公安調査庁
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調査対象
国内関係
日本国内に関しては、旧オウム真理教(現: Aleph、ひかりの輪)、日本共産党、革マル派・中核派などの新左翼、右翼団体ないしは右翼標榜暴力団、行動する保守(右派系市民グループ)、朝鮮総連、沖縄で「琉球独立」などと唱える勢力などの情報を収集している。同庁のホームページの動静調査のページには、左右諸団体の活動報告が掲載され、適宜更新されている[16]。
旧オウム真理教系の宗教集団であるAlephやひかりの輪については、活動形態に違いこそあれ、松本智津夫(麻原彰晃)の教義を広める目的は共通しているとし、オウムと同一団体とみなしている[17]。そのため、団体規制法の規定に基づき、Alephやひかりの輪についても、立入検査をはじめとする観察処分を長期的に実施している。2015年1月23日には、公安審査委員会の審査により、「本質的な危険性を引き続き保持していると判断」し、5回目の観察処分の期間更新(つまり、観察処分としては6期目)が発表された[18]。同集団関連施設への立入検査は、月1 - 2回のペースで実施されており、2015年3月の時点において、19都道府県下延べ608か所(実数131か所)への検査の実施が公表され、麻原の写真や麻原・上祐の説法教材の多数の保管が確認されている[19][20]。
一方、ひかりの輪は、立入検査情報の漏洩があった等の理由により、国家公務員法違反罪(守秘義務の違反)にて公安調査庁の職員を東京地検に告発している[21]。また、観察処分更新は「証拠曲げた」結果であるとし、金が目的でないとしてわずか損害賠償請求額3円の訴訟を提起している[22]。観察処分の5回目の延長決定に対しても「誤った事実認定に基づく決定で、訴訟で取り消しを求める」と主張している[23]。
また、日本共産党の支持勢力を中心に一部の労働組合や労働争議支援団体、反戦運動・反基地運動、原子力撤廃・反核運動、市民オンブズマンなど行政監視グループ、部落解放・女性解放など人権擁護運動(アムネスティ・インターナショナル、自由法曹団、日本国民救援会、青年法律家協会等)、消費者団体(生活協同組合や産地直送運動・環境保護団体)、言論団体(日本ペンクラブ、日本ジャーナリスト会議等)などについても情報収集を行っているとされ、これらの団体から「調査・監視対象化は不当」と非難されている[24]。
- 特異集団
2006年版までの『内外情勢の回顧と展望』では、「社会通念からかけ離れた特異な活動をしている団体」を「特異集団」と位置づけ、情報収集を行ない発表していた。なお、特異集団とは新宗教(新興宗教)やカルトなどとは異なる概念であり同義ではないが、「不安感をあおって執拗な勧誘を行った集団」をも含めた概念である[25]。
2005 - 2006年版には、日蓮正宗系新興教団の冨士大石寺顕正会が名指しではないものの取り上げられたことがあった。また「在日関係者を取り込むことで勢力拡大を図る動きをみせた集団もあった」、「こうした『特異集団』は、危機感や不安感をあおった上で勢力拡大を図っており…」、「不法事案を引き起こすことも懸念される」などと指摘するくだりがあり、これら記述は2022年(令和4年)の安倍晋三暗殺事件後に立憲民主党の辻元清美が提出した質問主意書に対する答弁書で、「世界平和統一家庭連合(旧・世界基督教統一神霊協会)のことを指す」と内閣も認めた[26][27][28][29][30][31][32][33][34][35]。
しかし第1次安倍政権下の2007年版以降は、特異集団の項目は無くなり旧オウム真理教系の宗教団体以外は取り上げていない[25][36]。
- 排外主張を掲げ執拗な糾弾活動を展開する右派系グループ
2011年(平成23年)度版『回顧と展望』にて、行動する保守運動が「排外主張を掲げ執拗な糾弾活動を展開する右派系グループ」と位置づけられ、新たな監視対象に加わっている[37]。
2018年(平成30年)度版では、在特会の流れを汲む日本第一党も、名指しこそされなかったものの取り上げられた。
- 沖縄
2017年度版『回顧と展望』は、中国の大学やシンクタンクが、沖縄で「琉球独立」を唱える団体との交流を行っていることについて、「中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいる」としている[38]。これに関連して社民党の照屋寛徳が衆議院に提出した質問主意書で
『沖縄における辺野古新基地建設反対運動、東村高江の米軍ヘリパッド建設反対運動は、国政選挙や首長選挙で示された民意を無視して、これらの工事を強行する国家権力に対抗するための非暴力の抗議活動である。特定の政党や団体、活動家らにとどまる反対運動では断じてなく、いわゆる「オール沖縄」の旗印の下に多くの県民が結集する、開かれた抵抗闘争だ。『回顧と展望』六十二頁には、「沖縄県民大会」に「全国から党員や活動家らを動員した」との記述があるが、具体的にどの政党を指しているのか、当該政党の名称を全て列挙した上で、「動員した」と断定する根拠について政府の見解を示されたい』
『「沖縄県民大会」に「全国から党員…を動員した」と記述された政党は、日本共産党であると承知している』
と回答している[40]。
国外関係
日本国外に関しては、同庁が毎年公表している『回顧と展望』の書き振りから、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、中華人民共和国(中国)、ロシアなど、日本と敵対もしくは緊張関係にある国家等に関する情報収集を行っているとみられる。また、同庁が公表している「国際テロリズム要覧」には、国外のテロ組織・過激組織の動向やテロ関連情勢が詳述されていることや、平成26年版『回顧と展望』にも中東・北アフリカの情勢や国際テロリズムに関する情勢が独立した項目で取り上げられていることから、グローバルに展開する昨今のテロリズムのトレンドに応じた情報収集を行っており、外務省系のインテリジェンス組織で日本における事実上唯一の国営通信社とみなされているラヂオプレスとも連携しているとみられる。
注釈
- ^ 警察でいう警察手帳のようなもの。
- ^ 現在は旧憲兵司令部庁舎は取り壊され、跡地に九段合同庁舎と九段第2合同庁舎が建設されており、関東公安調査局は九段合同庁舎を使用している。「東京都の軍事遺跡一覧#司令部・官衙」も参照
出典
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お尋ねの「集団一および集団二」については、宗教法人世界基督教統一神霊協会(当時)であると承知している。
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