左利きの不便
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/13 02:20 UTC 版)
世の中の製品(道具や機械、楽器など)は、右利き用に設計されているものが多い。これは左利きにとって不便なだけでなく、危険性が高い場合がある。また一般に左利き用の製品は右利き用に比べ割高であり、経済的負担を強いられる。 機械の操作ボタンの多くは(向かって、以下同)右側に配置されている。エレベーターのボタン、パソコンのテンキーやエンターキー、カメラのシャッターボタンなど、右利きを前提に設計されている。ただし定員の多いエレベーターは左側にもボタンがある機種もある。 テレビ受像機の電源スイッチや、自動販売機の硬貨投入口は向かって右側にある。 ノートパソコンのマウスの差込み口(USBジャック)、DVDなどの光学ドライブは右側についているものが多い。また有線ネットワークアダプタのコネクタが左側に付いていることが多く、ケーブルを挿すと左側のスペースにはみ出るほか、CPUクーラーの排気口も左側に付いていることが多く、熱気が左側に排出されるためマウスを左側に置きにくい。また、マウスを使用する際、メインでクリックする方を左ボタンとしている。(右手の場合に押しやすい人差し指が左ボタン、押しにくい中指が右ボタンに配置される) 電話機の受話器は左手で持つように配置・配線がなされている。右手でダイアル・またはプッシュボタンを操作したり、メモを取ったりするため。ただし、中には受話器を本体の上の方に横向きで左右どちらからでもセットできるように設計されている物も在る。 コンピュータゲームにおける格闘ゲームやFPSの専用コントローラーでは、右手での操作にかなりの高速操作と精度を求められる(左で操作するのはスティック1つだが、右手では4~6個のボタンを操る)。FPSに関しては、一般的に流行しているのはコンシューマー(家庭用ゲーム機器、ゲームパッドプレイが主力)であるものの、賞金が高額な大会ではパソコン版タイトルをマウスとキーボードで行うことが多い(コンシューマーゲームではマウスを禁止する大会もある)。特にマウスは「銃の照準」を合わせるため、極めて精密な操作が必要とされる。更に場合によっては、マウスに非常に多くのマクロボタンもついており「右手で照準を合わせながら状況に応じてマクロボタンを押す」などの操作で、左利きプレイヤー不利になっている。特にこのジャンルは「デバイス(道具)の差」が顕著になり、自分に合った「FPSゲーム競技用マウス、キーボード、マウスパッド」の3点セットをプロでなくても揃えることが珍しくない。一般PC用のマウスに比べ市場も狭く高額であるため左利きプレイヤーは苦労させられることが多い。 日本の自動改札機は右側に投入口やICカードセンサーがある。 洋式の水洗式便所の洗浄レバーも通常はタンクの右側にある。 缶コーヒーや缶ジュース等の飲み口(プルタブ)は右手で開けやすいよう、切り口が左奥方向に折れていく構造になっている。 アイロンの電源コードは本体右側から出ている物が多い。左手でアイロンをかけるとコードが邪魔になる。 机に引出しが付く場合は概ね右側にある(ただし学習机では引出し部分が机の左右どちらにも置けるものもある)。 公衆電話ボックスの折れ戸式の扉は、左手では非常に開けにくい構造になっている。電子レンジやコインロッカーの扉は左開きであるが、これは左手で開けて右手で品物を出し入れするためである。 多くの文字は右手で書くことを前提としている。 学校では、教壇に向かって左側が窓に面する構造になっている。右手で筆記する際に外光を受けて手元を明るくするため。文字の多くは上から下への縦線と左から右への横線で出来ているが、左から右への横線が左手では書きにくい。これは習字や英語の筆記体で特に問題になる。左利きは紙を右へ傾けて字を書くと横線が左上から右下への斜線になるため書きやすくなるので、多くの左利きが無意識のうちに紙を傾けて書く。また鏡文字を書いてしまう左利きもいる。 横書きで左から右へ文字を書く場合、書いた文字に左手が触れ、乾いていないインクがにじんでしまうことがある。(縦書きやアラビア文字、ヘブライ文字ではその心配はない。) なお左利きでも右利きと同様にペンの鞘を右手前に倒して(ペン先を左前につきだして)持つ者もおり、その場合は上記の左から右への横線の書きにくさや、横書きの際に乾いていない文字に左手が触れるといった問題が起こりにくく英語の筆記体も普通に書ける。 刃物・工具の類も右利きを前提に作られたものが多い。はさみの噛み合わせはほとんどが右利き用であり、左手では扱いづらい(刃が噛み合いにくく、親指側へ引く力を入れる必要があり、はさみダコができやすい)。左利き用や両利き用のはさみも存在するが、左利き用は右利き用に慣れた者には扱いづらい。線に沿って切るときには外側から覗きこまないと正確に切ることができない、何かに添えて対象を切ることができない。 工作などで使用する作業用のカッターナイフは、右利き用であり、左利き用は極めて少ない。ただし、刃自体は両刃になっている物が殆どであるため、握った時に柄をひっくり返すと、左利きの者でも問題なく使用できる。 片刃である日本剃刀、小刀、和庖丁の多くも右利き用である。また両刃であるカッターナイフも左手で持つとロック部分を手のひらで覆うかたちになるのでしっかりと握ることが出来ない。 缶切りも本来は右手で引く力を利用して開けるが、左手では押し込む操作となる。(近年ではプルトップ式が主流になり、困難は減った。) 錠前、コルクスクリュー、パチンコなどは、右手で回転しやすくなっている。なおスロパチンコにはCRサンダーVという左ハンドルの機種があった。 剣道では利き手に関わらず、右手が柄の鍔側・左手が柄頭を握るように指導される。ただし、当人にとっては逆の方が都合が良い。 弓道では利き手に関わらず、左手に弓、右手に矢を持つ。ただし、当人にとっては逆の方が都合が良い。 扇・扇子は、親骨を右手で右手側にスライドして(引っ張って)開く作りになっている。左手で開くと、左手で右手側に(左手と反対方向に)押す方向に動かす様になる。作りが逆の左手用(左利き用)の物もある。 卓上式のボール盤は操作するハンドルが右側に付いている。 電動丸ノコではモーターの右側に刃があり、右手で操作する場合は体と刃の間にモーターが位置するが、左手では刃が体に接近しており危険性が高い。安全カバーがある場合、固定していない側の木材が安全カバーに引っかかり、キックバックを起こしやすい。左利き用の製品もあるが右利き用と比べると選択肢は皆無。 草刈り機は使用者から見て反時計回りに刃が回転しており、右利きの行い易い、草刈り機を右側に抱え先端部で右から左へ刈る動作にしか対応していない。左利きが草刈り機を左側に抱え、右利きと同様に右から左に刈ろうとすると、キックバックした際にキックバックを押さえきれずに、刃が足を直撃する可能性が高い。(草刈り機の構造上、左から右へ刈るという動作もできない。)特にU字ハンドルものはハンドルの右側にスロットルレバーがあり、左手側を軸にして右手で押したり引いたりして回転させるように扱う必要がある。また燃料式のものは始動用のスターターロープも左手で本体を押さえ、右手でロープを引いて始動させる必要がある。 多くの電動工具にはスイッチのロックボタンがあり、右手の人差し指で押すことが想定されているが、左手では意図しない時に無意識にボタンが押されてしまい危険である。 急須は持ち手の左側に注ぎ口があり、左手では外側に傾けないと注げない。ただし左利き用の物も存在する。 すり鉢は右手ですり易い回転方向に溝がつけられている。左利き用の物はほとんど市販されていない。 ファミリーレストランのスープ用おたま(レードル)は左利きの場合、非常に注ぎにくい。一部の店舗には左右両方に対応したものもあるが、尖ったほうから注ぐという先入観を捨てれば丸いおたまを使うのと同様に左手でもさほど苦労しない。 定規の目盛りの多くは左から右に向って振られている。右手で持って計測するのに都合がよいため。 テストやアンケートなどはたいていが横書きで、問題が左、回答欄が右になっている。ウェクスラー成人知能検査(WAIS-III)における「記号探し」は問題が左、解答欄が右になっており、利き手によるスコアの補正は行われていない。 ギターは、右手でピッキングして左手で押弦する前提のため、右利き用のものを左利きで構えると弦の上下が入れ替わり、コードフォームや音階が全て逆になる。また、初心者が楽器屋でギターを購入する際、店員に右利き用でも問題ないとはぐらかされる事が多々ある。無理に右利き用のギターを使いそれを理由に挫折してしまう者も少なくない。実際には左利き用のギターを製造するメーカーも存在し、レフティ・ギター専門の楽器店も存在する(谷口楽器の項を参照)。 アルバート・キング、松崎しげる、甲斐よしひろなど、ごく一部の左利きのギタリストの中には、右利き用のギターをそのまま用いて、コードフォームや音階を独学でマスターした者も存在する。 多くの銃は、シリンダー(回転式弾倉)や銃身の開閉レバー、銃床の角度(ベンド、キャスト、ピッチダウン)や頬当て(チークピース)、排莢の向きなどが右利き用に設計されている。クレー射撃用の中折式散弾銃や狩猟用のボルトアクション式小銃の製造メーカーによっては、これら部品配置を左右反転させた左利き用の銃を製造販売している場合もあるが、流通量が少なく市場価格が高価である事も多い。空気銃では、FXエアガンズ(英語版)などの一部のモデルに銃床の角度が左右対称とされており、左利きが用いても違和感が無い仕様となっているものも存在している。 欧米のハンターの間では、近年では利き手よりも利き目(英語版)を優先して銃を選択する事が推奨されている事から、比較的安価な左利き用の半自動式散弾銃(英語版)やポンプアクション式散弾銃を用いて左構えに変更する右利き射手も増えてきている。 軍用のアサルトライフルや拳銃は古くは殆どが右利き用であったが、サバイバルゲームの世界ではAK-47のように安全装置レバーが機関部の右側に付いている事により、結果として左利きでも扱い易い銃として認知されていた銃も存在していた。また、H&K MP5のように人間工学に基づいた設計が行われた結果、左右どちらの手でも各部の操作レバーが操作可能な銃も存在していた。2000年代以降、「両利きへの対応(アンビデクストラス(英語版))」を目的として、軍用や警察用の銃器は左右どちらで構えても違和感が無いレバー配置や銃床のデザインがされている事が一般的となっている。 単品では利き手に依存しない設計であるが作法、伝統、多数派の意見などで配置が右利きに都合が良くなっているもの。日本食の正しい食器の並べ方は、箸先を左に、握る部分を右に向けて置き、左側に飯茶碗、右側に汁椀を置くようになっている。 ドラムセットは右利きで演奏しやすいように配置されている。教則本、スタジオやライブハウスなど多数の人が使うセットは右利きである。左利きで演奏しやすいように配置は変更可能であるが、セッティング変更や戻す時間だけ演奏時間や練習量が減る欠点がある。 外科医の世界では左利きは認められないとさえ言われてきた。集団作業である手術において一人だけ左利きの医師がいると対面している右利きの助手と手がぶつかったり、右利きの執刀医とは逆の動きに混乱が生じたりして作業に支障をきたす。このため、現在においても外科医は利き手に関係なく右手中心の作業を要求される。しかし、チームで行う外科手術以外においてはそれほど問題視されておらず、他の診療科においてはそれほど重要な問題ではない。 カードゲームなどは利き腕の差は少ないが、トランプの場合、左で扱うとインデックスが見えなくなってしまう。 自転車のスタンドロック開閉は右足での操作を前提としているため、左側にロックが設置されている。このため、左利きの者も右利きの者と同様に右足でロックを開閉しなければならない。 左利きの人は多くの場面で右手用製品を使わざるを得ず、結果としてかえって左利き用の物が使いにくくなる事も多い。また両利きやクロスドミナンスになる人が殆どである。またこうした不便からくるストレスや、操作ミスによる事故を起こしやすいなどの理由から、左利きは右利きに比べて平均寿命が9年短いという説(スタンレー・コレンの報告)がある。しかし、今のところ科学的な精密調査による検証は行なわれていない。 また、集団生活において、横に並んで食事をすると左利きと右利きの利き腕がぶつかるといった問題がある。建物設計でも座席間の距離は、右利きの人だけが並んだことを想定している。これは古代の軍隊でも顕著であり、代表的な例として古代ギリシアの槍部隊であるファランクスも全員右手に槍を持つことが前提となっている。左手で槍を持つことは許されなかった。現代の軍隊でも、前述のように銃火器の構造上、左利きは不便である。日本の警察では、警官の装備は拳銃が右・警棒が左の配置になっている。これは、左利きであっても変える事が認められない(そもそも左利き用ホルスターが作られていない)。たとえば、武士は利き腕に関係なく左腰に刀を差していた。当時は道が狭く、左利きが右腰に刀を差していると道ですれ違う時に相手の刀とぶつかってしまう。刀の接触は相手への非礼とされていたため、斬り合いに発展するなどのトラブルが度々発生した。これを避けるために左利きの者も左越しに刀を差すようになった、とする説が在る。
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