リリス
「リリス」とは、古代ユダヤの伝承に登場する、女性の姿をした悪魔もしくは悪霊の名前である。一説によれば、天地創造の際にアダムと共に土から創造され、アダムの最初の妻となった(もしくは、妻となる筈であった)が、神を呪い、楽園を飛び出して、魔女となったとされる。ただし、これは後世の解釈である。
リリスは、そもそもは古代メソポタミアの伝承に登場する悪霊的な存在とされる。これがユダヤ教に伝わり取り入れられたと考えられている。
旧約聖書の「創世記」第1章では、いわゆる「天地創造」の様子が描かれるが、そこでは創造主たる神が人間を「男と女とに創造された」と記述されている。これが第2章の「アダムの肋骨からイブがつくられた」という記述と食い違う。「リリス」は、この矛盾を埋める存在と位置づけられたわけである。
とはいえ、「創世記」に「リリス」の名が登場するわけではない。聖書(旧約聖書)では、預言書「イザヤ書」に「リリス」の名に言及している箇所があるのみである。もっとも、翻訳次第で「リリス(Lilith)」の名は登場したりしなかったりする。
「詳訳聖書(Amplified Bible)」と呼ばれる英語訳聖書では「Lilith (night demon)」という記述が登場する。つまりリリスは「夜の魔女」として言及されている。
リリスは天地創造の際にアダムと同事に神によって創造された女性であり、その意味では男性と対等な存在である。また、リリスが楽園を出たのはアダムと対等に扱われなかったことへの不満によるものと解釈されることがあり、その解釈においてリリスは「男女平等が叶わないと知って自立の道を選んだ」キャラクターである。こうした点を踏まえてリリスはフェミニズムのシンボルとして扱われることがある。
「リリン」とは
「リリン」とは、リリスの子孫である女性の魔物、あるいは、リリスを含む女性の魔物の総称である。中東の神話や伝説においては、邪悪な力を持つ存在として描かれることが多い。今日のファンタジー系創作(とりわけ日本における西洋風ファンタジー作品)に登場する「リリン」は、悪魔的な力を持つ女性型のモンスターであったり、妖艶で美しい女性型の悪魔や魔女であったりする。作品によっては、魔法力を持ち邪悪な力を行使する小型の悪魔だったり、時には魔界を統べる女王だったりする。他方、作品によっては、リリンは人間よりも小柄で、耳や翼に特徴のある、美しく善良なキャラクターとして描かれることもある。
「リリス」の語源・由来
「リリス」という言葉の語源や由来には、複数の説がある。たとえば、古代メソポタミア神話に登場する女神「リリトゥ」が、この言葉の由来ではないかとされる説がある。リリトゥは、空と大地をつなぐ神聖な木の下に宿る鳥の女神であり、性愛・誘惑・出産・疫病などの女性的な領域を司るとされている。また、「リリス」という言葉は、ラテン語の「lilium(ユリ)」に由来するという説もある。ユリは高貴さや純粋さを象徴する花として知られ、女性性の象徴として扱われることが多々ある。
リリス
「リリス」とは・「リリス」の詳しい解説
旧約聖書「イザヤ書」の34章14節では、妖怪や動物の一種として「夜の魔女」と言及されているが、聖書「創世記」1章27節の伝承の解釈によればリリスはアダムの最初の妻とされている。ヘブライ語でリリトと表記されることもある。イブがアダムと結ばれたことでリリスは男性を憎み、アダムと別れた後も悪霊(ヘブライ語でリリン)を生み出し続けたとされている。古くはバビロニア(現代のイラク南部を領域とした世界最古の文明の発祥地。古代においてはさらにシュメール地方とアッカド地方に大別)からリリスの名は登場する。ユダヤ教典「タルムード」によれば、リリスはアダムと同時に神より土から作られ、アダムの妻として生活していた。しかしアダムとの生活への不満や、男性であるアダムが自分よりも上位である事に耐えられず、リリスからアダムの元を去ったとされている。
神により3体の天使が遣わされたもののアダムとリリスの関係は修復されず、アダムはイブと結ばれた。神は、アダムの元を去ったリリスに対し、毎日大勢の子供を産み続け、そのうちの100人を毎日失う罰を与えた。ショックを受けたリリスは紅海沿岸で自ら生命を断ったが、遣わされた3体の天使により哀れみを受けリリスは蘇った。さらに今後生まれてくる子供の運命を(男児であれば8日間、女児であれば20日間、私生児であれば一生)自由に左右出来る力を天使たちより与えられた。天使たちはリリスの気まぐれから子供たちを守るため、彼女の力を免れる事が出来るように、自分たち3人の名前(セノイ、サマンゲロフ、サンセノイ)を書いた護符を人間たちに授けたとされている。
リリスはその後、悪魔との間に大量の悪霊を生み出したとされている。アダムとイブとその子供たちへ苦しみを与えるためとも言われているが、その後リリス自身も結婚を妨げたり子供を殺す悪魔に変貌したと言われている。リリスの子供であるリリンとリリスは、しばしば混同されるが、リリンは男性をたぶらかし血や精気を吸い取ったり、子供を流産させたり、子供をさらって食べたとされている。このような説からリリスは「夜の女王」であったり、「悪魔の母」と呼ばれる。13世紀のカバラ文書の中では悪霊の君主サマエルの伴侶となった説もある(一説ではこのサマエルとの子がリリンとされている)。
キリスト教の文化圏では19世紀以降文芸作品のセリフや題材として登場するようになる(ゲーテの「ファウスト」、ロセッティの「レディ・リリス」など)。現代では「男性からの支配や社会からの抑圧からの解放」を訴える女性解放運動の象徴ともされており、その思想に共感する人々により肯定的に再評価されるようになったと言われている。
また西洋占星術によるリリスは実在する小惑星の一つ、他には月の遠地点(月の軌道上で、地球から最も遠い地点。別名ブラック・ムーン)、地球のもう一つの衛星、といったそれぞれ異なる事柄として使用されている。
「リリス」の語源・由来
リリスの語源は、「夜」を意味するヘブライ語のライラーとも結び付けられているが、古代バビロンのリリートゥ(古代メソポタミアの女性の悪霊)が語源ともされている。ヘブライ語のリーリースやアッカド語のリーリートゥは先セム語の語根LYL(夜)の女性形ニスバ形容詞(ニスバ形容詞とは、アラブ人の伝統的な名前の要素の一つであり出身地や所属部族などに形容詞系語尾「イー」をつけたもの)で、「夜の」という意味、もしくは「夜の女性的存在」といった意味で使われる。しかし何人かの学者によると上記の説は否定され、リーリートゥは「嵐の悪霊」が語源であるともされている。「リリス」の使い方・例文
・リリスはアダムの最初の妻である。リリス 【Lilith】
リリス
リリス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/16 16:03 UTC 版)

体に大蛇を巻きつけて恍惚の表情を浮かべるリリスが描かれている。
リリス (Lilith) は、ユダヤの伝承において男児を害すると信じられていた女性の悪霊である。リリトとも表記される。通俗語源説では「夜」を意味するヘブライ語のライラー(Lailah)と結びつけられる[1]が、古代バビロニアのリリートゥ(後述)が語源とも言われる。
旧約聖書では『イザヤ書』34:14に言及があるのみで、そこではリリス(לִּילִית, 標準ヘブライ語ではリリト Lilit)は夜の妖怪か動物の一種であった[注 1]。古代メソポタミアの女性の悪霊リリートゥがその祖型であるとも考えられている[3]。ユダヤ教の宗教文書タルムードおよびミドラーシュにおいては、リリスは夜の妖怪である。しばしば最初の女であり、アダムの最初の妻とされるが、この伝説が最初に現れるのは、中世に著された『ベン・シラのアルファベット』においてである[4]。カバラ文献においては、アダムとリリスの交わりから悪霊たちが生まれたと言われる[5]。リリスの子どもたちはヘブライ語でリリンとも呼ばれる[6]。アダムと別れてからもリリスは無数の悪霊たち(シェディム)を生み出したとされ、13世紀のカバラ文献では悪霊の君主であるサマエルの伴侶とされた(後述)。
男女平等を主張し、アダムと口論になった逸話から、リリスは現代では女性解放運動の象徴の一つとなっている。
語源
アッカド語のリーリートゥ(līlītu)は先セム語の語根 "LYL"(夜)からきた女性形ニスバ en:nisba 形容詞であり、字義的には「夜の」つまり「夜の女性的存在」になる、と一般的に言われている。
しかし何人かの学者は語根LYLをもとにした語源論を否定し、リーリートゥの起源は嵐の妖怪である、と考えた(下記参照)。この説は彼らによって引用されている楔形文字文書によっても裏付けられている。「夜」との関連は、おそらく初期の民間語源説によるものだろう。
対応するアッカド語の男性名詞リールー(līlû)にはニスバ接辞が存在せず、むしろシュメール語のキスキル=リラ(kiskil-lilla)と比較されている。
アッカド神話
キスキル=リラ
リリスは、シュメール語の『ギルガメシュ叙事詩』序に見える女性の妖怪 キ-シキル-リル-ラ-ケ ki-sikil-lil-la-ke4 と同一視されてきた。
リリスの現れる箇所はS. N. クレイマーの訳によると、
竜がその木の根元に巣をつくり、
ズー鳥が頂で若鳥を育て、
そして妖怪リリスが中ほどに住処を作っていた。
(中略)
それからズー鳥は若鳥とともに山地へ飛んでいった
そしてリリスは、彼女の住処を壊して荒野へと逃げ帰った
ヴォルケンシュタインは同じ部分を次のように訳している。
惑わされない蛇は木の根元に巣をつくり、
アンズー鳥はその若鳥を木の枝で育て、
闇の娘リリスは住処を幹に作っていた
上に引用したギルガメシュ叙事詩のくだりは、おおよそ前1950年ごろのバーニーの浮彫(ノーマン・コルヴィル・コレクション(Norman Colville collection))に当てはめられることがある。そこには脚が鳥の鉤爪になり、両脇にフクロウを従えた姿の女性が彫られている。
この同一視における重要なポイントは鳥の脚とフクロウである。この浮き彫りはおそらくギルガメシュ叙事詩の妖怪キシキルリルラケかその他の女神を表現したものだろうと考えられているが、実際のところリリスとの関係は希薄である。
メソポタミアのリリートゥ
これらの浮き彫りのあとにはおよそ1000年ほどの空白期間がある。次に現れるのは前9世紀ごろのバビロニア悪魔学からで、そこではリルと呼ばれる吸血鬼のような精霊が知られている。こうした妖怪は闇の時間帯にさまよい歩き、新生児や妊婦を狩り、殺す。アッカド語のリリートゥはアルダト・リリー(Ardat Lili)およびイドル・リリー(Idlu Lili)と三幅対をなす。上記のように、おそらくこれらの存在は嵐の精霊であり(シュメール語のリル lil、「大気」「風」に由来する)、「夜」との関連はセム語の民間語源説なのだろう。
初期シュメールの神話には、アダパが、南風[注 2]の翼を破壊したという物語があるが、それ以来彼女(南風)は人類に敵意を抱くようになったらしい。この風は、神々の王エンリルの妻であるニンリル[注 3]と関連づけられている。ある神話の断片によれば、エンリルがニンリルを強姦し、その罰として彼はエレシュキガルの領地である冥界へと追放された。ニンリルは強姦のトラウマに苦しめられ、世界を放浪したのち、エンリルを追って冥界へ降り、男性への復讐を誓った[7]。
シュメール神話からバビロニアのアッカド神話への移行における変化によって、風の女神ニンリルは、彼女の2人の召使(アルダト・リリーおよびイドル・リリー)とともにリリートゥ(-*ituはアッカド語の女性形接尾辞)になったのではないかと考えられる。
アルスラン・タシュの「リリス除魔法」(アレッポ国立博物館)と呼ばれている資料は、偽造ではないかと疑われているものの、もし真正なものだとすればだいたい前7世紀ごろの飾り板であり、そこにはスフィンクスのような怪物と牝オオカミが子供を食っている様子が描かれ、フェニキア文字でスフィンクスのような怪物をリリ(Lili)と注記している。
リリスとフクロウとの関連がいつごろに遡るのかについてはわからないが、おそらくこの鳥が吸血性の夜の精霊だとみなされたことによるものだろう。この習俗は古代ギリシアにおいて広まり、復讐の女神エリーニュスや夜の女神ヘカテーにそれを確認することができる。
聖書におけるリリス
ヘブライ語のリリト (לילית, lilit) はアッカド語からの借用語とされる[8]。 エドムの荒廃について書いている『イザヤ書』34章14節は、旧約聖書のなかで唯一リリスについて言及している箇所である。
荒野の獣はジャッカルに出会い 山羊の魔神はその友を呼び 夜の魔女は、そこに休息を求め 休む所を見つける。
— 新共同訳、以下同じ
Schrader (Jahrbuch für Protestantische Theologie, 1. 128) とLevy (ZDMG 9. 470, 484) は、リリスはバビロン捕囚によってユダヤ人たちの間に知られるようになった夜の女神であると考えた。しかしリリスが妖怪というよりは女神である、という証拠はない。イザヤ書の成立は前6世紀ごろで、この時期はむしろバビロニアの妖怪リリートゥが言及されている時期と一致している。ブレア (2009)によると、リリスはヨタカである。[9]
七十人訳聖書は、適切な訳語がなかったためだろう、リリスをオノケンタウロス(onokentauros)と翻訳している。前のほうにある「山羊の魔神」もダイモン・オノケンタウロス(daimon onokentauros)と翻訳されている。この節におけるその他の部分は除外されている。
ヒエロニムスはリリスをラミアーと翻訳した。ラミアーはホラティウスの『詩論』(Ars poetica)340にみられる子供をさらう鬼女で、ギリシア神話ではリビュアの女王であり、ゼウスと結婚した。ゼウスの妻である女神ヘーラーは、ゼウスに無視されるようになってからラミアーの子供たちを奪った。それ以来、ラミアーは他の女性の子供を奪う怪物になってしまった。
欽定訳聖書における screech owl という訳には前例がない。これは、34章11節の「フクロウ」(yanšup)および「大きなフクロウ」(qippoz)とともに、翻訳するのが難しいヘブライ語の単語を、その部分の雰囲気に似合ったそれらしい動物を選ぶことによって意訳しようとしたのではないかと思われる。
ユダヤの伝承
新生男児の割礼のとき、リリンから守るために首のまわりに3つの天使の名前が書かれた護符(後述)を置くという風習がある。この伝統は、リリスが中世の文筆家による創造ではなく、より初期のヘブライ神話にも存在していたという議論に重みを与える。また、ヘブライには、リリスが男児だけを狙うので、この妖怪を騙すために男の子の髪を切るのをしばらく待っておく、という風習もある。
死海文書
死海文書にリリスが登場しているかどうかについては議論がある。そのうちの一つは疑う余地のない『賢者への歌』(4Q510-511)のなかの言及であり、そしてもう一つはA・バウムガルテン(A. Baumgarten)によって発見された『男たらし』(4Q184)における、おそらくそれらしい引用である。前者の、反論しようがない4Q450断片1の『歌』には以下のようにある。
そして、私、指導者は、神の栄光ある輝きを、全ての破壊の天使たち、私生児の精霊たち、悪霊たち、リリス、叫ぶもの、そして[砂漠に棲むもの……]を震え上がらせ、恐れさせるために、唱える。
この典礼文書は「イザヤ書」34:14と近縁関係にあり、超自然的な敵対存在への注意を喚起するとともに、リリスがよく知られていた存在であったということも教えてくれる。しかし聖書のテクストから区別されるのは、このくだりがいかなる社会-政治的な議題においても機能しないということであり、むしろ『悪魔払い』(4Q560)や『悪霊を追い払う歌』(11Q11)と同様の役割を果たしており、呪文によって構成されている(アルスラン・タシュの浮き彫りと比較せよ)。「こうした精霊たちの力に対して義人たちを助け、守る」ために利用されたのだ。
クムランで発見されたほかの文書のなかでは従来『箴言』と関係していると思われたものが、どうやら「危険だが魅力的な女性」というリリス描写の伝統に沿っているものだと考えられるようになってきた。4Q184の『男たらし』である。前1世紀か、おそらくはもっとさかのぼるこの詩歌は、危険な女性について述べ、続いて彼女との遭遇に注意するように言っている。これまではここでいう女性とは『箴言』の第2章と5章にみられる「よその女」のことだと思われていた。確かにその並行関係は明らかである。
彼女の家は死へ落ち込んでいき
命の道に帰りつくことはできない。 — 『箴言』2章18-19節
その道は死霊の国へ向かっている。
彼女のもとに行く者はだれも戻ってこない。
彼女の門は死への門であり
彼女に取り憑かれた者は穴へと落ち込む。 — 死海文書4Q184
その家の玄関を 彼女は冥界へと向かわせる。
そこに行く者はだれも戻ってこない。
しかしながら、箴言における「よその女」という表現はクムランにおいては「男たらし」となっており、説明がつかない。箴言に表現されている女性は疑いなく遊女のこと、あるいは少なくともそのうちの一人の表象であり、テクストを共有していた人々にとってはよく知られていた職種だった。対照的に、死海文書における「男たらし」は、特に禁欲的なクムランの共同体にとっては縁のなかった社会的脅威(つまり遊女)の表象ではありえない。となると、死海文書は箴言におけるイメージを利用して、より広い意味での超自然的な脅威、すなわち女の悪霊リリスを詳述したのではないかと考えられるのである。
タルムード
タルムードがリリスについて言及することは稀であるものの、そのくだりは、リリスについての包括的な視点を与えてくれる。それはメソポタミア起源としてのリリスと、『創世記』における「謎」の、聖書解釈述を予示させる彼女の未来の双方を反映するものである。たとえば、タルムードにおいてリリスは翼と長い髪を持つとされているが、これは現存する最古の言及(ギルガメシュ叙事詩)にまで遡る。
ラビのユダはサムエルを引用して「もしも流産がリリスのようであったら、母親は誕生によって穢れている。なぜなら子供であるが翼があるからである」 — ニッダー篇24b
[女性による呪いについて詳述するなかで]バライタ(Baraitha)においてこう教えられた。彼女はリリスのように髪を長く伸ばし、獣のように水を漏らして座り、彼女の夫に長枕のように仕える。 — エルビン篇100b
すでに『男たらし』で暗示されているが、タルムードにおける特徴的なリリスについての言及は、その不潔な肉欲であり、ここでは男性たちが寝ているときに性的に彼らに近づくために女性の姿をとる女悪魔についてのメタファーとしてまで拡張された。
ラビのハンナが言うには、「人は[誰もいない]家の中で一人では寝られない。そこで寝るものはリリスに押さえつけられる」 — シャバト篇151b
しかしながらタルムードに見られるもっとも個性的な認識は、エルビン篇の最初のほうにある。そこには何世紀にもわたって続くリリス神話を不注意にも運命付けた責任がある。
エレアザルの子、ラビのエレミヤはさらに述べた。「アダムが禁止されていたこの年月[エデンの園を追放されてからの130年]の間、彼は亡霊、男の悪霊、そして女の悪霊[または夜の悪霊]をもうけた。聖書に『アダムは百三十歳になったとき、自分に似た、自分にかたどった男の子をもうけた』[創世記5:3]とあるからである。つまり、ここまでの間、彼は自分に似た、自分にかたどった子供をもうけなかったということである。彼は130年の間断食し、130年の間妻との関係を断ち、130年の間イチジクの衣を着ていた。[ラビのエレミヤによる]この記述は、彼が偶然漏らした精液について言及したときのものである。」 — エルビン篇18b
エルビン篇18bとシャバト篇151bを『ゾーハル』の「彼女は夜に徘徊し、人の息子たちを悩ませ、彼ら自身を穢すようにする」(19b)を比較すると明らかなのは、タルムードのこのくだりがアダムとリリスが一緒になるのを嫌っているということ示唆している、という点である。
カバラ
カバラの文献である13世紀の『左側の流出についての論考』[2]によると、リリスはサマエルの妻である。
その他、おそらく『ベン・シラのアルファベット』に影響されて、彼女はアダムの妻ということになっている(『ヤルクト・レウベニ』(Yalqut Reubeni)、『ゾーハル』1: 34b, 3: 19[3])。
最初の女としてのリリス
『創世記』1章27節のくだり「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女にかたどって創造された」(アダムの肋骨からイヴが誕生する前の節である)から、アダムにはイヴ以前に妻がいたという伝承が生まれた。この発想は、創世記2:21のイヴがアダムの肋骨もしくは脇腹から造られたという記述との矛盾を解消しようとするものであったと考えられる[10]。
リリスがアダムの最初の妻であるとした最も古い文献は、中世の『ベン・シラのアルファベット』で、8世紀から11世紀ごろにかけて執筆された(著者不詳)。『ベン・シラのアルファベット』によれば、アダムの最初の伴侶となるはずであったリリスは、アダムと対等に扱われることを要求し、同じく土から造られたのだから平等だと主張してアダムと口論となった[10][11][注 4]。アダムが譲らないのを見て、リリスは神の名を叫んで飛び去っていった。[11]
アダムは神に、リリスを取り戻すように願った。そこで3人の天使たちが彼女のもとへ遣わされた。セノイ(en:Senoy)、サンセノイ(en:Sansenoy)、セマンゲロフ(en:Semangelof)という3人の天使たちである。天使たちは紅海でリリスを見つけ、「逃げたままだと毎日、彼女の子供たちが100人死ぬことを許さなければならない」と脅迫したが、リリスはアダムのもとへ戻ることを拒絶した。天使たちがリリスを海に沈めようとすると、リリスは天使たちに答えて、「わたしは生まれてくる子どもを苦しめる者だ」、ただし「3人の天使たちの名の記された護符を目にした時には、子どもに危害を加えないでやろう」と約束したのである[13][5][注 5]。
『ベン・シラのアルファベット』の後期の写本では、リリスはアダムと別れた後に、「大いなる悪魔」(הַשֵּׁד הַגָּדוֹל、ha-shed ha-gadol)の妻になったとする。大いなる悪魔とは誰なのかは不明だが、これはリリスが生み出す悪魔たちの父親が誰なのかという問いに答えるものと考えられている[15]。
『ベン・シラのアルファベット』の背景と目的はよくわかっていない。この書物は聖書とタルムードの英雄たちの物語集成であり、民間伝承を集めたものなのだろうが、キリスト教やカライ派などの分離主義運動に反駁するものでもあった。内容は同時代のユダヤ教徒に対しても攻撃的(offensive)なものに見えるので、反ユダヤ主義的な諷刺であるとさえする説もある[16]。とはいえ、どちらにせよ、このテクストは中世ドイツのユダヤ教神秘主義者たちに受け入れられた。
『ベン・シラのアルファベット』はこの物語についての現存最古の資料だが、リリスがアダムの最初の妻であるという概念は17世紀ごろヨハネス・ブクストルフ(Johannes Buxtorf)の『カルデア・タルムード・ラビ文献語彙集』(Lexicon chaldaicum, talmudicum et rabbinicum)によってようやく広く知られるようになったに過ぎない。
文学
リリスの伝説に基づいた文学作品に、アナトール・フランスの「リリトの娘」、ジョージ・マクドナルドのロマン主義的幻想小説「リリス」、クライヴ・バーカーの「冷たい心の谷」などがある。
映画
- リリス (映画) - ロバート・ロッセン監督 1964年
近代の呪術・魔術
エルサレムのイスラエル博物館所蔵の18・19世紀のイランの新生児用護符は鎖につながれたリリスを描き、両腕の下には「鎖につながれたリリス」と書かれている。
黄金の夜明け団のカバラ体系では、リリスは「夜の女王にして悪霊たちの女王」とされ、生命の樹の第10のセフィラであるマルクトのクリファに位置づけられている[17]。アレイスター・クロウリーの『De Arte Magica』ではリリスはサキュバスとして登場する。
脚注
注釈
- ^ 「夜の魔女」〔口語訳、新共同訳〕あるいは screech owl (鳴きたてるフクロウ[2])〔King James Version〕と翻訳されている。
- ^ 常にイラクの人々を悩ませてきた夏の砂嵐と関係がある。
- ^ 「風の女」。nin 「女性」と lil「風」より。
- ^ アダムとリリスは争い始めた。彼女は言った「私は下には寝ません」。すると彼は言った「私はあなたの下に寝るのではなく、上にだけいる。あなたは下にいるのがふさわしいが、私は上にいるのがふさわしいのだ」。リリスは応えて言った「私たちは、二人とも大地からつくられたのだから、お互いに平等です」。[11][12]
- ^ ユダヤ人の伝統では、生後8日以内の男子と生後20日以内の女子はリリスに害されるおそれがあるとされ、妊婦と新生児を守る護符にはこの3人の天使の名が刻まれた[14]。
出典
- ^ デイヴィッド・ゴールドスタイン 『ユダヤの神話伝説』 秦剛平訳、青土社、1992年、60頁。
- ^ フレッド・ゲティングズ 『悪魔の事典』 大瀧啓裕訳、青土社、1992年、428頁。
- ^ J. B. ラッセル 『悪魔―古代から原始キリスト教まで』 野村美紀子訳、1984年、教文館、87頁。
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- ^ Ninlil. (2006). Encyclopædia Britannica. Retrieved February 10, 2006, from Encyclopædia Britannica Premium Service [1])
- ^ KOSIOR (2018), p. 113
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- ^ a b c KOSIOR (2018), p. 117
- ^ この話は性行為の性交体位におけるアダムの支配的地位を拒否したものとも解釈され、フェミニストらに刺激を与えた(石堂藍・今松泰・吉田邦博 『図解雑学 世界の天使と悪魔』 藤巻一保監修、ナツメ社、2009年、196頁)
- ^ ジョルダーノ・ベルティ 『ヴィジュアル版 天国と地獄の百科』 竹山博英・桂本元彦訳、原書房、2001年、375頁。
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- ^ KOSIOR (2018), p. 120-121
- ^ Segal, Eliezer. Looking for Lilith Archived 18 December 2001 at the Wayback Machine.
- ^ Drury, Nevill (2002). The Dictionary of the Esoteric. London: Watikins Publishing. p. 184
参考文献
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- Kabbalist References: Zohar 3:76b-77a; Zohar Sitrei Torah 1:147b-148b; Zohar 2:267b; Bacharach,'Emeq haMelekh,19c; Zohar 3:19a; Bacharach,'Emeq haMelekh,102d-103a; Zohar 1:54b-55a
- Dead Sea Scroll References: 4QSongs of the Sage/4QShir; 4Q510 frag.11.4-6a//frag.10.1f; 11QPsAp
- An overview of the Lilith Mythos バーニーの浮き彫りの分析を含む
- クレイマーによる、ギルガメシュ叙事詩の翻訳はKramer, Samuel Noah. Gilgamesh and the Huluppu-Tree: A reconstructed Sumerian Text. Assyriological Studies of the Oriental Institute of the University of Chicago 10. Chicago: 1938.
- Wojciech KOSIOR (2018). “A Tale of Two Sisters: The Image of Eve in Early Rabbinic Literature and Its Influence on the Portrayal of Lilith in the Alphabet of Ben Sira”. Nashim: A Journal of Jewish Women's Studies & Gender Issues (32): 112-130. doi:10.2979/nashim.32.1.10.
関連項目
外部リンク
- Jewish Encyclopedia: 「リリス」
- Lilith Alan Hummによる
- International standard Bible Encyclopedia: 「夜の怪物」
- The 1901 Jewish Encyclopedia : 「リリス」
- ユダヤ教フェミニズムにおけるリリス神話批評
リリス(LILITH)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/09/17 14:43 UTC 版)
「beatmania IIDXに登場するGOLIのキャラクター」の記事における「リリス(LILITH)」の解説
声:能登麻美子 初出は『beatmania IIDX 5th style』(家庭用『4th style』にもレイヤー画像があるが、これは家庭用独自の書き下ろしなので初出ではない)。もともとは単発のキャラクターだったが、名前付きのキャラクターに昇格した。また、その名前もファンからのメールにより決められている。本名は「雛月理々奈(ひなづき りりな)」で、リリスはあだ名(ただし後付設定である)。黒髪のおかっぱ頭で、目尻と口元にフェイスペイントを入れている(ただしプライズ品のフィギュアや最近の一部のイラストではフェイスペイントが省かれることがある)。無口かつ無表情なセムの妹で、17歳の高校二年生で血液型はO型。口数は少なく、話すときは「…デス」と語尾に付ける。彩葉からは「りりちん」と呼ばれている。実兄であるセムを「兄さん」と呼ぶ一方、姉貴分であるナイアは「姉様」と呼んで慕っている。彩葉とは同じクラスで、2人きりのクラブ「オカルト研究会」で日々惚れ薬を研究している。学校内では2人合わせて「白黒コンビ」と呼ばれており、密かな人気がある。 両親を交通事故で失っており、ほとんどその記憶がない。特に父親について微かに覚えていることと言えば父が蓄えていた髭であり、このことからサイレンに面影を見出し思いを寄せるようになる。しかしながら性分が災いして特に行動する訳でもなく、時よりほんの些細な物陰から見守るのが常。サイレンの後をつけていたらに幽霊と勘違いされ、ショックを受ける。故に惚れ薬の完成は、念願である。将来の夢は、ジャグジー付きのバスルームの家で大家族の一員になること。 IIDXの腕は曲を楽しむためにライトプレイヤーのままだが、『Dance Dance Revolution』の腕前はなかなかのものらしい(『6thStyle』ホームページより)。 好きなものは、7th公式サイト:占い全般・コナミワイワイワールド(FC)・髭→アルカディア第一期掲載時:占い全般・黒魔術・シロロ魔術・コナミワイワイワールド(FC)・髭・わくわくwac→IIDXバイブル掲載時:民族音楽・占い全般・黒魔術・シロロ魔術・髭。 神秘的かつダークなイメージを表現するキャラクターとして、レイヤーの登場回数も多い。『7th style』の楽曲「LOVE ME DO」ではゴスロリドレスで登場し、これ以降特殊な地位を確立する。また、『8th style』から急に胸が強調されるようになり(以降、徐々に他の女性キャラクターも追随する)いわゆる巨乳キャラのポジションでもある。 『Roots26 S[suite]』では彩葉と一緒に作った惚れ薬が原因でトラブルが起こることがあり、実際『Vol.1』のエピソードでは惚れ薬の残りを持ち帰ってしまったために何も知らないセリカがだし汁と勘違いしてたこ焼に入れてしまい、それをユーズ含む男性達が摂取してしまい男同士が愛し合うといった大惨事を招く羽目になる(その後セムのお陰で事なきを得るが)。
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