移動海上基地案とは? わかりやすく解説

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移動海上基地(MOB)案

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 05:23 UTC 版)

普天間基地移設問題」の記事における「移動海上基地MOB)案」の解説

英称Mobile Offshore Base。この当時既にアメリカ軍研究始めていた。1996年9月橋本海上ヘリポート案を示した一気世間注目浴び一時は有力候補目され当時海兵隊司令官であったクルラックなど、関係者期待示している。 アメリカ軍1960年代から70年代にかけて、国防高等研究計画局で「Mobile Ocean Basing System Project」と題してこの種の施設研究実施していた。 しかし、1990年代になって必要性従来より強く認識され理由として、下記挙げられている。 1980年代後半頃から軍産官学各界開発への機運盛り上がった湾岸戦争の際、海上兵站輸送支障きたした湾岸戦争当時より「次の時には今回のようにトルコサウジアラビア基地提供が得られる保証はない」と言われていた。一般論として、アメリカ軍事力行使する際、その場所や近傍基地確保出来保証はないことも指摘されている。 兵站上の理由挙げられているが、朝日新聞MOB事前集積船隊の思想延長にも当っていることを報じている。また、ジョージ・H・W・ブッシュ政権通じて国防長官であったディック・チェイニー署名による湾岸戦争総括したレポートでは、当初1年が必要と見積もられ部隊展開を半年達成したことや、その要因であるサウジアラビアへの基地建設投資、及び技術開発成果自賛する一方、「砂漠の嵐作戦に基づく2つ取り組み」として技術革新将来への備え勧告している。 船橋洋一普天間問題本案注目を浴びた時MOB推進してきたキーマンとして、第6艦隊司令官として湾岸戦争に参陣したウィリアム・オーエウェンズ退役海軍大将の名を挙げている。 このため国防総省1990年代初頭より「地域紛争対処新兵器システム」として実用性検討開始し海軍研究機関中心となって要素技術開発進められた。1991年にはハワイ大学で『International workshop of VLFS』(VLFS'91 第1回超大型浮体海洋構造物に関する国際ワークショップ)が開催された。国防総省1992年から翌年までの研究開発基金生み出すことに成功したその後国防高等研究計画局1993年から1996年まで「Maritime Platform technology」と題して研究行ったクリントン政権にはチェイニー後釜新政権最初長官となったレス・アスピンのように、技術革新強い関心示した国防長官居た。しかし、江畑によれば政権としては国防予算減額傾向にあり、MOBに高い優先順位与えられなかった。1996年より3000万ドル予算で、MOBのような洋上プラットフォーム建造どのような技術が必要であるかの研究進めこととしたが、これは予算を少し消費しただけで中断した状態になった1990年代末、普天間代替基地候補目されていた頃考えられていたMOB構成について説明する提案アメリカ民間企業3社で検討されており、内ブラウン・アンド・ルート社の作成したMOBパンフレット最初に日本国内出回り始めたB&RB&R社は概念設計請け負った用語としてMOB生んだのもこの会社である。研究再編されたばかり研究機関、NSWCCD(Naval Surface Warfare Center、Carderock Division)のテーラー水槽にて1993年7月から1994年11月まで続けられた。同社60分の1のスケールモデル作成して各種試験行っている。 このMOBそれぞれ独立したセミサブ式メガフロートであり6つモジュール構成されるモジュールCommand Module指揮管制モジュール)、RO-RO Module兵站モジュール)、Warehouse Module倉庫モジュール)、Thuruster Module(スラスターモジュール)の4種分類できる6つモジュールは同じサイズである。MOB両端部にはスラスターモジュールが設置され、同モジュール出力1490kWのものが12設置されており、移動位置保持を行う。上構は3つのデッキからなり、一番上フライトデッキ飛行甲板)である。 『選択』誌によれば、各モジュールサイズ長さ170m、幅100m、高さ70mとなっている。各モジュール洋上連結して完成する10ノット移動することも出来る。江畑謙介によればモジュール分割し曳航するタイプ検討されていたと言う発着想定されているのは、ヘリの他、C-130同機給油機仕様KC-130考えられている。 下記専門誌掲載され主要目を示す。 全長:152m(アッパーハル、6モジュール結合時914m) 幅:91m 高さ:65m 喫水:30.5m(満載)、12.8m(移動時) 排水量:677122メートルトンMT 満載搭載能力:ドライカーゴ148400MT(車両含)、使用スペース254000平方メートルフライトデッキ除く) リキッドカーゴ49800MT(大半lower hull収蔵速力:6.2ノット(at survival draft when fully assembled) 8.5ノットtransit draft耐用年数:40年 なお、『Journal of Marine Science and Technologyによればtransit draftとするには貨物一部降ろ必要があるまた、スラスターモジュールではなく、各モジュールスラスター分散させることがB&Rより提案され合計出力35790kWでは位置保持出力不足していることが明らかとなった車両移動SS3Sea State状況によりSS4でも可)、主要な荷役作業SS4まで可能である。ただし、大半RORO船港湾での荷役前提にしているため、モデル試験挙動定量化する際、やや主観的に決定した要素がある。コンテナクレーン荷役は殆ど研究されなかった。実用化に際して追加研究を必要としていたと言う同社橋本発言直後、「開発は既に85%が終わっている」と述べていたが、上記のように実物サイズはまだ1基もない状態であった費用は6モジュール合計2000億円と見積もられたという。国防大学にも模型飾られていたという。 作戦運用上のデメリットについては、当局者のコメントとして下記報じられている。 大きさ制約から基本的に滑走路機能し持てない 陸上との連絡桟橋などに頼れず、兵員輸送にはヘリ使用するため、沖縄本島支援のための大規模地上施設が必要 Mcdermott案 McMOBと呼ばれている。同社舶用クレーン分野知られ論文の中で三井造船建造担当したDERRICK BARGE No.102など過去の実績触れているものもある。同社1995年11月から契約に基づき概念研究行った研究ではB&R社の概念設計教訓取り入れている。設計に際してC-17運用意識してサイズ決められている。大きさ等し5つのサブベース(モジュールから成る。ロワーハルはタンカー類似した形状とされている。本案もNSWCCDのテーラー水槽にて60分の1のスケールモデル作成して各種試験行っている。風洞流体試験1996年夏で終了し予備設計1997年夏で完了予定であった下記専門誌掲載され主要目を示す。軍は1995年要求仕様示したが、McMOBは速力などで部分的に上回る仕様となっている。 アッパーハル全長300m(5モジュール結合1500m) 幅:153m 高さ:67m カラム:8本(4×2)、直径27m、横方向中心間隔92m、縦方向中心間隔72.3m ロワーハル:2基(ポンツーン)、中心間隔92m全長:260m 幅:44m 深さ:14m 喫水:35m(Operational draft)、30m(Survival draft重心:基線より30m上方 連結ヒンジ数:8(自由度3) 排水量(1モジュール当り)190544MT(Transit draft 30000MTのドライ/リキッドカーゴを含む) 374 000 MT(Operational draft of 35m) 搭載能力:60000MT(Maximum payload、1モジュール当りドライ/リキッドカーゴ計) スラスター出力:50000kW(1モジュール当り、6250kW×8) 速力:15ノット(10.8m transit draftfull payload14ノット(12.2m maximum payloadモジュール間の連結はSS5まで可能で、SS7では切離す模型実験結果SS4にて接舷する船舶相対運動抑制するように設計したのである必要が分かったKværner Maritime/ボーイング柔軟性持たせたトラス構造アーチ状の長大架橋する論文ではFlexible Bridge MOB紹介されている。 セミサブ全長:213m 3基 長大全長:457m 2基 ベクテル/レイセオン/Nautex案 Independent Module MOB称される全長500mのセミサブ式モジュール3基が縦に並んだのであるが、ヒンジによる連結行わずDynamic positioningによって位置保持を行う。 小型案、移設検討の中での議論 橋本海上ヘリポート述べたけだったが、アメリカ一部関係者MOB乗り気であった1996年9月20日開催された「2プラス2」後、国防次官代理キャンベルは、セミサブ式の油田掘削リグ例示しながら日米両国はこれらの問題大きな技術力持っている」と移動式海上基地対す期待示した。 クルラックも同様で、20日開いた記者会見ではMOBへの移設可能性について語ったその中で「ある時にはフィリピン沖に係留して訓練をし、ハスのように行ったり来たりする」とMOB性格説明している。ただし、梅原季哉などによればクルラックは元々冷戦後脅威世界拡散したことに対して海兵隊分散配置技術革新応えようとする考えがあり、1996年トム・クランシー出版したMarine: A Guided Tour of a Marine Expeditionary Unit』でもクルラックは事前集積MOB概念について応えている。また、当時海兵隊纏めた2010年海上事前集積」という文書では従来型事前集積船、超高速輸送船MOB3本構想描かれていた。海兵隊本部戦略構想部門からクルラック直属戦闘実験室実験作戦部門長に異動したジェームズ・ラズウェル大佐MOB活用法について机上研究繰り返したと言う9月30日には沖縄沖での導入前提に、国防総省近く企業新たな研究契約を結ぶと報じられた。研究には6~9ヶ月の期間を見込んでいる。 しかし、10月に入るとMOB規模縮小し移動余り重視していないと報じられた。これは小規模なMOBで、実行可能性調査feasibility study)も完了して技術的に可能と結論された。浮体海上施設FOF)と呼ばれ300m四方正方形であった喫水は30m以上。兵員居住区弾薬燃料格納庫等の設置主目的となっている。琉球新報は「訓練限定型」として報じており、技術的に未知数な点が多いこともあり、中間報告段階QIP等の日本提案受け入れた述べている。この時点で、11月下旬までの結論は困難との観測流された。『日経コンストラクションによればSACO最終報告を出すに当って日本政府設置したTAGなどの研究グループは、本格的に検討対象としなかったようである。なお、ラズウェル小型MOB検討について「オスプレイ発着できるだけの規模はぜひ必要」と述べている。 ただし、大型MOB諦められた訳ではなかった。むしろ小型MOB早期報道されなくなり日本側が示していた各案に匹敵するサイズである、B&R社案などが引き続き登場している。例えば『選択』誌はFIGの場にてアメリカ側SACO最終報告の3方式に「難癖をつけ、落としどころとする可能性捨てきれない」旨の観測示している。 MOBというシステムが持つネックとしては『世界週報』などにて下記指摘されている。 小型MOBであっても海上ヘリポートの2~3倍の建造費用がかかる。 移動可能という空母のような性格を持つため、建造後日本が所有権保持すれば攻撃用装備として論争引き起こす可能性がある。 移動可能という空母のような性格を持つため、アメリカ側譲渡すれば、武器輸出三原則抵触する日本貸与するにしても事実上管理権アメリカにあるならば、アメリカ軍が必要と考えて日本以外のどこかに移動して作戦投入する可能性がある。 上記懸念して普天間代替と言う目的貫徹し沖縄近海以外の移動禁じるのであれば最初から高価な移動式にする必要がない。 なお、SACO後に検討再開するきっかけとなったのは1998年イラク情勢不穏となった際である。この年2月トルコサウジアラビアバーレーンなどはイラク攻撃航空機発進場所として自国基地使用拒否するのような態度取ったため、一部には憂慮された事態現実のものとなった受け取られた。 また、当時アメリカ軍からは海軍海兵隊ばかりでなく、陸軍統合参謀本部から、特殊作戦部隊発進基地地上部隊支援部隊洋上基地軍用装備補給物資貯蔵基地病院など様々な用途への使用構想されていた。当時海兵隊2010年以降洋上事前配備計画の中でMOB利用研究しており、陸軍2010年以後あり方決定するArmy After Next研究計画で、陸軍大学実施するシミュレーションにてMOB使用シナリオ組み込む予定であった。 この少し後の2000年日本造船学会主催で行われた学術報告によれば要求設計条件下記のように厳し内容である。 SS 6までの波浪中での航空機運用が可能であること SS 3までは艦船による貨物荷役作業が可能であること 40年耐用年数 ハリケーン台風のなかでの生き残りまた、技術的課題としては、下記挙げられている。 構造強度上の最も重要な問題1つモジュール間の結合/分離メカニズム 荷重構造方式などで未解明問題がある 縦曲げモーメントよりも、波や潮流による横曲げモーメントの方が過酷 極端に長い形状のために、通常の船や海洋構造物では起こらない問題生じる マリンフロート推進機構専門書にて期近実現の可能性が高い外洋構造物が何かを想定する際、MOB水深数百mの大水深域における浮体区分し一足飛びの1.5km浮体では実績裏付けられ技術レベルからのジャンプ量が大きすぎる判断される」と評しており、日本当面開発目標として、外洋大水深域では数百m規模サイズ浮体開発目標にするよう提言している。

※この「移動海上基地(MOB)案」の解説は、「普天間基地移設問題」の解説の一部です。
「移動海上基地(MOB)案」を含む「普天間基地移設問題」の記事については、「普天間基地移設問題」の概要を参照ください。

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