本
★1.本を開き、そこに書いてある言葉を読んで、吉凶を判断し行動の指針とする。
『悪霊』(ドストエフスキー) 知事レンプケは、時たま当てずっぽうに本をあけ、右のページを上から3行読んでみて、占いをすることがあった(第2部第10章)。老学者ステパンは、聖書売りのソフィヤに、偶然に目に入った1節を読んで欲しいと請い、「僕は聖書で僕らの未来を占っているんです」と言った(第3部第7章)。
『オリヴァー・トゥイスト』(ディケンズ)第3巻第44~45章 悪漢サイクスの情婦ナンシーが、ある夜本を読んでいると、どのページにも「棺桶」という字が書いてあるので不吉に思う。翌日の早朝、ナンシーはサイクスに殴り殺された。
『月長石』(コリンズ)「物語」第1期「ベタレッジの手記」・第2期第8話「ベタレッジの寄稿」 70歳を越した「私(執事ベタレッジ)」は、窮境に立った時・忠告が欲しい時には、いつも愛読書『ロビンソン・クルーソー』の適当なページを開き、そこに書かれてある文章から、行動の指針と将来の予言を読み取った。あまり熱心に読んだので、「私」はこれまでに、堅牢な『ロビンソン・クルーソー』を6冊も駄目にしてしまった。このあいだ、奥さまは7冊目を下さった。
『パンタグリュエル物語』第三之書(ラブレー)第12章 家臣パニュルジュが結婚の希望を持ちながらも迷っているので、パンタグリュエルはウェルギリウスの書物を3度開き、そこに現れる詩句をもとに結婚の吉凶を占う〔*しかし詩句の解釈がパンタグリュエルとパニュルジュで異なり、結局彼らは徳利明神の神託を求めて船出する〕。
『門』(夏目漱石)の題名の由来 朝日新聞社から「次回の連載小説の題を知らせよ」との催促があり、漱石は、「何でもいいから名前を考えて、社に報告してくれ」と森田草平に頼んだ。草平は小宮豊隆の所へ相談に行き、豊隆も困って、机上の『ツァラトゥストラ』を、おみくじでも引くようにパッと開いた。そうして出てきたのが『門』という言葉である。翌日の新聞に「『門』近日連載開始」の予告が載り、漱石はそれを見て、自分がこれから書く小説の題が『門』であることを知った。
★2.焚書。
『アベラールとエロイーズ 愛の往復書簡』第1書簡「厄災の記」 「私(アベラール)」の神学の論文は、他の学者たちには十分に理解されず、また、「私」を嫉妬し誹謗する人も多かった。「私」はソワソンの公会議に召喚され、審議もないままに、「私」の著書を自らの手で火中に投ずるよう強制された。「私」は、自著を焚書せざるを得なかった。
『華氏451度』(ブラッドベリ) 未来社会では、人々は超小型ラジオを耳にはめ、巨大なテレビ画面に没頭して、幸せに暮らしていた。人を思索に導く書物は危険視され、焼き棄てられた。焚書官モンターグは、書物を隠し持つ家を捜し、火炎放射器で書物を焼く職務に従事していた。しかし本を読む少女クラリスに出会い、モンターグは読書の喜びを知った。妻ミルドレッドの密告によって、モンターグは逮捕されるが、彼は火炎放射器で焚書局の上司を焼き殺し、逃亡する→〔記憶〕11。
『史記』「秦始皇本紀」第6 始皇帝34年。丞相李斯が、「史官の所蔵する書籍のうち、秦の記録でないものはみな焼き捨てるべし。また、天下にある儒家・諸子百家の書をすべて提出させ、焼き捨てるべし」と建言した。始皇帝はこれを是とし、命を下した。
『一九八四年』(オーウェル) 1984年、世界は3つの超大国に分割されていた。その1つ、全体主義国家オセアニアでは、党の命令で、革命以前の書物の没収と焚書が徹底的に行なわれ、1960年以前に発行された書物が残っている可能性はなかった。
『ドン・キホーテ』(セルバンテス)前編第1~7章 騎士道物語を読みふけったドン・キホーテは、自らも遍歴の騎士をこころざして第1回目の旅に出るが、怪我をして、3日後に帰って来た。友人たちは「本がドン・キホーテを狂わせた」と考え、百冊余りの蔵書を点検する。彼らは何冊かを自分たちのものにし、残りの本はすべて家政婦が焼き払った。
★3.不思議な本。
『聴耳草紙』(佐々木喜善)1番「聴耳草紙」 年の暮れに貧乏な爺が、死馬に群がる犬を追い払い、痩せたびっこの狐に馬肉を投げ与える。返礼に爺は、聴耳草紙という、古暦のような冊子をもらう。これを耳に当てると、鳥・獣・虫の声が人間の言葉に聞こえるのだった。
*呪いの本を開いた人が神隠しにあう→〔一人三役〕3の『古書の呪い』(チェスタトン)。
★4a.眠るための本。
『ペルシア人の手紙』(モンテスキュー)第143信 35日間眠れぬ病人が、主治医の勧める阿片剤を断り、不眠症の特効薬として本屋に信仰書を注文する。コーサン神父の著書『聖廷』が届けられ、病人の息子が朗読するが、息子自身、早くも2ページ目で呂律が回らなくなり、周囲の人はいびきをかきはじめ、ついに病人もぐっすり眠りこむ。
『不思議な島』(芥川龍之介) 船の甲板にいる「僕」は、彼方に見えるサッサンラップ島について、英国の老人から説明を聞く。島では皆が野菜を作り、文芸作品の論評のごとくに、野菜についてのさまざまな品評が行なわれるという。老人の名刺に「ガリヴァー」とあったので「僕」は驚き、昼寝から目覚めると、読みかけの『ガリヴァー旅行記』が置炬燵の上にあった。
『光子の裁判』(朝永振一郎) 夢で「私(朝永振一郎)」は、波乃光子(なみのみつこ)という被告をさばく裁判を傍聴していた(*→〔分身〕1d)。「被告の弁護人はどこかで見た顔だ」と思ったら、それはイギリスの物理学者ディラックだった。目覚めると、「私」はディラックの『量子力学』の10ページあたりを読みながら、本に顔をおしつけてうたた寝をしていたのだった。
★4c.本を読んで眠ったが、本の内容とは全然関係のない夢を見る。
『小説の面白さ』(太宰治) 「私」は眠れぬ夜に、島崎藤村の『夜明け前』を、朝までかかって全部読み通したことがあった。そうしたら眠くなってきたので、その部厚な本を枕元に投げ出し、うとうと眠って夢を見た。その夢は、『夜明け前』とはまったく何の関係もない夢だった。あとで聞いたら、藤村は『夜明け前』完成までに10年間かけたということだった。
『金瓶梅』の伝説 『金瓶梅』の著者・笑笑生とは、明代の文豪・王世貞のことである。王世貞の父はある人物に殺され、王世貞は父の仇(かたき)を討つため、淫書『金瓶梅』を書いた。父の仇は、指をなめて本のページをめくる癖があったので、王世貞は『金瓶梅』のページに毒を塗って贈った。しかし塗った毒が薄く、仇を殺すことはできなかったという。
『千一夜物語』「イウナン王の大臣と医師ルイアンの物語」マルドリュス版第4~5夜 イウナン王は医師ルイアンに病気を治してもらったが、悪人の讒言にまどわされて、医師を斬首しようとする。医師は王に秘密の本を贈り、「この本を3枚めくって左ページの第3行を読めば、私の斬られた首が、王様のあらゆる質問に答えます」と言う。王は本の内容をはやく知りたいと思い、医師の処刑前にページをめくる。ページには毒が塗ってあり、王は死ぬ。
『鳥の物語』(タゴール) 礼儀も作法も知らず、好き勝手に空を舞って歌をうたう鸚鵡がいた。王様が「こういう鳥は、ものの役に立たぬ」と言い、「あの鸚鵡に学問を授けよ」と、大臣に命じた。学者たちが多くの書物を積み重ね、ページをちぎって鸚鵡の口の中に押し込んだ。鸚鵡は歌うことをやめ、死んでしまった。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「のび太シンデレラ」 『浦島太郎』の絵本を読むたびに悲しくなる、とのび太が言うので、ドラえもんはのび太と一緒に「絵本入りこみ靴」をはいて、本の中に入り、タイムフロシキを浦島にかぶせて若返らせる。次にのび太が1人で『シンデレラ』の絵本に入るが、誤ってガラスの靴を割り、その上、自分の靴を片方落とす。王子は「この靴の主と結婚する」と言い、のび太は王子の花嫁になる。
『はてしない物語』(エンデ) 少年バスチアンは、古本屋で見た本『はてしない物語』に心引かれ、それを盗んで、学校の屋根裏の物置で読みふける。物語の中ではファンタージエン国が危機に陥り、作中人物たちが、外部世界の人の子の救いを求める。バスチアンは「今ゆきます」と叫び、本の中の世界であるファンタージエン国に入りこむ〔*ファンタージエンを救ったバスチアンは、高慢になり自分を見失うが、「愛」こそ最も重要なものであることを知り、人間世界へ戻る〕。
『処方』(星新一『ボンボンと悪夢』) 物語を読むと夢中になり、作中人物になりきってしまう女性がいた。読み終わって本を閉じると、われにかえるのである。ある時、女性は乱丁のある本を読み始めた。本の終わりの所に、初めの方のページがまぎれこんでいた。女性はそこまで読んでくると、また本の初めに戻り、作中人物になったまま、いつまでたっても本を閉じることができなかった。
*本の世界に入り込み、作中人物に殺される→〔作中人物〕5aの『続いている公園』(コルタサル)。
『読書論』(小泉信三)第10章 「中央公論」掲載の谷崎潤一郎『盲目物語』を、「私」は汽車の中で読んだ。朝、仙台を出てから読み始め、読み終わって我に返ると、汽車は停まっている。茫然として窓外を見る目に入った駅名は、黒沢尻だった。後で調べたら、仙台と黒沢尻の間には22の駅があって、急行で2時間40分かかる。この2時間数十分の間、「私」は沿線の景色も目に入らず、停車駅の呼び声も耳に入らなかったのだ。
*地下鉄内でいろいろなことを考えたが、気づくと2分しかたっていなかった→〔地下鉄〕2の『追い求める男』(コルタサル)
『聊斎志異』巻11-415「書癡」 三十男の玉桂は毎日、読書にふけっていた。ある夜彼は、読みかけの本の中に、紗を切り抜いた美女の姿が、栞としてはさまれているのを発見する。栞の背面には、細字で「織女」と書かれていた。何日かの後、栞の美女は動き出し、人間と同じ大きさになる。玉桂は美女と結婚し、子供も生まれる。しかし県知事が美女の噂を聞き、拘引しようとしたので、彼女はどこかへ身を隠してしまった。
『なぜ「星図」が開いていたか』(松本清張) 高校教諭・藤井は、蛇が大の苦手で、しかも心臓があまり丈夫でなかった。藤井の死を願う人物が、部厚い百科事典の中ほど(そこは「星図」の項目のページだった)に、蛇の脱皮殻を栞としてはさんでおく。そして、藤井が百科事典を開いて調べものをするように仕向ける。藤井は蛇の抜け殻を見て心臓麻痺を起こし、即死した。
『サミング・アップ』(モーム)66 東方の若い王が、「世界の知恵の書物を集めよ」と、賢者たちに命ずる。30年後、賢者たちは5千冊の本を届ける。しかし王は国事に忙しく、それだけの本を読む暇がなかった。本は15年後に5百冊に要約され、その10年後には50冊に要約されたが、この頃には王は年をとり疲れていて、読めなかった。さらに5年が過ぎ、賢者たちは、世界の知恵を1冊に凝縮した本を持って来た。王は老齢で瀕死の状態にあり、その1冊さえ読む時間がなかった。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)3 古代ローマ7代目の王の所へ、女が9冊の本を売りに来る。その本には、ローマの運命が記してあった。たいへん高価だったので王が値切ると、女は3冊を火にくべて焼き、「残りの6冊を前と同じ値段で買え」と言う。王が「それは乱暴だ」と言うと、女はまた3冊を焼き、「残りの3冊を、9冊分の値段で買え」と要求する。値切ればその3冊も焼いてしまうかもしれないので、とうとう王は、高い金を出して3冊の本を買った〔*苦沙弥が細君に話した物語〕。
『大導寺信輔の半生』(芥川龍之介)5「本」 学生の「彼(大導寺信輔)」は古本屋で、「彼」自身が2ヵ月前に売った『ツァラトストラ』を発見し、懐かしさを感じた。「彼」はその本を1円40銭で買い戻した。それは、売った時の値段70銭の倍額だった。
『砂の本』(ボルヘス) 「わたし」が手に入れた、未知の言語で書かれた聖書は、無限のページを有しており、初めも終わりもない本だった。表紙のすぐ次のページを開こうと試みても、開いたページと表紙の間に、何枚ものページがはさまってしまう。まるで本からページがどんどん湧き出てくるようだった。最後のページも同様であった。1度見たページは、いったん本を閉じると、2度と捜し出すことができなかった。
★10b.莫大な数の本。
『ヨハネによる福音書』第21章 イエスのなさったことは、たくさんある。その1つ1つを書くならば、世界も、その書物を収めきれないであろう。
Weblioに収録されているすべての辞書から*本*を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から*本* を検索
「*本*」に関係したコラム
-
株式分析のニックMネクストムーブとは、ボリンジャーバンドとケルトナーチャネルズの2つのテクニカル指標によってトレンドを探し出すためのテクニカル指標です。テクニカル指標のボリンジャーバンドの特徴として、...
FXのチャート分析ソフトMT4で高値と安値のラインを引くには
FX(外国為替証拠金取引)のチャート分析ソフトMT4(Meta Trader 4)で高値と安値のラインを引く方法を紹介します。高値のラインは、ローソクの高値の1本1本を線で結んだものになります。同じく...
-
FX(外国為替証拠金取引)のチャート分析ソフトMT4(Meta Trader 4)のフラクタルの見方について解説します。フラクタル(Fractals)は、為替レートの高値と安値からトレンドの転換点を探...
-
FXやCFDのシャンデクロールストップ(Chande Kroll Stop)とは、テクニカル指標のATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)を元にしたテクニカル指標のことです。シャンデクロールストップは、...
-
株式分析の酒田五法は、江戸時代の相場師、本間宗久によって考案された投資術です。酒田五法には、「三山」、「三川」、「三空」、「三兵」、「三法」の5つの法則があります。▼三山三山は、チャートの高値圏に出現...
-
ゴールデンクロスとデッドクロスは、2本の移動平均線が交差することで、FX(外国為替証拠金取引)や株式取引などでは相場の流れを知る手掛かりの1つとして用いられています。移動平均線をチャート上に描画するに...
- *本*のページへのリンク