動物園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 13:40 UTC 版)
なお、植物園が併設された施設を動植物園(どうしょくぶつえん)ということもある。
機能
国際的には動物園には、レクリエーション、教育、種の保存、調査研究の4つの機能があると理解されている[1][注 1]。
- レクリエーション - 動物園は市民が生きた野生生物を直接見られる場所であり、知的好奇心の充足感や非日常空間での開放感を呼び起こす要素ももつ[1]。レクリエーション機能を発揮するためには、展示動物の選択、展示施設の構造と展示方法、利用料金の設定、園内の施設の整備(食堂やトイレ)など総合的な対応が必要となる[1]。
- 教育(環境教育) - 国際自然保護連合(IUCN)の「世界保全戦略 World Conservation Strategy 1980」では、動物園の担うべき教育上の役割として「野生動物の展示は、丹念に用意された教育計画に基づき、その展示種が生態系の中で果たす役割を理解させるものでなければならない」としている[1]。
- 種の保存 - 国際自然保護連合(IUCN)、国際連合環境計画(UNEP)、世界自然保護基金(WWF)による「世界環境保全戦略」では「動物園や水族館は、種の保存や遺伝子の多様性の保存、さらには環境学習の面でも貢献できる」との勧告を行っている[1]。
- 調査研究 - 動物園には多様な生きた野生生物がいて、野生下での観察では得ることができない情報も多い。野生生物に関わる繁殖や行動など学問の発展に寄与している[1]。
しかしながら実際には、動物園を訪れる人の 70% 以上は、保護について何も学んでおらず、動物園の種のうち、保全繁殖プログラムに参加しているのはわずか 3% 、動物園が保全活動に費やしているのは予算の 3% 未満と言うのが実態である[3]。
飼育下寿命・健康比較
野生下では、成獣になるまでに外敵に襲われたり、病気などによって死亡するものも多く、成獣になってからでも生息環境や同様な事情によって、最大寿命をまっとうすることができないことが多いが、飼育下動物は野生と比べると長生きである[4][5]。この身体的想定外の寿命のために、長年の食事で歯がすり減ったことで虫歯になることが稀にある。なぜなら虫歯は糖分で歯のエナメル質がとける病気であり、野生の動物は食事と寿命の関係から虫歯になることはほぼないが、草食動物が食べる草木、肉食動物が食べる生肉には、ほとんど糖分が入っていないからである[5]。
歴史
紀元前1000年頃のエジプト、インド、中国などには王侯貴族が個人的な興味や娯楽、さらに権力の象徴として動物コレクションをもっていたことが知られている[1](周の時代の文王が作った霊囿[6]など)。初期のこのような施設は、主に王侯が所有し、政治的に修好関係を結ぶ、あるいは影響下に置いたり植民地として支配した国・地域から珍しい動物を集めてきた私的なものにすぎなかった。飼育展示施設は上流階級が集めたメナジェリー、見世物小屋から発達した[7]。
一般市民と係わりをもつ自然科学の場、教育の場としての動物園は15世紀以降にヨーロッパで生まれたもので、大航海時代に数々の探検から得られた膨大な資料とその研究のための学会の発足など科学的土壌が出来たことが背景にあった[1]。
1752年開設のオーストリアのシェーンブルン動物園は、シェーンブルン宮殿の動物コレクションを一般公開して始まった施設で、世界最古の動物園とされている[1][注 2]。
近代の動物園は単なる見世物ではなく、教育・研究施設としての役割を強く持つべきであると考えられている。つまり、生きた動物を生きたまま収蔵する博物館としての性格が強い。最初の科学的動物園であるイギリスのロンドン動物園は1828年にロンドン動物学会の研究資料収集施設として創設されたが、その研究費用調達の方途として同年に一般公開された。動物園は英語では zoological garden(s)(動物学的庭園)というが、これを縮めて zoo と呼ぶこともロンドン動物園から始まった。
1907年、動物商であったドイツのカール・ハーゲンベックがハンブルクに動物を野生のままに展示するような動物園を作った。檻の中に閉じ込めるのではなく、野生の生態のままに観察できるやり方を「ハーゲンベック方式」(無柵放養式展示とも)という。ハーゲンベックが作った動物園がドイツ語で Zoologischer Garten と言ったことから、動物園で英語の正式表記に Zoological Park を採用しているところもいくつかある。
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k 菅谷博「動物園の機能と社会的役割」『日本獣医師会雑誌』第57巻第8号、日本獣医師会、2004年8月、467-470頁、doi:10.12935/jvma1951.57.467、ISSN 04466454、NAID 10013438092、2022年1月28日閲覧。
- ^ a b 【ニュースの門】新たな人気者 変わる動物園/四つの役割 世界の流れ『読売新聞』朝刊2021年2月16日(解説面)
- ^ “50 Shocking Statistics on Why Zoos Should Be Banned - Revealed 2024”. 20240127閲覧。
- ^ “動物図鑑/動物の寿命一覧”. pz-garden.stardust31.com. 2022年1月12日閲覧。
- ^ a b “疑問氷解:動物は歯磨きをしなくても、虫歯にならないのですか?”. 毎日新聞. 2022年1月12日閲覧。
- ^ 霊囿. コトバンクより。
- ^ “動物園、水族館は「メナジェリー学校」から卒業しなければならない|アクアマリンふくしま”. www.aquamarine.or.jp. 2023年7月28日閲覧。
- ^ ブルーガイド編集部『ロンドン (ブルーガイドわがまま歩き)』2016年、68頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 佐渡友陽一「日米独の動物園経営組織に関する研究」『平成27年度〜28年度科学研究費補助金 (研究活動スタート支援) 研究成果報告書 (課題番号 15H06705)』2017年3月、doi:10.18881/00000322。
- ^ a b 渡辺守雄『動物園というメディア』青弓社、2000年、40-41頁
- ^ 上野動物園 - 上野動物園の歴史「開園前夜」
- ^ 野毛山動物園に聞きました! 動物たちが食べる野菜・果物Q&A マイナビ農業 2018年07月21日 (2023年2月6日閲覧)
- ^ “50 Shocking Statistics on Why Zoos Should Be Banned - Revealed 2024”. 20240127閲覧。
- ^ ゲイリー・L・フランシオン『動物の権利入門』緑風出版、2018年、81-82頁。
- ^ “エサ LIB〈リブ〉: Animal Liberator.net” (2018年10月15日). 2019年6月29日閲覧。
- ^ 「屠体給餌 満足じゃ」千葉の動物園 資金募る/肉食獣の飼育環境向上/農作物に被害 捕獲イノシシ活用『日本農業新聞』2021年6月18日13面
- ^ “京都市動物園の原点は「見せ物小屋」だった 飼育や展示どう変わった?”. 20240127閲覧。
- ^ Kleiman, Thompson and Baer (2010). Wild Mammals in Captivity. pp. 265–266. ISBN 978-0-226-44009-5
- ^ https://www.facebook.com/asahicom+(2020年11月18日).+“動物園で生まれた後「いつかは食卓に」 余る動物の悲劇:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2023年7月29日閲覧。
- ^ “動物園の「余りやすい動物」とは? ペットのバースコントロール(避妊等)から考える(石井万寿美) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2023年7月29日閲覧。
- ^ “動物園「肉食より草食獣のほうが事故起きる」なぜ”. 東洋経済オンライン (2022年3月13日). 2023年7月28日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2018年12月20日). “「殺処分」か「展示」か 飼育員死なせたホワイトタイガー公開再開(1/2ページ)”. 産経ニュース. 2023年7月29日閲覧。
- ^ “西洋における文明の転換…「動物権」思想とキリスト教的DNA”. 20220324閲覧。
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