租税 租税の基本原則

租税

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/16 03:53 UTC 版)

租税の基本原則

租税制度に関する一般的な基本原則として、アダム・スミスの4原則やワグナーの4大原則・9原則、マスグレイブの7条件などの租税原則が知られており、それらの理念は「公平・中立・簡素」の3点に集約できる[6]。それらはトレードオフの関係に立つ場合もあり同時に満たされるものではなく、公正で偏りのない税体系を実現することは必ずしも容易ではない。種々の税目を適切に組み合わせて制度設計を行う必要がある[7]

租税原則[8]
アダム・スミスの
4原則
公平の原則
税負担は各人の能力に比例すべきこと。言い換えれば、国家の保護の下に享受する利益に比例すべきこと。
明確の原則
租税は、恣意的であってはならないこと。支払時期・方法・金額が明白で、平易なものであること。
便宜の原則
租税は、納税者が支払うのに最も便宜なる時期と方法によって徴収されるべきこと。
最小徴税費の原則
国庫に帰する純収入額と人民の給付する額との差をなるべく少なくすること。
ワグナーの
4大原則・9原則

財政政策上の原則

課税の十分性
財政需要を満たすのに十分な租税収入があげられること。
課税の弾力性
財政需要の変化に応じて租税収入を弾力的に操作できること。

国民経済上の原則

正しい税源の選択
国民経済の発展を阻害しないよう正しく税源の選択をすべきこと。
正しい税種の選択
租税の種類の選択に際しては、納税者への影響や転嫁を見極め、国民経済の発展を阻害しないで、租税負担が公平に配分されるよう努力すべきこと。

公正の原則

課税の普遍性
負担は普遍的に配分されるべきこと。特権階級の免税は廃止すべきこと。
課税の公平性
負担は公平に配分されるべきこと。すなわち、各人の負担能力に応じて課税されるべきこと。負担能力は所得増加の割合以上に高まるため、累進課税をすべきこと。なお、所得の種類等に応じ担税力の相違などからむしろ異なった取扱いをすべきであること。

租税行政上の原則

課税の明確性
課税は明確であるべきこと。恣意的課税であってはならないこと。
課税の便宜性
納税手続は便利であるべきこと。
最小徴税費への努力
徴税費が最小となるよう努力すべきこと。
マスグレイブの
7条件
十分性
歳入(税収)は十分であるべきこと。
公平
租税負担の配分は公平であるべきこと。
負担者
租税は、課税対象が問題であるだけでなく、最終負担者(転嫁先)も問題である。
中立(効率性)
租税は、効率的な市場における経済上の決定に対する干渉を最小にするよう選択されるべきこと。そのような干渉は「超過負担」を課すことになるが、超過負担は最小限にとどめなければならない。
経済の安定と成長
租税構造は経済安定と成長のための財政政策を容易に実行できるものであるべきこと。
明確性
租税制度は公正かつ恣意的でない執行を可能にし、かつ納税者にとって理解しやすいものであるべきこと。
費用最小
税務当局及び納税者の双方にとっての費用を他の目的と両立し得る限り、できるだけ小さくすべきこと。

租税法律主義

租税法律主義とは、租税は、民間の富を強制的に国家へ移転させるものなので、租税の賦課・徴収を行うには必ず法律の根拠を要する、とする原則。この原則が初めて出現したのは、13世紀イギリスのマグナ・カルタである。

近代以前は、君主や支配者が恣意的な租税運用を行うことが多かったが、近代に入ると市民階級が成長し、課税するには課税される側の同意が必要だという思想が一般的となり始めていた。あわせて、公権力の行使は法律の根拠に基づくべしとする法治主義も広がっていた。そこで、課税に関することは、国民=課税される側の代表からなる議会が制定した法律の根拠に基づくべしとする基本原則、すなわち租税法律主義が生まれた。現代では、ほとんどの民主国家租税法律主義が憲法原理とされている。

租税が課される根拠

租税が課される根拠として、大きくは次の2つの考え方がある。

  1. 利益説 - ロックルソー、アダム・スミスが唱えた。国家契約説の視点から、租税は個人が受ける公共サービスに応じて支払う公共サービスの対価であるとする考え方。後述する応益税の理論的根拠といえる。
  2. 能力説 - ジョン・スチュアート・ミル、ワグナーが唱えた。租税は国家公共の利益を維持するための義務であり、人々は各人の能力に応じて租税を負担し、それによってその義務を果たすとする。「義務説」とも称される。後述する応能税の理論的根拠といえる。

  1. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p6-7 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  2. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p7 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  3. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p8 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  4. ^ 中野剛志『奇跡の経済教室』KKベストセラーズ、2019年、pp.151-154
  5. ^ L・ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論入門』東洋経済新報社2019年、pp.128-129
  6. ^ a b c d 税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年(1-2-2. 税制の基本原則)。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m 税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年(1-2-1. 租税の種類と税体系)。
  8. ^ 税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年((資料2)租税原則)より引
  9. ^ Revenue Statistics 2016 (Report). OECD. (2016). p. 35. doi:10.1787/rev_stats-2016-4-en-fr. 
  10. ^ 森信茂樹「グローバル経済下での租税政策 ─消費課税の新展開─」『フィナンシャル・レビュー』 2011年1号(通巻102号)、財務省財務総合政策研究所、p.11。
  11. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p12 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  12. ^ 森信2011、p.13。
  13. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p13 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  14. ^ 佐藤主光所得税・給付つき税額控除の経済学 ─「多元的負の所得税」の構築─」『フィナンシャル・レビュー』2011年1号(通巻102号)、財務省財務総合政策研究所、p.74。
  15. ^ 『「税と社会貢献」入門 税の役割とあり方を考える』p13 伏見俊行・馬欣欣共著 ぎょうせい 平成26年6月1日第1刷
  16. ^ 鎌倉治子「諸外国の給付付き税額控除の概要(調査と情報 -Issue Brief- 678号)」国立国会図書館、2010年、表紙, pp.1-2。
  17. ^ 給付付き税額控除と並んで近年注目されるベーシックインカムについては、就労可能な個人の労働意欲(就労インセンティブ)を損ないかねないという見方がある一方、それが労働市場に与える影響に関して現在様々な見解がある。ボランティアなど社会的活動への報酬として位置づけるという意見、稼得所得による給付額の逓減が無いことにより労働供給へのマイナス効果は小さいという意見、税制全体として給付の財源を賄うため累進課税の負担が増えると間接的に労働供給の阻害要因になるという意見など。(佐藤、p.93)
  18. ^ 鎌倉、pp.1-11。佐藤、pp.73, 74。森信茂樹給付付き税額控除の具体的設計」『税経通信』922号、税務経理協会、2010、pp.38-40。
  19. ^ 森信2010では、給付付き税額控除をその政策目的によって勤労税額控除、児童税額控除、消費税逆進性対策税額控除の3種に分類している。ただし、森信「給付付き税額控除の4類型と日本型児童税額控除の提案」(『国際税制研究』第20号、納税協会、2008年、pp.24-34)では、現金給付の代わりに社会保険料の控除を行うオランダ型の社会保険料負担軽減税額控除も1類型に加えて4分類としている(白石浩介「給付つき税額控除による所得保障」『会計検査研究第』42号、会計検査院、2010年、p.1)。
  20. ^ 鎌倉、pp.2, 3。
  21. ^ 鎌倉、pp.2-6, 9。
  22. ^ ドイツとカナダの児童手当は税額控除を伴わない給付のみの制度であるが、ドイツの児童手当は所得税法で規定されており児童控除との選択制、カナダでは税務当局である歳入庁が執行している(鎌倉、pp.6, 9)。
  23. ^ 鎌倉、pp.2, 8。
  24. ^ Revenue Statistics (Report). OECD. doi:10.1787/19963726. 
  25. ^ 日本財政転換の指針pp192スウェーデン型地方税制との違い(井手英策)岩波新書 ISBN 978-4-00-431403-5
  26. ^ 日本財政転換の指針pp193スウェーデン型地方税制との違い(井手英策)岩波新書 ISBN 978-4-00-431403-5
  27. ^ a b c 深澤映司「地方税の標準税率と地方自治体の課税自主権」『レファレンス』735号、2012年、pp.48-49。
  28. ^ 深澤、pp.42-44, 48。
  29. ^ 1986年の参議院地方行政委員会において自治省(当時)は、過度な減税による将来世代への負債転嫁や他地域住民への税負担の転嫁(国費による自治体財政への補填費用)を抑制するために各自治体が標準的な税収を確保することが必要との見解を示している(深澤、p.51)。
  30. ^ 深澤、p.50
  31. ^ 石川県租税教育推進協議会ホームページ『税の種類とあらまし』2014年3月29日閲覧。
  32. ^ a b c 国民負担率”. 野村証券. 2020年6月28日閲覧。
  33. ^ 関東信越税理士会埼玉県浦和支部「知って納得!はじめての税金 身の回りの税金 申告納税方式と賦課課税方式」2017年2月6日閲覧
  34. ^ 財務省「主要国の給与に係る源泉徴収制度の概要」、2020年8月8日閲覧。
  35. ^ 山本守之『租税法の基礎理論』改訂版125 - 131ページ
  36. ^ 「アリステア・クックのアメリカ史(上)」p142-144 アリステア・クック著 鈴木健次・櫻井元雄訳 NHKブックス 1994年12月25日第1刷発行
  37. ^ 『イギリス帝国の歴史――アジアから考える』p60 秋田茂(中公新書, 2012年)
  38. ^ 「租税の基礎研究」p43 石川祐三著 時潮社 2010年3月25日第1版第1刷
  39. ^ 「租税の基礎研究」p95 石川祐三著 時潮社 2010年3月25日第1版第1刷
  40. ^ “Population and Social Integration Section (PSIS)”, United Nations Social and Economic Commission for Asia and Pacific, https://web.archive.org/web/20040701064132/http://www.unescap.org/esid/psis/publications/theme2002/chap5.asp 
  41. ^ Eugene C. Gerhart (1998). Quote it Completely!: World Reference Guide to More Than 5,500 Memorable Quotations from Law and Literature. W. S. Hein. p. 1045. ISBN 978-1-57588-400-4. https://books.google.com/books?id=kjwVASsTUm0C&pg=PA1045 
  42. ^ 課税における古典的な自由主義の正しい見方の概観については www.irefeurope.org, http://www.irefeurope.org/en/content/tax-and-justice を見よ。
  43. ^ 現代中国の税制については中華人民共和国#経済#税制という投資環境を参考にせよ。
  44. ^ Li, Jinyan (1991). Taxation in the People's Republic of China. New York: Praeger. ISBN 0-275-93688-0 
  45. ^ Frey, Bruno S.; Torgler, Benno (2007). “Tax morale and conditional cooperation”. Journal of Comparative Economies: 136-59. doi:10.1016/j.jce.2006.10.006. オリジナルの20 January 2013時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130120090643/http://www.bsfrey.ch/articles/453_07.pdf 2013年1月3日閲覧。. 
  46. ^ 地代は永久不変ではなく市場メカニズムによって動くものであることに注意。[jidai 1]
    1. ^ ただし、歴史的な論争が今も残る。詳しくは地代論争を見よ。
  47. ^ Adam Smith. “2, part 2, Article I: Taxes upon the Rent of Houses”. The Wealth of Nations Book V.Chapter2 
  48. ^ a b McCluskey, William J.; Franzsen, Riël C. D. (2005). Land Value Taxation: An Applied Analysis. Ashgate Publishing, Ltd.. p. 4. ISBN 0-7546-1490-5. https://books.google.com/books?id=jkogP2U4k0AC&pg=PA73 
  49. ^ Archived copy”. 2015年3月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年3月29日閲覧。
  50. ^ Geoge, Henry (1879). Progress and Poverty: An Inquiry ito the Cause of Industrial Depressions and of Increase of Want with Increase of Wealth 
  51. ^ Fullerton, Don (2008). Laffer curve (2 ed.). Palglave Macmillan. http://www.dictionaryofeconomics.com/article?id=pde2008_L000015 2011年7月5日閲覧. "The mid-range for this elasticity is around 0.4, with a revenue peak around 70 per cent." 
  52. ^ Simkovic, Michael. “The knowledge Tax”. University of Chicago Law Review. SSRN 2551567. 
  53. ^ 原文はドル







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