メロン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/29 07:16 UTC 版)
メロン(甜瓜) | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Cucumis melo L. (1753)[1] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
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和名 | ||||||||||||||||||||||||
メロン | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
melon[3] |
メロンは園芸分野では果菜(実を食用とする野菜)とされる[6]が、青果市場での取り扱い[6]や、栄養学上の分類[7]では果物あるいは果実と分類される。
インド原産で、中近東を経てヨーロッパに渡った西洋系品種と、中国で広まった東洋系品種があり、各地で栽培されている[5]。現在メロンとよばれる果実は、甘味や香りが強い西洋系メロンが主流で、甘味や香りがない東洋系メロンはウリとよばれている。果皮は緑色や黄色、白色などがあり、無地のほかネットメロンとよばれる網目模様のものや、縦縞模様が入るメロンもある[5]。栄養的にはビタミンCやカリウムが豊富なのが特徴。
歴史
起源地と古代文明地への伝播
北アフリカや中近東地方の原産地と推定されたが、2010年に発表された植物学者スザンヌ・レナーとミュンヘン大学の研究者らの遺伝子研究によれば、インドが原産地と裏付けられた[8][9]。インドのインダス渓谷で紀元前2300年 - 同1600年ごろのメロンが、インド中西部で紀元前1600年ごろのものが発見されている[10]。古代インドのアーリア人が、原住民のムンダ族がメロンに名づけていた複数の言葉を借用して、サンスクリット語でチャルバター(carbhatah)やキルビタ(cirbhita)などと呼んでいたが、これがウリ科植物やメロンの仲間を表すラテン語のククルビット(cucurbit)の語源となった[10]。
メロンはごく早い時代にインドから西方のイラン(ペルシア)へ広がったとみられており、紀元前3000年ごろのメロンの種子がイラン南東部の古代遺跡シャフリ・ソフタから発見されている[10]。紀元前7世紀の古代メソポタミアでは、粘土板に書かれた楔形文字から、バビロニアの王、メロダク・バルアダン2世の菜園でメロンと解釈できる植物が栽培されていたとみられている[11]。紀元前2000年ごろの古代エジプトでは、エジプトメロンやヘビウリが食べられていたともいわれている[12]。古代ギリシアにおいて、メロンの仲間についての記述として現れる最も古いものは、紀元前4世紀のヒポクラテスによるもので、科学者の多くはこれがメロンであるとみている[13]。古代ローマでも、同様にメロンが食べられていたとみられているが、古代のメロンは現代のような甘いメロンではなかったと考えられている[14]。
メロンがインドから東方の中国へ到達した時期は不明であるが、中国浙江省では紀元前3000年ごろのメロン種子が発掘されている[15]。このメロン種子は甘くないメロンだった可能性もあるが、植物学者のテレンス・W・ウォルターズによれば西周時代(紀元前1100年ごろ - 同771年)における中国では、マスクメロンと野菜用メロンは重要な果菜であったという[15]。漢代(紀元前206年 - 紀元220年)にはメロンは中国で一般に食べられていた[15]。
中世から近世
その後、甘いメロンが作られるまで数世紀に及ぶ改良の努力が行われた。研究者の多くは、中世の終わり(15世紀末)になって、ようやく現代と同じ甘いメロンがアルメニアからイタリアへと入ってきて、その後ヨーロッパ全土に広がったと考えている[16]。中世ヨーロッパではメロンは甘いものということは知られており、甘くて食味の良いメロンも作られていたとみられているが、一方では栽培技術が未熟であったため、メロンは味気ないものという評価もなされていた[17]。ルネサンスのころに南フランスでカンタルー種のような甘い品種が作られるようになり、メロンは野菜の仲間ではなくなっていった[18]。
近東と中央アジアなどのシルクロード沿いのオアシスでは、栽培環境が整った上に最高品質のメロンが採れ、その種を取引する市場となっていた[19]。10世紀にアラビア語による最古の料理書を編纂したアル=ワッラークは、多様なメロンについて執筆しており、中でも中国産メロンについて「蜂蜜のように甘く、麝香のような芳香を持つ」と評している[20]。6世紀の中国で書かれた農書にはメロンの栽培法について解説されており、『西遊記』の三蔵法師で知られる7世紀唐代の仏僧・玄奘は、旅先のインド滞在記にメロンについても記録を残している[21]。13世紀モンゴル帝国のシルクロードを旅したマルコ・ポーロは、ペルシアやアフガニスタンで栽培・日干し保存加工されている甘いメロンについて最高のものだと書き、メロンの評判を呼んでいた[22]。14世紀後半に中央アジアを支配したティムールを訪問したスペイン使節団は、中央アジアで食べたメロンの味に魅了され「すばらしく非常に美味しい」と評した[23]。
大航海時代に入るとシルクロード(陸路)の交易は廃れたが、16世紀イギリスの探検家アンソニー・ジェンキンソンのほか、19世紀ヴィクトリア朝の探検家フィレッド・バービーナや、ジャーナリストのエドモンド・オドノヴァンらが中央アジアに訪れた際に食べた甘くて新鮮なメロンの美味しさに言及したとされる[24]。16世紀以降、カンタロープメロンと他の甘いメロンがヨーロッパで非常に人気があり、南フランスのカヴィヨン地方はカンタロープメロンの産地として有名になった[25]。
新世界には元々メロンは存在しなかったが、クリストファー・コロンブスが1494年のカリブ海域をめざす2度目の航海で初めて持ち込んだ[26]。メロンは旧世界から新世界でも急速に広がり、16世紀前半には中米で栽培され、16世紀後半から17世紀前半にかけて北米のフロリダやハドソン川流域でも栽培されるようになった[27]。さらに1683年、スペイン人はメロンの種をカリフォルニアに持ち込んでおり、北米のスペイン人入植地におけるメロン栽培は成功をとげている[27]。スペイン植民地時代初期のパナマとペルーや、イギリス・オランダ植民地でも、メロンはごくふつうに食べられていた[28]。南米北東部にあるオランダ植民地のスリナムで、奴隷反乱の鎮圧に加わったオランダ人のジョン・ステッドマンは、18世紀末に黒人奴隷がメロン栽培をしている様子を伝えている[29]。
一方でメロンについての記述で初期のものは、何も知らない人がメロンを食べて命を落としたという根拠のない警告が多数あり、中世ヨーロッパ人のあいだでは、メロンは甘いのでつい食べ過ぎると病気にかかり命を落としたり、中毒性があると危険視する考え方もまかり通っていた[29]
近代以降
19世紀末にアメリカ・カリフォルニアに移住してきたアルメニア人は、祖国から甘いカサバメロンやペルシャメロンを栽培した[30]。その100年後、カリフォルニアへ移住したアフガニスタンと中央アジア移民も同様に、祖国から持ち込んだ甘いメロンの栽培に取り組んでいる[30]。北米産で緑果肉で刺激の強い香りを持つモントリオールメロンは、17世紀末にイエズス会がフランスからカナダに持ち込んだメロンを、19世紀に品種改良したものだと言われている[31]。収穫後は日持ちしないため一時絶滅しかかったが、1995年に種子がアイオワ州のシードバンクで再発見され、このメロンの生産を再開する努力と更なる改良が続けられている[32]。
1970年代のイスラエルでは、ハネデュースメロンとマスクメロンを交配して甘く芳香のあるガリアメロンが作られ、これがブラジル、スペイン、アメリカ、パナマ、エジプト、コスタリカで商業生産されている[33]。
フランスでは、南フランスのカヴァイヨン地方で産するカンタロープメロンが国の誇りとなっている[33]。1987年には、カヴァイヨンのシャラントメロンを称え、販売促進の目的もあって「同胞騎士団メロン勲章」が創設されている[33]。
日本
日本では中世以前に中国方面から東洋系品種であるマクワウリが渡来し、近代に入り西洋系のメロンが移入された。両者は生物学上は同種だが、一般的にはメロンの名称は西洋系品種を指す。
中世の考古遺跡から炭化種子が検出されており、古い時代に渡来して雑草化したものは「雑草メロン」(Cucumis melo L. var. agrestis Naud.)と呼ばれ、西日本の島嶼部などに自生している。
日本はマスクメロン栽培のパイオニアともいわれており、一般的なメロンよりもかなり高価な値段がつけられている[34]。マスクメロンの一品種で、贈答用として化粧箱に入れて販売されることの多い夕張メロンは、2008年の初競りで2玉250万円の高値をつけている[34]。一方で栽培難度が高いマスクメロンに外見や食味が近くかつ生産が容易な新たなネットメロン品種の開発も積極的になされ、平成期に入るとアンデスメロンやクインシーメロンといった低価格かつ食味にも優れた品種が多く出回るようになってきた。
特徴
一年生のつる植物で、一般に食べられているような果肉が詰まったメロンは、品種改良を経て作られたものである[35]。ウリ科植物のなかでも旧世界に由来する植物で、熟成期間の最後を、十分な日光に当てて過不足ない水分を与えた適切な環境で育てられることによって、果実の甘い風味が増す[35]。
実
果実は多くの場合に球形であるが、ラグビーボール形やこん棒形、さらには蛇の様に細長いものまで変化に富む。表面は白色、緑色、黄色などで、複数の色が混ざる事もあり、イボや深い溝を生ずることも多い。網目が生じるもの(アミメロン・網系)と生じないもの(アミナシメロン・網無し系)とがある。多くは中心部が綿状で多数の種子を含む。
日本で流通しているアミメロンは、品質を高めるために1本の蔓から通常1個しか収穫しない。主なネットメロン品種は受粉してから食べ頃までの日数が特定されている。ネットとは、かさぶたのようなものであり、果実の成長期に果肉と表皮の伸長率のずれによって生じるひび割れを塞ぐ分泌物から形成されるもの。 実を1個残す過程で未熟な状態で収穫される実は「摘果メロン」と呼ばれ、メロン漬けの材料となる[36]。ただし生産量最大の茨城県では1株に2玉としており、サイズや品位は下がるが低価格で近隣の大消費地へ供給可能としている。
果実は熟すと甘くなるが、酸味が含まれる場合もある。極粉質の果実をつける品種(ババゴロシとも呼ばれる)や、乾燥地帯の品種には極めて保存性のよい(1年程度もつ)品種もある。この場合は果物というより、水筒の代わりとしての利用である。
スイカほど実は大きくならないが、それでも2004年に世界最大のマスクメロン(29.4キログラム)が米国アラスカ州の都市パーマーで採れている[37]。
果肉
果肉色は、主に赤肉種・青肉種・白肉種に分類される。
- 赤肉種:赤色系(橙色)
- 夕張メロン・クインシーメロン・アムスメロンなど。
- 青肉種:緑色系(黄緑色)
- アンデスメロン・プリンスメロン・タカミメロン・アールスメロン・イバラキングメロンなど。
- 白肉種:白色系(乳白色)
- ホームランメロン・ハネデューメロン・パパイヤメロンなど。
注釈
出典
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- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Melo sativus Sager. ex M.Roem. メロン(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月29日閲覧。
- ^ Cucumis melo L.USDA Germplasm Resources Information Network、2015年7月6日閲覧。
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- ^ ラブグレン 2017, p. 70.
- ^ マグロンヌ・トゥーサン=サマ 『世界食物百科』玉村豊男 翻訳監修、原書房、1998年、ISBN 4087603172、pp.684-687
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- ^ “「幻のメロン」クールボジャ今年限り 岩沼の生産組合、高齢化で生産断念”. 河北新報オンライン (2022年6月22日). 2022年10月30日閲覧。
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- ^ a b ラブグレン 2017, p. 126.
- ^ a b ラブグレン 2017, p. 127.
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- ^ a b c d e f g ラブグレン 2017, p. 136.
- ^ ラブグレン 2017, p. 137.
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