公安調査庁 調査手法・権限

公安調査庁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/09 00:42 UTC 版)

調査手法・権限

ヒューミント

情報収集の手法として、監視・尾行のほか、対象団体の関係者を協力者(エージェント)として勧誘し、内部の情報を探るという手法(ヒューミント)をとり、シギント(コミント(通信傍受・暗号解読)、エリント)などの技術的手段は情報収集の直接の手法とはしていないとされる。

職員は、その特殊性から、所属・職名(場合によっては氏名)を偽って活動することが多い。

1999年(平成11年)12月、元日本経済新聞記者杉嶋岑北朝鮮当局に2年2か月間にわたり拘束される事件が発生[42]。杉嶋は帰国後、以前から公安調査庁に依頼されて北朝鮮の情報を提供していたこと、その件が北朝鮮側に漏洩していたためにスパイ容疑で取り調べを受けたことなどを明らかにしている。

シギント

破壊活動防止法第4条には、有線通信または無線通信による破壊活動も規定されている。今は行われていないとされるが、公安調査庁もかつてはシギントを行っていたとされる[43]1952年(昭和27年)に東京都練馬区に「寺田技術研究所」という長官直属の機関を作り、主にソ連の無線を傍受していた。職員は主に陸軍暗号関係者で、暗号解読も行っていたとされる。1959年(昭和34年)には「極東通信社」と改称し、中国と北朝鮮も対象にした。その後、予算の関係で1976年(昭和51年)に解散された。業務は自衛隊に引継がれたという[44]

この活動で公安調査庁は380万件以上の通信を傍受し、その結果31種類の暗号が解読され370件の情報が得られたという[44]

公安警察との違い

守備範囲の重なる公安警察[45]との違いは、前述のとおり、公安調査庁の調査活動には逮捕家宅捜索等の司法警察権が与えられていない点である。ただし、団体規制法第7条に基づく公安調査官による対象団体への立入や検査について拒み、妨げ、又は忌避した者に対して、1年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑が同法第39条に規定されており、公安調査庁の団体規制権能には一定の強制力も付与されている。

また、公安調査庁では創設時に公職追放権や緊急逮捕権を行使する事が想定されていたほか、1979年頃の政治的暴力行為防止法案に緊急拘束権が盛り込まれたり、2004年頃から警察庁、防衛庁(当時)、法務省などの担当者によるプロジェクトチームで研究が行われているテロ対策基本法案(反テロ法案)では、治安当局がテロ組織やテロリストと認定した場合に一定期間の拘束や、国外への強制退去、家宅捜索・通信傍受などの強制捜査権の付与が検討されている。テロ対策基本法案は日本国憲法第33条に抵触する可能性から未だに研究段階であるが、政府は準備を進めるとしている[46]

公安警察関係者は「同じ協力者をめぐり、対立する公安調査庁の調査官のことをあえて報道関係者にリークしたことがある」と述べており、公安警察が公安調査庁の活動を妨害することもある[47]

外国情報機関との関係

情報機関には「コリント」と呼ばれる手法があり、自らの弱い部分では互いに情報交換を行うことで情報を集める。公安調査庁は30以上の機関とコリントを行っており、主に北朝鮮、中国情報と引き換えに海外情勢やテロ組織の情報を得ているという[48]

人員交流も行われており、CIAに職員を派遣し、情報分析研修を行っているとされる[48]。また、台湾情報機関から研修生を受け入れているほか、ドイツイスラエルに留学生を派遣して現地機関と交流を行っているという[48]


注釈

  1. ^ 警察でいう警察手帳のようなもの。
  2. ^ 現在は旧憲兵司令部庁舎は取り壊され、跡地に九段合同庁舎と九段第2合同庁舎が建設されており、関東公安調査局は九段合同庁舎を使用している。

出典

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