2022年9月30日: NASAはスペースX社のドラゴン宇宙船でハッブルのリブーストを行う可能性の研究に署名[18]。
- 【故障】3基稼働中のジャイロスコープの1基の不具合で、2023年11月19日にセーフモードに入り一旦復旧したものの11月21日に再びセーフモードとなったため、11月23日より復旧作業を行なっている[19][20]。12月8日、NASAより「広視野カメラ3(WFC3)」と「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」の運用を再開したと発表された[21]。「宇宙起源分光器(COS)」と「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」は2023年12月後半の運用再開が予定されている[21]。
- 【故障】2024年5月24日:3基稼働中のジャイロスコープの内、1基に誤ったテレメトリが取得される問題が発生。[22]セーフモードに入り、観測を一時停止。その他の搭載機器には影響はなく、望遠鏡の状態も良好。6月4日、使用可能なジャイロ2基の内1基のみで運用し、残り1基を将来のための予備として残す運用方針を発表した。[23]今後、システムの再構成や観測への評価などを行い、2024年6月中旬の観測再開を予定している。
ギャラリー
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軌道上のハッブル宇宙望遠鏡
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主鏡の研磨
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第1回目修理
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第1回目修理前後の比較。格段に像が鮮明になっている
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第3回目修理
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第5回目修理
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作業する宇宙飛行士
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作業する宇宙飛行士
新たな宇宙望遠鏡計画
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
ハッブル宇宙望遠鏡の後継機としてジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) が2021年12月25日に打ち上げられた[24]。六角形の鏡を18枚組み合わせた主鏡の口径は約6.5mであり、ハッブル宇宙望遠鏡よりも大幅な高性能化が図られている。ただし観測波長域は近赤外線・赤外線のみであり、近紫外線・可視光の観測能力は持たない。地球と太陽のラグランジュ点 (L2) に位置することで、地球近傍の塵の影響を避け、より高精度の観測を可能としている。元は2011年の打ち上げ予定であったが、度々延期されたものである。
ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡
2012年6月4日、アメリカ国家偵察局 (NRO) のKH-11と推測される偵察衛星の地上予備機2機をNASAに供与することが米国メディアで報じられた[25]。この偵察衛星の主鏡の口径は2.4mあり、ハッブル宇宙望遠鏡と同じであるがよりハイテクで軽量である。視野はハッブル宇宙望遠鏡よりも100倍広く、焦点距離は短くなる。この地上撮影用の望遠鏡を宇宙観測用望遠鏡に改造し、2026年10月にファルコンヘビーロケットで打ち上げの計画[26]。
NASAのマネージャと大学の天文学者がこの光学系を点検した結果、ハッブル宇宙望遠鏡のものよりも優れていることが確認された。これにより、太陽系外の惑星の撮影や、ダークエネルギーの存在確認に役立てることができると考えられる。この望遠鏡の2次鏡は、地上からの制御あるいは搭載機器の制御で可動させることができる。この2次鏡は6本の支柱で固定されており、各支柱の下部にサーボモータが装備されており、これで焦点の微調節ができる。この供与されるNROの衛星には、太陽電池アレイ、コンピュータ、姿勢制御システム、観測機器といった主要な部分は含まれていない。
NASAは15億ドルをかけて口径1.5mの旧称WFIRST(広視野近赤外線サーベイ宇宙望遠鏡)を開発する予定であったが、口径が2.4mに変更され、のちに名称がナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡と決定された[27][28]。
大型紫外可視近赤外線宇宙望遠鏡
NASAが2021年に将来の旗艦計画で、初期段階の策定をしている大型紫外可視近赤外線宇宙望遠鏡 (LUVOIR[29])[30]も、後継機の一つとされる[31]。口径15m(LUVOIR-A) 及び8m(LUVOIR-B) の複合鏡のコンセプトで2039年に打ち上げる想定である[29][31][30]。
脚注
注釈
出典
- ^ SYNPHOT User's Guide, version 5.0, Space Telescope Science Institute, p. 27
- ^ “ハッブル宇宙望遠鏡とは - コトバンク”. 2022年6月23日閲覧。
- ^ “The NASA/ESA Hubble Space Telescope is celebrating its 35th year in orbit today!”. Hubble Space Telescope Instagram. 2025年4月24日閲覧。
- ^ 最新天文百科 宇宙・惑星・生命をつなぐサイエンス HORIZONS Exploring the Universe p104 ISBN 978-4-621-08278-2
- ^ “ハッブル宇宙望遠鏡のジャイロスコープ6個中4個が故障し「1個のジャイロスコープで姿勢制御するモード」への移行が決定”. GIGAZINE. 2024年6月6日閲覧。
- ^ “ハッブル宇宙望遠鏡が「復活」し観測再開 驚嘆の最新銀河画像”. Forges Japan. 2024年6月29日閲覧。
- ^ “NHubble Space Telescope Passes Major Science Milestone”. Space.com. (2011年12月7日) 2012年6月10日閲覧。
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- ^ “NASA Continues Work on Hubble Space Telescope – Backup Computer Turned On, but It Fails With the Same Error” (英語). SciTechDaily (2021年6月26日). 2021年6月26日閲覧。
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- ^ Dunn, Marcia (2021年6月16日). “Computer trouble hits Hubble Space Telescope, science halted”. AP NEWS. 2021年6月20日閲覧。
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- ^ a b “LUVOIR Space Telescope | Large Ultraviolet Optical Infrared Telescope” (英語). LUVOIR Telescope. 2021年12月29日閲覧。
- ^ a b “計画タイトル:NASA 大型紫外可視近赤外線宇宙望遠鏡 LUVOIR への参加”. 2021年12月29日閲覧。
- ^ a b “How much longer will the Hubble Space Telescope last?” (英語). MIT Technology Review. 2021年12月29日閲覧。
参考文献
- 伊中明『ハッブル宇宙望遠鏡で見る驚異の宇宙』技術評論社〈3D立体写真館〉、2004年3月。ISBN 4-7741-1958-X。
- 伊中明『ハッブル宇宙望遠鏡でたどる果てしない宇宙の旅』技術評論社〈3D立体写真館 3〉、2006年7月。 ISBN 4-7741-2800-7。
- エレイン・スコット『ハッブル宇宙望遠鏡 150億光年のかなたへ』小林等・高橋早苗訳、筑摩書房、1999年1月。 ISBN 4-480-86050-9。
- 谷口義明『暗黒宇宙で銀河が生まれる ハッブル&すばる望遠鏡が見た137億年宇宙の真実』ソフトバンククリエイティブ〈サイエンス・アイ新書 SIS-41〉、2007年11月。 ISBN 978-4-7973-4193-5。
- 『宇宙画像 世界の望遠鏡がとらえた1年間の厳選天体 ハッブル,スピッツァー,チャンドラ,すばる,VLT…. 2009』田村元秀監修、ニュートンプレス〈ニュートンムック Newton別冊〉、2009年2月。 ISBN 978-4-315-51851-1。
- デビッド・デボーキン、ロバート・W・スミス『ビジュアルハッブル望遠鏡が見た宇宙』金子周介訳、日経ナショナルジオグラフィック社、2009年4月。 ISBN 978-4-86313-067-8。
- 『Deep space ハッブル宇宙望遠鏡が見た宇宙の神秘』寺門和夫編・写真解説、小学館、1997年11月。 ISBN 4-09-681041-X。
- 『天文学を飛躍的に進歩させたハッブル宇宙望遠鏡15年の新天文学』ニュートンプレス〈ニュートンムック〉、2006年7月。 ISBN 4-315-51778-X。
- 野本陽代、ロバート・ウィリアムズ共著『ハッブル望遠鏡が見た宇宙 カラー版』岩波書店〈岩波新書〉、1997年4月。 ISBN 4-00-430499-7。
- 野本陽代『ハッブル望遠鏡が見た宇宙 カラー版』 続、岩波書店〈岩波新書〉、2000年9月。 ISBN 4-00-430691-4。
- 野本陽代『ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 カラー版』岩波書店〈岩波新書〉、2004年10月。 ISBN 4-00-430918-2。
- 野本陽代『ハッブル望遠鏡宇宙の謎に挑む カラー版』講談社〈講談社現代新書 2011〉、2009年8月。 ISBN 978-4-06-288011-4。
- 沼澤茂美、脇屋奈々代共著『HSTハッブル宇宙望遠鏡がとらえた宇宙』誠文堂新光社、1997年9月。 ISBN 4-416-29707-6。
- 沼澤茂美、脇屋奈々代共著『HSTハッブル宇宙望遠鏡がとらえた宇宙』 2巻、誠文堂新光社、1999年7月。 ISBN 4-416-29909-5。
- 沼澤茂美、脇屋奈々代共著『銀河 宇宙に浮かぶ不思議な天体 ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた驚きの宇宙』誠文堂新光社、2008年6月。 ISBN 978-4-416-20811-3。
- ビバマンボ、小野夏子『ハッブル望遠鏡で見る宇宙の驚異 偉大な成果をデジタル画像と傑作写真で完全網羅 DVD-ROM &図解』渡部潤一監修、講談社〈ブルーバックス B-1645〉、2009年7月。 ISBN 978-4-06-257645-1。
- D・フィッシャー、H・デュルベック『ハッブル宇宙望遠鏡 宇宙への新しい窓』渡辺鉄哉訳、シュプリンガー・フェアラーク東京、1996年12月。 ISBN 4-431-70712-3。
- 若松謙一、岐阜大学『ハツブル宇宙望遠鏡による遠方の銀河団内での銀河衝突について』1997年。
- エドワード・J・ワイラー 著、ロバート・ジェイコブズ・ドゥエイン・ブラウン・J・D・ハリントン・コンスタンス・ムーア・バートラム・ウルリッヒ編 編『HUBBLE ハッブル宇宙望遠鏡時空の旅』縣秀彦日本語監訳、片神貴子訳、インフォレスト、2010年5月。 ISBN 978-4-86190-843-9。
CD-ROM
- 山岡均 著、アストロアーツ編 編『驚異の宇宙 ハッブル宇宙望遠鏡画像集』アスキー、1998年3月。 ISBN 4-7561-1767-8。
VHSビデオ
- 『天文学研究の最先端』 第2回 ハッブル望遠鏡でみた深宇宙、放送大学学園制作・著、放送大学教育振興会〈放送大学ビデオ教材 Maruzen audiovisual library〉、1998年。 - 発売は丸善出版事業部。
DVD
- 『最新報告 ハッブル望遠鏡/宇宙の果てを求めて』ジェネオン・エンタテインメント/ジーパラドットコム〈NHKビデオ 宇宙デジタル図鑑(12)〉、2001年3月。
- 『ハッブル宇宙望遠鏡 - 宇宙の神秘に迫る -』角川書店〈Kadokawa DVD Discovery channel〉、2007年2月。
関連項目
- Hubble Origins Probe- 中止が発表されていた5度目のサービスミッション (SM4) 用に開発された機材を利用して開発し、新規にハッブル宇宙望遠鏡と同等の宇宙望遠鏡を低コストで打ち上げる計画だったが、SM4の実施決定に伴い計画終了。
- ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡
- 宇宙望遠鏡の一覧
- ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 - 後継機
外部リンク
ハッブル宇宙望遠鏡
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「Orbiter」の記事における「ハッブル宇宙望遠鏡」の解説
現実のハッブル望遠鏡を模したモデルであり、Orbiterではスペースシャトル「アトランティス」とともに用いられる。
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