租税 租税の種類

租税

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/22 06:22 UTC 版)

租税の種類

租税制度は仕組みの異なるさまざまな税目から成り立っている[9]。それぞれの税目には長所と短所があり、観点の違いによって様々な分類方法がある[9]

所得課税・消費課税・資産課税等

OECD各国平均の
税収構造(2014年) [11]

  個人所得税 (24%)
  社会保険 (26%)
  給与税 (1%)
  資産税 (6%)
  一般消費税 (21%)
  個別消費税 (10%)
  その他 (4%)

税負担の尺度となる課税ベースに着目した分類として、所得課税消費課税、資産課税等がある[9]。OECD諸国における各国平均の課税割合を右に記す。

所得課税
個人の所得に対して課税される個人所得課税(所得税など)と、法人の所得に対して課税される法人所得課税(法人税など)がある[9]。累進課税による特性として、経済自動安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー)をもたらすとされる[9]
所得控除、医療費控除をはじめ、年金貯蓄や住宅投資などに対する優遇措置など、納税者の負担軽減のための様々な制度を導入しやすいことが利点でもある反面、それらの制度が既得権化すると公平性を損なうだけでなく、課税ベースの縮小によって税収調達機能の低下、非効率化といった問題を生じる[12]。また、納税者個々の収入を把握し的確に課税し徴収する必要があるため正確な徴税が行いにくく、この制度を有効に活用するには税務当局の能力の向上が必須となる。このため3つの課税ベースのうちでもっとも開発が遅れ、所得課税が租税全体において大きな役割を果たすのは国家の徴税能力の向上した近代以降のことである。また同じ理由で、納税・徴税者双方に大きな事務的な負担がかかる課税である[13]。このことから、所得課税は先進国の税収において大きな割合を占めることが多いが、発展途上国においてはそれほどの重要性を持たないことが多い。
消費課税
財・サービスの消費に対して課税される[9]消費税のほか、関税酒税などが含まれる。控除などによる特別措置の余地が少なく、業種ごとの課税ベース把握の不公平も生じないため、水平的公平、世代間の公平に優れており、広い課税ベースによる安定した歳入が見込める[14]。また所得税に比べて課税対象の把握が納税・徴税者双方にとってわかりやすく、税務当局の能力がそこまで必要ではないことから、特に発展途上国においては消費課税が税収の大半を占めていることが多い[15]。反面、所得全体に占める税負担の割合が低所得者ほど大きくなるため、逆進的な性質を伴う[16]
資産課税等
資産の取得・保有・移転等に対して課税される[9]固定資産税相続税贈与税などが属する。他者からも明確に把握できる土地や資産を課税対象とすることから徴税が行いやすく、近代以前においては最も中心的な課税であった。また資産を有する富裕層に対しての課税という性格が強いため、所得課税と同じく所得格差の是正の機能を有するとされる。一方であくまでも有資産者に対する税であるため、課税対象が少なく税収の柱にはしにくい面がある[17]

近年では就労の促進や所得再分配機能の強化等を目的として、所得課税などに対する給付付き税額控除の導入も進んでいる[18]。給付付き税額控除は制度の複雑化や過誤支給、不正受給などの課題を伴う反面、課税最低限以下の層を含む低所得世帯への所得移転を税制の枠内で実現でき、労働供給を阻害しにくい制度設計も可能であることから[19]、格差是正や消費税などの逆進性対策に適するとされる[20][21]。勤労所得や就労時間の条件を加味して就労促進策の役割を担う勤労税額控除は、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国など10か国以上が導入している[22]。子育て支援を目的とする児童税額控除はアメリカ、イギリスなどが採用しているほか、ドイツやカナダなども同趣旨の給付制度を設けている[23][24]。消費税の逆進性緩和を目的とする消費税逆進性対策税額控除はカナダやシンガポールなどが導入している[25]

国税と地方税

OECD各国税収のタイプ別GDP比(%)。
赤は国家間、青は連邦・中央政府、紫は州、橙は地方、緑は社会保障拠出[26]

租税は課税権者に応じて国税地方税に区分できる[9]。子ども手当のような生存保障の支出は、国が全額財源を負担するのが論理的には一貫するが、対人社会サービスなど現物給付については、地方自治体が供給主体となる[27]。国税では富裕層への課税や矯正的正義(応能原則)が重視されるが、所得の多寡を問わないユニバーサリズムの視点からすれば、地方税に関してはむしろすべての参加者が負担する配分的正義(応益原則、水平的公平性)が基準となる[28]

国税の課税権者は国、地方税の課税権者は各地方自治体となるが、地方税に関する税率などの決定は必ずしも各自治体の自由裁量ではなく、税率の上下限など、国によって様々な形での制約が設けられている[29]。チェコ、デンマー ク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ポルトガル、スペインといった国々では地方税の税目に対して上限と下限両方の制限が存在し、オーストラリア、ベルギー、フランス、ハンガリー、オランダ、ポーランド、スイス、イギリス、アメリカなどは上限のみが存在する[29]。イタリアの州生産活動税のように、国が定めた標準税率を基準に税率の上下限幅が決められているケースもある[29]。日本では法人課税を中心に税率の上限(制限税率)が設けられているが、直接的に下限を定めた規制は存在せす、法的拘束力の無い標準税率地方債の起債許可や政府間財政移転制度(地方交付税交付金)の交付額算定と連動させることで、それを下回る税率の選択を抑制する制度設計となっている[30][31]。上位政府による起債制限と政府間財政移転の双方を背景として地方税率が下方硬直的になっている例は、日本以外の主要国には見当たらず、日本の標準税率制度は国際的にみてもかなりユニークな制度であるといえる[32]

普通税と目的税

租税は、特にその使途を特定しないで徴収される普通税と、一定の政策目的を達成するために使途を特定して徴収される目的税とに区分できる[9]目的税は公的サービスの受益と負担とが密接に対応している場合は合理性を伴った仕組みとなる反面、財政の硬直化を招く傾向があり、継続的に妥当性を吟味していく必要がある[9]

直接税と間接税

具体的な商品やサービスの価格を通じて税が納税義務者から消費者に転嫁されることを予定した租税を間接税と言い、それ以外の租税を直接税と呼ぶ(「たばこ税」や「法人税」は両者とも消費者に転嫁されているが、たばこ税は具体的な商品に転嫁されているので間接税となる。法人税は具体的な商品やサービスに転嫁されていないため、直接税である。)。[9]。日本の税目では所得税法人税などが直接税であり、消費税たばこ税などが間接税である[33]。直接税はオフショア市場の活用により税収が減っている。

従量税と従価税

数量あたりで税率を定めた税を従量税、価額単位で課される税を従価税という[9]

応益課税と応能課税

納税者の担税力、すなわち租税の負担能力に応じて賦課する立場の考え方を応能課税、公共サービスの受益に応じて課税すべきとする考え方を応益課税という[8]。租税は公益サービスのための財源であることから、少なからず応益課税の要素が内在するが、個別の受益と負担との関係が必ずしも明確でなく、応益負担だけでは成り立たない[8]。地方税は地域住民による負担分任という性格上、応益課税の要素がより重視される[8]


  1. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p6-7 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  2. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p7 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  3. ^ J.M. Keynes, A tract on monetary reform, Macmillan Co LTD, 1924
  4. ^ Japan's lost decade Economics AEI 2008年3月1日
  5. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p8 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  6. ^ 中野剛志『奇跡の経済教室』KKベストセラーズ、2019年、pp.151-154
  7. ^ L・ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論入門』東洋経済新報社2019年、pp.128-129
  8. ^ a b c d 税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年(1-2-2. 税制の基本原則)。
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m 税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年(1-2-1. 租税の種類と税体系)。
  10. ^ 税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年((資料2)租税原則)より引
  11. ^ Revenue Statistics 2016 (Report). OECD. (2016). p. 35. doi:10.1787/rev_stats-2016-4-en-fr. 
  12. ^ 森信茂樹「グローバル経済下での租税政策 ─消費課税の新展開─」『フィナンシャル・レビュー』 2011年1号(通巻102号)、財務省財務総合政策研究所、p.11。
  13. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p12 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  14. ^ 森信2011、p.13。
  15. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p13 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  16. ^ 佐藤主光所得税・給付つき税額控除の経済学 ─「多元的負の所得税」の構築─」『フィナンシャル・レビュー』2011年1号(通巻102号)、財務省財務総合政策研究所、p.74。
  17. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p13 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  18. ^ 鎌倉治子「諸外国の給付付き税額控除の概要(調査と情報 -Issue Brief- 678号)」国立国会図書館、2010年、表紙, pp.1-2。
  19. ^ 給付付き税額控除と並んで近年注目されるベーシックインカムについては、就労可能な個人の労働意欲(就労インセンティブ)を損ないかねないという見方がある一方、それが労働市場に与える影響に関して現在様々な見解がある。ボランティアなど社会的活動への報酬として位置づけるという意見、稼得所得による給付額の逓減が無いことにより労働供給へのマイナス効果は小さいという意見、税制全体として給付の財源を賄うため累進課税の負担が増えると間接的に労働供給の阻害要因になるという意見など。(佐藤、p.93)
  20. ^ 鎌倉、pp.1-11。佐藤、pp.73, 74。森信茂樹給付付き税額控除の具体的設計」『税経通信』922号、税務経理協会、2010、pp.38-40。
  21. ^ 森信2010では、給付付き税額控除をその政策目的によって勤労税額控除、児童税額控除、消費税逆進性対策税額控除の3種に分類している。ただし、森信「給付付き税額控除の4類型と日本型児童税額控除の提案」(『国際税制研究』第20号、納税協会、2008年、pp.24-34)では、現金給付の代わりに社会保険料の控除を行うオランダ型の社会保険料負担軽減税額控除も1類型に加えて4分類としている(白石浩介「給付つき税額控除による所得保障」『会計検査研究第』42号、会計検査院、2010年、p.1)。
  22. ^ 鎌倉、pp.2, 3。
  23. ^ 鎌倉、pp.2-6, 9。
  24. ^ ドイツとカナダの児童手当は税額控除を伴わない給付のみの制度であるが、ドイツの児童手当は所得税法で規定されており児童控除との選択制、カナダでは税務当局である歳入庁が執行している(鎌倉、pp.6, 9)。
  25. ^ 鎌倉、pp.2, 8。
  26. ^ Revenue Statistics (Report). OECD. doi:10.1787/19963726. 
  27. ^ 日本財政転換の指針pp192スウェーデン型地方税制との違い(井手英策)岩波新書 ISBN 978-4-00-431403-5
  28. ^ 日本財政転換の指針pp193スウェーデン型地方税制との違い(井手英策)岩波新書 ISBN 978-4-00-431403-5
  29. ^ a b c 深澤映司「地方税の標準税率と地方自治体の課税自主権」『レファレンス』735号、2012年、pp.48-49。
  30. ^ 深澤、pp.42-44, 48。
  31. ^ 1986年の参議院地方行政委員会において自治省(当時)は、過度な減税による将来世代への負債転嫁や他地域住民への税負担の転嫁(国費による自治体財政への補填費用)を抑制するために各自治体が標準的な税収を確保することが必要との見解を示している(深澤、p.51)。
  32. ^ 深澤、p.50
  33. ^ 石川県租税教育推進協議会ホームページ『税の種類とあらまし』2014年3月29日閲覧。
  34. ^ a b c 国民負担率”. 野村証券. 2020年6月28日閲覧。
  35. ^ 関東信越税理士会埼玉県浦和支部「知って納得!はじめての税金 身の回りの税金 申告納税方式と賦課課税方式」2017年2月6日閲覧
  36. ^ 財務省「主要国の給与に係る源泉徴収制度の概要」、2020年8月8日閲覧。
  37. ^ 山本守之『租税法の基礎理論』改訂版125 - 131ページ
  38. ^ 「アリステア・クックのアメリカ史(上)」p142-144 アリステア・クック著 鈴木健次・櫻井元雄訳 NHKブックス 1994年12月25日第1刷発行
  39. ^ 『イギリス帝国の歴史――アジアから考える』p60 秋田茂(中公新書, 2012年)
  40. ^ 「租税の基礎研究」p43 石川祐三著 時潮社 2010年3月25日第1版第1刷
  41. ^ 「租税の基礎研究」p95 石川祐三著 時潮社 2010年3月25日第1版第1刷
  42. ^ “Population and Social Integration Section (PSIS)”, United Nations Social and Economic Commission for Asia and Pacific, https://web.archive.org/web/20040701064132/http://www.unescap.org/esid/psis/publications/theme2002/chap5.asp 
  43. ^ Eugene C. Gerhart (1998). Quote it Completely!: World Reference Guide to More Than 5,500 Memorable Quotations from Law and Literature. W. S. Hein. p. 1045. ISBN 978-1-57588-400-4. https://books.google.com/books?id=kjwVASsTUm0C&pg=PA1045 
  44. ^ 課税における古典的な自由主義の正しい見方の概観については www.irefeurope.org, http://www.irefeurope.org/en/content/tax-and-justice を見よ。
  45. ^ 現代中国の税制については中華人民共和国#経済#税制という投資環境を参考にせよ。
  46. ^ Li, Jinyan (1991). Taxation in the People's Republic of China. New York: Praeger. ISBN 0-275-93688-0 
  47. ^ Frey, Bruno S.; Torgler, Benno (2007). “Tax morale and conditional cooperation”. Journal of Comparative Economies: 136-59. doi:10.1016/j.jce.2006.10.006. オリジナルの20 January 2013時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130120090643/http://www.bsfrey.ch/articles/453_07.pdf 2013年1月3日閲覧。. 
  48. ^ 地代は永久不変ではなく市場メカニズムによって動くものであることに注意。[jidai 1]
    1. ^ ただし、歴史的な論争が今も残る。詳しくは地代論争を見よ。
  49. ^ Adam Smith. “2, part 2, Article I: Taxes upon the Rent of Houses”. The Wealth of Nations Book V.Chapter2 
  50. ^ a b McCluskey, William J.; Franzsen, Riël C. D. (2005). Land Value Taxation: An Applied Analysis. Ashgate Publishing, Ltd.. p. 4. ISBN 0-7546-1490-5. https://books.google.com/books?id=jkogP2U4k0AC&pg=PA73 
  51. ^ Archived copy”. 2015年3月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年3月29日閲覧。
  52. ^ Geoge, Henry (1879). Progress and Poverty: An Inquiry ito the Cause of Industrial Depressions and of Increase of Want with Increase of Wealth 
  53. ^ Fullerton, Don (2008). Laffer curve (2 ed.). Palglave Macmillan. http://www.dictionaryofeconomics.com/article?id=pde2008_L000015 2011年7月5日閲覧. "The mid-range for this elasticity is around 0.4, with a revenue peak around 70 per cent." 
  54. ^ Simkovic, Michael. “The knowledge Tax”. University of Chicago Law Review. SSRN 2551567. 
  55. ^ 原文はドル





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